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29話『エリッサの巫女』

 エリッサ神国の女王様御一行がエルトゥラン王城に到着した。

 エリッサの気候によるものなのか、皆よく日に焼けた肌をしていた。

 同行者は全てエリッサ教団員で、一人を除いて女性だった。

 教団員をまとめる唯一の男性は女王の従兄とのことだ。


 エルトゥラン王城の二階南側には玉座の間がある。

 そこで賓客を迎えることとなった。


 壇上の玉座は金の彫刻と宝石で煌びやかに飾られている。

 豪奢な玉座に座るのはもちろん統治者である王女ティアナートだ。

 国の色である紫のドレスを身にまとい、黄金のティアラを頭にのせていた。

 その両手は純白の手袋で覆われている。


 玉座の右手側にはリシュリーら文官が列をなした。

 その誰もが紫色の役人服に身を包んでいる。

 左手側はドナンら武官が並んでいる。

 俺はドナンの隣に、つまりは軍人の列の先頭に立たされていた。

 公的な舞台なので、いつかの晩餐会で着た紫の礼服で参列している。


「エリッサ神国女王ディド=メルカルート様、御成でございます!」


 案内の者が国賓の到来を宣言した。

 場にいる皆がさっと姿勢を正す。

 右の手の平を左胸に当てて、エルトゥラン式の敬礼でお出迎えする。


 赤いカーペットの敷かれた玉座の間にエリッサの女王が入ってきた。

 ぱっちりとした大きな目が印象的だった。

 髪の色は黒く、肩に合わせて切り揃えてある。

 張りのある肌は健康的に焼けていた。

 身長は百六十五センチくらいだろうか。

 女王は薄い生地の白いワンピースドレスを身にまとっていた。

 肌を隠す長袖と丈の長いスカートは日除けの意味合いもあるだろう。

 衣服の上からでも膨らみを見て取れる見事なプロポーションである。

 腰に巻かれた金帯には緑色の宝石が散りばめられている。

 花模様の白く透けたショールを肩に羽織っていた。


 ディドは玉座のティアナートの前に立つと、祈るように胸の前で手を組んだ。

 白装束の教団員たちも女王の後ろでひざまずき同様に手を組む。

 ティアナートは穏やかな笑みを浮かべながら口を開いた。


「エルトゥラン王国王女ティアナート=ニンアンナである。遠路より、ようこそおいでくださいました」

「エリッサ神国女王ディド=メルカルートでございます。またお目にかかることができて嬉しく思います」


 異国の女王はお辞儀をした。

 それから後ろの教団員たちに手を上げて合図する。

 教団員が二人がかりで重箱のようなものを運んだ。

 ティアナートの御前でそれを捧げるように掲げる。


「わが国で紡績した糸でございます。両国の今後の友好を祈願いたしました。どうかお納めくださいませ」

「お心遣い感謝いたします。エリッサの糸と言えば縫製に携わる者には垂涎の逸品。素晴らしい贈り物、喜んで頂戴いたします」


 二人は笑顔を浮かべながら、形式的な言葉を交わした。

 実際、儀礼なのである。

 この場では腹を割った話などしない。

 用意された台本通りの、仲良しですよと確認する作業なのだ。


 挨拶は手短に済まされた。

 続いて食事会が予定されていたが、エリッサの女王ディドはこれを拒否した。

 格式ばった会食ではなく『三人』でテーブルを囲むことを希望したのだ。

 多少の混乱はあったものの、彼女の要望通りお茶会に変更となった。


 城の二階北側にはバルコニーがある。

 城の正面玄関扉の上階にあたる場所で、広さも並の部屋一つ分はある。

 丸い卓と椅子が運び込まれ、急遽その場が会場となった。


 青空の下、三人で白い掛け布のかかった卓を囲む。

 ディド女王、ティアナート、そしてなぜか俺も同席することになった。

 理由はわからないがディドの希望らしい。

