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プレイ時間 01:56:39~02:18:03 ~闇の騎士の城~

「アッシュさんって、なんかすごいよな。あの脅し、見ててちょっと怖かった」


「わかる。あのあとも結局、チャムってヤツから吐かせられるだけの情報を吐かせ尽くしてたもんね」


「なんだろ。脅し慣れしてるっていうと言い方悪いけど……」


「わかる。いい人そうに見えて実はリアルはヤバい人だったりするパターンだったり……」


 アッシュから15分でボス戦の準備をするように言い渡され、各自がそれぞれ準備を終え、待ち合わせ場所に集まっていた。


 【さすらいの勇者】Bと課金経験者の【癒やしの勇者】Dがチャムとの一件について話し合っている。それを横で聞いていた面接予定の【疾風の勇者】Aがポツリとつぶやいた。


「でも死んだら元の世界に帰れるなら、もしかして死んじゃうのが一番手っ取り早いのかな」


「ダメよ」

 会話を遮ったのは、遅れて現れた課金否定派の【きまじめ勇者】Cだ。

 なぜかとても疲れた顔をしていた。


「その件はすでに確認済みよ。私たちには聖女の強制転生という神レベルの加護があって、死んでも蘇ってしまうの。ちなみに本当に死ぬほど苦しいからおすすめはしないわ」


「え? 自殺してみたの?」


 【癒やしの勇者】Dが驚愕の表情で【きまじめ勇者】Cを見た。


「違うの。アッシュさんに言われて、あのあとすぐに二人でグリフォンを1匹捕まえに行ったの」


「え? なんで急にグリフォン? え? あの後って、15分前の話? え? どこまで行ってきたの?」


 【さすらいの勇者】Bが話についていけず質問を連発するが、【きまじめ勇者】Cは完全に無視して勇者Dの質問にだけ答えた。


「ボスの城に一番早く行くための交通手段として、一番最短で手に入る、大きめの飛ぶ系のモンスターを確保できる場所に連れて行けって言われて、ホントに今さっき……」


「え? この15分で? え? 行ってもう帰って来たの?」


 【きまじめ勇者】Cの説明途中で、再びさすらいBが質問の連続攻撃を繰り出したので、Cは渋々Bに答えた。


「違うの。私はグリフォンに殺されて今さっき聖女様の御前(ごぜん)で復活して、ふがいないと罵られてきたところ」


「アッシュさんは? 一人で戦ってんの?」


「たぶん。魔法で移動したから、アッシュさん一人じゃ戻って来れないと思う。私、ひとまず迎えに行って……」


 そこへアッシュの陽気な声が聞こえた。


「おい、お前ら準備できたか? お。時間前に全員集合か、関心関心。さすが選抜メンバーだけあるな」


「アッシュさん!? え? アッシュさんももしかして聖女様にふがいないって言われました?」


 臨死体験したばかりの【きまじめ勇者】Cがアッシュに駆け寄る。


「まさか。俺は死んでねえよ。お前は災難だったな。移動中に臨死体験の話、聞かせてくれよ?

 じゃ、グリグリが外で待ってるから急ごう。アイツ、めちゃくちゃ速いから振り落とされるなよ?」


「え? グリグリ?」


 町の外に出るとデカいグリフォンが待っていた。


「え? 仲間にしたんですか? え。マジで? どうやって?」


 【さすらいの勇者】Bが特技の連続質問をアッシュへと浴びせる。


「俺、小さいころオカメインコ飼っててさ、鳥って結構好きなんだよな。あ、誰か薬草持ってる? グリグリに食わせてやってくれる? 結構どついちまったから消耗してんだ、こいつ」


「え? 倒して仲間にしたんですか? その馬鹿でかいやつを? まさか素手で殴り倒したんですか? え? 今、鳥が好きって言ってませんでした? そもそもグリフォンって鳥類なんですか?」


