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アークティック・モンキーズ  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
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セキュリティホール

それからしばらくすると、狭い通路の先に広い空間が広がってるらしいことがわかってきた。

俺達は心なしか歩調を早め、靴音を鳴らして広がる世界へ飛び込んだ。


眼下には、二十人くらいが並んで昇降出来そうな幅広の階段が、百メートルほど下まで続いている。

左右には手すりつきの通路があり、下に生えているビル群を眺められるような形になっている。

多分この通路は一般人が用いる用ではなく、何か特別な時にでも使うのではないかと思われた。


「この下のビルの中に、目的が?」


「わからないわ。ただ、やっぱり人の気配がないわ。

N極側はまだ街や大勢の人もいたんだけど、こっちは全然ね。

あなたに会ったあの地点を過ぎてから、一度も人の姿を見てない」


「ああ、人気がない。情報は人のいるところへ集まるのは当たり前の法則だ。

こっちへ進むのはやめて、N極側に進むのもいいんじゃないか?」


「確かに……ここを一旦探してみて、何も収穫なければそうして見ましょうか」


と言った途端にそれは起こった。下の方にある、何に使われているのかわからない高層ビル群の中から、地響きが聞こえ出した。

そしてそれが、ビル群の中から出てきて、こちらへ向かって来る六本足の巨大建設機械の足音であると気づくのにしばらく時間を要した。


「うわっ、デカいなぁ。あんなに大きな建設機械って初めて見たわ」


見てみると、シロルは今までで最大の興奮度を顔に表していた。


「あれにはどう対処すればいい?」


「無視でいいわ。建設機械は建設以外の機能を持ってなくて攻撃はして来ないの」


「じゃあ、あれは?」


俺は階段を昇って来る巨大建設機械の前足のようなものを指差した。

六本足が支える平たい円盤状の胴体にひっついた短い前足だ。

奴は前足をこちらに向け、何か威嚇でもしているように見える。


「なんだろあれ。それにしても、ここはすごいわね。

やっぱりS極側は圧倒的に機械の勢力が強いのかしら?