 給仕係のベルメッタを加え、バルコニーにいるのは四人だけである。


 丸卓の上には湯気を立てるカップが三つ置かれていた。

 お洒落な大皿に一口大の茶菓子が色とりどりに並んでいる。


「当然の申し出にもかかわらず、ご配慮いただきありがとうございます」


 ディドはその大きな胸の前で手を組んで、ティアナートに礼をした。


「お気になさらず。人目を気にして振る舞うのも疲れるでしょう」

「……そうねー。じゃあもう女王様やめていい?」


 そう答えると、ディドはへにょりと脱力した。

 ぴんと伸びていた背筋が猫背になる。

 聖女めいた柔和な表情も、途端に気だるげな少女のものに変わった。


「あーめんどくさ。こういうお堅いのって、むだだと思わない?」

「公務とはそういうものです」

「ティアナートはまじめだなー」


 若き女王は茶菓子を一つつまみ、口に放り込んだ。

 身なりが上等な分、違和感が凄い。

 だが驚いているのは俺だけだ。

 ティアナートは落ち着いた様子でお茶を口にする。

 ディドは咀嚼した甘味をお茶で飲み込んだ。

 ふとその表情が陰る。


「でも立派だと思うよ。その、色々あって大変だったでしょ? エルトゥラン大丈夫なのかなーって心配してたんだ」


 言われて、ティアナートは微笑んだ。


「ありがとう。確かに大変ではありました。今もそうです。それでも周りに助けられて何とかやれている……と言ったところでしょうか」

「やっぱ偉いよティアナートは。みんなからも慕われてる感じがするし。私なんかただのお飾り。いてもいなくても、どーでもいいんだもんなー」


 ディドはまた茶菓子を口に放り込む。

 まるでフードコートでお喋りする女学生みたいだ。

 そんな彼女の様子に、ティアナートは何かを察したようだった。


「ディド。何か悩みでもあるのですか?」

「なんか結婚させられそう」

「結婚」


 ティアナートは合点のいった顔で、ふむふむと頷いた。


「トラネウスでの用件はそれでしたか。相手は誰です?」

「ちゃらちゃらした方」

「次男のシルビスですか。ていのいい政略結婚ですね」

「あーあ。なんかもう嫌になるよね」


 ディドはため息を漏らして、頬杖をついた。


「好きでもない相手と結婚して、次は子供を産めってんでしょ。私の気持ちなんかそっちのけ。道具としか見てないんだよ」

「ですがそれもハモンが生きている内でしょう」

「あの爺さん、七十歳を越えてもぴんぴんしてるんだよ。くたばるの待ってたら私が先に倒れちゃう」


 げんなりした様子でディドはお茶をすする。

 ティアナートは同情するように苦笑いした。


 同じ十八歳の女性でも似て非なるものだなと感じる。

 地位とは権力であると同時に自由を奪う足枷でもある。

 がんじがらめにされる苦労もあるのだろう。

 俺は静かにお茶を飲みながら、興味深く二人を眺めていた。


「まー私の話はいいよ。ティアナートはどうすんの?」

「何がですか」

「結婚。その子とするの?」


 ディドが俺を指さしてくる。

 唐突に話題に巻き込まれて、俺は驚き戸惑った。

 ティアナートは強張った表情のまま、ちらりと俺の顔を見た。

 またすぐディドの方に向き直る。


「私のところは別にさー、そこまで血筋とか重要じゃないじゃん。まー、爺さんとか伯母さんはこだわってるみたいだけど。最悪の場合でも神の意志でっち上げて、そこら辺の女の子を担げばいいし。でもティアナートのところはそうもいかないんでしょ?」


 ティアナートは億劫な表情で空を仰いだ。


「王位継承の問題は考えるのも嫌になります。先の反乱で叔父も、叔父の息子も亡くなりました。伯母には娘がいますが、私が伯母を監獄送りにしたことで婚約破棄となってしまった。私が子をなし、王位を継承できなければ面倒なことになるでしょう」

