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【連載版】星空を見上げれば  作者: ジョン・ヤマト
序章 私達は星々の夢を見る
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第12話 螺旋

    ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

 晴れ渡る空に流れる流星群。空の青色の中を流れる無機物の星々はまさに夢のような光景だろう。


 それが追って来なければどれほど嬉しいことか、しかし皮肉なことに現実は私達の夢を決して叶えてはくれない。ただただ無情に奪い続けるのみ。


 ━━━━私達がやれることと言えばただひたすらに逃げ続けることだけだ。


「メイアさん、バリアはまだ持つの!?」

「大丈夫…………、と言いたいけど破られるのも時間の問題よぉ!」

「とにかく逃げよう………………ひゃあ! バカスカ撃つナァ!」


 突如として現れたホシの軍勢の勢いは圧巻そのものだ。

 圧倒的な数の暴力。私達は成す術もなく童話の街を駆けずり回ることしかできなかった。


「イブちゃん、アレは使えないノ!?」

「ダメ! この数じゃ天太(てんたい)芒炎鏡(ぼうえんきょう)でも対処できない…………!」


 そうして五分ほど走り続けても未だに打開の策が思い浮かばない。そして休息もろくに取れずに走り続けたことにで足が悲鳴を上げ始めている。


 万事休すか、そう諦めかけていた時ある物が私の眼に飛び込んで来た。


「あれは…………!」


 二体の妖精の像が置かれた門のある大きな建物。

 それは二対の九芒星と対峙する直前に見つけた劇場(シアター)だった。

 それを見た私の脳裏にはつい数分前の光景が過ぎっていた。

 

(確かあそこからアイツの光が…………!)


 あの忌まわしき光。過去に全てを奪ったあの光の柱はこの劇場から発せられていたのだ。

 そしてその光が昇った後にホシ達の軍勢は姿を現した。


(このまま何も出来ずに全滅するぐらいなら…………!)


 危機的状況で生まれた動物的直感と言うべきか、今の私の頭の中である可能性が弾き出された。

 しかしこの行動には確証も何も無い、一か八かの賭け。それでも今の私に選択の余地は無かった。

 

「二人とも、あの劇場へ行くよ!」

「え!? りょ、了解!」

「わ、わかったわぁ!」


 私の指示に二人は困惑しながらも応えてくれた。

 そうして私達は大量のホシ達に追われながら劇場(シアター)へ向かって駆け抜けて行く。


「急いで!」

「ひぃ…………ひぃ…………!」


 降りしきる熱光線の雨に、時折飛んで来るホシによる突撃の刃。数多の攻撃を掻い潜り命からがらにその門へと飛び込んだ。


 地面に散らばるガラス片の砕ける音が耳の奥へと響き渡る。

 ━━━━━そしてまるで夢から醒めたかのような解放感(カタルシス)と共に静寂が私達を包み込んだ。


「…………音が、止まった?」


 先程まで耳を貫いていた破壊音も、空の空気を割り切った裂傷音も、まるで最初から無かったかのように全てが消え失せ止まった。


「ホシ達は!?」

「静かになってる…………みたいねぇ?」


 そしてそれらの音を奏でていたホシ達は劇場(シアター)の外で意味もなく私達の目の前で揺らめいていた。その挙動からは、まるで私達の存在を認識していないように見えた。


「な、何が起こってるノ?」

「わからない…………。でも危機を脱したのは確かなのかな。メイアさん、通信状態はどう?」

「通信は…………ダメねぇ、まだ繋がらないわぁ」


 直近の危機は脱出できたが、状況は何も変わっていない。それどころか悪化しているようにすら感じた。


(今のところこの劇場をホシ達が襲う様子はない。だけど通信が繋がらないから他のチームに応援を呼ぶこともできない。………………まずいね)


 ━━━━━『孤立』という言葉が脳裏に過ぎる。

 幸い今のところはホシ達が襲いかかって来る様子はない。かと言ってそれが永遠に続くことは保証できない。このままでは目の前の軍勢に殺されるのをただ怯えて待っていることしかできない。


 今必要なのは変化だ。この状況を打破し得る変化の兆しが欲しい。


(………………もしかしたら)


 そしてその兆しの行方が近くにあることを私は感じていた。

 あの忌まわしき光によって産まれた煮えたぎる感情によって。


「このまま劇場の奥へ行こう」

「イ、イブちゃん? それって…………」

「たぶんだけどこの奥に()()()がいるはずだ」

「………………厳しいわよぉ。イブキさんは天太(てんたい)芒炎鏡(ぼうえんきょう)の使用で消耗してるし、ハトさんはさっきまでお腹に穴が空いてたのよぉ?」

「だけどこのまま待つなんて私にはできない。厳しくてもこの現状を打開できる可能性があるのならそれに賭けたい! ………………どうかな?」


 私のか細い声が劇場の中を木霊した。

 たしかにこれは無謀な賭けだ。何も出来ずに犬死にする可能性が高いだろう。

 でもこのまま何もせずに奪われるように死ぬなんて嫌だ。奪われた物を少しでも取り返して死にたい。


「…………もちろんわたしはイブちゃんと一緒に行くヨ!」

「ハトちゃん…………!」


 いの一番にハトちゃんが私と共に行くと言ってくれた。その顔はいつもの笑顔に包まれていた。

 ━━━━━ああ、やっぱりハトちゃんは変わらないんだね。本当に本当に嬉しいよ。

 

 そしてもう一人、天門台の最高戦力者も呆れるように応えた。


「いいわぁ。私がしっかりとサポートしてあげるわぁ」

「メイアさん…………ありがとうございます!」

「それじゃあ早く行こう!」


 そうして私達は決意を新たに、薄暗い劇場の廊下を歩き始める。


「ッ………………」


 ふと握り締めた芒炎鏡(ぼうえんきょう)が嫌に冷たく感じた。まるで何か不吉な未来を暗示しているかのように。


 それでも私は歩みを止めることはできない。

 いや、━━━━━できなかった。

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