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05話『街を歩いて支度をしよう』

 俺とベルメッタは城下町の大通りを西に向かって歩いていた。

 石畳の道路は馬車が余裕をもってすれ違えるほど幅がある。

 馬車道の両脇には歩道があり、それに沿うようにしてコンクリート造りの巨大な建物がいくつも立ち並んでいた。おそらく集合住宅なのだろう。

 驚くのはその高さで、五階建てのものまである。

 のっぺりした色合いの壁に等間隔に四角い窓穴が空いている。

 お城とは違ってガラス窓は付いていないみたいだ。

 窓というより風と光を通すための穴である。

 閉じる時は木の板で窓穴を塞ぐ形のようだ。


 まるでおのぼりさんのように、俺はきょろきょろしながら歩いていた。

 道路に面した一階をお店にしている建物がちらほら見受けられる。

 商品台を歩道にはみ出させて、呼び込みのおばさんが声を上げていた。

 匂いに惹かれた子供がパン屋の店先から中を覗いている。

 歩道で足を止めて、おじさんたちが和やかに世間話をしている。

 年頃の女性に声をかけている軽そうなお兄さんもいた。


 活気があって明るい雰囲気の町だなと思う。

 好印象を抱いたが、同時に胸の奥に寂しさも覚えた。

 やっぱりここは俺のいた日本じゃないんだなと感じたのだ。

 町の色彩も違うし、風の香りも違う。

 電柱も電線もない空は見上げると開けて見えた。


「シロガネ様はどういった服装がお好みですか?」


 隣に並んだベルメッタが上目遣いに聞いてくる。


「んー、そうですね……」


 俺はちらちらと町の人の服を見た。

 男女ともに上半身には、膝丈まであるチュニックのようなものを着ていた。

 暑さを気にして半袖の人もいれば、日差しを気にして長袖の人もいる。

 下半身はズボンかスカートの二択のようだ。

 どちらも腰に紐を通すところがあり、くくって腹回りを調整できる形だ。


 興味深いのは、ズボンとスカートが男女で混在している点である。

 道端で談笑しているお爺さんの一人は膝下丈のスカートだし、果物屋さんのおばさんは動きやすそうなズボンをはいている。

 特に法則性が見られないあたり、ただの好みかその日の気分なのだろう。


 考えてみれば、男性がスカートをはいていてもおかしくないはずなのだ。

 衣服の原点は腰を布で巻いたものまで遡れる。

 そこに性差などなかったはずだ。

 そう考えてみると俺の知っている常識では、どうしてスカートが女性だけのものになっているのか不思議だなぁとすら思う。


「シロガネ様?」


 ベルメッタに声をかけられて、俺は横道にそれた思考を元に戻す。


「自分は服にはあんまりこだわりはないですね。動きやすかったら何でもいいって感じです。家だと、いつもこの作務衣を着ていましたから」

「そうなんですね~。私も毎日この服ですから一緒ですね」


 かわいらしく笑う女の子だなと思う。

 思うのだが、本当に女の子扱いしていいものだろうか。

 女性の年齢というのは予想と違うことがままある。


 こうして話していると、ベルメッタは十代のあどけない少女に思える。

 しかし背は百六十センチほどあるし、胸も大人な曲線を描いていた。

 女性目線なら理想的な、すらっとしたプロポーションの持ち主である。

 ふにゃっとした表情をしているが、よく見るとその顔立ちは綺麗系だ。

 そのちぐはぐさがどうにも気になるのである。


「ベルメッタさんって、おいくつなんですか?」


 尋ねると、年齢不詳の侍女は『んふふ~』と意味ありげに微笑んだ。


「シロガネ様はおいくつなんですか?」

「この間、十七歳になりました」

「そうなんですか。陛下の一つ下なんですね」


 ティアナートは俺より一歳お姉さんだったのか。

 立場が人を作るとは言うが、王女をやるのは大変なんだろう。

 あと一年で俺がティアナートのようになれるとは到底思えない。


「それはいいんですけど、ベルメッタさんは?」

「何歳に見えますか?」


 俺は面を固まらせた。

 これはもしや実年齢を当てるとだめな流れではなかろうか。

 上と下どちらだろう。

 ベルメッタはどちらに見られたいのだろうか。


「えぇと……自分と同じくらいじゃないかなと」

「へぇ~」


 楽しそうにニコニコしているが、それが正解なのかはわからない。


「ところでなんですけど」


 ベルメッタは人差し指を立ててみせた。


「私のことはベルメッタと呼び捨てになさってください」

「どうしてですか?」


 ベルメッタはふと立ち止まると、まじめな表情でこちらを見てきた。

 どうやらちゃんと聞いた方がよさそうだ。

 俺は姿勢を正して、彼女と向かい合った。


「陛下はシロガネ様をおそばにお置かれることをお決めになられました。つまりシロガネ様はこの国で上位の地位に就かれたも同然ということです。そのことを意識していただきたいと思いまして」