「じゃあさっさと身を固めなよ。周りからもやいのやいの言われてるんでしょ?」

「それは……そうなのですが……」


 ティアナートは眉尻を下げて、困り顔になる。

 彼女が言葉でやり込められるのは珍しいなと思う。


「まーでもだからって遠縁の王家筋のおじさん持ってこられても困るよね。どうせなら若くて好みの男がいい。でも彼には釣り合うほどの地位がない。だから救世主って箔をつけた。どう? 当たってるでしょ?」


 ディドは得意げに、ティアナートと俺とを交互に見た。

 豊かな発想力だなと感心する。

 あるいはエリッサ神国は海を隔てた遠方の国なので、情報が伝わる間に偏向や歪みが生じているのかもしれない。

 ティアナートは呆れた顔で露骨にため息をついた。


「そんな破廉恥なまねをするわけがないでしょう」

「あれ? そうじゃないの?」

「シロガネは本物です。いくら貴方でも怒りますよ」


 冷ややかに睨むティアナートに、ディドはわたわたした。

 申し訳なさそうに謝罪を口にする。


「ごめんなさい。ティアナートは神様の類は信じてないと思ってたから」

「ええ。信じてなどいません」

「えっ?」


 ディドは一連の言葉を頭の中で反芻しているようだった。

 少しの沈黙の後、彼女は何に納得したのか首を縦に振った。


「じゃあシロガネくんさー、私と結婚しない?」

「は?」


 他国の女王様相手に失礼だが、俺はついそんな声を出してしまった。

 ティアナートも『何を言い出すんだ』という表情で彼女を見ている。


「まじめな話ね、私がトラネウスの王子様とくっついたら困らない? うちの爺さんもトラネウスの中年も野心ぎらぎらでしょ。今の内にエリッサの女王を身内に抱き込んどいた方がお得だと思うけど?」


 政治の話になったからか、ティアナートはいつもの冷静な顔付きに戻った。


「魅力的な提案ではありますが、実現は困難でしょう。エリッサ神国の実権はハモンが握っているのでしょう? いくら貴方が望んでも、ご老体にその気がなければ」

「結局そうなんだよね。あーあ。また振り出しじゃん」


 ディドを頭の後ろで手を組んで、椅子にもたれかかった。

 見上げた蒼穹を鳥が旋回するように飛んでいる。


「はーぁ……私も生まれ変わったら鳥になりたいなーなんて」


 ディドはおどけて言う。

 そんな彼女をティアナートは優しい目で見た。


「エリッサ神国がハモンの手を離れたら、その時は良い縁談を世話しましょう」

「期待しないで待ってる」


 二人は微笑み合う。

 その笑みは諦めを多分に含んでいるように思えた。

 きっと彼女たちはわかっているのだろう。

 立場がある限り、自分たちの人生に自由などないのだと。

 真に自由を得る時は全てが崩壊した時だと理解しているのだ。


「ごめんね。なんか愚痴ちゃって」

「かまいませんよ。こんな話ができるのも貴方くらいのものです」


 それからしばらく雑談を交わして、お茶会はお開きとなった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 エルトゥランの城下町の南側、高級住宅街の一角に迎賓館があった。

