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私に「可愛い」は似合わない

 鞄が売り切れてしまったと言うことは、またしても製作期間に入ると言うことだ。

 ウェイクはダンジョンに潜ると言って去ってしまったので、モーガンとアルカナの二人である。

 二人は問屋に出かけ、大量のケルピーの皮とアラクネの糸を買い、持ちきれないほどのそれを亜空間に収納してスタイリッシュに買い物を済ませた。


「本当、〈空間魔法〉ってすごいよね」

「まあ、荷物を持つっているその一点に特化しているからね」


 歩きながら会話をしていると、またもやアルカナの前にあの店が飛び込んできた。

 ショーウィンドウにはきらびやかな布たちが所狭しと展示され、作られたドレスは前回見たものとは異なるデザインのものになっていた。

 お洒落な生地を大量に扱う店には、アルカナとは無縁な都会的な衣服を身に纏った女性が入店していく。

 思わず立ち止まり、店に入っていく人と店とを眺めていると、モーガンが控えめに声をかけてみる。


「アルカナも、お洒落したいのかい?」

「えっ、ううん、別に」


 反射的に否定してしまう。アルカナは力一杯首を横に振った。耳がもげそうになろうとお構いなしである。


「ほら、私ってああいう格好していく場所なんて思い浮かばないし。素敵なドレスは、孤児院出身で労働者階級の私には似合わないわよ! お店をやる上でも、もっと汚れが目立たなくて動きやすい服装の方がいいに決まってるしね! さ、行きましょう!」


 モーガンが何かをいいたそうに口を開いたが、アルカナはぐいぐいとモーガンの背中を押してその場所を遠ざかった。



 店に戻るとモーガンは工房に篭り切りになる。

 アルカナはモーガンが鞄を作る音を聞きながら、閉店中の店のカウンターに座ってぼうっとする。

 つやつやの生地で作られた、リボンやフリルのついたドレス。

 あんな可愛いドレスを着た人たちは、どんな鞄を持つのだろう。

 アルカナがいつも見ている鞄は革製の非常にシンプルなものだけど、ああいうドレスに似合う鞄はきっともっと装飾性の高いデザインのものだ。

 アルカナは無意識に紙とペンを引き寄せると、インク壺にペン先を浸し、紙に走らせる。


(私にドレスは似合わないけど……想像するだけなら自由よね)


 アルカナは丸を書いた。

 中央には大きなリボン。側面にはフリルをつけるというのはどうだろう。

 留金ではなくファスナーで開け閉めができる鞄。

 生地の色は真っ白ではなくごく薄い茶色がいい。フリルも同色。リボンの色は赤だ。

 ファスナーは金色にすれば、より可愛らしい気がする。

 持ち手は真珠をつなげたものにしよう。


(うん、素敵)


 紙を見つめながらアルカナは思う。

 実用性が全くない鞄だけど、どうせ〈空間魔法〉を付与すれば容量なんて無限になるのだから関係がない。


「いい感じ…………」


 この鞄を持つ人はきっとお姫様だ。

 アルカナなどでは顔を見ることすら叶わない、王都の城に住むお姫様。

 お付きの人をたくさん従えて、小さな鞄一つを持って馬車に乗り込んで移動するようなお姫様。

 そこまで妄想したアルカナは、満足して紙を裏返しにしてカウンターに伏せた。


「馬鹿な考えはこのくらいにして、さっさと昼ごはんでも作ろうっと」


 どうせお洒落に無縁な自分には一生持つことの叶わないような鞄だ。

 それよりやるべきことをやろう。

 一度集中しだすとモーガンは寝食を忘れてひたすらに鞄作りに没頭する。アルカナは彼に人間らしい生活を思い出させるためにも昼食作りをすることにした。


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