60話『勝利の肉祭り』
青い空を薄い雲が流れていく。
昼前に城を出た俺は歩いて城下町に向かった。
右脇に抱えた縦長の木箱は手土産である。
石畳の緩やかな坂を下りて、町の大通りに入る。
「あっ! きゅーせーしゅさま!」
小さな男の子が指さしてくるや、友達二人と駆け寄ってくる。
「えぇー? これ、ほんものぉ?」
「ねぇねぇ! ヤリおしえてヤリ!」
男子三人で俺の足元を囲んできて、作務衣を掴んで引っ張ってくる。
俺は膝を曲げて子供たちと目線を合わせた。
「それじゃあ君たちにシロガネ流槍術、秘密の奥義を教えよう」
「えっ、なになに?」
目をキラキラさせる子供たちに、俺はにっこりと笑みを作る。
「実はね、槍は足で突くものなんだ」
「はぁー?」
「腕だけに意識がいきがちだけど、それだけじゃだめなんだ。体の色んな部分を回して一本の螺旋にする。だから地面につけた足が基本になるんだよ」
男の子三人は互いに目を見合わせた。
「なにいってんの?」
「わかる?」
「わかんない」
率直な反応に、俺は微笑みながら立ち上がる。
「槍の練習を続けていたら、なんとなーくわかる日が来ると思うよ。それじゃあ俺は約束があるから。またね」
「ばいばーい」
子供たちに手を振られて、俺は大通りを歩き出す。
城下町はすっかり賑わいを取り戻していた。
トラネウス軍に王城を占領されてからおよそ一か月の間、エルトゥラン国民は先行きの不安を感じていた。
それを覆しての大勝利とあれば、浮かれ気分になるのも当然だろう。
どうやら俺も顔が売れてきたらしく、つどつど声をかけられた。
お年寄りから中年のご夫婦、若いお兄さんやお姉さんまでだ。
感謝されて悪い気はしない。
俺は笑顔で応じて、今日の安心を喜び合った。
エルトゥラン城下町の中央広場から南に入ると高級住宅街になる。
その東の外れにダングリヌス家の邸宅があった。
到着してまず出迎えてくれたのは館へと続く茜色の並木である。
視線を横にやると、区画分けされた花壇に季節の花が咲いていた。
儚さを覚える薄紫の花、力強さを感じる橙色の花、心を洗う白い花。
目に面白く、鼻に楽しい。
来客を気持ちよく歓迎する、よく手入れされた前庭だった。
今度シトリに会ったら、庭造りの相談をしてもいいかもしれない。
木造二階建ての館の玄関からすぐの庭ではパーティの支度が始まっていた。
オグとレティの新兵組が土の地面に二か所、煉瓦を積んでいた。
「こんにちはー」
俺が声をかけると、オグがぱっと顔を上げた。
「よぉー! シロガネー!」
オグは駆け寄ってきて、俺の左肩を叩きかけるも寸止めする。
思い直したように左の手で俺の右肩をぽんぽんと叩いた。
「腕の調子はどうだ? お前のことだから、もう治ってたり……」
「今回は無理っぽい」
俺が諦め笑いすると、オグは眉を八の字にした。
「そっか……まじか……」
深刻な表情で肩を落とす。
だが俺はむしろ、その親身な反応を嬉しく思った。
「まぁでも慣れたらなんとかなるもんだよ。鎧を着てる時だけは動くようになるから、いざって時は戦えるし」
「それはそれで逆にすげーな。まぁ、お前が平気ならいいんだ」
「優しいなぁオグは」
「ちゃかすなって」
こうして笑い合うのも久しぶりだ。
平和の実感が強く湧いてきて、俺は心が弾むのを感じた。
「これ、お土産ね」
「おぅ、ありがとな!」
ティアナートが用意してくれた縦長の木箱を渡す。
オグが開けると、中にはリッチな香りのする瓶が入っていた。
「お酒かな? サムニーのおっさんが喜びそうなやつだ」
二人して庭の中へと歩いていく。
レティは煉瓦を積み終えて、ぐいーっと腕を広げて伸びをした。
「レティさん、こんにちは」
挨拶すると、レティはあくびをしながらも会釈してくれた。
