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74話『教会のお母さん先生』

「エリッサ女神は地に満ちる全ての命を祝福します。生は死の始まり。緑は地より芽吹き、太陽を目指して枝葉を伸ばす。死は生の始まり。いつしか花は枯れ、種が落ちる。土に還った命はいつの日かまた芽を出すでしょう」


 優しそうな女性の声がする。

 落ち着いた語り口だ。説法でもしているのだろうか。

 穏やかな心地で俺は目を覚ました。

 視線の先には見覚えのないコンクリート色の天井がある。


 ここはどこだろう。

 頭はぼんやりするし、視界の左側が妙にぼやけている。

 体は冷え切っていて、筋肉がかちかちに固まっていた。

 胴を袈裟に切られた作務衣が赤黒く染まっている。

 俺は何か大きな木箱のようなものの中に寝かされているようだった。


「命の循環は自然の摂理なり。生を全うした者にエリッサ女神の祝福を」

「しゅくふくをー」


 合唱のように重なった子供たちの声がする。


「はい。それじゃあ、みんなでお花を手向けてあげましょうね」

「はーい」


 とことこと足音が近付いてくる。

 木箱のそばまで来た子供たちと俺は目が合った。


「わぁー!!」

「ぎゃー!!」


 子供たちが甲高い悲鳴を上げて離れていってしまう。


「目っ! 目ぇ!」

「動いた! 死体が動いた!」


 子供たちが騒ぎ出す。

 俺は何となく状況を掴めた気がした。

 体を起こそうとして、胸から腹にかけて走った痛みに怯む。

 途端に噴き出すように強さを増した痛みに俺は面を歪めた。


 そうしている内に近付いてきたのが白髪が出始めのご婦人である。

 年齢は四十に届かないくらいだろうか。

 痩せて頬骨が浮いて見えるが、その目元は慈愛に満ちていた。

 長袖に丈長スカートの白装束はエリッサ教団員と同じものである。


「あらまぁ……」


 ご婦人は手で口元を隠して驚くと、それから柔和に笑った。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 死体だと思われていた俺が目を覚ましたことでお葬式は中断。

 さっそく子供たちは外に出て、寒空の下でもかまわず遊び始めた。

 俺はご婦人と話をするため、場所を教会から隣の別館に移すことにする。


 コンクリート造りの別館は孤児院として運営されているらしい。

 トラネウス王国では教会が孤児を養護しているとギルタから聞いていた。

 まさしくこれがそうなのだろう。


 廊下を歩き、食堂に通される。

 ご婦人はお茶を沸かしに調理場へと歩いて行った。

 俺は数ある食卓の一つの椅子に座り、待たせてもらう。


 木製の食卓の使い込まれた色合い、ぶつけたり引っかいた傷の跡。

 綺麗にしてあるが、それでも床や壁の一部が煤けて見える。

 施設の年季を感じられた。


 しばらくして、ご婦人がお茶のポットを持って戻って来た。

 木製のコップに注がれたお茶がゆらゆらと湯気を立てる。

 果物系の甘い香りがした。

 ご婦人は俺の向かいの席に腰を下ろす。


「それじゃあ初めに自己紹介しましょうか。私の名前はウラニア=イリマ。いちおう立場としては司祭で、ここマリステラの教会を任されています」


 偉い人だったのか。

 俺が反応の鈍い脳みそで感心していると、ウラニアは気さくに笑った。


「まぁでも司祭だなんて、そんな立派な人間じゃないんだけどね。前任者がみんないなくなって、消去法で謎の出世しちゃっただけ。私としては孤児院のお母さんのつもりだから」


 ずいぶんフランクというか、とっつきやすい雰囲気の明るい人だ。

 年上にこんな言い方は失礼かもしれないが、かわいらしい女性だと思う。


「自分はシロガネヒカルと申します。助けていただいてありがとうございます」

「ん? あー……いや、助けたつもりはなかったんだけどね?」


 ウラニアは熱いお茶をずずずとすすり、困った風に笑った。


「町の近くで若い子の遺体が見つかったなんて言うからさー。ひっどいケガしてるし、身元もわからない。脱走兵かなんか訳ありか、どうすっかなーってなったんだけど。まぁでもせめて葬式くらいは挙げてあげないとってね。そしたら急に生き返って、お姉さんびっくりですよ」


