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【連載版】星空を見上げれば  作者: ジョン・ヤマト
第一章 心の奥に誓いを秘めて
39/121

第38話 はなしあい

    ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

 本来ならイブちゃん…………シャーナちゃんの処遇についてはエレン支部長の一任で判断されるはずだった。

 だけど十芒星・マーズが襲撃した際、秘匿されていたシャーナちゃんの姿、そして彼女の中に眠るヴィーナスの力が露呈してしまった。

 これによりこの問題は広範囲に波及、天門台以外の組織が介入する事態に発展してしまった。


「…………時間だな」


 ニュー・トウキョウには街の頂点に立つ五つの組織が存在する。それらはこの街の地盤を支え、わたし達天門台の戦闘員が安心してホシ達と戦うために必要な根幹とも言える。

 だけど、その五つの組織はそれぞれ様々な思惑を持ってはいる。お金であったり武力であったり思惑の内容は様々だが、言えることは決して彼らに対して背中を預けられるような信頼関係は存在しないということ。とはいえ現在は一つの共通認識のおかげでなんとか今の拙い関係を保っている。


 その共通認識とはもちろん『このニュー・トウキョウを守る』というもの。そしてその共通認識を犯す者が現れた時、彼らは非情の鉄槌を下す。


「………………ではこれより、ヴィーナスについての話し合いを始めようか」


 エレン支部長の厳格な声と共に話し合い━━━━━という名の『裁判』が幕を開けた。

 ここに集まったのは通称『ペンタグラム』と呼ばれるニュートウキョウを統べる五人の権力者達。彼らが一同に集まりヴィーナス━━━━つまりシャーナちゃんの処遇を決める。


 ━━━━━彼らは様々な分野で頂点に立つ存在だ。


「まずは十芒星襲来直後の忙しい時期に集まってくれたことに感謝を。皆に集まっていただいた理由は彼女…………我が天門台の隊員であるイブキへ精神的寄生をしたとされる『十芒星・ヴィーナス』の処遇について話し合うためだ」


 一人目、天門台・ニホン支部支部長『エレン・アンドー』。

 当然街の防衛を一手に担っている天門台はペンタグラムに名を連ねている。今回この裁判の主催であり、進行を担当する。


「ヴィーナスの精神的な生存の話を聞いた時は耳を疑った。大々的に『憎き十芒星の一体を倒した』と報道した直後のことだったからな。これは我が社の信用にも大きく関わる重大事項だ、果たしてそこの少女がこの街に危険をもたらすか…………この私が厳粛に見定めさせてもらう」


 二人目、イオンTV・代表取締役社長『クロノ・スミス』。

 『電道師』ともあだ名されるこの街のメディア王。茶髪に無精髭、黒いスーツという様相からはくたびれた普通のサラリーマンにしか見えないが、情報を見極めるその眼は本物。故に決して油断してはいけない。


「はい、私としてもしっかりと彼女がヴィーナスの力を制御できるか.…………ハッキリとさせる必要があると思います。技術は制御できてこそ意味があるものです」


 三人目、ロイヤル・アストロ・テクノロジー・ニホン支社・専務兼グリーンライトプロジェクト責任者『シズク・アストロナート』。

 ハイテクデバイス機器の開発を行う通称L・A・T社のニホン支社の顔役。彼女自身も技術者で、あの陣光衛星の開発者だ。短く纏められた黒髪とレディスーツが合わさり他を寄せ付けない威圧感がある。


「アハハッ! まさかさっきの子が本題の子だったなんて知らなかったよー!」


 四人目、サタデイ・インダストリー・CEO、『オルテンシア・ローリネス』

 工業製品や銃器開発、住居の建築や街のインフラ整備と手広く取り扱う企業のトップ、世間からは工業界の頭脳と呼ばれる天才だ。………………大きなボタンの付いた水色のワンピースに頭に付いた一輪の花と黒髪のツインテールが特徴の少女だ。

 ━━━━━まあ、あの人に関してはノーコメントにしておくネ。あとシャーナちゃんは手を振らないでネ。


『本日はファミリーの用事があり、リモートでの出席をお詫び申し上げますわ。しかし(わたくし)の鼻は遠く離れた場所であろうと正確に嗅ぎ分けます。………………交わした誓いを破ることがない事を切に祈りますわ』


 最後五人目、レストラン・ナゴヤン・代表、『ミセス・マルティネス』。

 郊外を中心にニュー・トウキョウ全域に店を展開する老舗レストランチェーンの社長。音声だけで姿は見えないがその声色からは荒波を乗り越えた女傑とも言うべき雰囲気が醸し出している。

