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23話『宰相の息子』

 城の三階南側にある執務室の中である。

 仕事机のティアナートの前で、俺は情けない昔語りを終えた。

 その間、彼女は一切口を挟まずに聴いてくれた。


「この思い出が俺の動機です。シトリさんを助けたいと思った理由。貴方の救世主になると決めた理由です」


 誰にも言わず、胸の奥にしまって生きてきた。

 それを吐き出したからだろうか。

 不思議と心が軽くなった。


「シロガネ」


 ティアナートは席を立つと、窓辺へと歩いた。

 開いた窓から昼の日差しが差し込んでいる。


「貴方はかつて私に『自分を置いて先に死なないで』と言いましたね。同じ言葉を貴方に送ります」


 窓の縁に右手を置いて、彼女はこちらに振り返った。

 長く伸びた金色の髪がそよ風に揺れる。

 その表情は優しいものだった。


「貴方の死ぬ場所は私が決めます。勝手に死ぬことは許しません。どんなに辛くて苦しくても、その時が来るまで私の為に生きなさい」


 ティアナートの言葉は、聞きようによっては身勝手な言葉だっただろう。

 なのに俺は安心感に包まれていた。


 幼馴染がいなくなったあの日から三年。

 弱い自分を許せなくて、俺はがむしゃらに修行に打ち込んだ。

 とにかく自分を痛めつけることで心が楽になれた。


 あの頃と比べて、背は伸びたし体も大きくなった。

 だけど心は弱いままなのかもしれない。

 俺は誰かを救いたいんだと思っていたけど、それだけじゃなかったんだ。

 誰かに必要とされたかったんだ。

 どんな理由だろうと、ティアナートは俺を必要としてくれている。

 だから彼女のそばにいると、こんなにも居心地の良さを覚えるのだろう。


「いいですね?」

「……はい」


 俺が頷くと、ティアナートはふふっと微笑んだ。


「約束しましたよ。では扉を開けてあげなさい」


 言われるまま執務室の扉を開けると、廊下に二人が待っていた。

 栗色の髪の愛らしい少女は王女専属の侍女ベルメッタだ。

 紫色の役人服を着た同じ髪色の青年は宰相のリシュリーである。


「すみません。お待たせしてしまいましたか?」

「いま着いたところですので、お気遣いなさらないでください」


 リシュリーは涼しい顔で答えた。

 どう考えても嘘だが、それを指摘する必要はないだろう。

 部屋に入ると青年宰相は左胸に右手を当て、窓辺の王女に一礼した。


「陛下。参上が遅れて申し訳ございません」

「かまいません。二人ともこちらに」


 ティアナートは仕事机の椅子に腰を下ろした。

 俺とリシュリーは並んで机の前に立つ。

 ベルメッタは扉のそばに控えている。


「アルメリアとマリージャの家の生き残りのことで問題が起こりました。詳細はシロガネから聞きなさい。対応をまとめて私のところに持ってくるように」

「承知いたしました」

「以上です。二人とも下がってよい」


 リシュリーはあらためて一礼した。

 俺もまねして、彼に続いて執務室を後にした。

 分厚い扉が閉じる。

 赤いカーペットが敷かれた廊下で、俺はリシュリーと顔を見合わせた。


「詳しい話は私の部屋でいたしましょう。案内いたします」


 階段に向かい、城の一階まで下りる。

 一階西側にある大部屋は城の役人たちの仕事場だ。

 事務方の皆さんが机に向かい、書類仕事に精を出している。