 けたけたと笑うので、俺も自然と微笑んでいた。

 すごく陽の気を感じられて、接していて安心感を覚える。

 包容力がある女性とはこういう人を言うのだろうか。

 俺には母親との思い出がないが、彼女が子供に慕われるのがよくわかる。

 それはそうと、まずは状況把握をしないとだ。


「俺が発見されたのは今朝ですか?」

「そうそう。いっつも早起きのパンタ爺さんが第一発見者だって」


 どうやら俺は夜通し逃げて、このマリステラの町に辿り着いて倒れたようだ。

 意識が朦朧としていたので道中のことは覚えていない。

 しかし日を跨がず目を覚ませてよかった。

 いつも大ケガした後は一週間まるまる寝込んだりするからだ。

 今はとにかく時間が惜しい。

 すぐにここを離れなければならない。


「ありがとうございました、ウラニアさん。自分はもう行きます」

「えっ? ちょちょちょい、何言ってんの」


 制止も聞かずに俺は席を立った。

 傷の痛みで喉の奥が詰まるが、そんなものに屈している場合じゃない。

 のたのた歩く俺に、ウラニアが慌てて駆け寄ってきた。


「そんなケガでどこ行く気よ君。安静にしてなって。それ普通に死ぬよ?」

「休んでいる時間なんかないんです。そうだ、俺の槍はどこにありますか。金属製の重たい槍なんですけど」


 ウラニアは俺の前に回り込むと、両肩を手で押さえてきた。

 真剣な顔を近付けてきて、じっと俺の目を見てくる。


「……なんですか?」

「…………」

「あの……」

「シロガネ君。年はいくつ?」


 なぜそんなことを聞くのだろう。

 振りほどきたかったが、それすらできないほど俺の体は弱っていた。


「十七ですけど」

「……そっかぁ」


 ウラニアは何に納得したのか、悲しそうな顔をした。


「離してくれませんか」

「君、自分が無理すればいいって思ってるでしょ。根本的に自分の命を軽いと思ってる人だ」


 俺は喉の奥が詰まった。

 たいして言葉も交わしていないのに、どうしてそこまでわかるのだろう。

 熟練の聖職者だからなのか。

 ウラニアは穏やかな表情で、ゆっくりと言葉を紡いでくる。


「それが良いとか悪いとか、とやかく言うつもりはないよ。君には君の事情があるだろうし、説教されても嬉しくないだろうし。そうだなぁ。君、大事な人はいる?」


 問いかけに俺は頷いた。


「その大事な人が傷付いたら君は悲しい?」

「はい」

「その人も、君が傷付くことを悲しいとは思わないかな?」


 きっと悲しんでくれるだろう。

 でもだからこそ今は一刻を争う状況なのだ。

 仲間に情報を伝えられるのは俺だけだ。

 だったらどれだけ傷付こうが倒れようが、俺は走らなくてはならない。

 でなければ何のために一人で逃げ出したんだとなる。

 激情に握り拳を震わせる俺に、ウラニアは優しい目をして諭してくる。


「必死なんだね? 何か事情があるのはわかるよ。私も君のその気持ちまで否定したいわけじゃないの。ただね、無理をすることが本当に正解なのかって考えてほしいの。命を大切に……なんて陳腐に聞こえるかもしれないけど。大事な人が自分より先に死ぬのって、やっぱり悲しいことだよ?」

