うわ……私の求人酷すぎっ!パーティーメンバー募集をかけたら変人しか来ずに不採用の連続!見る目が無いって言われたってこっちも困る!
「君、今日でパーティー抜けてもらうね。短い間だったけどありがとうね」
俺は目の前に居る男性にそう声をかける。
「なんでですか!なんで俺を追放するんですか!」
パーティーをクビになるなんて思っていなかったのであろうその男性は声を荒らげるがこれは決定事項。
「追放って……人聞き悪い事言わないでくれよ……何もしないなら抜けてもらうに決まってるでしょ。それにこのままだと抜けてもらうって事は一週間前に言ってたよね」
怒りに拳を震わせる男性。
しかし、俺は何も間違った事は言っていない。
俺たちも慈善事業で冒険者をやっているのではないのだから。
◇
「はぁ……また除名かぁ……」
拠点に戻った俺は溜息を吐く。
今日、除名を宣告した男性でこの三ヶ月で三人目。
流石に一月に一人の除名は多いだろう。
何故こうなってしまうのか。
「気を落とすな」
「まぁまぁ、そんな深刻にならなくて良いんじゃないの?」
そうやって声をかけるのは現パーティーメンバーの魔剣士と賢者だ。
俺達三人は『アニマ』という名前で活動している冒険者だ。
パーティーを組んで数年、それなりの実績を上げてきた。
三人での連携は中々に強く、ギルドからの評判も良い。
数多くの依頼を解決し、時には国家間の騒動にも顔を出している内にギルドの冒険者ランクはAまで上がっていた。
AランクでありながらSランク相当の少数精鋭パーティーと言えば俺たちだと呼ばれるくらいに知名度も実力もある。
しかし、俺達には問題があった。
人数が三人しか居ない事だ。
「大体さぁ~前にも言ったけど、人増やす必要あるの?私達だけで十分じゃん。面倒臭い人間関係嫌いなのよね」
賢者が言う事はもっともではある。
俺たちのパーティーは三人で完成されていた。
敵の前面に立ち、進行を食い止める防御力と火力も出せるだけの攻撃力を両立させた重戦士の俺。
近接も遠距離も本職と同等以上にこなせる上に補助など痒い所にも手が届く万能の魔剣士。
攻撃だけではなく回復索敵補助を極めた後衛職として突き抜けた才能のある賢者。
俺達、アニマはそれぞれが一つ以上の役職を兼任できる多彩な三人が組んでいるのが強みだ。
他パーティーからヘルプが入った時も俺達三人で対応できないような事は少ない。
だからこそ、この少人数でAランクまで上がれたと自負している。
そんなパーティーにメンバーを追加しようと思ったのは三ヶ月前だ。
動機は単純。
俺たちがSランクに上がれない理由はその人数の少なさ故だとギルド職員から聞かされたからだ。
「まぁ困ってるわけじゃないけどさ……ほら、Sランクの一歩手前じゃん、俺たち。人数増やせば行けるかなぁ……って」
「別に良いじゃんAで。Sなんてなっても面倒臭い依頼が増えるだけよ」
「今も扱いはSとほぼ同等……不満は俺は無い」
魔剣士が言うように俺たちはAランクでありながらギルドに実力を認められているため、ほぼSランク扱いだ。
臨時招集などがあった時もSランクパーティーが集められている中に俺達が混ざるという事が何度もあった。
賢者と魔剣士は今の現状に不満は無いという事だがリーダーとして俺は思う事はある。
「だけどさぁ、同じことやってるのに微妙に俺らって報酬少ない時あるんだぜ」
「それは知ってるけど……まぁ人数少ないのは間違いじゃないし。別にギルドも嫌がらせしてるわけじゃないでしょ」
俺達は個人の技能だけを見ればSランクと名乗っても良いだけの力量がある。
他のパーティーのリーダークラスと戦っても負けはしないとそれぞれが自負していた。
だけど、三人しか居ないという事が足枷になる事はあった。
それを解消したいと思ったのだ。
そう思って頭を抱えていた俺に魔剣士が静かに話す。
「そんなに納得が行かないなら、少し反省会をしないか?」
彼は口数少なく、俺達相手にはほぼ喋らない人見知りだけど俺達相手には普通に喋ってくれる。
