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【連載版】星空を見上げれば  作者: ジョン・ヤマト
序章 私達は星々の夢を見る
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第15話 慟哭

    ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

 ━━━━一眼見たその瞬間、この景色が夢であると理解できた。


 そこは寂しさと悲しさに満ち溢れた夜の商店街。五年前、ホシ達が襲来したあの日の景色がそのままになって広がっていた。

 そして身に纏っている服もあの日の服そのままなのに、その手には何故か天太芒炎鏡が握られていた。


「これは………………?」


 夢と理解できても理解できない現状。しかし私の心の内から『進んで』という声が聞こえてくる。


「………………行ってみよう」


 嫌に響く自分の声を耳にしながら『本日は大月祭!』という垂れ幕の掛かったアーチを潜り抜け、夢の中の商店街を練り歩く。


「大月祭…………、夜空にスーパームーンが来るはずだった日…………」


 本当にあの時のままだ。違うのはそこには誰もいないということだけ。

 露店に並べられた『はちみつミニカステラ』と描かれた幕に、水ヨーヨーの入った小さなプール、客寄せのために建てられた看板を横目に歩みを進める。

 全てが過去の大切な思い出なのに何故こんなにも切ないのだろうか。今の私にその意味は理解できない


 そうして歩き続けていると思い出の最終地点であり地獄の始まりの場所、商店街の特設ステージへと辿り着いた。


「……………………」

『ラララ〜♪ ラ〜ラ♪ ラララ〜ラ〜ラ♪』


 小さなささやかな舞台の上には、か細い声で歌を歌っている少女の後ろ姿。

 淡いオレンジ色の髪をゆらゆらと左右に揺らし、満天の星空を見上げながら『小さな世界』の歌を歌い続けていた。


 その美しくも健気な歌声は、神様へ捧げる讃美歌のようでもあり、愛しのお母さんとお父さんに贈る童謡の調べにも聞こえる。


「ねえ、君…………」

『ラ〜ララ〜ラ〜ラ〜ララ♪ …………ラ〜ラ…………ララ…………ぐすっ…………』


 しかし健気な歌声は最後まで続かなかった。

 歌声の中に嗚咽の音色が混じり込むと、次第にその声は壊れた機械のような歪な歌声となり、楽しげな曲だというのにどこか悲しさが満ち溢れているメロディへと変貌した。


『うぅ…………こわいよぉ…………さむいよぉ…………どこにいるのぉ…………?』


 そして冷たい舞台の上にへたり込みながら震えるようにして自分の身を抱き寄せた。

 その姿に私は少女に哀れみを覚えると同時に、ある一つの疑問を抱いていた。


(あの子は━━━━━『ヴィーナス』?)


 幻覚のように広がるこの景色。少女の奏でていた『小さな世界』の音色。そして心の中で蠢いている憎悪の感情。

 目の前の存在が倒すべき対象である証拠が次々と頭の中に沸き出てくる。

 