「あ……」


 俺は堅く握っていた拳を力なく解いた。

 ティアナートの言葉を思い出したからだ。


『私は寂しいのが嫌いなの。だから私より先に死ぬのは許さない』


 俺は熱くなって、自分が前提を間違えていたことに気付いた。

 いま自分が死んだら約束を破ることになる。

 むちゃをやって格好良く死んでも、これじゃあただの自己満足だ。

 大切な人を本当に守りたいと思うのなら、耐えがたきを忍び、俺自身も生き延びた上で彼女を救い出さなければならない。

 それこそが俺に課せられた絶対の勝利条件のはずだ。


 俺は肩を落として、ため息をついた。

 まったく。これでは罪悪感で自罰に走っていた時と同じだ。

 もうやめたつもりだったが、適切に自分を大切にするのは難しい。


「シロガネ君。君は素直でいい子だね」


 ウラニアは微笑んで、ぽんと俺の肩を離してくれた。


「槍だっけ? 探してきてあげるから、ここで待ってて。その間にあったかいものでも食べて、ちょっと落ち着くといいよ」


 そう言ってウラニアは食堂から歩いて出ていった。

 俺は椅子に戻り、まだ温かいお茶のカップに手を添えた。


「メーニちゃん! 私ちょっと外に出てくるから! 葬式のお兄ちゃんに何か食べさせてあげて!」


 廊下からウラニアの声が響いてくる。

 それから少しして、十四歳くらいの女の子が食堂に入ってきた。

 伸びた後ろ髪を紐で縛っている。

 目が合うとぺこりと頭を下げてきたので、俺もそうした。


 メーニちゃんと呼ばれた少女はそのまま調理場に歩いていく。

 彼女が何も言わなかったので、俺も声をかけなかった。

 大きな声を出すのはまだ辛いというのもある。


 俺は黙って、お茶を口に運んだ。

 冷え切った体にお茶の熱が染みる。

 内臓が温まる感覚に俺は安らぎの息をついた。


 香辛料と魚介系の香りが調理場から漂ってくる。

 匂いを嗅いだだけで胃がきゅーと動き出した。

 こんなボロボロの体でも食欲がある自分に感心する。

 丈夫に産んでもらったことに感謝しないといけない。


 メーニが木の深皿と匙を持って戻ってきた。

 どうぞと俺の前に並べてくれる。

 豆と魚のスープのようだ。

 ぶつ切り大の白身が脂で輝いている。


「いただきます」


 匙で豆をすくって口に運ぶ。

 まず香辛料の辛さとピリッと走った。

 弱った体に豆の柔らかさがありがたい。

 汁に溶けた塩味と滋養が体の中に染み込んでいくのがわかる。


 人体は食べ物という他者の命を分けてもらって成り立っている。

 足りない血肉を求めるように、俺は一心不乱にスープと向かい合った。

 きれいに骨だけ残して平らげる。

 おなかがいっぱいになって、俺はようやく一息ついた。


「ごちそうさまでした」


 気付くとメーニ少女は斜め向かいの席に腰を下ろしていた。

 哀れむような、同情するような目で俺を見ている。


「すごくおいしかったです。ありがとうございました」


 俺が笑顔でお礼を言うと、メーニはほのかに笑んだ。


「お礼なら先生に言ってください。作ったのは先生です。私は温めた直しただけですから」

「もちろん言います。でもメーニさんにもお礼を言いたいんです」

「はあ……」


 少女は気のない返事をする。

 日常では左腕が使えない俺としては、火を起こして料理を温めてくれるのは最高の心遣いなのだが、事情を知らなければ感謝の具合も伝わらないか。

 そんな風に考えていると、メーニがちらちらと俺を見ていることに気付く。


「何かついてます?」

「そういうのじゃなくて」


 メーニは目をそらして、なにやら口をもごもごとする。

 少しの沈黙の後、意を決したのか目を合わせてきた。


「あの、もしかしてロタン君の家族の方だったりしますか?」

「えっ?」


 思いもよらない問いかけに俺は驚いた。

 この子はロタンの知り合いなのか。

 そう言えばロタンは幼い頃、教会に拾われたと聞いたことがある。

 もしかするとこの教会がそうなのか。


「どうして俺がロタンさんの家族だと?」