それから失礼しましたとばかりに手を合わせてくる。
「こんにちは。シロガネさん、すっごい活躍したらしいじゃないですか。もう町中、救世主さま万歳って感じですよ」
「皆さん、おだてすぎなんですよ。みんなで一生懸命やったから勝てたのに」
「謙虚だなー。でも確かに今回は僕らも頑張ったって言っていいですよね」
レティは両方の手を脇腹に当てて、どうだと胸を張った。
外見は爽やかな好青年だが、意外と調子のいいタイプなのだ。
「あれ? 隊長それ……」
オグが両手で抱えた酒瓶をレティがまじまじと覗き込む。
「シロガネが持ってきてくれたんだよ。高そうだろ?」
「えっ、いや、隊長これホムフムですよ。高いなんてものじゃないですって」
「ほむ……?」
オグと俺は顔を見合わせ、次に二人でレティに目で問うた。
「年に百本しか製造されないっていう幻のお酒ですよ! あまりのおいしさに死人すら蘇ったって伝説、聞いたことありません? 一度でいいから飲んでみたいと思ってたんですよ。嬉しいなぁ!」
レティはうきうきで酒瓶を奪い取ると、北東の長卓に運んでいく。
煉瓦のかまどを中心位置にして、長卓は四隅に一つずつ配置されていた。
それだけの来客を予定しているわけだ。
オグはやれやれとこめかみを指でかき、俺の方を見た。
「そんな凄いの、もらっていいのか?」
「いいんじゃない? ティアナートさんが持っていけってくれたんだよ」
「ふーん。じゃあ、ありがたくいただいとくか。お互い何度も死にかけたんだし、飲んで寿命伸ばしとかねーとな」
「そうだな」
そんな風に談笑していると、ドナンとサムニーが館から鉄板を運んできた。
畳一畳分はありそうな大きさである。
「おぉシロガネ殿! よくおいでくださいました」
「ほれ、坊主は遊んでないで炭の用意」
サムニーに言われて、オグはやれやれと館に戻っていった。
ドナンとサムニーは慎重に、煉瓦のかまどの上に鉄板を渡す。
今日は肉焼きパーティの日なのだ。
「ドナンさん。本日はお招きくださり、ありがとうございます」
俺が軽く頭を下げると、ドナンはにこにこと笑った。
鎧でも軍服でもない楽な格好をした姿を見ると、ドナンも気のいいおじさんに見えるものだなあと思う。
「いい肉を用意いたしましたので、どうぞ堪能なさってください。まだ人が揃うまで時間があると思いますので、のんびりとお待ちを」
レティが座る長卓を手で示してくる。
俺がはいと頷くと、ドナンは会釈をして館に小走りで戻っていった。
サムニーが腰をさすりながら話しかけてくる。
「ほれ、シロガネ君。座ってのんびりしようか」
卓上で両肘をつくレティの隣にサムニーは腰を下ろした。
俺はレティの対面の席に着く。
俺たちが座るやすぐに、レティは酒瓶をサムニーの前にずいっと出した。
「サムニーさん、見てくださいよこれ! ホムフムですよホムフム!」
「ほぉー。噂には聞いたことがあるが、現物を見るのは初めてだな」
「僕、この隊に入って本当によかったって思いましたね! 役得!」
「お、おぉ……」
サムニーも半笑いする程のうきうきっぷりである。
「レティさんって、そんなにお酒が好きな人でしたっけ?」
俺が不思議に思って尋ねると、レティは首を横に振った。
「そういうわけじゃないけど。ほら、人生って一度きりだから。どうせなら美味珍味を味わってから死にたいじゃない?」
「そいつはもっともだな」
サムニーは笑いながら、卓上のやかんに手を伸ばした。
木のコップ三つにお茶を注いでそれぞれに配る。
一服しながら雑談していると、館の玄関から女性と少年が出てきた。
線の細い少年は左手で杖をついて、ぎこちないながら歩いてくる。
その右足首は強張ったように内側に曲がり固まっていた。