 壁際にずらりと並んだ書棚には膨大な量の資料と文書が収められている。

 俺たちは机と机の間を通り抜け、さらに奥の部屋に入った。


 分厚い木の扉を開けた先は宰相殿の個室だ。

 壁際に書棚があるのは先ほどの大部屋と同じである。

 部屋の正面奥に仕事机があり、その上に底の低い箱が三つ置かれていた。

 どうやら書類を分類し、箱に入れて管理しているようだ。

 仕事机の前、部屋の真ん中には卓が置かれており、椅子が四つある。


 また目に付くのは仕事机の脇に立つ燭台だろう。

 机の足下にはろうそくが詰められた金属製の箱が置かれていた。

 これだけの量を常備するほど、夜分にも仕事をしているのだろうか。


「こちらにお座りください」


 リシュリーが卓の椅子を引いてくれた。

 俺は素直に席に着く。

 卓を挟んだ向かい側にリシュリーが座った。

 手元に紙と墨壺を置き、筆を片手に聞いてくる。


「まずは事の詳細をお聞かせ願えますか」


 俺はシトリとギルタにまつわる一連の話をした。

 その間、リシュリーは口を挟まず、走り書きでメモを取った。

 紙に目を落とすのは一瞬で、努めて俺の目を見ているようだった。

 俺が説明を終えると、彼は困惑した様子で筆を置いた。


「シロガネ様。本当にそのような話を陛下にされたのですか?」

「まずかったでしょうか……?」

「監獄に送られてもおかしくありませんよ」


 辛辣な返答に、俺は半笑いするしかなかった。

 傍から見ればそれだけ『とんでもない』ことなのだろう。

 しっかり考えないとティアナートを説得するのは難しそうだ。


 とそんな時、こんこんと扉を叩く音がする。

 リシュリーが入室を促すと、扉を開けてベルメッタが姿を見せた。

 片腕に載せた丸盆にはお茶の一式が載っている。


「お兄様。お茶をお持ちしました」

「ありがとう。ここに置いてくれ」


 ベルメッタは卓にカップを置き、それぞれにお茶を注いだ。

 ティーポットを真ん中に置き、砂糖とミルクの小瓶も並べる。

 給仕の仕事をこなすと、ベルメッタは速やかに退室した。

 さっそく砂糖とミルクを投入するリシュリーに、俺は疑問を口にする。


「お兄様というのは?」

「ベルメッタは私の妹です。ご存じありませんでしたか?」


 リシュリーは匙でカップのお茶をかき混ぜる。

 あらためて近くで拝見して、端正な顔立ちの人だなと思った。

 どこか幼さのあるベルメッタと比べて、落ち着いた印象を受ける。


「初めて聞きました。なんだか意外です」

「これでも昔は似たもの兄妹と呼ばれていたのですよ」


 懐かしむように微笑む青年に、俺は興味を引かれた。

 彼とは今までしっかりと話す機会がなかった。

 その風貌からクールな仕事人間だと思い込んでいたところがある。


「ベルメッタは失礼をしていませんか?」

「いえそんな。ベルメッタさんには本当に良くしていただいて。教え方もわかりやすくて、色んなことを勉強させてもらっています」


 俺にとってベルメッタは身の回りの世話をしてくれる侍女であると同時に、この国の文化や知識を教えてくれる先生でもあった。

 救世主にふさわしい振る舞いができるよう指導せよ、というティアナートのお達しもあって、時間のある日は生徒として教えを受けているのだ。


「妹は陛下の家庭教師を任されていたこともあります。そういう適性があるのでしょう」


 声音もどこか得意げだ。

 実は優しいお兄さんなのかもしれない。

 人の印象というのは話してみないとわからないものだと思う。

