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【連載版】星空を見上げれば  作者: ジョン・ヤマト
序章 私達は星々の夢を見る
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第3話 親友

    ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

「君の意思は受け取った。明日に全体ブリフィーングを行う。それまで待機していてくれ」


 エレン支部長から待機命令を受けた私は支部にある自室に向かっていた。

 長い廊下を進み隊員達の宿舎の食堂に差し掛かった時、ふとある物が目に留まった。

 それは食堂に設置されたテレビでそこではニュース番組が放送されていた。


『ニホン時間の午後十一時、ニュー・トウキョウ北部にあるオオサカシティの環状線で星型生物との戦闘の反対デモがありました。参加者は"話せば分かり合える"と主張しており………………』


 内容を見て後悔した。そもそもヤツらには言葉が通じないのに話し合うも何も無いだろう。


「知らないって羨ましい」


 そう言い捨てると私は踵を返して真っ直ぐに自室へ戻るのだった。

 そうして何年も過ごした憩いの部屋に到着し扉を開けて中へ入る。


「!?」


 その瞬間、眼元に生暖かい感触が来ると同時に目の前が真っ暗になった。

 そして「だーれだ」と、馴染み深い親友の声が私の両耳を響かせた。


「…………ハトちゃん」

「せーかい!」


 嬉々とした声と共に視界に光が戻ると、目の前には身長が私の頭一つ分小さな桜色の髪をした少女━━━ハトちゃんがいた。


「もうハトちゃん、びっくりさせないでよぉ」

「いひひ、だってびっくりしたイブちゃんの反応が可愛いんだもーん!」


 そう言ってハトちゃんは屈託のない眩しい笑顔を私に向けてくれた。そしてその笑顔を見た私も思わず心穏やかに笑った。


 五年前のあの日、ホシ達による惨劇を生き残った私とハトちゃんはニホン政府に救助された。

 その後しばらくは政府の施設で過ごしていた。その施設では私達と同じように日常を奪われた者達が身を寄せ合って暮らしている場所だ。そして私とハトちゃんも失った者同士、お互いを支え合いながら日々を過ごしていた


 運命が動き出したのは二年前、私とハトちゃんはホシに対抗するための兵器の適合者と言われたのだ。

 そこから話はトントン拍子で進んだ。背広を着た偉い人に連れて行かれてこの天門台の扉を潜ると、そこで背筋も凍るような訓練を積まされた。

 訓練の成果は早く現れ、私とハトちゃんは『新世代のエース』と持て囃されるようになるほどの実力を身につけ今に至るということだ、


「ハトちゃんの任務はもう終わったの?」

「うん、バッチリ。わたしの活躍で敵を一網打尽サ!」


 そう言って彼女は親指をグッとしながら頬を吊り上がらせた。

 ハトちゃんの笑顔はいつも変わらない。見ていて本当に安心するよ。


「あ、そうだ! イブちゃんお昼ごはんは食べたの?」

「まだだけど…………」

「なら一緒に食べようよ! そのためにこの部屋で待ってたんだからネ!」


 こうして私はわけもわからず半ば強引に椅子に座らされた。

 反対の席に座ったハトちゃんは嬉しそうにテーブルに置いてあった弁当箱を広げるのだった。


「今日は腕によりをかけたからネ! イブちゃんのほっぺたも落ちちゃうかも!」

「そ、それは楽しみだなぁー…………」


 お米を主食として卵焼きにミニハンバーグ、タコさんウィンナーときんぴらごぼうにブロッコリー、デザートにりんご。

 そんなどこか懐かしさが漂いそうな至って平凡な弁当が私の目の前に広げられていた。

 ハトちゃんは「ちょっと冷めちゃってるけど美味しいからネ」と自信満々に鼻をふんすと鳴らしている。


「そ、それじゃあいただきまーす」


 手を合わせて今から食べる命に感謝を伝え箸を持った。まずは小手調べということでタコさんウィンナーを一口。


「うん、美味しい」

「でしょ? タコさん可愛くて美味しいよね」


 至って普通の美味しさだ。

 続けて食べたブロッコリーにきんぴらごぼう、卵焼きも美味しい以外の感想が出て来なかった。ハトちゃんの料理の実力はそこらのシェフが白旗を上げるぐらいすごい腕のだ。そんな物をいつも食べてる私はたぶん贅沢な人なんだと思う。