「意識……ですか?」

「はい。立場には相応の振る舞いが求められます。シロガネ様が不甲斐ないと、後ろ盾である陛下まで侮られてしまいます」


 戸惑う。

 てっきり俺は鎧を着て戦うことだけを求められているのだと思っていた。

 でもそんな単純なわけがないか。

 どこの国だろうと人間社会はしがらみの巣。

 人が生活をする限り、人間関係は付いて回るものなのだ。


「少し脅かしちゃいました。申し訳ありません」


 ベルメッタは頭を上げると、打って変わって『えへへ』と笑った。


「でもでも、心の隅にでも覚えておいてくださいね」

「わかりました。ありがとうございます、ベルメッタさん」

「ベルメッタ。とお呼びください」


 早速の指導に苦笑する。

 上から物を言うことに慣れていないので、急にはなかなか難しい。

 間を取って、ため口の要領で勘弁してもらおう。


「じゃあ……これからもよろしく。ベルメッタ」

「かしこまりました」


 ベルメッタは仰々しくお辞儀をした。

 良くできましたという笑顔を浮かべている。

 気恥ずかしくなって俺は頭をかいた。


「陛下からもよ~く教育するように言われていますから。何でも聞いてくださいね」

「お手柔らかに頼むよ」


 二人で笑い合う。

 気を取り直して、俺たちは大通りを歩きだした。


 町を東西に貫く大通りと、南北に通る筋とが交わる大きな広場に出る。

 円の形に整備された広場の中心には石像が設置されていた。

 全身鎧の戦士像が左手の剣を空へと掲げている。

 広場の外縁部には木製の腰掛け台が置かれていた。

 屋台も出ており、溶いた粉を型で焼いたものを売っているようだった。

 戦勝記念の獣人お焼きいかがっすかーと、お兄さんが汗を流している。


「あれって何の像なんだ?」

「エルトゥラン王国を建国なさった救世主様の像です。この国の初代国王様でもありますね」

「へぇー」


 取り留めのない会話をしながら、円形の広場を西へと抜ける。

 それから大通りを少し歩いて、仕立て屋に到着した。

 やはりというか集合住宅の一階を店舗としている。


「こんにちは~」


 ベルメッタの後に続いて建物の中に入り、俺はびくっとする。

 店内には等身大の木彫り人形がずらりと並んでいた。

 色鮮やかなドレスや礼服を着せられている。


「いらっしゃいませー」


 店の奥から、あご髭を蓄えたおじさんが小走りでやって来た。

 この店の主人なのだろう。


「これはこれはベルメッタ様。本日はどういった御用件で?」

「こちらの方に礼服を。夕方の晩餐会に必要なのですが、用意できますか?」

「寸法が合うものがあれば。まずは体を測らせてください」


 あご髭のおじさんが俺の体を紐で巻いて測る。

 身長、肩幅、胸囲、腰回り、腕回り、太もも、腕や足の長さ等々。

 てきぱきと測り終えると、おじさんは『うーん』と唸りながら、たくさんの木彫り人形の中に消えていった。


 手持ち無沙汰になる。

