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精霊使いの異世界放浪記  作者: タバスコ
7/17

二日目

 二日目の朝は朝食抜きに成ってしまった。

皆から離れて一人、南へと向かった僕だったが寂しくは無かった。

精霊のゴルは表情こそ変わらないがその動きで感情を多彩に表現する事が出来た。

ゴルと一緒なら寂しさは余り感じずに済むだろう。


今日の目標は水の確保、連泊可能な基地の作成、焚火の確保、そして食糧の確保だ。

やる事は沢山あるがまずは水場を発見する事を優先した。

あの石壁から南に進んでいて一つの仮説を立てていた。

それは石壁からほぼ平坦な地面が続いていた事と北の山脈から流れていた川の支流が大きく西へと流れを変えていた事から此処は台地に成っているのでは無いかと言う事だ。

僕の考えが正しければ南へと進めば大きな下り坂が有るはずだった。

高低差の有る地形には必ず湧き水が有るはずだ。

それを探して南へと進んでいた。

思った通り、数メートルから数十メートルの段差が有った。

段差は東西へと蛇行しながら続いていた。

『何らかの地殻変動が有って地面が隆起したのだろう。』と僕は納得して、その段差に沿って移動して行く。

水の流れる音が無いか注意しながら段差を降りて更に進んだ。


段差の上と下では随分と植生が違っていた。

上の台地には高い木の針葉樹が多かったが段差の下ではそれ程高い木は無く広葉樹が多い。

数メートルの高低差でこの様な植生の違いが出来る事が不思議だった。

ゴルが僕の袖を引く、見るとゴルが上を指さし何かを知らせてくれていた。

見てみるとそれは鳥の巣だった。

昨日被っていたより大きいが高い木の枝に乗っていて取れそうに無かった。

取れないとゴルに身振りで伝えるとゴルが小石を拾い、それを無造作に鳥の巣へと投げた。

狙い違わず巣の端に小石が当たり見事にゴルが鳥の巣を叩き落とした。

すごいとゴルを褒めるとゴルが鳥の巣を被れと巣を突き出してきた。

成程、ゴルは僕に帽子をプレゼントしてくれたらしい。

僕は仕方なく苦笑いしながら鳥の巣を頭に乗せた。


崖に沿って歩いて居ると水が落ちる音が聞こえて来た。

崖の高さは三メートル程ありその途中から幾筋もの水が湧き出し、下で小さな流れを作って居た。

久しぶりに水を飲み、喉を潤してから水の流れを追って見たが二十メートル程進んだ所で薄く広がり地面に吸収されていた。

途中で石英を含んだ石を見つける事が出来た。砕けばナイフ代わりに成るだろう。

小さな水場だがそれでも水場の周りには多くの動物の足跡が有った。

蹄の後やネズミの様な小さな足跡そして大型の動物だろう大きな足跡も有った。

周りを探索すると動物のフンを発見した。

分量が多い。

自分が普段出すウンチの量と比較しても遜色ない量のフンだ。

間違いなく大型の動物だろう。

フンの中を調べると消化しきれなかった小さな骨が出て来た。

水場に戻って周りの木を調べると何本かの木に獣が爪で引っ掻いた後が見つかった。

爪を研いだのか縄張りを主張しているのかは判らないが之は手掛かりだ。

夜中に聞こえる獣の声から居るとは判っていたがどんな獣かは判らなかった。

今までの情報を整理してみると。


フンの量や爪を研いだ木の高さから大体の大きさは大型犬かそれより一回り大きい位だろう。


水場の足跡には爪の後が無かった事から爪が出し入れ出来るネコ科の動物である可能性が高い。


夜中にしか声が聞こえないのは夜行性だからだ。


隠密性を基本とする狩りで大きな鳴き声を出すのは縄張りの主張だ。

つまり、この森にはこのような獣が他にも沢山いる事を表す。


大きな溜め息が出た。

家猫サイズの山猫でも素手では人間にとって強敵だ。

ネコ科の猛獣の代表はライオンやトラなどが有名だし、今回の相手も強敵で有ることは間違いないだろう。

そう、この獣は僕の敵だ、乗り越えなくてはならない試練だった。

僕はこの森でゴルの事をもっと理解できるまで留まる予定だ。

移動してもまた違う獣の脅威に晒される以上、移動は無意味だ。

戦うしかない。

他の人が聞けば無謀だと思うかもしれないが、アフリカのマサイ族の成人式はライオンを狩る事だし、鉄砲が発明される以前の狩人はヤリや罠で熊やオオカミを狩り、アイヌ民族は冬眠中の熊の巣へ単身入り熊を狩る荒業まで持って居た。

