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【連載版】星空を見上げれば  作者: ジョン・ヤマト
幕間 イン・オンリー・セブンデイズ
105/119

第103話 月曜日

    ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

 そんなこんなで始まったお休み一日目。自室で過ごすのもつまんないと思ったわたしはハロちゃんの研究室に訪れた。

 茶色木目が広がるアンティークの部屋で砂糖たっぷりコーヒーを啜る。これぞ優雅な休日ってやつだネ!


「ふー、落ち着くなぁ」

それはなによりだ(ザッツナイス)。ここでの日常もだいぶ慣れてきたみたいだね。まあ慣れすぎている感じはするけど」

「にゃあー」


 ハロちゃんは研究課のお仕事。そしてわたしの膝の上ではフェアリーがごろごろと寝転んでお昼寝をしている。


 研究課に異動してからそれなりの月日を過ごしたことで自室よりも居心地のいい場所になってしまった研究室でわたしは初日のお休みをぐうたらと過ごしていた。

 そうして心地良い雰囲気の香りに誘われて、あくびが出そうになり始めた時だ。


違うなぁ(ディフレント)…………。もう少し利便性を持たせないと意味がない」


 デスクの上でハロちゃんが書類を見つめながら唸っていたのだ。

 あの表情は研究について迷っている時の顔。長い間、一緒に仕事をしているからわかるのだ。

 ならわたしのやる事は一つだネ。


「ハロちゃん、少し休憩にしない? 何かお話しがあるならわたしが聞いてあげるヨ」

「…………そうだね。せっかくだからハト君のアイデアをもらっておこうかな」


 こうしてわたしとハロちゃんは少し早いコーヒーブレイクを共にするのだった。

 今日のおやつはチョコチップクッキー。ビターチョコの甘みとサクッとした食感が美味しくて何枚もいけちゃうネ。


「それで、何を悩んでいたの?」

「新兵器の構想を考えていたんだ」

「新兵器? 剣火鏡とかミルキー・シールドみたいなやつのこと?」

「ああ。先の失踪者捜索任務のレポートを参考に何か作れないかと考えたんだけど…………なかなか思い浮かばなくてね」


 そう言いながらハロちゃんは照れ臭そうに頭を掻いた。


「それならわたしに任せてヨ! そのレポートよりも参考になるかもだし!」


 つまるところ、新たな兵器のアイデアが思い付かないという事だ。

 ――そういう時はわたしの出番だよネ。


そうだね(イヤー)、何より実際の現場の声が聞けるんだ。ハト君のアイデアをもらうとしようか」

「それで、どんな意見が欲しいの?」

「新兵器の構想としては『危険な状況の対処』を念頭に置いているんだ。そこの対処ができるだけでそれだけ身を守れることに繋がるからね。

 そこでハト君には『危険な状況』を思い出して、そこで『こういう兵器があったら嬉しかった』という意見が欲しいんだ」

「危険な状況かぁ……」

 

 クッキーを食べながらあの時の任務を思い出す。

 装甲車で廃墟の森へ移動して。そこでツバサさんと出会って。コロニーでツルミさんとお話しして。

 その後コロニーにホシが襲撃してジュリアちゃん達と迎撃して――


『六芒星が三体…………』

『どうする? 攻撃する暇も無くアイツらを倒そうにもわたし達三人じゃ()()()()は無理だよ』

「あ――――」


 ――――あった。心の底から『これはまずい』と思った危険な状況が。


「複数の敵を一纏めに倒せるような兵器が欲しい」

「複数の敵を?」

「うん。この前の任務の時にコロニーを襲撃して来たホシがいたでしょ」


 わたしの話にあの時のオペレーターだったハロちゃんは「そういえば」と思い出したかのように眉毛を跳ねさせた。


「あったね。あの時はジュリア君の狙撃とハト君の反応のおかげでコロニーに被害を出さずにできたんだね」

「それで戦ってた時に思ったんだ。『アイツらを同時に攻撃できたらもっと簡単に対処できたのになぁ』って」

「確かに既存の兵器の中に広範囲をカバーする兵器は無い。多数のホシを相手に少人数で対処しようと思ったらそう言った攻撃は欲しくなるね。…………うん、思い付いた」


 ハロちゃんは少しだけ考える素振りを見せると、残っていたコーヒーを飲みながら胸ポケットのペンを片手に手近にあったノートに何かを書き始めるのだった。

 

「広範囲の攻撃と言えばやはり【爆発】だろう。既存の芒炎鏡の理論のみだと出力が低下するからそこに対して別の技術を応用させようか。

 となるとまずはサタデイ・インダストリーの【局所圧力発破ピンプレッシャーブラスト理論】とこの前に主任が暇つぶしで開発してた【パルスエコー兵器】の技術が使えそうだ。そこにロケットの原理を組み合わせれば――――」


 そうしてハロちゃんは研究の世界へと旅立ってしまった。

 残されたわたしは見たことのないハロちゃんの嬉しそうな表情に釣られて笑うのだった。


「にゃあー。にゃー」

「うん。フェアリーもクッキー欲しいの? でも猫にクッキーは甘すぎるからネ。代わりにこれあげる」

「にゃあ!」


 猫用のチューブペーストを食べると、フェアリーも嬉しそうに笑った。

 好きな研究に没頭しているハロちゃん。好きなお菓子に舌鼓を打つフェアリー。それを眺めながら好きなクッキーとコーヒーと共にダラダラと過ごすわたし。

 そんな優雅な月曜日が静かに過ぎていくのだった。

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