第45話 ケーキにはコーヒーを
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『オーケー、それじゃあテストを始めよう。その腕輪は敵の攻撃に反応して自動で起動するように設計した、つまり腕輪を目の前に置くだけでガードができる仕組みだ。とはいえシュミレーターで本物の攻撃は流石にできないからね、あくまでバーチャルの攻撃だから安心して受けてくれ』
「わかった!!」
けたたましい機械音が鳴り響くと、どこからともかく目の前に七芒星が姿を現す。青い光で構成されたホシはその透き通った身体を光らせると、戦場で何回も目にしたビームを放って来た。
わたしはハロちゃんに言われた通りに左腕に装着した腕輪を突き出して攻撃に身構える。
すると腕輪から緑色の光が浮き出たかと思うと、瞬時に身体全体を守る盾に変貌した。
「おおー! これがグリーンライトの盾かぁ!」
『最高だ、起動やエネルギー出力は上々。さすがミス・シズクの調整だ』
そうして放たれたビームを難なく弾くと盾を構成していた光は消え、元の腕輪へと戻っていた。
対星物防御兵器『ミルキー』。それは以前わたしがアイデアを提案して、ハロちゃんが実現させた技術の結晶だ。
その効果は凄まじく、現実にはいないバーチャルの敵だけど九芒星の攻撃すらも防いでいた。まさしくわたし達の命を守る盾だ。
『オーケー、今日はここまでにしておこう』
「えー、まだまだやれるよ!」
『ダメ、この後もやるべきことは残っているからね。テスト終了!』
まだまだ盾の性能を試してみたかったけど、ハロちゃんの一声によって青い光で作られたホシは消えてしまう。そうしてわたしは少しだけ不完全燃焼な気持ちにモヤモヤしながらシュミレータールームを後にして、慣れ親しんだ研究室へとハトちゃんと一緒に戻るのだった。
━━━━青い八芒星の任務から、一週間後の出来事だった。
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「イトウさん、さっき言っていた資料なんですけど、これですか?」
「あ、そうそう。見つけてくれてありがとね」
新武器のテストを終えたわたしは研究課のお手伝いをしていた。
研究員が探している資料探したり、報告書をハロちゃんに届けたり、たまに実験のお手伝いをしたり。
元々戦闘員のわたしにとって研究というのはあまり馴染みが無かったけどなんやかんやで手伝えることは沢山あった。まあほとんどが雑用だけどネ。
「あら、ハトちゃん。主任補佐のところに戻るの?」
「うん、喉乾いたからコーヒー飲もうと思ってます」
「なら私と一緒に休憩室はどうかしら。さっき買ったこれ、一緒に食べない?」
「キャンディショップのケーキ! 行きます!」
でもしばらくこの研究課で過ごす内に、最初は訝しげに見ていた研究者の人達も気軽に接してくれるようになってくれた。
「新兵器のテストはどうだったの?」
「本当に陣光衛星の盾そのままでしたよ。九芒星の攻撃も簡単に防いでました」
「すごいわねぇ。さすがグリーンライト、質量のある光体でこれ以上のものは無いわ」
そしてたまにこうして一緒にケーキを食べながらコーヒーを飲んだり、研究について色々なお話を聞かせてくれたりする。
「主任補佐の研究は順調そうね。私も頑張らないと」
「ヒラノさんなら大丈夫ですよ。あ、もしテストをして欲しい時は手伝いますヨ!」
「ふふ、ありがとね」
目の前にいるヒラノさんは研究課のエリートの一人で、よくわたしを気にかけてくれて、何よりケーキをご馳走してくれる良い人だ。
そうして新作のチョコタルトに舌鼓を打ちながら憩いの時間を過ごしていた時、休憩室のテレビの音がふと耳に入って来た。
『本日で五件目です、夜中に消えた行方不明者の所在は…………』
それはどこにでもありそうな行方不明者のニュースだった。
今の時代、色々な理由で行方不明になる人は沢山いる。だけどわたしが気になったのはその数字だ。
「…………物騒ですネ」
「確かにね。あの十芒星の襲撃以降、こんな暗いニュースばかりで嫌になるわ」
「行方不明になった人の家族とか心配してますよネ…………」
「…………あまり気にしない方が良いわよ。私達がやれることにも限界があるから」
テレビの中での出来事など他人事、でもわたし達は違う。わたし達は天門台で誰かが困っていたら助けないといけないんだ。
「…………そうですね」
でも、悲しいけど今のわたし達にはそれができない。
━━━━ピピピピ! ピピピピ!
「あ、呼び出しだ」
少し暗い雰囲気が休憩室に漂い始めた時、ポケットに入っていた端末から着信音が響き渡る。
その着信者はエレン支部長だった
「はい、ハトです」
『ハト隊員、至急支部長室に来てくれ。…………例の件で話がある』
「……………わかりました」
例の件。その言葉に心が静かに揺れる━━━━やっとこの時が来たか、と。
そうして短い返事と共に通信を切るとヒラノさんに事情を説明して、ケーキを頬張りながら休憩室を後にした。