 するとメーニは俺の頭を指さした。


「だってその髪。そんな髪の色の若い人、世の中に何人もいないですよね?」

「髪?」


 俺は自分の前髪をつまんで注視してみた。

 色が白い気がする。

 俺はどこかに鏡はないかと食堂を見回した。


「ちょっと失礼します」


 俺は立ちあがり、調理場の方に足を向けた。

 なんだなんだとメーニがついてくる。

 調理場に入ってまた俺はきょろきょろする。

 目に止まったのは水瓶だ。

 木の蓋をどけて、張った水面に自分の姿を確かめる。


 頭髪が真っ白に変わっていた。

 人間はあまりにショックなことがあると一夜にして白髪になるという。

 そんな逸話を聞いたことがあったが、まさか自分がそうなるとは。

 それによく見ると左目の瞳の色もおかしい気がする。

 虹彩が灰色っぽくなっている気がした。

 目を覚ましてから視界の左側がぼやけていたはこのせいだろう。

 救聖装光の代償――いや今回は生き延びた代償というべきか。

 よくない兆候だが、三途の川を渡らずに済んだのなら安いくらいだろう。


 俺は白くなった頭をなでながら、食堂の席に戻った。

 メーニが早足で俺の隣の席に座って来る。


「それで! ロタン君とはどういう関係なんですか」


 前のめりに聞いてくるその勢いに、俺は少しのけぞる。


「いや、ロタンさんのことは知っていますけど、ただの知り合いですよ」

「本当ですか?」


 メーニは疑いの眼差しを向けてくる。


「じゃあその髪の色はどう説明するんですか」

「髪の色はたまたまです。昨日までは黒かったので」

「はぁ? そんな話、信じられると思います?」

「俺も信じられないですけど、一日で白くなってしまったのは確かなので。それより、どうしてそんなに気になるんですか? ロタンさんのことで気掛かりなことでも?」


 聞き返すと、メーニは体を後ろに下げた。

 少し怒った様子で目をそらす。


「もし家族なら、ひとこと言ってやろうと思っただけです」

「何をですか?」

「赤ん坊を海に捨てるなんて人のすることじゃありません。ロタン君が許しても私が許しません!」


 ロタンは赤子の頃、浜辺に打ち上げられたところを拾われたと聞く。

 家族がいるのなら、その生い立ちに物申したいということだろうか。

 義憤……いや、この子の場合は友愛の情か。

 まっすぐでいい子なんだなと思えて、俺は自然と笑顔になった。


「メーニさんは、ロタンさんのことが好きなんですね」

「は!? はぁ!?」


 メーニはわかりやすく顔を赤くして、うろたえた。


「何言ってるんですか! ていうか貴方やっぱり家族ですよね!? ロタン君みたいな言い方しましたもん今! お兄さんですか!?」


 あまりに愉快な反応をするので、つい俺は笑い声を漏らしてしまう。


「違いますって。それに家族だからって話し方まで似ませんよ。そういうのは一緒に暮らしている内に自然と似てくるものです」


 むーっとメーニは口を閉ざすと、席を立った。

 骨だけ残った皿と匙を手に調理場の方に歩いていく。

 第一印象は大人びた子に思えたが、年相応なところもあるらしい。

 俺はふふふと笑い、だがすぐ昨夜のことを思い出して真顔になった。


 ロタンは生きているのだろうか。

 槍で右胸を貫いたのだ、普通なら生きてはいない。

 だが彼は普通が通じない相手だ。

 たぶんまた会うことになる、そんな気がした。


 不思議なもので、食事をしたことで元気が出てきた気がする。

 体が中からホカホカして、手の平も温かくなったきた。

 片付けを終えて戻ってくるメーニに、俺は声をかけた。


「もし何かロタンさんに伝言があれば、会った時に伝えておきますけど」

「え、いや別に……」


 そう口に出してメーニは立ち止まった。

 考え直したのか、俺のいる卓へとやってくる。


「もっと気軽に帰ってこいって伝えてください。ここが私たちの家なんだから。お仕事で忙しいのかもしれないけど、それなら手紙くらいは出すようにって。ロタン君は文字が書けるんだから、筆不精はしないようにって」

