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【連載版】星空を見上げれば  作者: ジョン・ヤマト
第一章 心の奥に誓いを秘めて
32/121

第31話 日常

    ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

「ぐう…………ぐう…………、おはなさんだぁ…………」

「…………花はわかるんだ」


 注射を終えたシャーナちゃんは疲れて寝てしまった。

 今は心地良さそうに寝息を立てながら夢の花畑で遊んでいるようだ。

 わたしは彼女をベッドへ寝かせると、音を立てずに部屋を後にするのだった。


「お疲れ様ぁ、ハトさん」

「メイちゃん…………」

「ふぁ〜、これで自分の部屋で寝れる〜」


 部屋を出ると同時にメイちゃんが隣の部屋の扉から出て来た。その後ろではララちゃんがあくびをしながら身体を伸ばしている。


「彼女…………シャーナちゃんって名前なのね」

「はい、あの子はヴィーナスじゃなくてシャーナちゃん」

「うん、わかったわ。これからは私達もその名前で呼ぶわぁ」


 メイちゃんは察してくれたみたいだ。

 天門台の最高機密━━━━彼女が本当にイブちゃんじゃないということを。


「…………なんの話してんだ?」

「ううん、なんでもないよ。…………それじゃあわたしは帰るネ」


 そうしてわたしは長い長い収容区画の廊下の奥へと歩き始めるのだった。

 その時、去って行くわたしをメイちゃんはただただじっと見つめて続けていた。


「………………やっぱり、ハトさんが鍵なのね」



    ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


 ━━━━そこからは、いつもとは少し変わった日常を過ごした。


「おねえちゃん、これはどうかな!」

「綺麗なお家、すごいネ!」


 次の日、わたしはハロちゃんから許可をもらって約束通りシャーナちゃんと一日中遊んだ。

 何かの役に立てればと思っておもちゃ屋で積み木を買って持って来たんだけど、これが思いの外楽しかった。


「じゃーん! おおきいでしょ!」

「こ、これお城だよネ…………」


 その際に積み立てられたカラフルな建築物の数々は素人であるわたしの目すらも奪うほどに綺麗だった。

 子供の精神故か、彼女の持つ()()()()()故なのか。何はともあれ積み木の遊びでシャーナちゃんの想像力が豊かなことがわかった。

 その後は一緒にお弁当を食べたら遊び疲れた彼女は眠ってしまった。


 そうして束の間の休日が終わり、その次の日からわたしは自分の職務━━━新兵器のテスターの役割を全うした。


『オーケー、今日も剣火鏡(けんびきょう)のテストを始めよう。出力の調整を加えたから一昨日のテストより威力が落ちているかもしれないからそこに注意してくれ』

「うん、わかった」


 新兵器のテスターは結構大変だった。

 テストをして異常が発生した時はその場で調整、そして再びテストをする。それを毎日五時間ぐらい、青いタイルに包まれたシュミレータールームで剣火鏡(けんびきょう)を振い続けた。

 そのおかげか、微かにだけどホシに対して有効な剣の扱い方が自然と身につけられたりしたのは嬉しかった。


「ハト君、この資料を第三研究室のイトウ君に渡してくれ」

「はーい」

 

 新兵器のテストが終わったらハロちゃんのお手伝いだ。

 他の研究課の人へ書類を運んだり、ハンコを押したり、フェアリーちゃんのお世話だったり。


「こんにちはー、イトウさんに資料を渡してくれって言われて来ました」

「ありがとう、いつもお疲れ様。そういえば我らがアイドルが遊びに来てるよ」

「にゃあ」

「あ、逃げちゃった…………」


 地味だけど色々やることが沢山あって忙しいけどおかげで研究課の人達とは顔見知りになれた。

 ちなみにフェアリーちゃんはまだ肉球を触らしてくれない。次は絶対にモニモニしてやる。


「おい頭でっかち! 新兵器のアームシールドっていうやつの設計図、あれなんだよ!」

「ジェーン、ドアは無理矢理開錠するんじゃなくて三回ノックするんだ」


 そしてたまにジェーンちゃんが怒声混じりに遊びに来てはハロちゃんと仲良く言い争っている。

 その内容は詳しくはわからないけど、喧嘩するように話す姿は二人の歳の差もあってか仲の良い親子みたいに見えた。

 ━━━━意外と相性は良いのかな?


「オーケー、これで今日の仕事は終わりだ」

「お疲れ様ー。それじゃあわたしは先に帰るネ」


 一日の仕事が終わるとわたしは一目散に部屋から出てエレベーターへと向かう、目的地は━━━━地下だ。

 地下へ降りて長い廊下を歩いて行き、重い扉を開いて中へ入る、そこにいるのは。


「おねえちゃん!」

「シャーナちゃん、今日もいい子にしてた?」


 ━━━当然シャーナちゃんだ。

 そうしてわたし達はこの狭い収容室で今日あったことを語り合う。


「きょうはね、シャーナひとりでチクチクやれたんだ!」

「ほんと!? シャーナちゃんは偉いネ!」

「うん、シャーナえらいでしょ!」


 大抵はシャーナちゃんが話すだけだが、それでも彼女にとってあらゆることが新鮮なんだろう。初めて見ることや、やることを笑顔で話す彼女の姿はとても輝いて見えた。


「あ、もうお別れの時間だね」

「おねえちゃん…………あしたもくる?」

「もちろん、お姉ちゃんが約束を破ったことは無いでしょ?」

「…………うん! そうだね!」


 面会時間が終わる頃、わたしはシャーナちゃんとお別れをする━━━━次の日も会うという約束を交わして。

 

 これがここ最近のわたし日常だ。忙しいけど、ホシと戦うことのない平和で安心に包まれた毎日。


 そんな日常が始まって二週間過ぎた。

 それは時刻が午後四時を過ぎた頃、少しの疲労と研究室の中を満たすコーヒーの香りで眠気を誘われかけた時。

 ━━━━コンコンと、研究室の扉を叩くノックの音が一つの運命を運んで来た。


「ハトさん、失礼するわぁ」

「メイア…………さん」


 扉が開かれるとそこにはメイちゃん━━━いやメイアさんが深刻な面持ちでわたしの前に現れたのだ。

 その様子はまさしく薄暗い曇り空、そしてまるで心の中に潜む灰色の雨雲から青い雨が溢れたみたいに、暗い暗い表情で彼女はこう言った。


「エレンが呼んでるわぁ。………………すぐにブリーフィングルームまで来て」

「……………………はい」


 その一言でわたしは全てを察した。

 ━━━━ああ、ついにこの時が来たんだ、って。


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