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46話『貴方は私と同じ(1)』

 俺とイツラは城下町の大通りを東へと駆け抜ける。

 途中、巡回のトラネウス兵と遭遇したが相手にせず振り切った。

 住宅街を抜けると道は二手に分かれていた。

 南東の林の中へと続く道は共同墓地に繋がっている。

 北東へ緩やかに上っていく石畳の坂道は王城へと続いている。

 迷わず俺たちは坂を駆け上がった。


 そびえ立つ城壁の上の足場には、見張りのトラネウス兵が複数人立っていた。

 頭には兜、胴体には袖無しの板金鎧を着込んでいる。

 両方の前腕には金属製の手甲を身に着け、手には槍を握っていた。

 もうこちらの存在には気付いているだろう。

 銀色の全身鎧とフード付き外套をまとった不審者が猛然と走って来るのだ。

 ここからは多勢の敵に圧殺されないよう、時間との勝負になる。


 城門のある北側まで行かずに、西側の城壁から仕掛ける。

 イツラは走りながら、城壁に向かって鉤縄を投げつけた。

 先が曲がった鉤を城壁の立ち上がり壁に引っ掛け、勢いよく登っていく。

 気付いたトラネウス兵の一人が駆け寄り、引っ掛かった鉤を外そうと手を伸ばすが、飛来したクナイが手の甲に突き刺さる。

 トラネウス兵は悲鳴を上げてうずくまった。

 俺がクナイで援護している内に、イツラが城壁を登り切る。


「シロガネェ! お前もさっさと来い!」


 イツラは城壁の上の通路にうずくまる兵士を蹴り飛ばして槍を奪った。

 背後から迫るトラネウス兵に、振り返るなり槍を投げつける。

 槍が兵士の鎧ごと胴体を貫いた。

 目の前で起きた惨劇に後続のトラネウス兵は立ちすくんだ。

 だがすぐ我に返り、首に下げていた笛を吹き鳴らす。


「侵入者だ! 敵襲、敵襲!」


 その間に俺は鉤縄を頼りに城壁を駆け上がるように登った。

 通路の前後から挟み撃ちにしようとトラネウス兵が迫る。

 俺はイツラと背中合わせになり、向かってくる敵兵に槍を構えた。


 見下ろすと、城の正面の広場に所狭しと宿営用天幕が並んでいる。

 わざわざ兵士を外で寝泊まりさせているようだ。

 城壁に囲われた敷地の西南には兵士用の宿舎と馬の厩舎がある。

 兵士を建物で休ませない理由はわからないが、もしかすると今のような状況を想定して、いち早く襲撃に対応させるためなのかもしれない。

 先程の笛の音を聞いてか、天幕の中から板金鎧の兵士が次々と出てくる。


「シロガネ、こっからどうすんだ?」

「俺は城の中に乗り込みます。イツラさんに外の敵を任せたいんですけど、大丈夫ですか?」

「誰に言ってんだ? 派手に暴れてやんよ!」


 イツラは雄叫びを上げて、目の前のトラネウス兵に襲いかかった。

 俺は正面から来る敵兵を一人二人と槍で薙ぎ倒して突破する。

 城壁の内側壁面に作られた階段を駆け下りる。

 階下から槍を持ったトラネウス兵が上がってきた。

 俺は階段の半ばから広場に飛び降りる。


「なっ、逃がすな! 取り囲め!」


 動き出したトラネウス兵で広場は騒然とし始めた。

 俺は天幕と天幕の間を抜けて城へと走る。

 トラネウス兵はまだ動きが鈍かった。

 たった二人で城を襲う非常識がいるとは考えもしなかったのだろう。

 俺は立ち止まることなく城前広場を駆け抜けた。