構造物から何かから、とても巨大だわ」


「何か嫌な予感がする。逃げよう」


「え! まだ探ってないのに!」


のんきな事を言っていたが、足元に得体の知れない攻撃を受け、ようやくシロルは俺の言うことを聞いてくれた。

建設機械は、予想通り前足から銃弾かなにかを放ってきたようだ。

足元がえぐれて陥没し、相当な威力があることを感じさせる。


俺はシロルの手を引いて、機械に背を向け、狭い通路に走り出した。


「機械が人間を襲うなんて! N極では絶対こんなこと!」


「だからこっち側は人間が居ないんだろうな」


「じゃあ、あなたは何故あそこに……」


「だから知らないって」


と俺達は走りながら議論したが、やがて機械が追って来ないことを確認すると速度を緩め、前と同じく俺を先頭にシロルがついて来る形で歩き出した。


「百年の旅は……無駄足だったかもしれない」


シロルはうなだれた。と、何故彼女の前にいる俺がわかったかというと、俺の背中に頭を押し付けて来たからだ。


「いや、俺を見つけただけでも収穫はあっただろう」


「ん?」


「俺は最強のレベル8なんだろ。持ってる装備の暗号を解除できれば機械を無力化、もしくは倒せるようになる確率は高い。

またここへ戻って来よう。俺が道を拓く」


「いやいやいや、そこまでしてもらう義理はないって」


「俺には別にやりたい事などない。だから考えておいてくれ」


「わ、わかった……」


俺達が相談を終えた直後、そいつは背後から現れた。

音もなく、今まで、全く気がつかなかった。


奴の方から声をかけて来たので、襲われる前に気が付けたのは幸いだった。


「久しぶりの警報だったが、人間が二人もいるのか」


若い男は黒服。何か俺と似た雰囲気を感じた。

俺は振り向き、シロルを強引に俺の後ろへ行かせると男にこう言った。


「お前は人間ではないのか」


「レベル8だ。人間はこれより先の区域に侵入を許可されていない。

一度領域を侵した以上、確実に死んでもらう」


「……なんだと?」


急過ぎる。急な展開だった。俺はまだ戦う術を何も持ってはいない。

レベル7以上の暗号ロックが施された超精密絶対極秘超絶技巧技術が詰め込まれた兵器の数々を俺は恐らく持っている。

だが相手はそれを使える。俺は使えない。それで終わりだった。

だか、これは実に幸運なのかもしれないと密かに俺は思った。

俺はレベル8だという。それなら仲間ではないか。

そう思い、俺は心持ちにこやかに続けてみる。


「実は俺もレベル8だ。だが体の破損が酷くてな。特にメモリー部分を派手にやられたらしい」


「人間の領域にレベル8以上の戦力を持つ存在はいない。

そして、レベル8は同士討ちをしない。故にお前の言葉は嘘だ」


取り付く島もないとはこのことだ。だんだん俺はレベル8じゃない気がしてきた。

こいつに比べたら俺のなんと気さくなことか。


「そうと決まった訳じゃない。何かイレギュラーがあるのだ。

俺を連れていけ。こっちの人間は無害だ、手出しはするな」


「お前をレベル8と認識できないが、お前の要求は受諾する可能性を否定しない。

が、後半部分は受け入れられない。その人間は処分する」


「ということは戦わざるを得ないんだな」


「その通りだ。しかし戦いとは、もう少し近い戦力差での衝突を指す単語だ」


男はいつの間にか拳銃らしき黒い機械を取り出して俺の眉間に突きつけていた。

何一つ、恐怖はなかった。気掛かりなのは、逃げて欲しかったがシロルは俺の後ろで硬直しているという点だ。


この状況、もう出たとこ勝負ってやつだ。

俺がもしレベル8なら、こいつに勝てはしなくても、彼女を逃がす時間ぐらい稼げるはずだ。


「撃ってみろ。おい」


俺は挑発をしてみた。不思議と恐怖はなかった。


「前言を撤回するのだな。では試させてもらおう」


男が引き金を引いた。俺の耳には確かにけたたましい銃声が力強く届き、俺の体は衝撃にのけ反って倒れ、シロルに抱き起こされた。

何の感覚もない。俺は躊躇なく眉間に手をやった。

驚くべき事に傷一つもついてはいなかった。


「確かにこの装甲強度はレベル8以外にありえない。

だが人間は渡せ。代わりにお前を修理してやる」


「そうはいかん。少し付き合ってもらおうか」


俺は立ち上がるなり体重を込めて、握った拳で男の顔面に鉄拳を打ち込んだ。

硬い物同士がぶつかる轟音が狭い通路内を反響し、男は吹き飛んだ。


「この隙に逃げろ、時間は俺が稼ぐ」


「わ、わかった! 絶対戻ってきてね!」


「ああ、いつかまた」


俺は振り向かずにテンポよくそう返すと、倒れた男へにじり寄り、さっきの銃をもぎ取った。


「お前もこれは効かないんだったな」


と言いつつ俺は引き金を引き、男の眉間へ目掛けて銃弾を撃ち込んだ。

もちろん効果はない。男は通路に倒れたまま俺にこう言った。


「望み通り人間は逃げた。壊れたガーディアン、お前を連行する」


「俺を殺してでも女を追わないのか?」


「あれを人間と判断してよいかどうか曖昧な部分がある。優先順位は低い。

むしろ、人間を救おうとするお前のような者を有害だと認識した」


「だから俺を治療すると?」


「理解したならついて来い」


男は立ち上がると俺から銃を奪還し、それから通路に設置されたドアを開けた。

そのすぐ前には、二台の二輪バイクらしき機械が駐車されていた。


「一台は予備だ。左に乗れ」


俺は言われる通りにまたがった。これは乗り物であり、動かすものだと理解はしているのだが、どうしたらいいか見当もつかなかった。


「承認コードすら失っているのか。それではあそこまで通れん。

仕方がない、お前はやはりここで処分する」


男は俺の事をガーディアン、つまり自分たち側の存在であるとは確信しているらしい。

それが少し、俺の癇に障る。


「処分する武器があるのか。俺に殴り飛ばされたくせに」


「……近接戦闘をするのは初めてだった。近づくまで、相手が生きていた事がなかったから」


「さすが強いねレベル8さんは。で、俺を殺す武器があるのか?」


「……」


どうやら俺を始末したいようだが、俺を殺せる決定打に欠けるらしい。

都合のいいことだ。俺はとたんに元気を取り戻した。


「お前、さっき殴られて怒ってるのかよ」


「怒る? そのような感情は存在しない」


「俺は怒ってる。何の罪もない人間を傷つけようとしたお前に」


「……不自然だ。お前のメモリが破損しても『元々ないもの』が生まれるはずがない」


「だから不思議なんだよ。俺はレベル8なんだろ?」


「お前は人間ではありえないが、その確証も全くない。

手がかりを調べる。持ち物を出せ」


「はいはい」


俺はバイクの座席に、持ち物を出した。

俺の持ち物はたったのひとつ、拳銃しかない。


レベル8と名乗る男は拳銃をしげしげと眺めて緻密に分析し、しばらくしたあとこう言った。


「認証コードを確認した。これはセキュリティガードの支給品。

M2990。持ち主の名はT-ppMhAw2-GRX69だ」


「なんだと?」


「お前はT-ppMhAw2-GRX69である可能性が高い。どこで手に入れた?」


と言って男は俺に拳銃を返してきた。俺はすかさずそれを受けとると、男にむけて構えた。


「ありがとう、ロックを解除してくれて。この時を待っていた」


「撃てればお前は人間ではない。撃てなければーー」


俺は拳銃の引き金を引くと、その銃口が向いていた男の頭がなくなっていた。

男の顔はもうどこにもない。実弾を撃ったのではないようで、その後周囲の建物に傷はなかった。


「なるほどな。もらっとくぞ命。あとこの乗り物もな……」


俺は世話になったレベル8の男に申し訳ない気持ちがあったが、使えるものは使わせてもらう。

『俺』は何者なんだろうか。レベル8ですら無傷で倒してしまった。

正体の謎は深まる。次回へ続く。

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