 その疑問に答えを見つけるために、私は星空の下に広がる舞台に登った。


「………………」

『ひっぐ…………えぇん…………』


 舞台へと上がり少女の背後に立ち、手に持った天太芒炎鏡をゆっくりと掲げ少女に狙いを定める。

 少女は未だに泣き崩れており背後にいる私に気付いていなかった。


「……………………」

『いやだよぉ…………ぐすっ…………』


 ━━━━━これを振り下ろせば全てが終わる。


 ある種の確信が脳裏に過ぎる。しかし何故か私には天太芒炎鏡を振り下ろすことができなかった。

 嗚咽を上げる少女に哀れみを覚えたからではない。私の中にある言葉にできない感情により最後の一つの行動が堰き止められていた。


『おとおさん…………おかあさん…………どこにいるのぉ…………わたしを置いてかないでぇ………………』

「ッ…………!?」


 とくんと跳ねる心臓の音が鳴り響くと同時に私の姿が元に戻る。


 ━━━━皮膚が焼き爛れて、血に塗れた己の姿へと。


 全身が貫くような痛みに襲れているのに私は静かに、いやそれどころか心の底から安心していた。

 そして私は理解した、この感情の名前を。


 ━━━━━寂しかったのだ。


 お父さんやお母さん、そして帰るべき全てを無くした虚しさに。そして目の前で泣いている少女と同じ感情があることを理解したから私は躊躇ったのだ。


 辛いことを理解して欲しい、共有したい。一人じゃなくてみんなと一緒に、と。それは誰にでもあり得る感情だから。


「ククッ………………」

『ぐすっ………………え………………?』


 そんな事を今更になって理解できたことについ笑みが溢れてしまう。そして少女に気付かれてしまった。

 振り返った少女は素っ頓狂な顔をしながら無意識に涙を流していた私を涙混じりに見つめていた。


『おねえちゃん………………だれ?』

「……………………」


 南からの微風が舞台の幕を揺らす。

 先程まで殺し合いをしていたとは思えないほどに穏やかな時間が過ぎていた。

 少女は命を狙っていた私に対して何のこともなく『誰』と聞いてきた。まったく可笑しな話だ。


「私? 私は………………」


 そうして私は握り締めた天太芒炎鏡を少女に向けてゆっくりと構える。腕を少し上げるだけで爆発しそうなぐらい痛い。

 そして構えた天太芒炎鏡を不思議そうに見つめている少女に優しく微笑みながら一言だけ。


「私はイブキ。ただの………………どこにでもいる女の子だよ」


 その瞬間、眩い光が商店街を包み込むと、私と少女の夢の時間に終わりを告げるのだった。




    ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

 戦いは終わった。

 十芒星・ヴィーナスとの戦闘はまさに世界の終わりを告げるような激しいものとなった。

 でも劇場の舞台はそんなことなど最初から無かったかのようにただ静かで、そして穏やかな日差しが穴の空いた天井から差し込んでいた。


「ハトさん、起きてぇ、ハトさん」

「う、うぅん………………」


 身体を揺さぶられる感触と優しい声に頭を刺激されてわたしは目を覚ました。


 結局わたしは激しい戦闘の余波に耐えられずに気絶。目覚めた時には周りの景色はごわごわしていた森からさっきまでいた劇場に戻っていた。

 そして今現在はメイちゃんに起こされ、腫れた目を擦りながら立ち上がる。

 パラパラと落ちる瓦礫がとても寂しい音を奏でているナァ。


「ハトさん、気が付いてよかったわぁ」

「ここ、劇場…………だよネ?」

「ええ、さっきまでの森のような場所はもう消えたわよぉ。きっとイブキさんがヴィーナスを倒したからでしょうねぇ」

「…………ッ、そうだイブちゃん!」


 わたしは迫られるような思いのまま周囲を見渡した。

 大丈夫かナ。早く怪我を治さないト。失いたくないヨ。

 迫られる気持ちに息を荒くしながら親友の姿を求めて広い劇場を探し回る。


「あ、イブちゃん! 見つけたぁ!」


 そして見つかった。イブちゃんの姿を。

 劇場の舞台の上に彼女は穏やかに眠っているように横たわっていた。


 だけど近づいて見つめたその肌は、━━━━━明らかな真っ白に染まっていた。


「い、いぶ…………ちゃん?」

「…………………………」

 

 震える手で親友の頬を触る。

 そうして触った頬は、━━━━氷のように冷たかった。


「イブちゃん!? イブちゃん起きて!?」


 嫌ダ、嫌ダ、嫌ダ、嫌ダ。

 嘘ダ、嘘ダ、嘘ダ、嘘ダ。


「い、いぶちゃん、いつもわたしにいたずらされた仕返しでしょ? す、すす、すごいね…………だから、もう起きていいよ。………………そ、そうだ! か、帰ったらごはん作って上げるヨ! イブちゃんの好きなハンバーグ! 目玉焼きも一緒にネ! だから…………だからぁ!!」

「…………………………」


 心に浮かぶ()()()()を何度も何度も何度も何度も否定しようとしても消えてくれない。


「あ…………うあぁ、…………ああ…………!!」


 そして浮かんだその言葉が頭に刻み込まれてしまう。


 ━━━━━イブちゃんは死んじゃった、ッテ。


「あああああああああああ!!!!!」


 激しい慟哭。そして同時に劇場の扉が勢いよく開かれ、白い戦闘服に身を包んだ三人の女性が舞台へと雪崩れ込んで来た。


「ッ! こちらチームA、ヒバリ。劇場内に突入したチームLの三名を発見。これより回収し帰投します」

「すごい光景ですわね。あ! あそこに十芒星・ヴィーナスの死体がありますわ!」

「………………ともかく早よ終わらせるで。ここにいる全員が重症やないか」


 それはこの作戦で別の区域を担当していた別のチームのメンバー。どうやら通信が途絶したわたし達を探してここまで来てくれたようだ。

 その内の一人が心配そうな顔色を浮かべながらこちらへ近付いて来た。


「チームAのリーダー・ヒバリです。どうやら激しい戦闘があったようですね。そのお腹、貴方もかなりの重症です。治療のために早く帰投しましょう」

「………………あ」


 そう言われてお腹をさすって、その手を見つめると、━━━━真っ赤な血で染まっていた。

 どうやら既にわたしの身体は限界だった。もう身体に力が入らず、このまま倒れるだけの状態だ。


 でも、それでも、これだけは言っておかないと。


「………………やく」

「? どうかしましたか?」

「早くイブちゃんの治療をして!!」


 これは言ってしまえわたしの抵抗だった。脳裏に浮かんだ言葉を否定できないわたしの最後の足掻き。

 そしてここで限界が訪れてしまう。わたしはお腹を真っ赤に染めながら悲劇の舞台の上に倒れるのだった。


「………………とにかく早く回収して治療しましょう。まだ周辺に強力なホシの反応が残っていますので」

「まさか十芒星を三人で倒すなんて。すごいですわ…………」

「ジュリア! ええから早う救急アンカーの準備をせい!」


 厳格なだけど優しい女性に尊大だけどどこか抜けた女性、そして強い訛りの男勝りな女性の三人の声。

 それがわたしの最後に耳にした音と共に冷たい海の底へと溺れるのだった。

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