 エリッサ神国の女王様御一行はこの迎賓館で一泊なされた。

 これからまた陸路を旅して母国に戻られることとなる。

 俺たちは迎賓館に足を運び、ディドたちの出立を見送ることにした。


 館の屋根に止まった小鳥たちが朝日に賛歌を捧げている。

 ティアナートを先頭に迎賓館の表で俺たちは整列した。

 館から出てきたディドたちを出迎える。

 女王とエリッサ教団員は胸の前で祈るように手を組んだ。


「手厚いおもてなし感謝いたします。皆を代表して御礼申し上げます」


 そう言ってディドは頭を下げた。


「またいつでもおいでください。歓迎いたします」


 ティアナートはディドの前まで歩み寄ると、封書のようなものを手渡した。

 顔を近付けて何事かを小声で囁く。

 それからあらためて右手で握手を交わした。


「旅の安全を祈っています」

「皆様にエリッサ女神のご加護のあらんことを」


 別れの挨拶が済んだ。

 ディドは貴人用の馬車に、教団員たちは移送用の荷馬車に乗り込んだ。

 女王様御一行を乗せた馬車が順々に出ていく。

 その後ろ姿が見えなくなるまで、俺たちは見送った。


 賓客を送り出し、表敬訪問は無事に全日程を終えた。

 朝一の仕事を終え、俺たちも城に戻ることにする。

 俺とティアナートは来るときにも使った馬車に乗り込んだ。

 ベルメッタが御者として馬の手綱を握る。

 帰路を行く馬車の車体の中、俺は隣に座るティアナートに尋ねた。


「もしエリッサ神国で事がうまく運んだとしたら、という話でしたけど。俺はあの人と結婚させられるんですか?」

「そんな心配をしていたのですか?」


 ティアナートは純白の手袋をした右手で、口元を隠して笑った。


「あれは戯れのようなものです。真に受けないでよろしい。エリッサで都合のいい政変があったとしても貴方では不適任です。政治に長けた者を送り込まねば意味がないでしょう?」


 それもそうかと納得する。


「貴方は私の救世主です。余計なことに気を回すのはおやめなさい」


 ティアナートは俺の目を見て、たしなめるように言った。

 そのまなざしに安心感を覚えて、俺は素直に頷いた。


 城下町の大通りに敷かれた石畳の上を馬車馬が闊歩する。

 車輪の回転に合わせて、かたことと馬車が揺れた。

 俺は馬車の小窓から町の景観を眺めていたが、ふとあることを思い出した。


「そう言えば、ディドさんに何を渡したんですか?」


 こっそりと手渡していた封書のことである。

 ティアナートは閉じていたまぶたを開いた。


「援軍の要請です。国に帰る途中でアイネオスにまた会うでしょうから」

「トラネウスの国王にですか?」


 ティアナートはトラネウス王国の国王アイネオスを肉親の仇と憎んでいる。

 余程のことがなければ彼に借りを作るようなまねは避けたいはずだ。


「何か大きな問題でも起こったんですか?」

「シロガネ。私は今から貴方に大きな難題を押し付けます」


 ティアナートは一つ息を吐いて、真剣な目で俺を見た。

 ただごとじゃないと感じて俺は姿勢を正す。


「獣人族の国チコモストを攻めます。アカマピの首を持って帰ってきなさい」

「えっ」


 アカマピとは獣人族の王の名だ。

 その首を取れということは、獣人族と本気で戦争をするということだ。

 ティアナートは険しい表情で言葉を続ける。


「厳しい戦いになるでしょう。ですが今こそが好機のはずです。二度の勝利で我が軍の士気も高い。獣人族は優秀な将を二人も失っている。これほどの機会が二度ある保証はないでしょう」

「戦う以外の方法はないんですか?」

「ありません。口先だけの軟弱な手段では獣人族の心は動かせない。アカマピはばらばらだった諸部族を武力でまとめ上げた男です。対話がしたいのなら、なおのこと力を示さなければならない」


 ティアナートの瞳には決意が感じられた。

 初めて出会った日と同じ、未来を想う目だった。

 彼女の気持ちに応えたいと思う。

 だからこそあと一押しの納得がほしい。

 痛みと恐怖で満ちた戦地に飛び込んでいく理由がほしかった。

 俺は確かめるように問いかける。


「アカマピさんを倒せば、エルトゥラン王国は平和になりますか? 獣人族の脅威に怯えなくて済むようになると?」

「……ある程度は」


 ティアナートは重い荷物を肩に乗せたかのように息を吐いた。

 その表情が少し曇る。


「完全な平和を作ろうとするなら敵を根絶やしにするしかない。でも根絶やしなんて現実には不可能なことです。そんな蛮行をやろうとすれば、どれだけ犠牲が出るか。仮にやり遂げたとしても、その時には国がぼろぼろになっているでしょう。民を守るための戦争の結果がそれでは本末転倒です」


