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【連載版】星空を見上げれば  作者: ジョン・ヤマト
第一・五章 日常の彩りに見惚れて
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第56話 襲撃(カチコミ)

    ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

「こやつらが涙を浮かべるのはわかるが…………ちんちくりん、何故オンシが涙を流しておるのじゃ?」


 人工の嵐が過ぎたキリン通りの外れ、人の通りが少ない路地にチンピラの男二人にわたしとシャーナちゃん、そしてパイ先生はいた。


「うう…………、何で俺らがこんな目に…………」

「こんなのあんまりだぁ…………」


 涙目に正座をしている男達には数多の青アザが身体に刻み込まれており、そこで繰り広げられた戦い━━━━わたしのちょっとしたやんちゃの凄惨さが見て取れた。


「違う、わたしは小ちゃくない………………」

「おねえちゃんはすごいよ、ババーンってやってドッカーンって」


 一方ちょっとした誤解の言葉に泣いているわたしを見てシャーナちゃんは褒めながら頭を撫でてくれた。

 だって仕方ないよネ。先に言ってきたのはあの人達だもん、わたしは悪くないよネ。


「ハァ、このまま論じても時間の無駄か。ならば当初の予定を遂行するとしようかの」


 パイ先生は呆れるようなため息を一つこぼすと、正座をしている男の元に近づいて目線を合わせた。


「オンシ、ブルー・セプテンバーの者じゃな。わえの顔は知っておるじゃろう?」

「げ、中華屋のババア…………」

「そのような覚えられ方は些か心外じゃが、その様子を見るにわえに追われる心当たりはあるようじゃな。なら委細承知の上で聞こうか、オンシらの隠れ家を教えよ」


 まさしく単刀直入、一切の駆け引き無しに問われた混じり気の無い真っ直ぐな問い。


「はん、知らねえな。ババアに話すことなんてねえよ」


 しかしあまりにも直進的な問いの答えは、捻くれたものとなって帰って来た


「まあ、そう答えるのもわかっておったよ。仕方ないのぉ」


 だけどその答えが帰って来ることをパイ先生は最初からわかっていたのだろう。「あまり使いたくなかったが」と呟きながら懐から小さな小瓶を取り出すと、有無を言わさず中に入った透明な液体を男の口の中に流し込んだ。


「ごほっ、甘ッ! 何を飲ませた!」

「それはわえの自慢のさくらんぼをすり潰して濃縮したものじゃ。かなりの量のさくらんぼを詰め込んだおかげでそれはもう甘い代物となってな、これ一つで天にも昇るような甘さを体験できるのじゃ」

