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【連載版】星空を見上げれば  作者: ジョン・ヤマト
序章 私達は星々の夢を見る
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第10話 悲怒

    ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

 火と氷に包まれた悲劇の舞台に一際強い風が通り過ぎる。

 風は敗れ散った者の欠片を晴れた空の彼方へと送り届ける。

 そうしてどこか赤みを帯びた生暖かい風はどこへ行くでもなくただただ静かに過ぎて行った。

 この風は敗れた者に対する哀れみだろうか、それともこの異形に殺された者への慰みだろうか。その答えは風を感じた者によって様々だろう。

 少なくとも、敗れた者の仲間にとってこの風は二つの感情を助長するだけに過ぎない。


 ━━━━━『怒り』そして『悲しみ』という感情を。


『Aha…………! Why(なんで)…………| Why are you dying《何故お前が先に》…………!』


 青いホシ真っ二つになった赤いホシの下へ寄り添い、涙混じりの二重音を響かせている。

 それは親しき者の━━━━━いや、愛する者の死を悼む感情。この感情を少なくとも私は知っている。


『| You always《お前はいつも》……………………|Against that (あの子や)star and m(私を置いて)e…………Go first(先に逝く)………………』


 それはまさしく大切な存在を奪われた者が織りなす『悲劇の舞台』。ここに月明かりにスポットライトがあれば最高の一幕の完成だ。まあ月明かりはコイツらによって奪われたが。

 そして大切な存在を奪われた者がする次の行動は何だろうか。


 答えはまったく簡単━━━━━復讐だ。


『|You bastard《貴様ら》………………|Kill them all《全員殺してやる》………………!』


 表情は見えないのにその姿だけでわかりきった明確な怒りと殺意。この場の全てを凍らしてしまいそうな気迫はまさしく最上の復讐者そのもの。 


「……………………」

「何なの…………この圧は…………」


 広場を包み込む青い九芒星の重圧にメイアさんは目を見開きながら驚いている。

 その様は親友を殺されて沸々と煮えたぎっていたさっきの私。怒り、まるで癇癪を起こした子供のように全てを壊したいと激怒していた私と同じ光景だ。


I'll kill(お前ら全員)………………them all(殺してやる)!!』

「……………………」


 そこに人とかホシとかは関係無い。大切な存在を奪われたのなら奪い返す。ただそれだけの循環。

 だけどそんな鏡写しの光景を見て私はこう思う。


 ━━━━━反吐が出る、と。

 

「ふざけるな………………」


 誰がその言葉を許した。誰がその感情を許した。誰がその気持ちを許した。

 誰が、誰が━━━━━大切な存在を奪われたことに嘆き悲しんで良いと許したんだ!


「先に奪ったのはお前達だろ? ━━━━お母さんを、お父さんを、ハトちゃんを、帰る家を、みんなの未来を。お前達は私達の全てを奪ったじゃないか!!」

『……………………』

「なのにいざ自分が奪われたらなんだ、全員殺してやる? 殺してやるだと!? ━━━━━ふざけるな! それは私達だけに許された言葉なんだ! 嘆きと悲しみは先に奪われた私達の権利なんだ! その権利すら奪うというのか、お前達は!」


 どこまでも身勝手極まりない。

 油断するとすぐこれだ。横から掠め取るようにコイツらは何もかも奪っていくのだ。さながら薄汚い狡猾な蛇のように。


 ━━━━━もういい。


「丁度いい。お前は私を殺したいんだろう? 私も同じだ。なら私の怒りとお前の怒り、どちらが大きいか勝負しよう」

『…………All right(いいだろう)


 これは言ってしまえばただのやつあたりだ。

 お互い行き場の無い怒りをぶつけるのに丁度いい相手が目の前にいる、ただそれだけだ。


 私は天太芒炎鏡を握りしめ、青い九芒星の前へと対峙する。青い九芒星はその身体を淡く輝かせ、最後の一撃に力を込める。


「………………」

『………………』


 刹那とも言える時間が過ぎていく。私達はただ静かに見合っていた。

 勝負は一瞬。故に両者共に言葉では『機』を探し求めている。


(殺す、殺す、仕掛ける、殺す、ふざけるな、仇を討つ。殺してやる)