 リシュリーはお茶を一口飲むと、さてと真顔に戻った。


「そろそろ本題に移りましょうか。シロガネ様は問題を解決するために何が必要だとお考えですか?」

「そうですね……」


 まず第一に、俺の目的はシトリとギルタの現状を救うことにある。

 二人が一緒に暮らせるようにしてやりたいのだ。

 必要な要件としては最低三つ。

 彼女たちが堂々と表を歩けるように罪を免除すること。

 安定した住居の確保。

 そして生活の為の資金だ。

 考えを伝えると、リシュリーは頷いた。


「実務的にはいま挙げられたことを処理すればいいでしょう。ですがシロガネ様は一番大切な観点が抜けていらっしゃる」


 まだ考えが足りないのかと俺は戸惑う。

 リシュリーは生徒を見守る先生のような穏やかな目をしていた。


「そうすることで陛下に何の得があるのでしょう?」

「得……ですか?」

「交渉というのは善悪で思考するものではありません。損得です。利があると思えば人は動くものなのです」


 ティアナートは俺に政治を学べと言った。

 俺の心の奥底には『人助けだから』という気持ちがあったんだろう。

 その甘えを見透かされたのだ。

 統治者であることを優先している彼女にとってそれは許されない思考だ。

 だがそうなると途端に困ったことになる。


「シトリさんを助けたって、ティアナートさんには何の得もない。それじゃあこの話は初めから無理だったってことですか?」

「いいえ。そう結論付けるにはまだ早いかと」


 リシュリーはティーカップに口をつけた。

 まねして俺もそうする。

 喉を通って胃に流れる温かさが落ち着きを生んでくれた。


「利には色々とあります。どんな人間には使い道はあるものです」


 カップを卓に戻すと、青年宰相は妖しい笑みを浮かべた。


「まずはアルメリアの屋敷を接収し、シロガネ様の所有物とします」

「えっ、なんでですか?」


 リシュリーは『慌てないで』と手の平を見せてきた。


「反逆者の一族の屋敷にお金を出すには相当の理由が必要です。でなければ国民が納得しない。その点、救世主様の名前を出せば名目が立ちます。悪評に不満を持っていた周辺住民はむしろ歓迎するでしょう」


 どうやら彼の頭の中には絵があるようだ。

 ここはその道の先輩の手腕を勉強させてもらおう。


「シトリ=アルメリアは屋敷の召使いといたしましょう。救世主様の御威光に感服し、贖罪するためというのが口実です。それに合わせて屋敷も寄進したという形にしましょうか」

「そうなるとどうなるんですか?」

「シトリ=アルメリアが表立って非難されることはなくなるかと。召使いを笑えば、主人であるシロガネ様を笑うことになる。それは貴方様の後ろ盾である陛下を笑うことと同じです。シロガネ様のご要望に即した生活環境を提供できるかと存じます」


 なるほどと俺は頷く。

 以前、ベルメッタも同じようなことを言っていたなと思った。


「でもそれがティアナートさんの得になるんですか?」

「なります」


 リシュリーははっきりと言い切った。


「エルトゥラン王国を揺るがした反乱からまだ一年です。アルメリア家とマリージャ家は反王家の旗印のようなもの。生き残りである彼女らを反対勢力が担ぎ出さないとも限りません。此度の処置でその旗印をシロガネ様の庇護下に置くのです。傍から見れば、両家が陛下に屈服したと映るでしょう。これは反乱の次の芽を事前に摘むに等しいものです。国家運営の安定に繋がりますので、陛下も満足していただけるでしょう」


