彼女のランクは最下級
魔の理は単純だ。
強き者が上に立ち、弱き者は踏みつけられる。
それは、愛も誇りも過去も未来も飲み込む、絶対の掟だった。
学園における今回の“騒動”――
夜間の暴走、建造物の崩壊、魔力の乱用。
しかし、それを責める者はいなかった。
責任という概念が、そもそも“強さで決まる”世界だったからだ。
むしろ評価はこうだった。
――耐魔力構造の壁と天井を破壊できる力を持つシリカ:A級。
――そのシリカを抑え込んだアメリア:S級。
この二人は「実力者」として讃えられ、魔導塔の高位教室への移動を命じられた。
その一方で。
気絶し、ただ抱かれていたフラウ。
そして無残にも撃沈していたエルザミナは「最下級」の名が与えられる。
廃棄予定の旧校舎、地下一階の“灰区画”が、彼女たちの学び舎となった。
発表の場では、エルザミナが怒りを爆発させていた。
「はぁ!?ボクが“最下級”ぅ!?これ決めたやつ踏みつぶしてあげよっか?」
だが、フラウの名が読み上げられ、彼女の隣に「同じく最下級」と書かれているのを見た瞬間。
「……まぁ、いいか。うん、それでいいや。ね、フラウ?」
途端に笑顔。
上機嫌。
勝者の笑み。
その様子を見ていたアメリアとシリカも、遠巻きに黙り込む。
彼女たちもまた、自分が別の階級に置かれたことで、フラウとの距離が隔てられたことに気づいたのだ。
――教室は、完全分離。
――授業も、接触も、無許可では「懲罰」対象。
講義の場で抗議を試みたアメリアの発言も、「S級にはS級の責務がある」と一蹴された。
シリカに至っては「吸血鬼の権限行使が不安定」として魔導カリキュラムに監視魔具を取り付けられた。
こうして、三者はそれぞれ立ち位置が決まり。
エグサミナ以外はフラウから物理的に引き離される。
登校の朝。
エルザミナはフラウを大切そうに抱きかかえていた。
「大丈夫。怖いときは、ボクがキミの盾になるから」
そう言って微笑む彼女は、もう“魔性”ではなく、愛情の塊だった。
だが教室の扉を開けた瞬間。
鋭い視線がフラウに集中する。
「……あれが、例の“気絶者”?」
「最下級っていうより“最底辺”でしょ」
視線は冷たく、刺さるようだった。
この教室にいる者たちは、最下級とはいえ――皆、暴力と勝利を潜り抜けた猛者たちだ。
その中にあって、「気絶し、抱かれていた少女」は明確に異質であり、排除対象だった。
エルザミナの肩に抱かれながら、フラウはその視線をただ、静かに受け止めていた。
怯えもせず、反抗もせず。
その無垢さが、教室の空気をいっそう張り詰めさせていく。