 しかし事件はここから起きたのだ。


「ささ、ハンバーグ! ぱくりと行っちゃっテ!」

「うん、あーん」


 ハトちゃんに言われるがままにミニハンバーグを一口で口の中に入れた。

 うん、美味しい。一回噛むたびに染み込んだ肉汁が口の中を駆け巡って来る。特製デミグラスソースのトマトの風味とほんのり香るピーマンの苦味が合わさり芳醇で濃厚な━━━━━ピーマン?


「ぅぅぅ……………………ハトちゃん?」


 涙を瞼に浮かべながらこの料理を作った人物をひと睨みしてみる。そこにはイタズラに成功したことに対して真っ白な歯を見せながら喜んでいる凄腕シェフの姿があった。

 

「いひひ、だいせーこー! ねね、ピーマン美味しかった?」

「ハ、ハ、ハ………………」


 ━━━━この時間、たまたま私の部屋を通り掛かった天門台の隊員は後にこのようなことを語った。


「あれはまさしく寝物語でお母様に聞かされた悪魔の叫び声そのものでしたわ。あの咆哮には百戦錬磨と謳われたワタクシですら驚いて逃げ出してしまったほどよ。きっとイブキさんのお部屋には悪魔が住み着いているに違いありませんわ!」




    ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

 仲睦まじく昼食を食べ終わった私達はへとへとになった身体を休めるために私の部屋で暫しの休息━━━━休息と言ってもテーブルに二人でへたり込んでいるだけだけど何はともあれ憩いの時間を享受していた。

 

「もう、イブちゃん激しすぎるよ…………」

「元はと言えばピーマンを食べさせたハトちゃんが発端じゃん…………………でもお弁当は美味しかったよ」

「いひひ、その言葉だけでわたしは満足サ………………」


 疲労のままに反射的な会話を応酬し合う。

 でも私達にとってこれは慣れ親しんだ光景だ。ハトちゃんがイタズラをして、それに怒った私がうりうりする。そして最後は疲れ果てて一緒にへたり込む。出会った時からずっとこんな感じだ。


 五年前のあの日以来、大切な人を失って心にヒビが入った時でもハトちゃんのイタズラは私を明るく怒らしてくれた。


「………………そういえばハトちゃん、『あの作戦』に参加するんだよね?」


 ━━━━だからつい、聞きたくなってしまったのだ。


「……………うん、そうだよー」

「……………ハトちゃんは、どうして参加することを決めたの?」

「……………そんなの命令されたからに決まってるじゃん」

「……………嘘でしょ。エレン支部長から聞いたよ。あのお願いを二つ返事で受けたって」


 ━━━━彼女にも、『そういう感情』があるのかどうかを。

 

「…………聞いちゃったかー」

「…………それで、どうして参加しようと思ったの?」

「………………………………」


 長い、長い沈黙。

 いつも元気に話しているいつものハトちゃんとは大違いだった。

 そうして永遠とも思える時間が過ぎた頃。ハトちゃんの惑星のような重い唇がゆっくりと開かれた。


「………………ないしょ」

「………………そっか」


 その言葉を聞いて、私は答えを聞けなかった落胆と同時に心の底からの安心━━━━救われたような気分を感じていた。

 ハトちゃんは大丈夫だったんだと。『私みたいに』なってなかったと安堵したのだ。


「…………この質問するってことはさ、イブちゃんも参加するの?」

「…………うん。私もエレン支部長のお願いを受けた」

「…………そっかぁー、それじゃあゆっくり休まないとネ」

「…………そうだねー、今日はもうゴロゴロして過ごそうか」


 私のその提案にハトちゃんは「賛成ー」と気怠げな同意を示してくれるのだった。


 明日から私達は死地へ身を投じることになる。

 だから今日だけは、恨みや憎しみを忘れて親友と一緒に堕落の海へと沈んでいくのだった。


 ━━━━最後に後悔しないようにもっと深く、もっと奥底へと。

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