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プレイ時間 02:18:03~02:29:42 ~光の救世主VS闇の騎士~

「思ったより早かったな。救世主アッシュよ」


 黒い玉座に座っている闇の騎士ガローランド。その隣には空席の玉座がある。おそらく花嫁セーラを座らせる用のものだろう。


「……貴様、聖女の加護を持っているな。気配で分かるぞ。しかし加護に頼らず、装備せずにここまで来るとはな」


 目をすがめてアッシュの装備を確認すると、ガローランドは喉の奥で笑いをこらえ、次第に我慢できなくなり、悪の親玉らしい高笑いへと転じた。


「何がおかしいんだよ。説明しろよ」


 アッシュがすごむが、ガローランドは笑いを止めない。

 しかし、アッシュはその笑いの中に痛みを伴う悲しみのようなものが含まれていることに気づいた。


 なぜ気づいたのかというと、録り溜めしていたドラマのラストシーンで、犯人役の俳優がちょうどこんな笑い方をしていたからだ。


 最初は気づかなかったが、ガローランドはセーラを花嫁にすると言っていた割に、かなり年齢が上のようだ。

 おそらくリアルのアッシュ――つまり、真佐江と同世代のアラフォー世代だ。


 ちょっと陰のある渋めのイケメン。


 至近距離で見てみれば、真佐江的にはかなりアリな感じの男性だった。


「なあ、アンタ。本当はなにか理由があるんじゃないのか?

 世界を滅ぼすだの、ヘタすりゃ自分の娘くらいの歳の女の子を嫁にするって言ってるのってさ。俺で良ければ、話聞くぜ?」


 ドラマで主人公が言っていたセリフを流用してみる。


「お前もいずれ俺と同じになるのさ」

 ガローランドは自嘲の笑みを浮かべながら言った。


「俺たちは聖女様の犬なんだよ。お前もここに来るまでに味わっただろう。殺されても殺されても蘇らせられ、戦いから解放されることのない、いつ終わるとも分からない苦痛の日々を」


(ごめん。まだ死んでないし、30分しか経ってないから同感できない。テヘペロ☆)


 という心の声にはがっちり蓋をして、アッシュは神妙な顔でガローランドの語りを聞いていた。


「それでも俺は聖女ローラ様への忠誠と愛のため、どんな苦痛にも耐えた。

 強大な敵を前に装備を強化する金が底をつき、金を貸してほしいと頼む俺を家族が見放し、満足した装備を整えてやれないばかりに次々と殺されていく仲間の断末魔の叫びが今でも俺の耳を離れない……!

 それでもローラ様が、自分には俺という存在しかいないのだという言葉を信じて、俺は一人でその地獄を耐えた!

 だが悪を滅ぼし、世界に平和が訪れたあと、ローラ様はあっという間に国王へと嫁いだ!

 まるで……まるで前から決まっていたかのように……。

 俺に愛してると口にしながら、聖女の力は純潔に宿るから世界が平和になるまで待ってほしいと約束していたのに、あの人は嫁いですぐ、次の聖女となるセーラを生んだのさ……」


 アッシュは自分のことのように胸が痛くなった。


(――それはひどい……)


 どう考えてもそれは遡って()()を運んでいる。そして男を弄ぶ遺伝子は聖女の力と一緒にセーラへと受け継がれたのだろう。


「ひでえな。全然聖女じゃねえよ。娘といい母親といい、ろくでもねえな」


「お前も、セーラの許嫁といったな。今頃お前も裏切られてるかもしれんぞ」


 ガローランドが同情を込めた視線をアッシュへと向けた。


(いや、俺の場合は完全にハメられただけで、全く好きでもなんでもないけどね。だいたい俺、女だし。テヘペロ☆)


 という心の声にはがっちり蓋をして、アッシュは神妙な顔でガローランドと視線を合わせた。


「なあ、腹いせに娘を嫁にしたところでアンタの心の傷は癒されんのか? 所詮悪女の娘だぜ? 俺が見た感じロクな女じゃねえし、アンタまたその娘に振り回されちまうんじゃねえ?

 アンタ、見たところ顔も悪くねえし、アンタに合ったいい女がいるって絶対」


 自分に夫がいなければ是非とも名乗り出たいところではあるが、異世界だからといって不貞行為を働く神経はアッシュにはない。そもそもここだと男同士になってしまう。


(……男同士か……)


 学生時代そういうのが好きな腐女子にそういうマンガをすすめられて読んだことはあった。

 

(――俺とガローランド、どっちが攻めでどっちが受けなんだ?)