しかし辛そうな様子ではなく、その表情はむしろはつらつとしている。
おそらく一過性のケガではなく、慣れているのだろう。
隣を歩く女性はあえてなのか手を貸さず、しかし少年が倒れないように気を配っているようだった。
年齢は三十代後半と言ったところだろう。
少年よりも一回り背が高い。
パンツスタイルのしゃきっとした雰囲気の女性だった。
「奥方」
サムニーとレティがさっと立ち上がる。
二人の方へと小走りで駆け出したので、俺も慌てて後に続いた。
やって来た俺たちに、女性は軽く手を挙げて応じる。
俺と目が合うや、女性は『おっ』と目を大きくした。
「あー! もしかしてその子がシロガネ君?」
庭の端まで届きそうな、よく通る大きな声である。
ともかく先手を取って、俺は軽く一礼した。
「初めまして。シロガネヒカルと申します」
すると女性はぴたりと足を揃え、綺麗な礼を返してきた。
「ドナンの妻のタルタでございます。夫と息子がお世話になっております」
急な切り替えに戸惑う俺を前に、タルタは隣の少年の肩に手を置いた。
きりっとした顔が朗らかに崩れる。
「この子は弟のルウ。仲良くしてあげてね」
「こんにちは。ルウ=ダングリヌスです」
ぺこりと少年が頭を下げる。
ふわふわした柔らかい髪の毛が印象的だった。
身長は百五十センチを超えたくらいか。
兄であるオグと比べて中性的なかわいらしさがあると思った。
「じゃあ私はお父さんのお手伝いに行くから。ルウはみんなと遊んでもらい」
タルタはルウの背中をぽんと叩いて、館に走って戻っていった。
俺たちは改めて四人で長卓を囲む。
サムニーがやかんのお茶をコップに注いで、ルウの前に出した。
ルウ少年はお茶をちびちびしながら、隣の席の俺をちらちら見てくる。
彼もまた、巷で噂の救世主様がどんなものか気になるのだろうか。
本当に凄いのは鎧であって、俺自身はちょっと珍しい程度の人間なのだが。
俺は体の正面をルウの方に向ける。
「俺のことはシロガネって呼んでよ。どんな話しよっか?」
「あっ、あの……!」
ルウはお茶を卓に置くと、胸の前で両方の手をぐっと握った。
「きゅ……シロガネさんって、空を飛べるって本当ですか!?」
「そら?」
俺が疑問符を浮かべると、卓の対面からレティが口を挟んできた。
「今そういう紙芝居が流行ってるんですよ。囚われの王女様を助けるために、城へと向かった救世主様御一行。閉ざされた城門。待ち受ける魔王の邪悪な配下たち。はたして救世主様は王女様の下に辿り着けるのか。べべん!」
まるで講談師のように卓を手で叩く。
ルウはそうそうと首を縦に振った。
「救世主様は城壁を飛び越えて、お城の頂上に降り立ったって聞きました」
こういう小話が遠くまで届くと、尾びれの付いた噂になるのだろうか。
ちょっと面白く思えて、俺は小さく笑った。
「さすがに頂上まで飛ぶのは無理かなぁ。お城には二階の窓から入ったし、城壁も縄でよじ登ったから」
「そうなんだ……」
ルウはがっかりしたように握った手をももに下ろした。
夢を壊すことを言ってしまっただろうか。
悪い気がして俺は咄嗟に言い繕う。
「あっでも、ティアナートさんを助け出した時とかはさ。三階の窓から飛び降りたから、あれは飛んだって言ってもいいかも」
「えっ……?」
ルウは目をぱちぱちと瞬かせる。
サムニーは眉間にしわを寄せ、レティはどん引き顔を露わにしていた。
急に冷えた場の空気に、なぜだと俺は戸惑う。
「シロガネさん。前も飛び降りで大ケガしたのに、またやったの?」
呆れた調子でレティが言ってくる。
「いや、あの時は相手の人が強くて、そうするしかなかったんです。今回はちゃんと勝算があって飛びましたから。さすがにティアナートさんをケガさせるわけにはいきませんし」