基本的に受け身な姿勢が多く、こうやって何かを提案してくれる事は多く無い。
それだけ彼も俺が悩んでいる事を心配してくれていたという事がわかり嬉しく思う。
「反省会かぁ~……ここ三ヶ月くらいのって事?」
「良いわね。問題点を明確にしましょう。そして本当に追加人員が必要かどうかを改めて考えましょう」
そうして俺達の追加人員問題はパーティーの全体会議の議題となったのだった。
まぁ、全体って言っても三人しか居ないけど。
◇
「では、冒険者パーティー『アニマ』の今後を決める反省会を始めようと思います」
行きつけの酒場に陣取り飲み物が行き届いたのを合図に俺達の反省会が始まる。
口火を切ったのは賢者だ。
どうやら言いたいことがそれなりに溜まっていたらしい。
「私が思うにさぁ、まずこの求人が良くないと思うんだよね」
そう言いながら賢者が取り出したのは俺がギルドや酒場に貼る用にと作成したパーティーメンバー募集の紙だ。
三ヶ月前に人員追加を思い立った俺が一番最初にした事がこれを作る事だった。
まず、募集してる事を知ってもらわないといけないと考えたからだ。
「良くないって……何がだよ?」
賢者がテーブルに置いたチラシをムっとした顔で見る。
これを作るのに俺はそれなりに労力をかけた。
はっきり言って慣れない仕事だ。
チラシには俺が考えたパーティーの利点やセールスポイントが書いており、やる気のある新人を募集している事が一目でわかるようにイラストも添えた。
ちなみにイラストも俺が書いた。
魔獣をぶん殴ってる方が全然簡単だった。
「何がっていうか……全部?もう一度冷静になって見てみなよ」
まさかの全否定だった。
俺が作った渾身のチラシが全否定?
そんな馬鹿な事があってたまるか。
あのチラシには俺の全てが詰まっているというのに!
そう憤慨しながらもこのパーティーで一番頭がよく冷静な賢者の言葉に俺は従う。
『アットホームなパーティーです。
みんな優しくやり甲斐のある仕事。
Sランク昇格も夢じゃない。
経験不問、やる気がある人大歓迎。
出来高制だから魔獣を倒せば倒すほど稼げる!
確かな実績!経験豊富な先輩方があなたを待っています!』
うむ。
ウチのパーティーの良さがこれでもかと詰まっている。
しかも可愛いイラスト付きだ。
デフォルメされた賢者が可愛く添えられている。
これは心が動かされるだろう。
「何か悪いか?」
「悪いわよ!」
俺の言葉に飲んでいたビールのジョッキをテーブルに叩きつけながら賢者が叫ぶ。
「まずねぇ、アットホームなパーティーって何よ!みんな優しくやり甲斐のある仕事って何よ!」
「それは求人の定形文句ってやつだよ。それに俺達は仲良いだろ?堅苦しいのは嫌いだし……それにやり甲斐はあると思うし……ダメかなぁ」
「怪しさ満点よ!誰よ、こんな文言をこいつに教えた奴はぁ!」
誰に教えてもらったとかではなくギルドの掲示板を見て学んだ結果だったのだが悪かったのだろうか。
結構な数の求人に使われていたので書き出しとしてはそれが正しいのかと思ったのだけど。
「あとねぇ……私達はSランク昇格間近よ。それは間違いないわよ。Sランクに上るために人数増やそうとしてるんでしょ」
「そうだよ、書いてある通りだろ」
「だったら経験不問じゃダメでしょうが!使える人を募集しなさいよ!具体的な求めてる能力を書きなさいよぉぉぉぉ!」
「でも……正直、俺達は三人で完成されてるような物だから改めて欲しい能力とか無いし……」
「だから募集なんてする必要ないって言ってるでしょうがぁぁぁぁぁ!あと言い忘れるところだったけどイラストぉぉぉぉぉ!なんで私なのよ!なんで下手なのに私ってわかるのよ!」
賢者が吠える。
こんなにテンションが高い賢者を見るのは珍しい。
まだ酔いも深まっていないだろうに、少し心配になってしまう勢いだ。
ここまで声を張り上げている彼女を見るのは珍しい。
それだけ賢者も本気になってくれている。