 ━━━━なんかホシと戦う時とは違う怖さが感じるけど、それはたぶん気のせいだと思う。


 色々癖がありそうなこの五人がヴィーナスであるシャーナちゃんの行末を決める裁判官だ。わたしはシャーナちゃんの保護者としてこの場に居させてもらっている。


「まずは十芒星・ヴィーナスの能力と、先日確認された彼女の力について説明をする。…………ヴェニア」

「オカピート! 早速説明するとヴィーナスで確認された能力は主に二つで…………」


 広範囲、高威力のビーム攻撃。他者への精神干渉。その他諸々の能力。

 研究課の主任であるヴィニアさんの口から、ヴィーナスの能力について説明される。

 話を聞く皆の反応は様々だ。クロノさんは何かを思案するように、シズクさんは疑うような怪訝な表情で、オルテンシアさんは楽し気に、マルティネスさんはただ無言で話を聞いていた。


 そうして説明は淡々と進んでいき、話は本題へと移っていく。


「それでみんなが気になっている先の十芒星襲撃の時に確認されたことについてね。結論から言えば彼女が行った高威力のビーム攻撃について、映像の検証と現場にいた隊員の証言からあれはヴィーナスによる攻撃と酷似していると判断したわ。………………つまるところ、そこの彼女には今ヴィーナスの力が宿っているということだね」


 ━━━━シャーナちゃんにヴィーナスの力が宿っている。

 彼らの思惑はわからないけど、この一言がこの場にいる五人の感情を確かに揺さぶった。


「とりあえず話せるのかこんなところかなァー。あ、一応補足しておくと彼女についてはまだまだ研究不足で今後の研究次第ではこの街の防衛力やホシへの対抗手段を大幅に向上させるポテンシャルはあるとだけ言っておくわねェー」


 説明を終えたヴェニアさんは疲れたように身体を伸ばしながら席に着いた。

 

 ━━━━━そうして迎えた息が詰まるような沈黙。無理もない、言うなれば彼らの目の前にはいつ爆発するかもわからない爆弾があると言われたようなものなんだ。


「ねーねー、みんなどうしてしゃべらないの?」

「どうしてだろうね? もしかしたら緊張してるのかもしれないね」

「そうなんだ! でもシャーナはきんちょうしないよ、この前だっておちゅうしゃをがまんできたんだもん!」

「あはは、シャーナちゃんは偉いね」


 わたしはシャーナちゃんの事をよく理解している。だけど彼女の事をあまり理解していない彼らからすればたまったものではないんだろう。だからどう切り出せばいいのかわからないのだ。

 永遠とも言える緊張の中、その均衡を最初に破ったのは引き締まるような男性の声だった。


「…………私は今すぐに『対処』をすべきと判断する。十芒星であるヴィーナスの存在を放置するなど、いくらなんでも危険極まりない」

「私も同じ意見です。もし暴走を引き起こした時、シェルターの内にいる私達に逃げ場はありません彼女を活かすメリットよりも、もしもの時のリスクの方が大きすぎます」


 クロノさんとシズクさんだ。どうやら二人はシャーナちゃんを『処分』すべきと判断したようだ。

 確かに二人の言っている事は正しい。わたしもヴィーナスの危険性は頭では理解できている。━━━━━でも、心は既に決まっているんだ。


「いつ爆発するかもわからない不発弾を放置する必要はない、一刻も早くその娘を………………」

「あ、あの!!」


 ━━━━━緊張で上擦った高い声、その発生源はわたし。

 この場はペンタグラムの五人が話し合う場、本来付き添いであるわたしに発言の権利は無い。でも今は、シャーナちゃんのために踏み出さないといけなんだ。


「君は彼女の付き添いだったな、私の話を遮るとはいい度胸だ」

「………………すみません、発言しても良いですか!」


 刺すような視線がわたしに向けて一斉に注がれる、まるで氷の槍を突き付けられたみたいだ。でも怯んでなんていられない、わたしがシャーナちゃんを守るんだ!


「ハト隊員……………………わかった、発言を許可する」

「あ、ありがとうございます!!」


 そんな決意が実ったのか二度と来ないチャンスをわたしは得た。

 さあ、口を開いて説得するんだ、ハト!!


「…………シャーナちゃんの精神は子供並にはなっているけど、ヴィーナスとは違って感情は確かにあるんです。つまり彼女はヴィーナスでは無くシャーナちゃんという人間なんです!