 ティアナートはドレスの胸元を右手できゅっと握った。


「だから絶対的主柱であるアカマピを取り除き、獣人族を分解するのです。一つの国ではなく、部族抗争で乱れていた時代に戻ってもらう。そうなれば獣人族による侵略の規模も頻度も減るはずです。結果として兵士の負担が減り、民心の安寧に繋がる。生まれた余力は国の発展させるでしょう。私はそう考えているのです」


 俺はティアナートの目をじっと見つめた。

 彼女の言葉からは憎しみの響きは感じなかった。

 統治者としての責務を果たすために真剣に考えた結論なんだろう。

 だったらその希望を叶えるのが彼女の救世主たる俺の存在価値だ。

 血を流してでも立ち向かわないといけない。

 俺は覚悟を決めて、首を縦に振った。


「わかりました。頑張ってやれるだけやってきます」

「期待しています。ただし必ず生きて戻りなさい。私のいないところで勝手に死ぬことは許しません」


 死地に行けと言いながら、死ぬのは許さないとも言う。

 本当にわがままな人だと思うが、それも彼女らしさなんだろう。

 ティアナートは統治者として時には非情に人に死を命じないといけない。

 しかし彼女の心は善良に根差しているように思える。

 だから努めて己を冷徹な王に落とし込んでいるんだろう。

 その必死な姿こそが彼女の本質なんだと思う。


「ティアナートさんのそういうところ、俺は好きです」

「えっ?」


 ティアナートが目を丸くして、少しの間、固まっていた。

 何度目かのまばたきをした後、はっとしたように彼女は顔をそらした。


「そうやってすぐ甘言を口にして。はしたないからおやめなさい」

「えっ?」


 怒られるとは思っていなくて、なぜだろうと俺は頭を巡らせた。

 ティアナートはこの国の頂点に立つ人物だ。

 自分の一存が大きな影響を与えてしまうことを知っている。

 だから安易に好き嫌いを口にすることもできないのだろう。

 近しい位置にいる俺にもそれを守れと言いたいのかもしれない。


「すみません。思慮に欠けていました。気を付けます」

「えっ?」


 謝ると、なぜかティアナートは驚きの表情を見せた。

 予想外の反応を返されて俺も戸惑ってしまう。

 俺は何か勘違いをしたのだろうか。

 すると彼女は軽く握った右手で口元を隠し、ごまかすように咳払いをした。


「今のは言い方を少し間違えました。問題ないので気にしないで」

「えっ?」


 よくわからないが、俺が失言をしたわけではないのか。

 彼女がいいと言うんだ。だったらそれでいいか。

 ティアナートはほのかに顔を赤くして、馬車の窓に視線を逃がした。


「それよりもです……! チコモストから無事に帰ってきたら、貴方に褒美を取らせましょう。どんな願いでも叶えてあげますから考えておきなさい」


 早口で言ってくる。

 俺はそっぽを向いた彼女をじっと見ていた。

 腰まで伸びた金色の髪が艶めいて綺麗だ。


「別に生活には困っていませんし、特に欲しいものもないんですけど」

「功を立てた者には相応の恩賞を与えなければならない。これは示しの問題です。何もなくても考えておきなさい」


 御恩と奉公的なことなんだろうか。

 罪を犯した者に罰を与えるように、手柄を上げた者には褒美を与える。

 それは確立された国の制度だ。

 救世主様がそれに反するのは色々とまずいのだろう。

 そもそも俺だって拒否したいわけじゃない。

 ご褒美をもらえるなら嬉しいし励みにもなる。


「わかりました。それなら考えておきます」

「よろしい」


 石畳の大通りを馬車が進む。

 慣れてきた町の風景もしばらく見られなくなるのか。

 そう思うと不思議と胸が切なくなるのだった。

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