そう思いたい。
俺に罵声を浴びせたいわけではないと。
イラストの恨みを晴らそうとしている訳ではないと。
「……出来高制だから活躍すればするだけ稼げる。これも良くない」
ボソッっと呟くように魔剣士が指摘を口にした。
「ウチのパーティーは昔から出来高制なんだから今更変えれないだろ。それに働かざる者食うべからずだ」
俺達三人は手にした報酬を三等分しているわけではない。
一番活躍したと思われる人間が多くを手にし、そうでは無い人間は少なくなる。
未だかつてそんな事になった事はないが全く何もしない場合は報酬がゼロになる。
それに文句を付けるなら働けと言う話。
それがウチのパーティーだ。
「新しく入った人……活躍する機会が無い。だから報酬ほぼ貰えない」
「あ~それはそうね……元々私達だけで十分なんだから、新人が活躍する事なんて相当な実力が無いと不可能よ。それなのに経験不問だもんね」
うっと言葉をつまらせる。
言われてみれば確かにその通りであった。
俺達が全てを先に片付けてしまえば新人が力を発揮する機会など無いわけで、そうすれば報酬も貰えない。
「大体、経験豊富な先輩方が待ってるって書いてるけど、乗り気なのはあんただけで私達はあんまり乗り気じゃないわ。はっきり言って私は待ってないわよ」
「この求人……ヤバいなとは思っていた。これを見て来る人なんて俺も待っていない」
「うぅ……気づいてたならもっと早く言ってくれよ……」
どうやら二人は俺が作った求人が良くない事はもっと前から気づいていたようだ。
だが、そもそも人を増やすのに消極的だった二人は指摘を今までしてくれなかった。
どうやら俺が空回りしていただけのようだ。
泣きそうだ。
「それは……悪かったわよ。でも、この一連の出来事で私達の評判がちょっと下がってるみたいだからさ、そろそろ止めようと思ったのよ」
それは初耳であった。
「知らないの?私達が将来有望な新人をパーティーから追放した。あいつらは人を見る目が無いとか言われてるのよ」
「な、なんだよそれ!」
「真実。俺もそれを聞いた。追い出された奴が噂を広めてるらしい」
一人目の新人はすぐに応募に来てくれた青年だった。
歳は俺達よりも少し下で初めての新人だったので俺は張り切ってパーティーの説明をしたものだ。
だけど、彼は全く戦闘などができなかった。
聞けば戦ったりするのは苦手だけど経験不問となっていたから応募したと言うのだ。
流石にダンジョンに連れて行けないレベルの非戦闘員はダメだとお断りしたのだ。
「なんか、鑑定能力?とかが凄い人だったんだって。戦利品の値打ちとか正確にわかるらしいよ。それなのに不当に追い出されたって騒いでるんだってさ」
「そんな事……俺達に言ってくれなかったじゃないか!」
そんな能力があるなら言ってくれれば後方待機で色々任せる事もできたかもしれない。
俺は戦士であって他人の力を見抜いたりする能力があるわけじゃないのだから。
戦闘技能を見抜けなかったならまだしも、それ以外の物の事なんて気づけるわけがない。
「今じゃ大手パーティーの専属鑑定士に誘われてるらしいわよ」
「言ってよ……そういうの得意だって言ってくれよ……アピールしてくれないとわからないよ……」
俺はテーブルに倒れ込む。
戦闘要員募集だったから裏方が得意と言い出しづらかったのかもしれない。
だけど、自分に強みがあるなら言ってもらわないとこっちだってわからない。
なんで自分のセールスポイントを隠すんだ。
こちとら戦闘面以外はザルなんだから隠されたらわかるわけが無いのだ。
「こういう事ができます、これは他人には真似できません。そういう自分の強みを言ってくれるだけで良いのにぃ……それを言わないで気づいてくれってのは甘えだろ!なんでそれでこっちが見る目無いって言われなきゃならないんだよ!」
「普通じゃない神経のコミュ障だからあんな怪しい求人に引っ掛かってウチに来たんでしょ」
賢者が俺に白い目を向ける。
痛い!
