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ほら、復讐者  作者: 夜桜紅葉
本編3
40/49

レンジの恋バナ、完

「俺の恋バナってやつは大体こんなもんかな」

レンジは勝手にそう締めくくった。


「待て待て! 最後唐突に別れて終わったじゃねぇか!」

元監守はオーバーなリアクションをとりながらツッコんだ。


レンジは不愉快そうに顔を歪ませながら深いため息をついた。

「うるせぇな。あいつと別れた話なんて俺もしたくねぇんだよ。……まぁ話さないわけにもいかねぇから話すけどよ」


「最後の話からして、ハランにできた女友達っていうのが実は男で、ハランが浮気していたということになりそうだが」


俺が先の展開を予想して言ってみると、レンジは笑いながら首を横に振り

「あいつはそんなことする女じゃねぇよ」

それだけ言って言葉を切った。


俺たち三人の間に居心地の悪い沈黙が流れる。


俺と元監守は、レンジが話し始めるまで口を開くことは(おろ)か、身じろぎひとつできなかった。

この場には、そういう独特な緊張感が満ちていた。


やがてレンジは覚悟を決めたのか、大きく息を吸い込んでゆっくりと吐き出すと、ハッキリした口調で言った。


「あいつとは死に別れたんだ。あいつは殺された。……ハランにできた友達の名前はカルミア。あとは、大体想像つくだろ?」


俺は一瞬言葉を失った。

「……なるほどな。話が繋がった。今の話に一度も登場しなかったヒガンバナが、一体お前にどんな話を聞かせたのか疑問だったが、そういうことか」


ギフトのボスであるカルミアの昔の仕事のことをヒガンバナが知っていても何も不思議はない。


つまり、レンジは恋人が殺された事件の真相をヒガンバナに聞かされて記憶を取り戻したということだろう。


レンジは不貞腐れたような態度で続けた。

「あいつはカルミアに殺された。当然俺は恋人を殺した犯人を捜したよ。そして調査を続けるうちに、『暗殺組織ギフト』って名前にも辿り着いた。更に情報を集め、ギフトにハランの殺害を依頼したのは、他でもないハランの兄貴だということも分かった。優秀だったハランの兄貴は、リスクの排除を目的としてハランを殺すようにコウモリに提言したらしい。復讐でも恐れてたのかもな」


どこかで聞いたような話だなと思い、俺はうんざりした。

金を持っている奴らは、どいつもこいつも同じような問題にぶち当たるものだ。


俺も兄殺しの冤罪をかけられ、その根拠として追放された復讐を企てたことにされた。


後ろめたいことがある金持ちは、いつも復讐に怯えている。

自業自得の罰が下るのを恐れている。


俺はそんな小心者の金持ちが大嫌いだ。

そしてそんな奴らのせいで命を落とすことになったハランに心底同情した。


レンジは床を睨みつけながらボソボソと続きを語った。

「それが判明した時、俺はもちろん、コウモリやハランの兄貴を殺して仇討ちするつもりだった。でも、あの一族の人間はその時すでに全員殺されていた。……表向きは一族内の権力争いで自滅したことになっていたが、実際はそうじゃない。コウモリがギフトにハラン殺害を依頼したのと同時期、コウモリの一族に恨みを持つ奴がギフトに一族皆殺しの依頼をした。カルミアはこの二つの依頼、両方を引き受けたんだ。そして、事後処理のためにカルミアはハランに接触して友人関係になった。友人って言うのもなんか違うけどな。実態は毒によってハランがカルミアに心酔するように洗脳していただけだ」


その後はレンジに説明されるまでもなく、俺は大方の流れを推測することができた。


きっとカルミアは俺の時と同じようなことをしたのだ。


『事後処理』っていうのは、ここでは罪の濡れ衣を誰かに着せることを指す。


俺はカルミアに兄殺しの濡れ衣を着せられた。

そしてハランの場合は一族皆殺しの濡れ衣を着せられたということだろう。

レンジは大体俺の想像通りの説明をした。


カルミアの行動の理由を話した後、レンジは当時の自分が恋人の死によってどのような影響を受けたのか話し始めた。


「ハランは一族に復讐を果たした後、自殺した……世間にはそう報じられた。実際にはハランはカルミアに毒を盛られて殺されたんだけどな。……当時の俺は最愛の人が殺されたことと、復讐するべき相手であるコウモリやハランの兄貴もすでにこの世にいないことに呆然とした」


話の内容にリンクするように、口を動かすレンジもボーっとしてきていた。

言葉を発するたびに、魂が抜け出て行くようだ。


「当時の俺にはカルミアに復讐しようって発想が生まれることすらなかった。精神的なショックで頭がやられちまってたんだろうな。あの時の俺は全部がどうでも良くなるくらい疲れ切ってた。死んだように無気力に過ごしていたある日、突然体に力が入らなくなって倒れて、目を覚ましたら記憶を失ってた。……俺の話はこれで終わりだ。ご清聴ありがとうございましたー」


レンジは棒読みでそう言って話を締めくくり、ぐびぐびと勢いよく酒を(あお)った。


そしてガクッと肩を落として俯くと、床の埃を吹き飛ばすように息をふーっと吐き出した。


「レンジ、大丈夫か?」

俺が声をかけても、レンジは床を見つめたまま顔を上げず、返事もしない。


俺と元監守は顔を見合わせた。

元監守はバツが悪そうにしていた。

多分俺も同じような感じになっていることだろう。


「……なぁ。改めて訊くけど、カブトはカルミアにどんな感情を向けてるんだ?」


レンジは急に顔を上げたと思ったら、不気味なくらい普段通りの笑顔を俺に向けて、そんなことを訊いてきた。


「カルミアには、復讐心があるだけだ」

「俺にはそれだけに見えねぇんだよ。もしかして、恋? なんちゃって。ははは……え、マジで?」

レンジは俺の顔を覗き込んで、ぎょっとした。


「顔、赤くなってるぞ。え、マジ? お前、カルミアのこと好きなの?」

「……」


俺が言葉を詰まらせると、レンジはニヤニヤしながら

「へぇー。まぁ男心は複雑だよな。復讐相手を愛しちまうことがあったっていいさ」

と、からかうように言ってきた。


「違う。俺はあの女が心底嫌いだ」

俺がそう言うと、レンジは笑顔をスッと引っ込めた。


「カブトがカルミアをどう思おうが自由だが……俺は目の前にカルミアが現れたら、殺す。邪魔をするなら、お前も撃つ。それだけは覚えとけよ」


「……ああ。覚えておこう」

俺は返事をする時、レンジから目を逸らさずにはいられなかった。

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