Kill(殺す)…………Kill(殺す)…………Kill(殺す)…………I'll kill you(殺してやる)…………!』


 今の私達は脳内に渦巻くドス黒い言葉とは裏腹に心中はまるで午後のティータイムのように落ち着いていた。

 それは怒りを通り越したある種の超越した感情━━━━悟りの域と言っても過言ではない。 

 そして何度でも言おう━━━━━()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 この無言の剣尖こそ、相手の隙を引き出すための攻防なのだ。


「………………ッ!」


 勝負は動く。最初に仕掛けたのは私から。

 青い九芒星に向けて芒炎鏡の引き鉄を引いていく。

 バン、バン、バンと撃ち出した三発の光は真っ直ぐ突き進んでいく。


 普通ならここは迫り来る攻撃を避けるのが定石だ━━━━しかし目の前で輝く青いホシはまったく違う行動をしだした。


『Gurrrrr…………Ghahhhhhhhh!!』

「なっ…………!?」


 なんと迫り来る三発の光を全て真っ向から受けたのだ。

 撃ち抜かれた場所が黒く変色する事を知っているにも関わらずだ。


 まさしく捨て身。全てを投げ打ってでも私を殺すという意志の現れ━━━━━そしてその意志は炎すらも凍り付かせるエネルギーとなって放たれる。


『A…………………Arghhhhhhhhhhh!!』


 放たれた極低温の熱光線━━━━━いや大切な存在を失った悲しみと言うべきか。

 

 街を優しく照らしていた街灯、一緒に幸せそうに笑っているトナカイとサンタクロース、そして真っ二つになって倒れた赤い九芒星。あいつの深い悲しみは通る物全てをゼロへと変えながら私の下へと迫って来る。


「天太芒炎鏡よ………………」


 まるで子供に語りかける母親のような声と共に大剣を両手で構えて迫り来る悲しみと向き合う。


「………………堕ちゆくホシを照らせ」

 

 そして柔らかい頭を優しく撫でるように、ゆっくりと振り下ろした。


「………………さようなら悲しく怒るホシよ」


 振り下ろした一撃は悲しみを吹き飛ばしたながら青い九芒星へと迫る。


Aah(ああ)……………………! This(これは)………… This light(この光は)…………』


 だが青い九芒星は避ける事なくどこか満足そうな感嘆の━━━━━涙を流すような声を漏らした。まるでその光景に見惚れているかのように。


『Huh……huh………hun………Lalala〜la…………♪』


 そして私が最後に耳にしたのは、とても優しく、とても穏やかな歌声。それは世界中の誰もが知っているメロディ━━━━『小さな世界』を歌った子守歌。


『ホシよ…………先行く私を許してくれ…………。お前よ…………今から行くよ…………』


 ━━━━━その瞬間、激しい爆発が起こると、童話の街から音という音が消え失せた。



    ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

 舞い上がる風が土埃という肌色のヴェールを剥がれ落ちる。

 ヴェールの先にあったのは砕け散って粉々に成り果てた青い九芒星と砕けた塵に浸った赤い九芒星の姿。その仲睦まじい姿はまるでお互いを支え合う家族のように見える。


「……………………」


 結局最後まで舞台の上に立っていたのは私とメイアさんのみ。


「そうハトちゃんはもう………………」


 ━━━ガタッ


「…………イ、イブ…………ちゃん」

「ハトさん、無理しないでぇ。まだ治療は終わってないわぁ」 


 霞むような小さな声。だけど切望していたその声を私は聞き逃さなかった。

 そこにはメイアさんの懸命な治療により生き返ったハトちゃんの姿があった。


「いひひ…………イブちゃんが無事でよかった…………ヨ」

「ハ、ハトちゃん…………ハド…………ぢゃん…………」


 その先のことは語る必要もないだろうが語ろう。

 私はハトちゃんに駆け寄ると泣きじゃくりながら彼女の小さな身体を優しく抱きしめたのだった。

 悲劇の舞台を彩っていた炎と氷は既に消え去っており眩しいほどに輝くオレンジ色の太陽が私を照らしていた。

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