「若いやつには分かんねえか。拳を交えて生まれる友情ってのがあるんだよ……って、昭和生まれじゃねえと分かんねえか、ははは」


「え、アッシュさんっていくつなんすか?」


「……いくつに見える? なんてな。おばさんみたいなこと言っちまったぜ」


 ハハハと笑うアッシュに、仲間たちは誰も言葉が出なかった。




「よーし、グリグリ。黒騎士のいる城まで運んでくれ」


 勇者たちを乗せたグリフォンは、あっという間に黒騎士――ではなく闇の騎士の城へと間違えることなくアッシュたちを運んだ。


 しかし、城の入り口に差し掛かり、仲間たちは見えない壁に阻まれたように進めなくなってしまった。


「ん? どうした?」

 アッシュの問いかけに答えたのは天の声だ。仲間にも聞こえるようスピーカモードでの出力だ。


【アッシュ様以外の皆様には闇の刻印がないため、入城できません】


「そんな! アッシュさん一人でなんて危険すぎます!」


「ここまで来たのに何もできないなんて!」


 天の声を聞いて嘆く仲間たちに、アッシュは先に進みかけた足を止めて向き直った。


「そんなことねえよ。俺一人だったらここまで30分でなんて絶対来れなかった。お前たちのおかげだ。すごく感謝してる。

 待ってろ、すぐ黒騎士、倒してくっからさ」


 アッシュは一人一人の名前を呼んで、改めて礼を伝える。


「いいか? もし危険だったらグリグリに乗って町まで帰ってろ。俺のことは気にしなくていいから!

 お、そうだ。グリグリ、お前もな。俺のこと待ってケガとかすんなよ」


 グリフォンのあごをくすぐりながらなでる。鳥ではなく完全に猫のあやし方だ。


「アッシュさん……」


「お、やべえ。時間がねえ! じゃ! 行ってくるな!」


 迷いなく一人で城へと乗り込むアッシュの後ろ姿を、残された勇者たちが見送る。


「なんか俺、アッシュさんのこと、アニキって呼びたくなってきた」


「あー、アニキかあ。ぽいねー」


「わかる。学校の先輩じゃああんなカッコいい人見たことないかも。昭和生まれって言ってたけど、大人ぶって上から目線とかしないし」


「うーん、私はちょっとついていけないな。困ったことがあったら頼るかもしれないけど、いつも一緒にいたら身がもたないかも」


 仲間がそんな話をしている中、中身がアラフォーのおばさんだと全く気づかれないほど完璧な男と化している勇者アッシュ=真佐江(40才まであと半年)は、一人城内をダッシュしていた。


 途中でエンカウントした敵はすべて拳でぶっ飛ばしている。レベルが上がるほどにパンチ力が増大している。今のアッシュの拳はゴーレムを一撃で砕く域に達していた。


【あのー、差し出がましいことは重々承知でお伝えしますが、最強装備を装備して戦った方が良いのではないでしょうか?】


 見かねて天の声がアドバイスをしてくるがアッシュは従わない。


「いや、分かっちゃいるんだけどさ。昔から武器持つのって嫌なんだよ。角材とかさ、鉄パイプとかさ、金属バットとか? だって下手すりゃ相手死ぬかもだろ? そしたらこっちの人生おしまいだろ?

 素手ならさ、もし捕まってもほら、不可抗力でしたって言い訳できるだろ? 正当防衛説を立証できるだろ? 武器持ってたら明らかにやる気満々でさ……あ、着いたな」


 話の途中で城の中央である玉座の間に到着する。


 アッシュはここまでにかかった時間を思い返した。


 おそらく体感で30分ほど経過している。速攻で倒してすぐにここを出れば、23時にはスーパーに行けるはずだ。


 買うものは、昆布巻きとプチトマトと……、あとなんだっけ?

 あ、そうそう。何か果物も入れてあげないと。


 あ、しまった。ご飯はおにぎりで別持ちなのか、弁当の中に詰めるのかを確認していなかった。

 しかしあんなに小さな弁当箱の中に米を入れたら、おかずはほとんど入らないだろう。


 美緒はまだ起きてるだろうか。

 とりあえずここを出たら真っ先に米の配置を美緒に確認しなければ――。


 アッシュは焦燥感に駆り立てられそうになるのを抑え、玉座の間へと足を踏み入れた。


 最後の戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。




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ふたたび伝説が始まる……
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