「そういう問題かなぁ?」
レティは釈然としない様子で首を捻った。
逆にルウは何かに納得したように顔を小さく縦に揺らす。
「兄様の言ってた意味がわかった気がします」
「オグが? どんなこと言ってたの?」
「シロガネさんは根はまじめでいい人だけど、実はすごく弾けた人だって」
うんうんとレティが同意するので、俺は『えー?』とおどける。
サムニーは腕を組んで、はははと笑った。
蒼天に浮かぶ太陽から優しい日差しが降り注ぐ。
庭の緑がさらさらと音を立てて、小鳥の囀りに合わせて歌う。
今日は本当に過ごしやすい、いい天気だ。
それから少しして、ムルミロが奥さんと娘さんを連れてやってきた。
レティが腕を振ると、娘さんが大げさに腕を振って応えてくれる。
その様子に奥さんは微笑み、ムルミロはゆるゆるの表情を見せた。
娘がかわいくて仕方がないパパそのものである。
軍務中は頼りになる兄貴分も、家族の前ではこうなるんだなと思った。
順々に招待客が到着する。
オグの十人隊の皆さんも家族を連れ立ってやってきた。
館の庭はざっと三十人のお客さんで賑やかになる。
パーティの時間だ。
各々に幻の名酒が注がれたコップが行き渡った。
主催者であるドナンが始まりの挨拶をする。
「皆、今日はよく集まってくれた! この度の苦難を乗り越えられたのも皆の尽力あってのこと。前線で働く兵士はもちろん、それを支える家族、友の絆があればこそだ。我々は勝ち取ったこの平和を……」
ドナンはそこでふと止まり、いかんいかんと首を横に振った。
「挨拶が長いと嫌われるな。よし、では乾杯!」
「かんぱーい!」
各々がコップを掲げ、あるいは隣人と杯を合わせる。
俺も同じ卓のオグやルウ、レティたちとコップを軽くぶつけ合った。
はてさて噂のお酒はどんな味がするのか。
おっかなびっくり口に運んでみる。
「――んむ!?」
えも言われぬ強烈さにまぶたが全開になる。
まず感じたのは、ねっとりと舌にまとわりつくような甘ったるさだ。
それからすぐに口内の粘膜を焼くような刺激が追いかけてくる。
度数の高さはあるが、他にも味わったことのない滋養エキスを感じられた。
ほのかに花の香りが鼻に抜けると、不思議と後味は爽やかだった。
「なんて言うか……なんだ?」
オグは胃のあたりをなでながら呟いた。
言いたいことはわかる。
俺も喉から通り道が熱くなり、胃がかっかしていた。
「うまい……のか? 凄いって感じはするけど……」
オグは首を捻りながらも、またコップに口をつける。
ちびっと口にして、また首を捻り、またちびる。
そんな友を前に、俺もまた湧くように唾液が溢れてくるのを感じていた。
まねをして一口だけ呑む。
癖の強い味なのに喉を過ぎるとクドさが残らない。
もう一口。
刺激に慣れてきたのか、隠れていた旨味が見えてきた気がする。
はじめに口いっぱい含んだのが間違いだった。
ぐい呑みするものではなく、少量で味わうものなのだろう。
そうとわかればもう一口。
「これ……」
俺はオグと目を合わせた。
おそらく彼も同じことを思ったのだろう。
「やばいなこれ。妙な中毒性がある。なんかやばい」
さすがは幻の名酒だけある。
まだ杯を空けていないのに、もう虜になりかけている。
こんなものを一瓶空けてしまったらきっともう戻れなくなる。
そんな危険な香りがした。
「よし、肉に行こう。肉だ」
俺とオグは気分を切り替えようと席を立った。
いざ肉焼きパーティの主戦場に向かう。
煉瓦のかまどの中に設置された炭と薪が炎を立ち上らせている。
下から焼かれた鉄板がしゅわしゅわと熱気を泳がせていた。
立ち向かう肉焼き将軍はドナン。その補佐をサムニーが務める。
