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【連載版】星空を見上げれば  作者: ジョン・ヤマト
第一・五章 日常の彩りに見惚れて
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第61話 トラブルは楽しい喜劇の始まり

    ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

「ユー達にお願いしたいことがアリまーす!」


 紫色のスーツに茶髪。唐突に現れた見るからに怪しい男はカタコトな日本語でそう話しかけた。


「お、お願いって…………そもそも貴方は誰?」

「オウ! それは失礼シマーした。ミーは『ラビィ・ウササワ』、オルテンシア親分の秘書をヤッテまーす!」


 そう言いながらウササワさんは名刺を取り出して渡して来た。そこには確かに『サタデイ・インダストリー CEOセクレタリー(秘書)』という肩書きが記してあった。


「ミス・オルテンシアの秘書…………そんな人物が僕達に何の用事なのかな?」

「さっきも言いマシタが、お願いがアルノでーす。ユー達にここで仕事をする親分の護衛のオネガイしまーす!」

「護衛?」


 オルテンシアさんの護衛、これがウササワさんの『お願い』らしい

 だけどどうにも状況が理解できない。それはハロちゃんも同じのようで疑いの眼差しをウササワさんに向けている。

 

「ミスター・ウササワ。僕とハト君は天門台の所属だ。その役割はホシ達から街を守ること、申し訳ないが個人の護衛は役割の範囲に入っていない」

「それにこれから回収したサンプルを持って帰らないといけないし………………」


 そうして断りの意思を見せた時、ウササワさんは唐突に両足を地面に付けて頭を下げた。

 つまるところ━━━土下座をして来た。


「ソンナー! 報酬はタクサン上げまーす。ゴショウでーす! 親分をマモッテくださーい!」

「ハロちゃん…………」

「…………話くらいは聞いてあげようか」


 流石に土下座までさせられてこのまま帰ってしまったら夢見が悪くなる。何より彼がここまでしてわたし達に護衛をお願いする理由が気になったのだ。


 そうして土下座を続けるウササワさんに頭を上げさせると、わたし達は無人になった詰め所の椅子に腰を下ろした。


「そもそもミス・オルテンシアに護衛は必要なのかい? 彼女は大企業のトップだ、SPの一人や二人ぐらいいるものだろう」

「以前まではオリマした。デスガ親分のアンラッキーに耐えきれずみんな逃げてシマッタのでーす」

「アンラッキー?」

「親分はソレハモウすごーいアンラッキーな人ナノでーす。道を歩けばすっ転び、買い物に行けば財布を無くし、ちょっと動けば必ずと言って良いぐらい事故に巻き込マレルのでーす」


 その誇張とも思える不幸なエピソード、しかし熱弁を振るうウササワさんの表情に嘘を言っている様子は微塵も無かった。

 そしてわたしとハロちゃんにはその『アンラッキー』とやらに心当たりがあった。


「もしかして…………」

「彼の話を信じるならさっきのトラブルは彼女のアンラッキーによって引き起こされたらしい」


 確かにあの時はまるで狙いすましたかのように瓦礫がオルテンシアさんに降って来ていた。

 ━━━━あまり信じたくはないけど実際に目の当たりにしたんだから仕方ない。


「あの時の光景はミーも見ていまーした。親分を助けるガールの動き、あれこそがミーの求めてたチカラでーす!

 お願いしまーす! 今日だけ親分の護衛をヤッテ欲しいでーす!」


 そう言ってウササワさんは席から立つと、身体を折り曲げるぐらいのお辞儀を見せた。

 

 わたしとしてはオルテンシアさんにはシャーナちゃんの件で助けられたのでその恩に報いたい。

 ━━━だけど恩に報いるには超えないといけない壁が存在する。


「ミスター・ウササワ、そのお願いを引き受けたのは山々だがさっきも言ったけど僕達の役割はあくまで『都市の防衛』だ。『個人の護衛』というのは役割から逸脱している」

「ソ、ソレハ…………」


 そう、わたし達天門台の果たすべき責務はホシ達の脅威からニュー・トウキョウを守ること。その約束があるからわたし達は力を持つことが許されているのだ。

 そして保有する力を特定の個人のために使用することは許されない━━━━本来なら、ネ。


「僕としても残念だがこの依頼は………………」

「ハロちゃん、ちょっと耳貸して」

「うん、どうしたの?」


 ふと声を掛けれたハロちゃんはキョトンとした表情で言われるがままにわたしに顔を寄せる。


「…………………………」

「あー、それなら確かに可能だけど責任が………………いや、その責任は僕が取ろう。そのために僕の立場があるからね」

「アノー、何のお話しをシテイルンでーすか?」

「ウササワさん。オルテンシアさんの護衛、喜んで引き受けさせてもらうよ」


 その言葉を聞いたウササワさんは一瞬だけ困惑の表情を浮かべたが、すぐにその茶髪がふわりと飛ぶような笑顔を見せてくれた。



    ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

「それじゃあ僕は先に戻ってこの事をエレンに報告しておくよ」

「大変なことをお願いしてごめんネ」

「なあに、身体を張って頑張る君に比べたら楽な仕事だよ」


 そう言いながらハロちゃんは沢山のサンプルが積まれた保存バッグを背負い直す、少し辛そうに見えるがその表情はいつもと同じ頼れる大人の顔だ。


「それで、装備は大丈夫かい?」

「うん、念のために芒炎鏡を持って来ておいてよかった。これである程度のことなら対処できると思う」

「とはいえ、それだけじゃあ心許ないだろう? だから、はいこれ」

 

 そう言ってハロちゃんはどこかで見た腕輪を差し出した。


「これって…………」

「対星物防御兵器『ミルキー』、君のアイデアによって産み出された新たな可能性だ。まだ試作品の段階だが毎日テストをしている君なら簡単に使いこなせるだろう」

「そうだネ、ありがとうハロちゃん!」


 左腕に巻かれたミルキーは驚くぐらいにわたしの手に馴染んでいた。これなら不慣れが原因で失敗することはないだろう。

 芒炎鏡に(ミルキー)、戦闘スーツは着てないけど今のわたしなら充分だ。


「それじゃあ行ってくるネ!」

「グッドラック! 終わったら美味しいコーヒーとケーキを食べよう!」


 わたしはハロちゃんに見送られながらオルテンシアさんのいる廃墟群へと向けて走り始めた。


 そうしてサタデイ・インダストリーのみんながいる現場へは十分も掛からずに辿り着くとそこでは━━━━━


『回収シマス ジジ…………回収シマス 回収シマス 回シュシュシュシュシュシュ!』

「おいキタヤマ! 早くあのポンコツをどうにかしろ!」

「無理って言ってんだろ。回路が丸ごとイカれて遠隔のコントロールできねえ! クソっ、操縦席のスガイも気絶してやがる!」

「アハハッ! あのぐるぐる回る姿、まるで遊園地の回転ブランコみたいだねー!」


 ━━━━オルテンシアさんと作業員のみんなが暴走したショベルカーと仲良く遊んでいた。

 ……………この依頼、本当に引き受けてよかったのかな?


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