第50話 変わらない街
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行きは四時間で帰りは三時間、合計七時間の廃墟群のドライブも終わりを迎えわたし達はニュー・トウキョウへと帰って来た。
時刻はもう午後十九時。空は相変わらずの晴天だが街の人波は少しだけ落ち着いているように見える。
「起きて、仕事して、帰って、ご飯を食べて、寝る。空の色が青一色なっても、人のルーティンは変わらないんだな。三日前にあの廃墟に籠る前はそれが気付けなかった」
「暗夜灯のおかげで少なくとも部屋の中で以前のような夜を感じられるようになりましたからね。それができる前は大変でしたが」
「どんな画期的な発明も五年も経てばそれが『当たり前のもの』になる。いや違うな、むしろそれが当たり前にならないといけないんだ」
「わー、すごいきれい! まるでしろいもりのなかにいるみたい!」
後ろでは作業服を着た三人とシャーナちゃんが街の景色を眺めながら帰って来た喜びを静かに噛み締めていた。
「天門台に到着したわぁ」
「! もう着いたんだ」
その会話が少し気になって話しかけようと思ったけど、直後に輸送車が天門台に到着してしまったのでそれ以上のことは聞けなかった。
そうしてわたし達は輸送車から降りて隊員用の入口から入ると、人目を気にしながら廊下を進んで行き支部長室の扉を開くと、そこにはわたし達の帰りを待っていたエレン支部長の姿があった。
「エレン支部長、隊員三名、要救助対象を連れて帰還しました」
「ああ、ハト隊員とシャーナ隊員もご苦労だった」
「はい!」
「うん! 楽しかったよ!」
エレン支部長はわたし達に労いの言葉を投げかけた。そして後ろの方に立っていた三人へと視線を移すと、真ん中に立っていたロジャーさんに向かって手を差し出した。
「…………初めましてになるな。天門台ニホン支部の支部長、エレン・アンドーだ」
「はい、ホソナガ電機のロジャーです」
二人が軽い握手を交わすと、続くようにハヤシさんとシミズさんとも軽い自己紹介と共に握手を交わした。
そして挨拶を終えたエレン支部長は一歩だけ後ろへ下がるとまるで機械のような淡々とした口調でこう言った。
「君達に何か偉そうなことを言うつもりは別に無い、だがこの街を守る者としてこれだけは言っておこう」
『━━━━━君達は運がよかった、その幸運を決して忘れないように』
綴られた一言はまるで重い岩のようになって三人の心を圧迫させる。その証拠にハヤシさんの頬には一雫の冷や汗が垂れておりシミズさんの細い腕は小刻みに震えていた。
しかしロジャーさんは心の圧迫なぞ意にも介さないとでも言うように、ふうと重低音の吐息を漏らした。
「もちろんです。私達は違法行為に加担しました。その事実を胸に刻み、今後は節度も持った活動に励みます」
定型文で発せられたその言葉にはわたしでもわかるぐらいに心がこもっていなかった。まさしく棒読み、いくらなんでも分かり易すぎる。
その無機質な返答にエレン支部長は何か察したように眼を細めると、ゆっくりと振り返りながら階下に広がるニュー・トウキョウの絶景に向けて視線を逸らした。
「………………よろしい、私からは以上だ。今回の件の責任については君達の会社と協議する。ハト隊員、三人を天門台の出口まで案内してやってくれ」
「わかりました!」
「あ、シャーナもいく!」
そうしてわたしとシャーナちゃんは、ホソナガ電機の三人と一緒に支部長室を後にした。