 城の出入り口である玄関扉は閉ざされている上、敵兵が集まろうとしていた。

 俺が目を付けたのは分厚い扉の直上に位置する城二階のバルコニーだ。

 俺は全速力のまま扉のそばの壁に跳んだ。


「なにっ!?」


 トラネウス兵が驚いて口を開ける。

 俺は壁を蹴って上昇、さらにもう一度蹴るもまだ高さが足りない。

 俺は手に持った金属槍を城の壁に思い切り突き刺した。

 右手で槍を掴んでぶら下がりながら、左手のクナイを壁に突き刺す。

 それを足場として、槍を引き抜くと同時に跳躍した。

 バルコニーの立ち上がり壁にしがみついてよじ登る。


「ふぅ……!」


 バルコニーの上で一息つく。

 閉じた両開き窓を蹴り壊して、俺は城二階の北側廊下に踏み込んだ。


「おわっ!? なんだお前!?」


 声に右手側に振り向くと、トラネウス兵が一人うろたえていた。

 俺は素早く接近するや板金鎧の腹を蹴り飛ばす。

 トラネウス兵は壁に背中をぶつけて、そのまま崩れ落ちた。


 二階西側の廊下を走り抜けて南側へ。

 玉座の間の前にある階段のスペースにトラネウス兵が六人も集まっていた。


「道を空けて! でないとケガしますよ!」


 走りながら呼びかけると、彼らは戸惑いながらも槍の穂先を向けてきた。

 ならばと俺は腹帯からクナイを抜いて、前列の二人に投擲した。

 クナイがズボンの上から突き刺さり、トラネウス兵二人がうずくまる。

 俺は金属槍で相手の穂先をはねのけ、正面の兵士を蹴り飛ばした。

 倒れ込んできた兵士に巻き込まれて、後ろの兵士たちの体勢が崩れる。

 俺は容赦なく槍を振り回した。

 薙ぎ倒されたトラネウス兵は苦しそうに廊下の上に転がった。


 階段を駆け上がって三階北側の廊下に出る。

 見張りのトラネウス兵が二人いたが、容赦なく薙ぎ倒した。


 北側廊下のコンクリート壁面には肖像画が並べて飾られている。

 そのほとんどが歴代の王族のものなのだが、一つ見覚えのない絵があった。

 トラネウス王国の国王アイネオスの絵が早くも飾ってある。

 ギラギラとした目が印象的な中年の男である。

 髪をなで上げたオールバックで、口髭は綺麗に整えられている。

 絵画の中のアイネオスは不敵な笑みを浮かべていた。


「……」


 切り裂いてやろうかと思ったが、ぎゅっと槍の柄を握って堪えた。

 物に当たっても仕方がない。

 やるなら絵ではなく本物をぶん殴ってやればいいのだ。


「くせ者だ! 取り押さえろ!」


 廊下の左右からトラネウス兵が二人ずつやってきた。

 俺は床に落ちていた敵兵の槍を拾って、東側の兵士に雑に投げつけた。

 そちらが怯んだ隙に反対方向へと突撃する。

 槍を反転させて、敵兵それぞれに突きを繰り出す。

 硬い石突きが兵士の板金鎧をへこませた。

 トラネウス兵二人は仰向けに倒れて、口から泡を吐いた。


「きさまー!」


 背中越しに怒声が飛んできた。

 振り返ると、並んで突っ込んできたトラネウス兵が槍を突き出してくる。

 俺は交差した腕を開くようにして二本の槍を外へと受け流した。

 一人の膝を踏み砕き、もう一人の鼻面に鉄拳を叩き込む。


 呻き声を上げる兵士たちを置き去りに、俺は赤いカーペットの廊下を走った。

 西側廊下をまっすぐ進み、自室の前を通り過ぎて、角を曲がる。

 南側廊下に入ってすぐそばの角部屋が王女の寝室だ。

 寝室の木製扉の前にトラネウス兵が二人、隣の執務室の前にも二人いた。


