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【連載版】星空を見上げれば  作者: ジョン・ヤマト
第一章 心の奥に誓いを秘めて
43/121

第42話 暴走

    ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

 ━━━━━燃えるような痛みが腹部に走る。十円玉ぐらいの大きさの穴から血が出て、周りの傷を囲う焦げ跡によって嫌な匂いを醸し出しながら真っ白な戦闘スーツから下へと伝っていた。

 額からは汗がダラダラと流れて熱くなっているのに、身体の体温は溢れ出る血と共に冷たくなって来ていた。


「あ………………」


 そして、瞼が重くなって意識が段々と薄らぎ始める。

 何度か味わった感覚、何度も味わってしまった感覚。命の蝋燭が短くなるような、虚しい感覚だ。


 ━━━━━呆気ない、本当に呆気ないよ。でも、わたしにはまだやるべきことが残っていた。それをやり切るまでは絶対に………………死んでやるもんか。


「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ…………」


 だけど時間は待ってはくれなかった。わたしの姿を目撃したシャーナちゃんが涙を流しながら身体を震わせていた。

 その姿は皮肉なことに五年前にイブちゃんのお父さんとお母さんがヴィーナスによって目の前で殺された時と全く同じ光景だった。


 そうしてわたしの姿を焼き付けたように見た()()()()ちゃんは、次にそれを引き起こした原因へと視線を移した。


「おまえか?」


 ━━━━━溢れんばかりの憎悪を込めながら。


「おまえが、おねえちゃんをころしたんだな?」


 そして撃鉄は起こされた。一人の少女と思しき何かの目覚めを━━━━眩い金色の輝きと共に。


『なら、|わたしがおまえをころ《Then I'll kill you》してやる』

『……………………!?』


 二重に紡がれる呪いの言葉。それはまさしくわたし達がホシに対して持っていた復讐の感情そのものだ。そのドロドロとしながらも純真無垢な感情を一身に浴びた八芒星は、今までとは尋常にならないほどの焦りを見せていた。

 その姿は追い詰められた獲物のそれ。そして追い詰められた獲物が取る行動は一つしかない━━━━━ボロボロになった身体を這いずってでも逃げることだけだ。


じゃあね(Die)


 その一言と共に指先から放たれた一本の金糸。真っ直ぐ細い線は踵を返して逃げようとした青い八芒星の身体を貫いた。そこから生まれた小さな穴が徐々に広がるようにして八芒星の固い身体の全てを粉々の砂へと変貌させた。


 その光景はもはや戦いとかそんなものじゃない。

 ━━━━━ゴミ捨て。割った卵の殻を燃えるゴミに捨てるのと同じだ。


『…………………………』


 しかし倒すべき敵を倒したと言うのに、彼女の輝きは未だに収まっていなかった。

 その手をゆっくりと青空へと伸ばすと、まるで木の実を採るかのような仕草で虚空を掴むのだった。そして視線が地面へと向けられると━━━━小さな声で、こう呟いた。


ぜんぶ(All daed)、ぜんぶしんじゃった(All daed)


 惜しみ、悼むような声色で紡がれた言葉。

 その言葉に込められたものが悲しいのか、それとも怒っているのかはわからない。

 ただ今の朧げな視界の中に映るシャーナちゃんのことでわかるのは一つ。


(暴走、してる…………!)


 八芒星を倒した攻撃や未だに身体に纏っている金色の光がその証拠だ。


『|しんじゃったのなら《If you are killed》………………|ふくしゅうしないと《you must take reveng》』

「や………………」


 ━━━━━その言葉が始まりの合図となった。シャーナちゃんはまるでおもちゃの鉄砲を撃ちまくる子供のように周囲の木に向かって八芒星に放っていた金色の光を撃ち始める。

 ただの木が八芒星が一瞬で砂と化した攻撃に耐えられるわけもなく、辺りの木々は焼き払われ、薙ぎ倒され、そして小さな火種を作り上げようとする。

 そんな地獄のような光景の中に、飛び込む影が。


「うお! なんやこれ!?」

「この光景は…………ッ、ハトさん!!」


 アナさんとヒバリさんだった。

 二人とも最初は状況を上手く飲み込めていなかっけど、お腹から血を出して横たわっているわたしを見て駆け寄って来ようとする。


『|おねえちゃんにちかよ《Don't go near my sister》るな!!』


 しかしそれを暴走したシャーナちゃんは見逃してはくれなかった。先程まで森に向けられた指先が二人の方へと向けられようとしている。


(このままじゃ………………いや、そんなこと絶対にさせない!)


 そうして、わたしは最後の力を振り絞ってシャーナちゃんへと手を伸ばしながら叫んだ。


「………………シャーナちゃん、やめて!!」

『━━━━━━!!?』


 ふとびっくりしたように上げた小さな悲鳴、目の前で眩しく輝く光、動くたびにズキズキと痛むお腹。そして触っただけでわかる温もり。

 ━━━━━うん、やっぱりシャーナちゃん(イブちゃん)は暖かいね。


「大丈夫、わたしは生きているよ。…………だから、もうやめようね」

「あ、あ、おねえ…………ちゃん…………」

 

 狂気に染まっていたその瞳は、徐々に正気を取り戻し。眼を覆うほどに眩しかった光が段々と収まって来ている。

 そうして意識を失う直前にわたしが見たのは、シャーナちゃんの━━━━大粒の涙で濡れた可愛らしい顔だった。


(よかった━━━━━━)


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