賢者の視線が刺さりすぎて痛い!
「二人目も俺達の事を悪く言っていた」
俺達の募集に来た二人目はとにかく病弱で一般的な生活にも困るような状態だった。
だけど、わざわざ俺達のパーティー募集に応じてくれたのだから何かしらの秘密が隠されている実力者なのかと思ったのだ。
当然だけどそんな事はなかった。
あるはずがなかった。
「なんでだよぉ……結構優しくしただろぉ……むしろ、あんな状態の人を一時的にでもパーティーに入れて多少のお金をあげたのは優しいだろぉ……」
流石に普通に生活するのも困難な状態の人間を魔獣退治やダンジョン攻略に連れ回すわけにはいかない。
当面の生活に困っているというのはわかったので多少のお金を渡して除名させてもらったのだ。
「俺達のパーティーから抜けた後に力が覚醒したらしい。体も丈夫になったそうだし、何か色々と強くなったらしいぞ」
「そんなのしらねぇよ!俺達のとこに来たときは何も出来ない状態だったじゃん!だったら、強くなった状態でもっかいウチに応募しろよ!」
「あっちからしたら見下されたとか感じてたんじゃないの?知らないけどさ」
弱かった頃の自分を馬鹿にした人を見返してやろうとかそういう感じか?
いやいや、馬鹿になんてしてないだろ。
なんでそうなるんだよ、こっちだって何もできない奴をパーティーに入れれるはずないだろうが!
慈善事業じゃねぇんだぞ!
それに何で抜けた後まで絡んでくんだよ!
「強くなったのは目出度い事なんだろうけど、わざわざウチの悪口言うなよ!」
「弱者を救う心の広さが無いんだそうだ」
「しらねぇよ!弱者なら教会にでも行けよ!こっちは冒険者なんだよ!パーティーメンバーを募集してるんだよぉ……」
全身から力が抜けていく。
俺がしていたのはどうやら失敗ばかりだったようだ。
「で……三人目は?あのペット連れてきてた人だろ。なんだ?あのペットが実は凄い魔獣だったとかそういうのか?」
「あれ?知ってたの?ケルベロスだったんだって」
「言えよ!言わないとわからねぇよ!何で隠してんだよ!」
もっと表に出せよ!
なんで自分のアピールポイントを隠すんだよ!
黙っちゃわかるものもわからねぇよ!
「だから経験者募集とか、職業指定とかしないと……ああいうあからさまに怪しい募集に来るのは変なのしか居ないんだから」
「うぅ……俺はあかさらまな怪しい募集をかけたつもりは無かったのに……未経験者の可能性も信じてみたかっただけなのに……」
「可能性の中には悪い可能性もあるからな」
「次からはもっと色々な方面から能力を確認しないとダメって事か……後から覚醒するとかいう予測しようも無いのはどうしようもないけど……」
泣き崩れる俺を慰めるように賢者と魔剣士が肩を叩く。
だけど俺は諦めない。
一度の失敗で諦めたりはしない。
俺は顔を上げて宣言する。
「くそぉ!もっと良い求人を出して有望な新人をゲットするぞ……!今度は歌を作って……アーニマアニマ高収入!とか……」
「何その怪しい歌は。三人で良いじゃん」
「うむ、増やす必要を感じないな」
賢者と魔剣士が呆れた顔で俺を見る。
なんと非協力的なパーティーメンバー達だ。
どうやら俺達のSランク昇格はもう少しだけ先になるようだった。
自分の強みをアピールしないとそりゃ追放されるだろから書き始めた話が気づいたらブラック求人の話になってた。
我ながらよくわからない、暑いからかな。