人は獣と戦えるのだ。

作戦と準備、そして勇気が必要なのは当然だが。

水場はひとまず確保出来たので基地の作成に移る事にした。

崖によじ登り、台地へと戻るとキャンプ地を探す。

大きな倒木を見つけた。

これに枝を掛ければ簡易の寝床が作れるだろう。地面を馴らすと大量のアリが出て来た。

アリの巣がある様だった。ここは使えないと諦めて次を探した。

水場から適度に離れた場所に森が開けた場所を見つけた。

大きな楠の木が在った。

卵型の葉が大量に落ちている。

之なら僕が思っている基地が出来るだろう。

大き目の枝を三角に組んで地面に立てた。

一番上の交差部に長い木を乗せて斜めに掛けると両サイドに枝を立て掛ける。後は大量の落ち葉を骨組みに被せて行った。

入口にも枝を立て掛けて葉の付いた枝で中が見えない様にした。

出来上がった基地は大きな蓑虫の様だった。

重要なのは中に入った僕が外から見えない事だ。


襲われるのは怖いが実は襲う方も怖いのだ。

見えない相手に無暗に飛び掛かる何てことは野生の動物はしない。

相手を確認し近づき、そして襲うのが彼らのやり方だ。

これで安全とは言い難いが今はこれで精一杯だった。

現状は僕の方が有利だ。

相手は僕が此処に来ている事をまだ知らない、気が付くのは早くても今夜だろう。

得体の知れない獲物を姿も見ずに飛び掛かるとは思えない。

今夜ひとまず此処で眠る予定だ。


穂口の鳥の巣は有るし枯れ葉や枯れ枝ももう有った、楠の周りに枝を立て掛けて枝を乾かす事にした。

これで一先ずは焚火の準備は出来るだろう。

そのまま食糧を探しに行った。

戦う為には睡眠と食事で体力の回復を図らなくては成らない。

虫でも何でも食べる覚悟をした。


崖の近くに草地を発見した。

クローバが有ったので摘み、バッタやコウロギを捕まえた。

もちろん食べる為だがふと思った。

これだけバッタやコウロギが居るのならこれらを捕食する者も居るはずだと、そこで罠を仕掛ける事にした。

適当な岩の上に平べったい岩を重ねて小枝で支える。

支えている小枝にコウロギを突き刺して餌にした。

コウロギを食べに来た小動物が小枝を倒せば岩の下敷きに成る寸法だ。

単純な罠だか効果はあるだろう。

同じ罠を三つ作ってその場を離れた。

基地に戻って焚火の準備を始めた。


昨日の様にゴルに手伝って貰って焚火を起こした。

鳥の巣は半分使ってしまったのでもう被れない。


日が沈むまでは未だ時間があるが食事にした。朝から何も食べていない。

バッタを枝に刺して焚火で焼いて食べた。

意外に旨いが空腹を満たすには足らなかった。


日没にはまだ時間が有るのでもう一度バッタを捕まえに草地に向かうと仕掛けて置いた罠の一つが作動していた。

近づいて確認して見ると小さなネズミが掛かっていた。

手のひらにすっぽりと収まる大きさのネズミが岩の下で平べったく成って死んでいた。

喜び勇んで基地に戻ると早速、皮を剥いで枝に刺して焼いた。香ばしい匂いが食欲をそそる。

焼きあがるのを待ちきれない気持ちだったが耐えた。

しっかりと火を通して置かないと寄生虫の心配があるからね。

少し焦がしたが気にせずに頭からかぶり付く。

小骨が多かったが気にせずに食べていたが骨で釣り針を作れるかもと思い骨は吐き出した。

残念ながら骨は小さすぎて釣り針には成りそうに無かった。


ゴルが骨を寄越せと言うように手を出してきたのでその手に骨を乗せてやった。

ゴルの手の中で骨が動いた。

映画の逆再生の様に骨に肉が付き、皮が張り、毛が生えてネズミが再生されていく。

僕は目を丸くしながら成程、これがゴルの能力フェイクライフかと納得した。

僕はそのネズミは食べて良いのかと大口を開けてネズミと口とを交互に指さすとゴルはネズミを背後に隠した。

食べてはダメらしい。


ネズミはゴルの手のひらで大人しくしている。

僕は何気にそれを眺めながらゴルに話しかける。

「ゴル、例の獣に名前を付けようと思うんだ。名無しだと考えが纏まらないからね。『オンサ』って名前はどうだろう? 」

ゴルは当然だが何も言わずに僕を見返していた。

僕は構わず「ヒョウやトラとかの名前はイメージが固定されるからね、架空の名前が良いと思うんだ。それで『オンサ』だ」

僕は名案と言わんばかりに胸を張った。

「何とかオンサの住処が判れば良いんだが。その辺は明日の課題にしよう」

そう言うと僕は眠る準備を始めた。

初日からまともに寝ていない。

空腹は誤魔化せるだけの食事は出来たし今日は上出来だろうと思う。


夕暮れが迫って来たので焚火で焼けた石を鳥の巣の残りで包み寝床に運んだ。

焼いた石を湯たんぽ代わりにして足元に置くと寝床の中は其れなりに快適に成った。

明日は拾った石英の石で槍を作ろうかと考えながら僕は眠った。

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