 十芒星の襲撃の時だって彼女の影響で街に被害は出ていないし、今もこうして落ち着いていて、暴走する危険は限りなく低いです! だから彼女のことについてもう少し考えてはいただけませんか!」

「暴走する危険は少ないと、何故言い切れる?」

「えっと…………、彼女は痛い注射を我慢できるからです!」

「…………………………」


 ━━━━━沈黙が、痛い。まるで氷の槍で突き刺されたみたいだ。なんとか精一杯頑張ったけど、やっぱりわたしにはシャーナちゃんを守るなんて無理なんだろうか。

 ━━━━━いやだ、絶対に何がなんでも失うもんか。いっその事シャーナちゃんと………………


『確かに、先の件を間近で見ていたがそこにいるシャーナと呼ばれた彼女は五年前に見たヴィーナスとは到底思えなかった。………………それは即ち彼女はヴィーナスでは無く、ヴィーナスではない彼女に罪はありません。罪人でないのなら裁きは必要は無し。

 そして(わたくし)からすれば正体がどうであれそこにいる彼女は十芒星からの襲撃から街を守った恩人ですわ。(わたくし)はファミリーを統べる者として、恩を仇で返すような真似はできませんわね』


 レディ・マルティネスの声が一線を踏み越えようとしたわたしの足を引き留めた。それに続くようにして甲高い笑い声がこの場にいる皆の鼓膜を強く刺激した。


「アハハッ! イイじゃない、イイじゃない! うんうん、その通りだよ。彼女はヴィーナスじゃなくてちょっと不思議な女の子だ。そんな面白そうな娘をみすみす見殺しにするなんてつまらないよ!」


 頭のお花を揺らしながら、オルテンシアさんはシャーナちゃんを生かすべきだと言った。…………まあその理由はちょっとだけ疑問だけど。

 そしてスミスさんもその疑問を抱いたようで、冷ややかな流し目でオルテンシアさんを見つめた。


「はぁ、ミス・オルテンシア。貴女は状況を理解しているのかね? これは面白いつまらないではなくこの街の今後に関わる話を…………」

「わかっているさ、ミスター! だけど彼女についてハッキリとしないままポイするなんて勿体無い! 本当に危険かどうかをかるーく調べるぐらいなんの問題もないだろう? 少なくとも彼女は十芒星を撤退させるだけの力がある、上手くいけばホシというジョーカーに対するスペードの3になり得るはずさ!」


 捲し立てるように語られた言葉の羅列、しかしそれには確かな説得力があった。

 しかしシャーナちゃんの『処分』について、賛成二人の反対二人。エレン支部長は判断を決めかねている。つまり、現状の話し合いでは決められないという状況に陥ってしまった。


「賛否半々…………ですか」

「こうなるとどうしようもないな。我々にはこの後もやらなければならない事項が山ほどある」


 二つの大きなため息が室内の空気に融ける。

 平行線の議論ほど無駄なものは無いとこの場にいる五人は理解しているのだ。


『こうなるのはある意味仕方ないとも言えますわね。何せこの議題は(わたくし)達個人の()()に関わる話ですから』

「……………………それは関係ないだろう」


 レディ・マルティネスが今までの話し合いを一言でまとめる、そしてその総括は的確に的を射ていた。

 故にため息が漏れ出た、『妥協をしなければならない』というどうしようもない結論が出たことに。そうしなければ時間を浪費することになるから。


「わかりました。ミス・オルテンシアの言う通り彼女が自身の力を制御できるかどうかを調べましょう。その結果次第で彼女の処遇を決定するとしましょう」

「だがどうやって調べる? 街中でやるわけにはいかんだろう」

「そのことだが…………、私に一つ提案がある」


 賛成派二人の話にエレン支部長が割り込んだ。


「先日、Fー11地区のコロニーから八芒星を目撃したとの報告があった。敵はエナ山の山頂付近を根城にしており今のところ危険は無いがコロニーの安全のために討伐しなければならない」

「………………まさか」

「そのまさかだ。シャーナに八芒星の討伐をさせる。その結果次第の如何で処遇を判断する。彼女の護衛としてハト隊員と信頼できる二人の隊員を監視(どうこう)させる。これでどうだ?」

「その辺りが丁度いい落とし所か。私は構わない」

「私も異論はありません」


 エレン支部長から出された折衷案に二人は仕方なしと言うように了承の意を示した。

 それを聞いて、わたしはホッと胸を撫で下ろした。ちなみにシャーナちゃんはずっとなんの話をしているのか全く理解してなかったみたいだ。

 

「それでは話はこれまでとしよう。ハト隊員、任務の詳細は追って通達する。シャーナを連れて退出するように」

「わかりました。シャーナちゃん、行こうか」

「うん!」


 こうして短くもとても濃い時間が終わりを告げ、わたしとシャーナちゃんはこの重苦しい空気と漂う部屋を逃げるようにして出て行くのであった。


 ━━━━━声は上擦っていたしちゃんとした説得もできなかったけど、なんとか次に繋げる事ができた。あとはわたしの力でシャーナちゃんを守るんだ!


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