 店の中を見回していると、受付台の上に置かれた帳面を見つけた。

 商品の注文台帳か何かだろうか。

 興味が湧いて、俺は帳面を覗いてみることにした。


「……ん?」


 ふと違和感に気付いて、俺は体を固まらせた。

 書いてある文字が読める。

 帳面は日本語で書かれていた。

 一部の文字は形が微妙に変わっているが、ほとんど俺の知っているものだ。

 俺は慌ててベルメッタに駆け寄る。


「なぁベルメッタ。ここはエルトゥランって国なんだよな? 俺がいた日本とは関係ないはずだよな? 何で文字が同じなんだ?」


 まくし立てる俺に、ベルメッタは目をぱちぱちとさせた。


「どういう意味でしょうか?」

「いや、住んでる場所が違ったら文字とか言葉って違うものだろ? そもそも俺たちがこうやって話せてるのも不思議だし!」


 ベルメッタは眉を八の字にして困った顔をする。


「申し訳ありません。おっしゃる意味が少し……」

「だから例えば……あれ? そう言えば確か、獣人の人とも話ができたっけ。この国の人って、別の国の人とでも同じ言葉が通じるの?」

「そういうものではないのですか?」


 困惑顔のベルメッタに、逆に俺の方が戸惑う。

 もしかしておかしいのは俺の常識なのだろうか。

 同じ人間なのに場所によって言葉が通じない方が不思議なのか。


 何かの神話にこんな話があった気がする。

 神様が人から統一言語を奪ったせいで、人は他者と意思疎通ができなくなってしまい、そのため世界各地に散っていったとかいう話だ。

 この世界にはそんな神様はいなかったってことなんだろう。

 とても不思議だが、それで何か不都合があるわけでもない。

 だったら今は素直に受け入れよう。


「お待たせいたしましたー」


 あご髭のおじさんが木彫り人形ごと衣装を抱えて戻って来た。


「こちらなどいかがでしょうか」


 おじさんは自信満々の表情で、俺たちの前に木彫り人形を置いた。

 衣装は紫色を基調にした格好良いものだった。

 おとぎ話の王子様というより、むしろ王子系アイドル風味の印象を受ける。

 よく見ると花柄の細かい刺繍が入っており、生地にも高級感があった。


 おじさんに勧められて、作務衣の上から上着を羽織らせてもらう。

 ベルメッタがぱちぱちと拍手をした。


「紫はエルトゥラン王国を象徴する色なんです。お似合いだと思いますよ」


 俺はファッションのことは素人だ。

 判断は任せたほうがいい。

 サイズにも問題がなかったので、これで採用となった。


「ありがとうございましたー」


 礼服を受け取って、俺たちは仕立て屋を出た。

 思ったよりも時間がかかったかもしれない。

 ぼちぼち、おやつの時間といった頃合いだろう。

 空はまだ青いが、余裕をもって城に戻ることにした。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 城の二階西側にある衣装室で、俺は持って帰ってきた礼服に着替えた。