「なにもの――」


 喋る暇を与えず、寝室前にいた兵士を槍で叩き伏せる。

 執務室前の兵士は慌てた様子で部屋の扉を叩いた。

 そちらは無視して、俺は寝室の扉に手をかけたが開かない。

 中からかんぬきがかかっているようだった。

 一旦離れて、勢いをつけて豪奢な扉を蹴りぬく。

 かんぬきの横木をへし折って、扉が部屋の中に吹っ飛んだ。


「ひぃー!?」


 悲鳴を上げたのは部屋の中にいた侍女たちだ。

 一人は年配のご婦人で、もう一人は若い女性だ。

 二人とも見覚えのない顔だが、トラネウスに雇われた者だろうか。


 一人で寝るには大きな寝台の上に、金色の髪を垂らした少女が腰掛けていた。

 覇気なく背中を丸めた姿は、俺の知っている彼女とは別人のように見えた。

 ドレスではなく、地味な亜麻色の長袖ワンピースを着せられている。

 右の足首には枷がはめられており、枷は鎖つきの鉄球と繋がっていた。

 いつもの白手袋をしていないため、灰色の左腕が露わになっている。


「ティアナート!!」


 俺はたまらず駆け寄り、枷の鎖を槍で断ち切った。

 侍女たちがどたばたと部屋から逃げ出す。

 ティアナートは虚ろな目で俺のことを見上げた。


「だれ……?」


 問いかけてくる彼女の顔は少しやつれたように見えた。

 俺は片膝をついて槍を足下に置き、救聖装光を解除した。

 目と目が合う。


「シロガネです。帰るのが遅れて申し訳ありません」

「え……?」


 ティアナートはぼうっとした様子だった。

 ゆっくりとまばたきをして、不思議なものでも見るように固まる。

 もう一度まばたきした後、不意に何かに気付いて彼女は目を丸くした。

 感極まったように顔をくしゃくしゃにして、目に涙を浮かべる。


「貴方は……! いつも私の期待に応えてくれる……!」


 その声は震えていた。

 ティアナートは豊満な胸元に右手を当てて、服の首元を強く握った。

 きゅっと目を閉じて、ゆっくりと深呼吸をする。

 そうして気を落ち着かせたのか、すっと背筋を伸ばした。


「シロガネ、状況を教えてくれる?」

「王のアカマピを討ち取り、彼らの都チノチトラまで攻め込みました。休戦協定を結び次第、ドナンさんは軍を率いて国に戻る予定です。危急の知らせを受けて、俺だけ先に帰ってきました」


 ティアナートの表情にみるみる生気が戻ってくる。


「ありがとう。素晴らしい報告です。本当に良くやってくれました。であれば私もいつまでも塞いでいられませんね。貴方がいるなら状況はむしろ千載一遇の好機に変わった。行きましょう」


 ティアナートは寝台から腰を上げた。

 俺は『あっ』と彼女を制止し、左手につけていた分厚い手袋を脱いだ。


「使いかけですけど、もしよかったら」


 ティアナートは自身の灰色の左腕を人目に晒すことを嫌っている。

 だからと思って差し出したのだが、彼女は愕然とした表情で固まった。

 その視線は俺のぶら下がった左手に向けられていた。


「シロガネ、貴方その手……」

「別に大したことは……なくもないんですけど……」


 俺はごまかし笑いをする。

 彼女の左腕と同じように、俺の左前腕も燃え尽きた灰の色をしているのだ。


「左の肘から先が灰色になってしまって。感覚もないし動かせない。ティアナートさんと同じ症状なんだと思います。でも救聖装光を着ている間は問題なく動かせますから、大丈夫です」