 そういう風に筋立てるのかと俺は感心する。

 少し前まで、ただの高校生だった俺には出てこない発想だった。

 ただしこの方法はあくまでも救世主様のご威光ありきだ。

 今はいいが失敗すれば俺は見限られ、威光も地に落ちる。

 そうならないよう結果を出し続けることが必要だ。


「……わかりました」


 俺は背筋を伸ばした。

 楽して人を救おうなんて横着だ。

 誰かを助けたいなら責任を背負って頑張るしかないんだ。


「それでお願いします。リシュリーさん、ありがとうございます」

「お礼を言われることではありませんよ。仕事ですから」


 リシュリーは謙遜して、ティーカップを口に運んだ。

 俺も同様に喉を潤し、ほっと一息をついた。


「ギルタさんの場合も同じ要領で大丈夫なんですか?」


 問いかけに、リシュリーは動きを止めた。

 目を閉じて静かに息を吐く。

 開いた彼の目は鋭く冷たいものだった。


「無理ですね。ギルタ=マリージャは罪が重すぎる。シトリ嬢とは違い、彼女は実行犯の一人だ。誰も納得しないでしょう」


 はっとする。

 俺は大きな見逃しをしていることにいまさら気付いた。

 リシュリーはベルメッタの兄なのだ。それはつまり。

 俺は卓に鼻先が触れそうなほど頭を下げた。


「申し訳ありませんでした。リシュリーさん」

「どうして急に謝られるのです?」

「貴方の気持ちを考えていませんでした。ベルメッタさんから聞いたんです。反乱でご家族を亡くされたって……」

「あぁそのことですか。でしたらお気になさらず」


 リシュリーは平然と答えた。


「私は妹や陛下ほど恨みを引きずってはおりません。今の私にとって重要な事柄ではありませんので」

「そ、そうなんですか?」


 意外な反応にこっちが戸惑う。

 家族の死を重要ではないと言い切れる。

 それはいったいどういう心境なんだろう。


「もちろん憎くないわけではありませんよ。それ以上に優先すべきことがあるというだけです」


 俺はリシュリーに詳しい話をねだった。

 彼は二つのカップにお茶を注ぎ足すと、父親の話をしてくれた。


 リシュリーの父プレシドは先王バニパルの下で宰相を務めていた。

 彼の宿願は強国エルトゥランの復活。

 そのために避けて通れないのが痛みを伴う改革だった。


 プレシドがまず行ったのは土地の再検地である。

 役人に金を握らせて測量結果をごまかして報告したり、国に未届けの荘園を抱えている門閥貴族が多くいることを彼は把握していた。

 当然、強い抵抗があったがプレシドはこれを断行する。

 成功の背景にはバニパル王による強い後押しがあったことが一つ。

 もう一つは弁舌で民衆を煽り、貴族が税金逃れをしているという空気を作り出せたことが大きいだろう。


 次に税制の改正。

 どんな良法も時代の流れと共にそぐわぬものとなる。

 これの是正に手を付けた。

 もっとも税制度の見直しというのはつまるところ増税である。

 今度は庶民も自分の腹を痛めるため激しく反対した。


 これに対しプレシドは獣人族の脅威を題目に掲げた。

 獣人族による国土侵略はエルトゥラン王国の抱える最も厄介な問題である。

 安全保障のための期限付きの徴税制度であるとしたのだ。

 獣人族の王アカマピがチコモスト国内の獣人部族を統一してからというもの、戦略的な侵犯行為の度合いが増したことは国民も肌で感じていた。

 そのため『命には代えられぬ』『臨時の法なら』と法案を容認した。

 しかしその法案を臨時とするために付記された条件が『獣人族の国土を征服するまで』という、実質的に期限を無制限にするものだったことを国民が知るのは新法が布告された後であった。


