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ヴァーガー

作者: 杜若表六

ウェイジャーの膨大な証言から作成されたヴァ―ガーについての簡潔な報告書




余剰、瑕瑾、過誤、下落、廃点、真逆、無重力、無意味として知られているところの……


ある日わたしは散歩にでかけた、とウェイジャーにヴァ―ガーはいう。ある日わたしは散歩にでかけなかった、ある日わたしは散歩にでかけた。ある日わたしは散歩にでかけなかった。ある日わたしは散歩にでかけなかった、ある日わたしは散歩にでかけた。ある日わたしは散歩にでかけなかった、ある日わたしは散歩にでかけなかった。ある日わたしは散歩にでかけなかった、わたしは、とヴァ―ガー、散歩にでかけなかった。


だれかがだれにも理解されないのではなく、われわれは生の内でなにをしようとわれわれに理解されない、とヴァーガーは書く。われわれは生の内でなにをしようとわれわれにまちがった理解をされる。つまり、われわれは生の内でなにをしようとわれわれにわれわれ自身の狭窄した視野ごしにしか理解されない、とウェイジャーへヴァーガーは書いた。


ヴァ―ガー。死んでいる。


失敗とは、とウェイジャーにヴァ―ガーはいう。疲労と、不眠の間の倅だが、正確にいえば、失敗はそういった暗喩ですらない。われわれがわれわれに直面したとき、正確にいえばわれわれがわれわれに直面することは不可能なのだが、とヴァーガー、われわれはわれわれではなく失敗と直面している、とヴァーガーは述べる。直視しようとするとき、それについて思考しているとき、直視せず、思考せず、われわれは制止している。とヴァーガー、まさにいまのように。


結局のところ、とヴァーガーはいう、われわれは生の内に、殻のない卵の内に、いややはり生の内に、なすすべなく、「しかし」という逆接にもかかわらず、やはりなすすべなく、生の内はなすすべなく、とヴァーガーはいう、われわれの生の内に、つまり外なき内の中に、それ以上はなすすべなき境界の内に、とヴァ―ガー、なすすべなく。


ヴァ―ガー。死んだ。


生の内の時間という律動が、とウェイジャーにヴァ―ガー。たえず盲目的に生殖をつづける生の内の時間という律動が、われわれをおいたて、われわれをおいこみ、われわれをおいおとす。たえず盲目的に生殖をつづける生の内の時間に。そして、われわれは、時間について考える、とか、時間について話す、とか、時間について……なにをしようとしても……とヴァ―ガーはいう、すべてできない。


生の外に死があるというのはまちがっている、とヴァ―ガーは書く。生の内に死があるというのもまちがっている、死があるというのはまちがっているし、死がないというのもまちがっているし、生の内というのもまちがっているし、生の外というのもまちがっている、とヴァ―ガーは書く。われわれがいうことはまちがっており、われわれのいうことはまちがっている、とヴァ―ガーは書く。


ヴァ―ガー。死ぬ。


なにもかもほうりだしてほうけている、とウェイジャーにヴァ―ガー。なに、もかもほうりだしてほうけている、なにもかも、ほうりだしてほうけている、なにもかもほうり、だしてほうけている、なにもかもほうりだして、ほうけている、なにもかもほうりだしてほうけて、いる、私は散歩も思考もなにもかもほうりだしてほうけている、とヴァーガー。ほうほうのていで家へにげかえるのだ、とヴァ―ガー、なにもかもほうりだしてほうけているために。ほうりだしてほうけるためにほうほうのていで家へ、ほうりだしてほうほうのていでほうけるために家へ、ほうけるためにほうりだしてほうほうのていで家へ、ほうけるためにほうほうのていでほうりだして家へ、ほうほうのていでほうりだしてほうけるために家へ、ほうほうのていでほうけるためにほうりだして家へ、にげかえり、にげかえりそこね、とヴァ―ガー。だれかがわたしをみる、だれかがほうほうのていのわたしをみる、だれかがほうりだしたわたしをみる、だれかがほうけたわたしをみる、あるいはみそこねる、とヴァ―ガー。わたしはだれかをみる、ウェイジャーをみる、キャンサーをみる、エイクをみる、あるいはみそこねる、それがウェイジャーでなければキャンサーかエイクが、キャンサーでなければウェイジャーかエイクが、エイクでなければウェイジャーかキャンサーが、あるいは二人づつか、三人で、家までわたしについてくる、あるいはだれもついてこない、とヴァ―ガー。いずれにせよ、わたしは気がつくと家へかえっている、わたしはいままで家へかえりそこねたことはない、とヴァ―ガー。わたしはいま家にいる、あるいは家にかえりそこねている、そうだとしたら、それはつまり、いままさに家にかえる途中だということじゃないかね、とヴァ―ガー。


ヴァ―ガー。死。






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