「うそ……」


 ティアナートはおずおずと俺の左手に触れてきた。

 手の甲を覆うように握ってくるが、その感触が俺には感じられない。

 視覚情報から手を握られていると認識しているだけなのだ。

 俺は意識して笑顔を作った。


「そんな顔しないでくださいよ。俺は貴方に泣いてほしいわけじゃない。貴方に笑ってほしくて帰ってきたんです。だから」


 俺はもう一度、手袋を彼女に差し出す。

 ティアナートはしばらくの間、目の前の手袋を見つめていた。


「シロガネ、貴方は……」


 ティアナートは沈痛な面持ちで自身の左腕を掴むと、俺の前に出してきた。

 お互い、左の手が思い通りにならない身なのだ。

 俺は手袋を彼女の指に通してやる。

 兵士用の分厚い手袋なので、王女様の手には不釣り合いだった。


 廊下を走る音が聞こえて、俺は蹴破った扉の方に向き直る。

 槍を持ったトラネウス兵が一人、二人と踏み込んでくる。

 三人の兵士が壁のように並ぶと、さらに一人の男が部屋に入ってきた。


 トラネウス王国の国王アイネオスである。

 立派な口髭を生やし、髪を撫で上げたオールバックの中年の男だ。

 白を基調に金の差し色を入れた上品な衣装を身にまとっているのは、いつかの晩餐会と同じだが、今日は足元まである紫色のマントを両肩から下げている。

 その姿は自分こそがエルトゥラン王であると言わんばかりである。

 アイネオスは俺の顔を見て、意外そうに驚いた。


「これはこれは。どこのねずみかと思えば……シロガネ君と言ったかな? 噂の救世主殿は獣人族の国に向かわれたと聞いていたが」


 初めて会った日はその眼光の強さに圧倒されたものだ。

 だが今はどうということない。

 俺は足下の金属槍を右手で拾い、ティアナートを庇うように前に出た。

 まっすぐにアイネオスの目を見返す。


「俺は救世主ですから。破廉恥な悪漢を追い払いに帰ってきたんですよ」

「ほう、それは勇ましい」


 アイネオスはすっと右手を上げて、指を鳴らした。

 さらに三人の兵士が部屋に入ってくる。

 アイネオスは余裕の笑みを浮かべて、上唇の髭を指でなぞった。


「ここまで潜り込んだ君の武勇は認めよう。だがこの城はすでに私の手に落ちている。君一人で四百のトラネウス兵を相手にするつもりかな?」

「貴様の命一つで済む話だ」


 俺より先に答えたティアナートの声には重たい冷たさがあった。

 憎しみのこもった危うい目つきをしている。


「シロガネ。アイネオスの息の根を止めなさい。それで盤面はひっくり返る」


 アイネオスは鼻で笑うと、部下に命令を下した。


「かかれ」


 前列のトラネウス兵三人が槍を構えて向かってくる。

 俺は服の上から胸元のペンダントを押さえ、合言葉を心で念じた。


 ――アウレオラ。


 一瞬の閃光が部屋に爆ぜる。

 救聖装光に身を包んだ俺は覚悟を決めて槍を突き出した。

 正面の兵士の首を貫き、次に右隣の兵士の喉を裂く。

 残った三人目の敵兵が繰り出してきた槍が俺の胴体に迫る。

 命中の瞬間、俺は辛うじて体を捻った。

 穂先が銀色の装甲を削るも、切り裂かれるまでには至らなかった。

 真横に振るった俺の槍がトラネウス兵の首をはねた。


「ティアナートさん下がって!」


 血飛沫を浴びながら俺は叫ぶ。

 相手を殺さずに済ます余裕はなかった。

 彼女には指一本触れさせない。

 そのためには敵を完全に無力化するしかないと判断したのだ。


 ティアナートは陽の光が差し込む窓のそばに身を寄せた。

 アイネオスは感嘆するような面持ちで部屋の外へと出ていく。

 入れ替わりに追加のトラネウス兵が入ってきた。


「アイネオスを討ちなさい! 私のことはいい!」

「そんなこと言われても!」


 三人一組でトラネウス兵が向かってくる。

 俺は足元に転がっている敵兵の槍を蹴り上げた。

 正面の兵士が怯んだ隙に、防具をつけていない太ももを切り裂く。

