アタシックレコード
記録しきれないものが。
アタシックレコードに記録された
あたしのすべてを再生しても
あたしをもうひとり
うみだすことはかなわない
ミルクレープの層をつなぐ
生クリームのように 行間を埋めるべき
ニュアンスは刻まれてないし なにより
あたしがあたしたるための
エクストリームな魂と
シュープリームな心意気が
そこには宿ってないからだ
そいつまで再現するためには
記録を縫いあわせる糸と
まっすぐにつらぬく軸
それを背骨にして四肢を組みあげる骨格と
外界との境界線を描く輪郭に
はりあわせた肌
そのしたを ときに熱く燃え ときに冷たく凍て
めぐり 流れる赤き血と
生身がゆえに枷に縛られつつも
しなやかさと躍動感ではちきれんばかりの肉
百と八重の仮面で覆われてなお
ときおりのぞける だれもがのけぞる
醜悪な素顔
そんななかにも 少年マンガでみっちり学んだ
愛 夢 努力 友情 正義 なんかを
ねりあわせたスーパーボールを
時速120マイルで投げ込んだところ
ヘヴィメタルと魔法が かかって
ようやくあたしをもうひとり
うみだせる可能性が生じるのだ
そんなのまるっきり奇跡だよね
だからアタシックレコードに
あたしのすべてを記録されてたとしても
あたしのすべてのうち記録できるぶんだけで
それでほんとにあたしのすべてって
わけじゃないんだ
だからさ あたしのこと
ほんとに知りたいんたら とりあえず
中華料理でも食べながら
たっぷりおしゃべりしようよ
いつが あいてる?
こんなやつが、もうひとりいても困る。