閑話 蟲退治前夜
ある町の宿。そこに勇者パーティの5人は集まっていた。
「こんな高級宿を融通してもらえるなんてな」
グレイドはベッドをポンポンと叩きながら笑った。
「いくらなんでもタダって訳じゃないんでしょ? 今度は何を頼まれたの?」
「そんな怒らないでくれよ、リズリット」
「アレの日か?」
ドスッ、という音と共にグレイドが腹を押さえて崩れ落ちた。
「今のはグレイドが悪い」
「ですね」
「はい」
「デリカシーないんだから」
クラージュは蹲るグレイドを無視し、地図を取り出した。
ある村の名前に赤いインクで丸印が付けられている。
「この村で食肉魔蟲の群れが出現したそうだ。で、僕たちにその駆除の依頼が来たってわけさ」
全員の動きが止まった。食肉魔蟲は規模によっては町一つを無人にしてしまうほど危険な魔物だ。
「現時点での被害は?」
「家畜は半数がやられて、人間も3人犠牲になってる」
クラージュの返答に、質問したロゼッタはさらに表情を険しくする。
「食肉魔蟲の駆除? また面倒な仕事を持ってきたな、クラージュ」
いつの間にか復活したグレイドが地図を覗き込むように立っていた。
「魔界にしか存在しない生き物が人類の生活圏にいるなら、対処するのが僕たちの仕事だろ?」
クラージュは小さく笑う。他の3人も同意するように小さく頷いた。
「相手は所詮虫です。僕の得意な火炎魔法ですぐに終わりますよ」
「そりゃ頼もしいな、ハイド。無事にメス個体を見つけられればの話だが」
「以前の討伐作戦では王都憲兵が捜索に1週間かかったらしい」
食肉魔蟲のメスはオスを捕食する。その習性から、あまり動き回らずに隠れていることが多いのだ。
「どういう作戦で行こうかね。ハイドの魔法で辺り一帯焼いてみるか?」
「できなくはないですよ」
「後先考えないならそれが1番楽だけど、流石に却下だ」
リズリットが呆れたようにため息をつく。
「ウチの男はみんな力任せなんだから……」
「リズも大概だろ」
「また突くわよ?」
「勘弁してくれ。そろそろそこで難しい顔してるウチの司令塔が作戦を考えてくれてるだろうぜ」
4人は一斉にロゼッタを見る。
「餌を使ってオス個体の群れを誘き寄せて、それがメス個体の下に行くのを追って駆除するのが1番手っ取り早いかと思います」
勇者パーティによる害虫駆除作戦が始まった。