 さらに左の兵士の喉を突き貫いて絶命させるも、槍を戻す間もなく、右の兵士が尖った槍先を繰り出してくる。

 咄嗟に俺は槍を握る右手を離し、敵の穂先を外側へとはじいた。

 左手に握った槍でトラネウス兵の首を切り裂く。

 兵士は首の血管から血を噴きながら倒れた。


 そうしている間にもまたトラネウス兵が部屋に入ってくる。

 廊下にはぞくぞくと鎧兜の兵士が集まってきていた。

 その奥でアイネオスは腕を組み、高みの見物を決め込んでいる。


「トラネウスの屈強なる兵士たちよ。救世主を騙る叛徒を討て! かの者の首を上げた者には爵位を与える!」

「うおおおぉー!!」


 アイネオスの言葉に煽られて、トラネウス兵が襲い掛かってくる。

 俺は奥歯を噛みしめながら槍を振るった。


 個室という閉じた空間で多勢を相手するのは限界がある。

 敵を押しのけてアイネオスのところまで辿り着くのも困難だ。

 なにより一か八かでティアナートの身を危険に晒したくない。

 だったら手遅れになる前に決断すべきだ。


 俺はトラネウス兵を薙ぎ払うと、即座に反転した。

 窓辺に立つティアナートに駆け寄る。

 彼女が言葉を発するよりも早く、その体を腕の中に抱えると、俺は背中から思い切り窓にぶつかった。

 窓を壊して、城の外に飛び出した二人の体が宙を舞う。

 仰いだ青い空には大きな雲が浮かんでいた。

 窓硝子の欠片と共に俺たちは城の三階から落下する。


「シロガネ!?」

「喋らないで、舌を噛みます。しっかり掴まっていてください」


 俺は彼女の腰に回した左腕でその体を抱き寄せる。

 応じるようにティアナートは俺の背に右腕を回した。


 ものすごい速度で硬い地面が迫ってくる。

 俺は槍を持つ右手の握りを落ち着いて確かめて、城の壁めがけて打ち込んだ。

 コンクリート造りの壁に槍の先が刺さるも、持ち手にかかる人間二人分の落下衝撃力には耐え切れず、壁が崩れて穴から槍が抜けた。


 だが十分に速度を殺すことはできた。

 俺は槍を放り投げ、右腕をティアナートの膝裏に回した。

 赤子を抱くように彼女の体を横抱きにして、だんと着地する。


 我ながら高所からの飛び降りにも慣れてきたものだ。

 ティアナートを地面に降ろしてやると、彼女の足がふらついた。

 俺の胸にもたれかかり、不満気な顔で見上げてくる。


「どうしてアイネオスを討たないのです!」

「あの状況で貴方を守りながら戦うのは無理です。不本意かもしれませんけど、今は逃げることが先決です」


 ティアナートは唇をきつく結んだ。

 聡明な彼女のことだ。きっと頭では理解している。

 それでも目の前の怨敵に背を向けたことを感情が許さないのだろう。


 殺伐とした騒ぎ声がどこからか聞こえてくる。

 俺たちがいるのは城の建物の裏側、つまり敷地の南側だ。

 音の遠さから考えて、騒ぎはおそらく城の北側、城前広場の方だ。

 イツラが暴れてくれているのだろう。


 俺は地面に転がった金属槍を拾いに動いた。

 柄を手に掴んだその時、地面に映った不自然な影に気付く。

 頭上を仰ぐと、フード付きの外套を身にまとった何者かが、俺たちの後を追って三階の窓から飛び降りてきていた。

 俺はティアナートを抱えて慌てて飛び退く。


 まるで猫のように軽やかに着地したのは白い髪をした少年だった。

 陽光に煌めく白い髪からはむしろ溢れる生命力が感じられる。

 身長は百七十センチくらいで、体付きは線が細くしなやかだ。

 その外見的特徴に、俺は見覚えがあった。


「貴方は確か、ギルタさんと一緒にいた……」


 トラネウス暗部で働いている自称『飴玉お兄ちゃん』の少年だった。

 腰横の剣帯に差した剣は鞘から柄の先までが艶のある黒色に染まっていた。

 白い髪の少年がゆっくりと立ち上がる。

 人懐っこさを感じる幼い顔に満面の笑みを浮かべていた。


「嬉しいなぁ。僕のこと覚えていてくれたんだね、シロガネお兄さん」

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