 はじめは自分一人で着ようとしたのだが、慣れない衣装で着方がわからなくなってしまい、結局ベルメッタに手伝ってもらった。

 かえって恥ずかしいことになったので、今後は素直に手を借りようと思う。


「うーん……」


 姿見の鏡で自分の姿を確かめる。

 紫色の礼服の格好良さと比べて、本人の貫禄の足りないことよ。

 それでも馬子にも衣装と言うし、気にしないでおこう。


 晩餐会まではまだ少し時間がある。

 ベルメッタはティアナートのところに戻ったので、今は俺一人だ。

 風にでも当たろうと思い、俺は衣装室を出た。

 赤いカーペットの敷かれた廊下を歩いて、バルコニーのある北側に向かう。


「そこのお方。お待ちを」


 声に振り返ると、金属鎧を上半身に着込んだ中年の男がいた。

 鎧の上から紫色のマントを羽織っている。

 頭髪にはところどころ白髪が交じっていた。

 身長は俺より少し高い。おそらく百八十センチくらいだろう。

 しかしなにより印象的なのはその面構えである。

 長年、戦いに身を置いた男の摩耗した鋭さを感じた。

 ニンジャだった爺ちゃんと似た雰囲気がする。


「私はドナン=ダングリヌスと申す者です。陛下より此度の晩餐会の警備を任されております。失礼は承知でお尋ねしますが、貴殿はどちら様でしたか?」


 貫禄のある渋い声である。

 今夜の晩餐会は国の王が顔を合わす場だ。

 これを任されるあたり、かなり高位の人物なのだろう。


「初めまして。シロガネヒカルと申します」

「なんとっ!?」


 ドナンと名乗った男は迫真の表情で詰め寄って来た。

 がしっと肩を掴まれる。


「では貴殿が救世主殿!?」


 ドナンの視線が俺の頭から足元に、そしてまた戻ってくる。

 疑いたくなる気持ちはわかる。

 歴戦の勇者からすれば、俺など取るに足らない小童だろう。


「弱そうに見えますか?」

「そのようなことは……!」


 ドナンは俺の肩を離すと、両方の手の平を見せて否定の素振りを見せた。

 意地悪な言い方をしてしまったかなと俺は反省する。


「あの精強な獣人族に単騎で挑みかかり、敵将を討ったと耳にしましたので。どれほど恐ろしい豪傑かと思うておりました」

「わかります。普通の人ならドナンさんのような偉丈夫を思い浮かべる」

「おたわむれを」


 はははとドナンは破顔した。

 意外と気を良くしてくれたらしい。


「見ればわかりますよ。ドナンさんは相当な使い手のはずです」


 これはおべっかではない。

 彼のごつごつした手が厳しい鍛練を乗り越えた者の手だったからだ。

 ドナンは誇らしげに鎧の胸をどんと叩いた。


「槍の腕であれば、この国で五指に入ると自負しております」

「やっぱり。ぜひ一度、教えを乞いたいです」

「おぉ! それは良い考えだ。ぜひまた後日、私の屋敷においでください。歓迎いたしますぞ」


 不思議と会話が弾んだ。

 ドナンはエルトゥラン王国の軍事部門を統括する大将軍なのだという。

 先日の王城危機の際、彼は城を離れていたそうだ。


 先立って、獣人族の大軍団がエルトゥラン北部の要所サビオラ砦に進攻を開始したため、迎撃の大将として出撃していたのだ。

 その隙を突いて『想定外の進路』でエルトゥラン王城に奇襲戦を仕掛けてきたのが、ウィツィを指揮官とする別働隊だったというわけだ。

 サビオラ砦への攻撃が陽動だと知らされたドナンは、一部の兵を連れて城に飛んで帰ったが時すでに遅し。その頃には王城での戦いは終わっていた。

 その時の俺の活躍がどうやら噂に尾びれがついて広まっているようで、彼にはえらく感謝されてしまった。

 なおウィツィ軍による奇襲が失敗したことに合わせて、サビオラ砦に現れた獣人族の大軍団も退却したため、とりあえず事態は沈静化した模様だ。


 また話によると、ドナンには俺と同い年の息子がいるらしい。

 兵士として仕えており、王城に残って戦っていたそうだ。

 もしかすると顔を合わせていたかもしれない。


「ドナン将軍!」


 突然の声に振り返ると、赤いカーペットの廊下に端正な顔立ちの青年がいた。

 髪は栗色で、すらりとした体型で紫の礼服を見事に着こなしている。

 背丈は俺より低い。百七十センチと少しくらいだろうか。

 雰囲気から察するに年齢は二十代後半か。