 アッシュが脳内で良からぬことを考えているとも気づかずに、ガローランドは憂いを含んだ苦々しい笑みを浮かべた。


(うーん、渋い。かなりタイプかもしれない……)


 アッシュの妄想が膨らむ。


「お前の持っている聖女の加護、俺も……身につけている。

 邪神竜にさらわれたローラ様を助けた暁にいただいたものだった。お前のように身につけずに、袋に入れて大切に持っておけば良かったな」


 おもむろにガローランドが胸をはだけさせた。

 あふれ出る男の色気にやられ、アッシュは思わずその厚い胸板とセクシーな鎖骨に釘付けになった。


「見ろ。これが救世主を救世主たらしめる加護の正体だ」


 ガローランドの首飾りが、根を張った植物のように、鍛え抜かれた胸板に侵食していた。

 首飾りの宝石は赤黒い光を放ち、まるで心臓のように鼓動している。


 思わず声を失うアッシュ。


「これがある限り、俺はあの方から解放されることも、愛することを止めることもできない。

 どんなに苦しくても、どんなに手に入らなくてもだ……。

 だからもう疲れたんだ。世界を滅ぼし、一緒に俺も消えてしまいたい。もう、自由になりたい」


「ひでえ……マジかよ。ホントにとんでもねえ女だな……。

 なあ、アンタを助ける方法ってないのか? 悔しいよ、アンタみたいないい男が、あんなひでえ女に人生をボロボロにされるなんて……そんなの絶対許せねえ」


 本気の怒りを滲ませるアッシュに、ガローランドは目を細めた。


「ふっ、自分の跡を継いで自分を倒しに来た男にこんな話をするとはな……。

 聖女の加護を切れるのは、同じく聖なる加護を受けた光の剣のみ。お前は持っていないのだろう?

 まさか素手で乗り込んでくるとは思わなかった」


「……! ある! 持ってる!!」


 アッシュは道具袋の中からチャムから脅し取った光の剣を取り出した。


「持っていて装備していないとは、さらに驚きだな。変なヤツだ」


 ガローランドが苦笑する。

 笑うと目尻にわずかにしわが寄る。


 渋い。カッコいい。笑った顔もいい。実にタイプだった。


「なら頼む、光の救世主よ。俺の体ごとこの加護を斬ってくれ」


「んなことできるわけねえだろ!? 首飾りだけ壊せば……!」


 ガローランドが静かに首を振る。


「もう完全に同化してしまっているんだ。これを壊せばどうせ俺の命はない。やってくれ。お前になら斬られてやってもいい」


「ガ、ガローランド……嘘だろ?」


「やってくれ。お前には待ち人がいるんだろう?」


 アッシュの脳裏に、娘の美緒がお弁当を持って喜んでいる顔が浮かんだ。


(そうだ、俺は今すぐに帰らなくちゃいけないんだ……!)


「うわああああああああああ!!!」

 アッシュは目をつぶり、思い切り光の剣を振り下ろした。


 嫌な手ごたえがした。

 生温かいものがアッシュの体にかかる。


「次はもう、争いのない世界で……」


 ガローランドの最期の呟きが聞こえ、アッシュは目を開け、血まみれのガローランドに駆け寄り、大きな手を握りしめた。


「アンタ、こっちの……俺たちのいる世界に転生しろよ! アンタみたいなヤンデレキャラ、結構モテるから!! そんで地味だけど性格のいい彼女作って、クレープとか食べちゃってさ、2ケツでチャリ乗ったりしてさ……そういう普通の恋愛しろよ……!」


 ガローランドの死に顔は微笑んでいた。


 アッシュは闇の騎士ガローランドを倒した。


 ガローランドを倒したことで、城が崩れ始める。

 アッシュは自分の道具袋から聖女の加護を取り出すと、床に置き、光の剣をつきたてた。

 キーンと断末魔のような鋭い音を立てて首飾りは粉々になった。


 アッシュはガローランドの亡骸に光の剣を乗せると、体温を失いつつある手に握らせた。そして心の中でガローランドに語りかける。


(アンタがこの世界を守り続けてたんだ。アンタは、最初から最後まで光の騎士だったよ)


「向こうで逢おうなガローランド。俺で良ければクレープ奢ってやっから……」


 アッシュはガローランドに背を向けると、無我夢中で走った。


 仲間が待っている。


 家族が待っている。


 スーパーの閉店時間が迫っている。


 アッシュは渾身の力で走った。


 もうアッシュにはリアルの世界が今いったい何時なのか、もう分からなくなっていた。



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ふたたび伝説が始まる……
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