「心配なんですね」

「だってロタン君、ふわふわした人だから。放っておいたら、そのままフラッとどこかに消えちゃうんじゃないかって。別に私が心配してるんじゃないですよ。先生が言ってたんです」


 照れ屋なんだなと思う。

 しかし俺がこんな風に話せるのも、ロタンが生きていると思えるからだ。

 とどめを刺していたら笑って話などできなかった。


 俺はロタンに対して憎しみや嫌悪感を持っていない。

 彼とは命のやりとりをしたし、怒髪衝天な時もあった。

 でもそれは立場上の対立だ。

 組織として敵対しているのであって、個人的な怨恨の対象ではない。

 これはロタンだけでなく、トトチトや他のトラネウス兵でもそうだ。

 戦争が終われば、仲良くはなれなくても隣人にはなれると思っている。

 もしかするとおかしいのかも知れないが、俺はそういう感覚でいる。


「わかりました。今度会ったら伝えます」


 さて、ウラニアはまだ帰ってこないのだろうか。

 お茶が空になろうという頃、なにやら表が騒がしくなる。

 ようやくかと俺は食堂を出ていく。

 あとをメーニが付いてきた。


 別館の玄関前に人だかりができていた。

 ウラニアと髪の薄いお爺さん、それに白い役人服のおじさんが一人。

 さらに中年のごつい男二人が俺の金属槍を担いでいた。


「あっ……」


 俺を見つけて、ウラニアが小さく手招きしてくる。

 そばまで行って頭を下げると、お爺さんとおじさんが会釈を返してくれた。


「槍、ありがとうございます。見つけてくれたんですね」

「あー、シロガネ君」


 ウラニアは申し訳なさそうな表情を浮かべた。

 ちらりと役人服のおじさんを見て、それからまた俺に視線を戻してくる。


「急なことで申し訳ないんだけど、すぐにこの町を出てもらえるかな……?」

「え?」


 面々の顔色を見て、俺は何となく察しがついた。

 白い役人服のおじさんはここマリステラの町の偉い人だろう。

 屈強そうな男二人はたぶん兵士だ。

 お爺さんは俺の第一発見者で、確認のために連れてこられたのだろう。

 つまり俺の正体に気付いて出向いてきたわけだ。


 そう考えると退去要請は優しい対応だろう。

 問答無用で逮捕してもいいし、何なら打ち首でもおかしくないのだ。

 そうしないのはリスクを取りたくないからだろうか。

 昨日の今日でシルビスがどういうお触れを流したかはわからない。

 だが事を構えるとなると、犠牲が出るのは現場だ。

 穏便に追い出して見なかったことにするのも一つの選択肢だろう。


「わかりました。すぐに立ち去らせていただきます」


 俺は素直に応じることにした。

 男二人から金属槍を受け取る。

 傷付いた体に槍の重さが堪える。

 それでも目を覚ました時よりも格段に体に力が入る感じがした。


「シロガネ君、本当にごめんなさい。いい人ぶっといて、こんな風に……」


 ウラニアが頭を下げてくる。

 謝る理由などないと思うのだが、それは彼女の人の良さだろう。

 だから俺は感謝の笑顔を浮かべた。


「ご飯おいしかったです。ありがとうございました」


 深く頭を下げる。

 一度目はウラニアに、二度目は別館の玄関から覗いているメーニにだ。

 それから俺は彼女らに背を向けた。

 空を見上げて、太陽の位置で方角を探る。

 ゆっくりと息を吐き、心の中でアウレオラの合言葉を唱えた。


「うおっ!?」


 閃光の後、銀色の全身鎧に包まれた俺に男衆が驚きの声を上げた。

 俺は振り返ることなく走り出し、優しい教会を後にした。

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