「さくらんぼぉ? オイオイ、そんなもんで口を割るわけぇぇぇ、ありれゃ………………?」


 さくらんぼと聞いて調子に乗っていた男はふらふらと身体を揺らしながら地面へと倒れ込んだ。


「な、何が…………っ! 喉が…………!」

「渇いたであろう? それも想像を絶する程に。さて、ここに水の入ったペットボトルがある、欲しければ…………わかっておるな?」

「あ…………、あ…………、あ……………」


 夏の暑さに渇いた訳でも、汗を流して渇いた訳でもない。極上の『甘さ』という今までに味わった事のない喉の渇き方は男の潤沢な理性をこれでもかと乾かした。

 ━━━━その結果は、言うまでもなかった。


「郊外の端っこにある廃倉庫か。あまりにもありきたり過ぎて逆にわかりづらいの」

「それで、この後はどうするんです?」

「奴らの隠れ家がわかったのじゃ。ならば後にやるべき事は決まっておろう」


 そう言ってパイ先生は中国服を靡かせながらドンと地面を撃ち鳴らすと、わたし達に向けて高らかに告げた。


襲撃(カチコミ)じゃ」




    ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

 廃倉庫の中はまるで場末のバーのような内装が敷かれており、大音量のロック・ミュージックが店内に鳴り響いていた。

 そしてある者は度数の高い酒を水を飲むように貪り、ある者はテーブルを囲んでポーカーに興じ、ある者は下衆な笑みを浮かべながら札束を指で弾いてその枚数を数えていた。


「おう! 今日の成果はどうだぁ!?」

「上々、バカ共は相変わらずせっせと貯金してやがるよ! こんなに溜め込むなんて奪ってくれって言ってるようなもんだぜ!」

「違いねえな、ニヒリズム万歳! この一瞬を楽しむのが正しい生き方なんだよ!」


 そこはまさしく他者から奪ったモノで築き上げられたロクデナシの城だ。

 そしてハッキリと告げよう。━━━━━この城は今から陥落することになる。それもたった三人の刺客によって。

 陥落の始まりを知らせる鐘は決して鳴らない、ただ静かに、コロコロと城の門の中へと転がり込むのだ。そして。


 ━━━━━ドッカーン!!


「そうら、()くぞ! 速戦即決に終わらせるんじゃ!」

「ヤァー! ぶんぶんやるぞー!」

「………………マジかぁ」


 火薬と鉄が爆ぜる音によって彼女達の襲撃(カチコミ)は幕を開けた。


「敵だ! フクロにして血祭りに…………グアッ!」

「ゴホッ、ゴホッ、クソッ! 煙でロクに見えねえ!」

「ほれ、よそ見は厳禁じゃぞっと」

「クソが、くらいやがれ!」

「バカ、無闇に攻撃するな!」


 真っ白な煙の中で一つ、また一つと短い叫びと共に荒くれ者達は固い地面へと倒れて行く。

 姿の見えない敵からの奇襲に翻弄され、怒りのままに武器を振るっても味方に当たる始末。数の利など視界が遮られた状態では無意味なものとなってしまったのだ。

 そうして煙が晴れる頃には死屍累々とも言えるような光景が完成していた。


「テメェ、中華料理屋の…………」

「オンシが組織の長かの。オンシらに貸しておったものは返してもらうぞ。その傷は高めの授業料と思っておけ」

「先生、酒壺を見つけたヨ!」

「でかしたのじゃ、それではさっさと逃げるぞ」

「ええー、もっとばーんってやりたかったなー」


 目的の物を取り返しあとは逃げるだけ。襲撃者三人は踵を返して廃倉庫を脱出しようとする。


 ━━━━バンッ!


 が、一つの乾いた音がその足を止めた。

 振り返るとそこには拳銃を握ったギャングのボスが怒りの形相で彼女達を睨んでいた。


「なんでそんなものを…………」

「テメェら、俺たちを舐めて生きて帰れると思うなよ。お前ら!!」


 高らかに告げられた号令と共にギャング達は拳銃やライフル銃を取り出して銃口を彼女達へと向けた。


「や、やばいよネ………………これって」

「そうじゃな、所謂ピンチというやつじゃ」


 ホシの熱光線とは違う、冷たい現実的な死の気配にハトとパイの頬に冷や汗が流れる。


 ━━━━━しかし、この場には死の気配を打ち消す金色の輝きを放つ存在がいることを忘れてはいけない。


「あれをどうにかすればいいの? ならシャーナにまかせて!」

「モモまん娘、オンシ何を言っておるのじゃ」

「まあみてて!」


 そう言うとシャーナは自身の身体を光で包み、眩く発光させた。


「おりゃあ!」


 駆け巡る金色の閃光。その光はギャング達の眼を眩ますのに充分な力を持っていた。


「なっ、眩しい! 眼が!」

「なんじゃこれは!?」

「ッ! 先生、今のうちに!」


 そうして生まれた一瞬の隙を見て、襲撃者達は急いでこの場を去って行った。

 ━━━━だが、この戦いはまだ終わっていない。


「チッ、このままコケにされて終われるか! アイツらを血祭りに上げるぞ!」


 弾丸を装填しながらボスはギャング達を率いて襲撃者達を追いかける。

 こうして戦いは新たな局面へと向かい始めるのであった。

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