さぁまずは灼熱の鉄板に塊脂が滑り込む。
とろける油で表面をコーティングだ。
てらてらと輝くフィールドに迫力の肉が降臨する。
ほどよく脂の乗った赤身のなんと神々しいことか。
じゅわぁと肉の焼ける音が湧き立ち、香りと組んで食欲に襲いかかってくる。
空腹の俺たちは飢えた雛鳥のように焼けるのを待った。
「よーし! できたぞぉ!」
ドナンが声を上げると、来たかとばかりに皆が立ち上がった。
サムニーはその太い腕で肉を切り分け、皿に盛っていく。
俺は皿を受け取り、ほくほく気分で卓に戻る。
オグは両手に持ち帰ってきた皿の一つをルウの前に置いた。
「ありがとう兄様」
「よーし、食おうぜー」
すると、のんびりしていたレティがきょろきょろしだす。
「あれ? 僕のは?」
「いや、自分で取ってこいよ」
オグに当然のように言われて、レティはむくれながら腰を上げた。
そのやりとりを微笑ましく見守って、俺は熱々の肉を頬張る。
とろける脂肪と塩味のタッグは単純にして至高の調味料だ。
噛みしめるたびに口の中に旨味が溢れる。
おいしいって幸せだ。
生き物は食べることで生きていけるんだと実感する。
年少組はジュースを片手に、大人組は樽酒をジョッキに。
ごちそうを堪能しながら、俺たちは話に花を咲かせた。
俺はチコモスト大返しからの王城奪還の苦労を語らせてもらう。
イツラを牢から出して一緒に城に乗り込んだ話は反応も様々だった。
サムニーやムルミロらは半ば呆れた様子で、オグやレティらは驚き慣れた具合に、ルウや小さい子たちは目を輝かせて聞いてくれた。
酔いの回った年長組からは意外な人間模様も聞かせてもらえた。
ドナンとサムニーは幼馴染で、かつては将軍と百人隊長だったこと。
サムニーは四十歳で退役していたが、オグの入隊を聞き復帰したこと。
サムニーの紹介でムルミロは奥さんと出会えたので頭が上がらないこと。
などなど思い出話を交わす内に皆の酒が進む。
酔っ払ったドナンは感極まって泣き出す始末である。
結局、サムニーに担がれて主催者が真っ先に脱落した。
宴は続く。
ムルミロが弦楽器を爪弾き、サムニーが空樽を太鼓代わりにリズムを取る。
赤くした顔でみんなが歌を歌う。
俺もわからないなりに体を揺らして合わせた。
陽気な騒ぎ声が昼下がりの澄んだ空に舞い上がる。
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
笑顔の太陽もそろそろ地平線に帰ろうとして、空を赤く変えていた。
招待客が妻タルタに挨拶をして、おいとましていく。
ムルミロが家族と帰っていき、庭に残ったのは俺とオグ、ルウとタルタ、レティとサムニーだけとなった。ぼちぼちお開きの時間だろう。
「それじゃあ、そろそろお片付けしよっか!」
タルタは残った面々に宣言した。
杖をついて歩くルウに付き添って館に戻っていく。
サムニーはレティに水を汲んでくるよう言い、当人は庭の倉庫へと向かった。
残った薪と炭を片付けるために道具を取りに行くらしい。
オグが俺の肩に手を乗せてくる。
「今日は来てくれてありがとな。気ぃつけて帰れよ」
「手伝うよ、片付け」
「ん?」
オグは意外そうに目を丸くし、それから一瞬だけ俺の左腕に視線をやった。
「気持ちは嬉しいけど、別にそこは気を使わなくてもいいんだぜ。楽してるとか思わないし」
「いや、ちょっとオグに相談したいことがあってさ。片付けが終わった後、時間ないかな?」
俺の問いかけに、オグはそういうことならと首を縦に振る。
「わかった。じゃあ食器の片付け頼むわ」
「ありがとう」
俺は卓上に残った皿やコップを重ねて、無理しない程度に運ぶことにした。
オグはまず椅子から取り掛かるようだ。