 姿勢や歩き方を見る限り、ドナンと違って武に通じる人ではなさそうだ。


「おう、リシュリーか。何用かな?」

「もうじきアイネオス王がお着きになられます。出迎えの用意ができていないではないですか」

「もうそのような時間であったか」


 すまんすまんとドナンは笑い飛ばした。


「ではシロガネ殿。失礼いたす」


 会釈をするやドナンは廊下を走っていった。

 その後、俺は栗色の髪の青年と目が合う。

 青年は右手を左胸に当てて一礼すると、すぐにドナンの後を追っていった。

 入れ違いになるようにティアナートとベルメッタが廊下を歩いてくる。


 ティアナートのドレスが紫色のものに変わっていた。

 袖の長さが手の甲まであるのは普段と同様で、やはり肌の露出は少ない。

 手には純白の手袋をはめている。

 頭には黄金のティアラを載せていた。

 埋め込まれた大粒の宝石がきらきらと輝いている。


 気付くと俺は息を止めて見惚れていた。

 着飾った姿もまた一段と美しい。

 でもそれは衣装に負けない素体の魅力があるからだ。


 彼女たちがそばに来るまで、俺は突っ立ったままだった。

 ティアナートは俺の格好を見て、ふふっと笑った。


「衣装に着せられていますね」


 いきなり痛いところを突かれて俺は顔を赤くする。


「仕方ないじゃないですか。こういうのは初めてなんですから」

「緊張しているかと思って冗談を言っただけです」


 ティアナートはいたずらっぽく笑った。

 先日の戦いの時とは違って、彼女の態度には余裕が感じられた。

 さすがは一国を預かる王女陛下といったところか。

 逆に俺は急に不安になってくる。


「あの、俺は晩餐会で何かしないといけないんでしょうか?」

「心配せずとも受け答えは私がします。黙って堂々としていなさい。そうすれば多少は威厳も出るでしょう」


 ティアナートの言葉に、俺はほっとひと安心した。


「シロガネ。貴方がすべきことは一つだけです。今日来る客の顔をよく覚えておきなさい」


 人付き合いは顔と名前を覚えることから始まる。

 そのくらいなら頑張れそうだ。


「わかりました。精一杯、覚えます」

「よろしい」


 ティアナートはにっこりと笑んだ。

 それから俺の肩に右手を乗せると、耳元に口を寄せてきた。


「いつか暗殺する時の為に」

「えっ……?」


 聞き間違いとしか思えなくて、俺は反射的に聞き返していた。


「今のも冗談ですよね?」

「相手が我が国に害をなす存在なら、それも選択肢の一つです」


 俺から離れたティアナートは微笑んだままだった。

 だがその目は笑っていない。


「心配せずとも今すぐという話ではありませんから」


 そう言い残して、ティアナートはベルメッタを連れて階段を下りていく。

 俺はその場に立ち尽くしていた。


 もやもやが消えない。

 気を晴らしたくて、俺は廊下を歩いた。

 北側廊下にある扉と兼用の両開き窓を開けて、広いバルコニーに出る。

 頬をなでる風が気持ちいい。

 空の色はすっかり夕暮れだ。


 城の正面にある広場に兵士の皆さんが整列していた。

 先程の礼服の青年とドナンが何かを話している。

 少ししてティアナートも姿を見せた。

 総勢でお出迎えするのだろう。


 俺はティアナートの言葉の意味を考えていた。

 わざわざ伝えたということは、その時は俺にさせたいんだろう。

 なにせ俺には手ぶらから一瞬で武装できる救聖装光があるからだ。

 暗殺は古代ニンジャの仕事の一つであったと言われている。

 でも実際に行うのはどうなんだ。

 さすがに爺ちゃんからもそんなことは教わっていない。


「……ふーぅ」


 それにしても今から会うトラネウス王国のご一行は、ティアナートが暗殺を考えるほどの相手なのだろうか。もしくは過去に何かやらかした間柄なのか。

 ティアナートの瞳には暗い憎しみの炎が宿っていたように感じられた。


「……ともかく」


 何かある前からぐだぐだ悩むのは良くない。

 相手の顔を見てから考えよう。

 俺はバルコニーから廊下に戻り、両開き窓を閉じた。

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