 ここまでしなければならなかったのには理由がある。

 先代の頃のエルトゥラン王国は行き詰まりが見えていたのだ。

 先に述べたように一番の問題は財政不安と獣人族による侵略だった。

 当然ながら、国民の命を守ることは国家の最優先事項である。

 よって軍事費は自然と増加し、国庫の圧迫は大きな問題となっていた。

 このままでは必要なインフラ整備や社会福祉等への予算を確保できなくなってしまい、国力の低下を招くという負の連鎖が見えていたのだ。

 国を存続させるためにはいつか誰かがやらねばならない。

 そんなプレシドの志をバニパル王は高く評価していた。


 またプレシドは鞭を振るうだけの人でもなかった。

 道路や公衆浴場の補修など、後手に回っていた公共事業も実施している。

 汚職や不正の取り締まりにも熱心だった。

 そのため庶民からの評判はむしろ良いとすら言えた。

 だが槍玉に挙げられた貴族階級、軍部などからは強い恨みを買っていた。

 辣腕の宰相は自身に迫る不穏な空気を感じ取っていた。

 最悪のケースを想定し、才ある息子に事後を託していた。


「もし自分が凶刃に倒れた時はその機を最大限利用せよ。父は生前、私にそう告げていました」


 亡き父を語るリシュリーの目には敬意が感じられた。

 彼は家族の死を重要なことではないと言ったが、仲が悪かったわけでも軽んじているわけでもないようだ。


「利用する……というのは具体的にどういう意味なんですか?」

「国家の繁栄に仇なす危険因子の一掃。つまり粛清です」


 青年宰相は穏やかな調子で、不穏な言葉を口走った。


「あの反乱の後、我々は徹底的に掃除を行いました。反乱分子はもちろん、目障りな既得権益も排除させていただいた。なにせ王殺しなどという大惨事の後です。二度と悲劇を繰り返さないためという大義名分がありましたからね。逆らう者は反逆者として斬り捨てることすら可能だった」

「反乱が起きて良かったってことですか……?」


 恐る恐る尋ねる俺に、リシュリーは首を横に振った。


「私が生まれたルクレール家は何代にもわたって王家に仕えてきました。あのような惨劇、望んでいたはずがありません。不幸を不幸のままにするなという父の教えを守っただけです。それに……」


 ふと彼は言葉を詰まらせ、目を伏せた。


「できるなら、もっと父のそばで学びたかった」


 その表情には哀しみの色があった。

 大切な人を亡くした空虚な喪失感は俺も知っている。

 少しでも疑いを持った自分に申し訳ない気持ちになった。


「すみません……」

「かまいませんよ。当時はよく陰口を叩かれました」


 青年宰相は軽い調子で笑みを浮かべた。


「ですが風通しが良くなり、間違いなくエルトゥラン王国は変わりました。必要な措置をむだなく素早く行える土台ができた。私は父の遺志を継ぎ、このエルトゥランをより素晴らしい国にしたい。ティアナート様の下ならそれができるはずです。私にとってこれ以上に大切なことはありません」


 リシュリーの声には熱がこもっていた。

 未来を見据える彼の目はとても輝いて見える。

 こんなにも情熱的な人だったなんて思ってもみなかった。


「俺、リシュリーさんみたいな人は好きです」


 夢を持って前向きに頑張っている人は格好いいと思う。

 俺は根っこが後ろ向きだから、余計にまぶしく見えるんだろう。

 憧れると言ってもいい。

 俺の言葉にリシュリーは困ったように笑った。


「私もシロガネ様のことは十二番目に好きですよ」

「それって褒めてもらえてます?」

「もちろんです。自慢していただいてもかまいません」


 冗談めいた言い回しに俺も笑う。

 長話で少し疲れたのもあり、俺たちは自然と休憩をとった。

 しばしの間、静かにお茶を味わう。

 それからまた、空になったカップにポットのお茶を注いだ。


「さて、ギルタ元百人隊長の処遇についてですが。私の考えを述べさせていただいてよろしいでしょうか?」

「お願いします」

「彼女はトラネウス子飼いの工作員になったようですね。でしたらそれを利用させていただきましょう」

「と言うと?」

「彼女にはトラネウス国内を探る諜報員になってもらいます。もちろん敵の懐であるトラネウス暗部に属したままでです。その見返りとして刑の執行を一時的に凍結する。もちろん仕事相応の給金も出します。おそらくこれが精一杯の妥協点かと……」


 要するに二重スパイということか。

 俺は少し思案する。

 ギルタには足を洗ってほしかったが、それは叶えるのは難しいか。

 それでも現状のままでいるよりかはましだろう。

 少なくとも指名手配中の死刑囚ではなくなるのだ。

 以前よりは気楽にシトリに会いに来られるはずだ。


 今はここが落としどころなんだろう。

 一足飛びに願望を叶えようとするのは虫が良すぎるんだ。

 歯がゆいけれど一歩ずつ近付けていくしかない。


「わかりました。その案を二人に話してみようと思います」

「お任せいたします。陛下には私の方から報告しておきますので」


 相談を終えて、俺は宰相の部屋を後にした。

 体もそうだが、それ以上に頭の方がくたくただ。

 とりあえずご飯を食べに行こう。

 そう思い、俺は足早に食堂に向かうのだった。

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