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精霊使いの異世界放浪記  作者: タバスコ
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リーダー

 サバイバルに限らずリーダーとはグループ維持に欠かせない重要な役割だが、その重要性を良く分かっていないリーダーが多いのもまた事実だ。

例えばリーダーがその荷物をこっちに持ってきてくれとメンバーに指示した場合、

多くのメンバーはリーダーの要求通りに荷物を持ってくるが

メンバーがリーダーを信頼していないと何故今荷物を取ってこないと行けないのか? 

また何故その役割が自分なのかなどと説明を求めてくる場合がある。

それはメンバーがリーターをリーダーと認めていないサインだ。

適正なリーダーならばこのようなサインを見逃さず、メンバーを正しく指導しチームとして機能する為にコミュニケーションを取る等のように是正するのだが、

経験の浅いリーダーはメンバーを切り捨てる事が多い。

すなわち『言う事が聞けないなら帰れ』的な発言はこの最たる物だろう。

色々な癖の有るメンバーを戦力として活用出来るリーダーはサバイバルに取って非常に有用である。


 ロントは意気揚々と西へと歩いて居た。

パメラが自分と行動を共にしてくれたことが嬉しかった。

女性は三人いたが三人の中で一番の美人は断トツでパメラだった。

豊かなブロンドと青い目、整った容姿は十人いれば十人が美人と評価しただろう

胸が大きく女性らしい曲線を持っているパメラが自分を選んでくれたことが誇らしかった。

パメラの前で良い恰好をしたいと思うのは男子としては当然の心理かもしれない。

その為に同じく行動を共にしてくれたジョーに対してロントが多少は尊大な態度を取るのは仕方が無かった。

ロントは言う「俺に任せておけば最短で森を抜け出せるのに皆判ってないよな。空から地形が判るんだぜ! 俺に任せておけばこの森でも迷子になんてならし危険な獣も避けて行けるのに。」

パメラは曖昧に相槌を返したがジョーは無視した。

その反応にロントはジョーを愚鈍な奴なんだと思った。

「まぁ、俺に任せて置けば間違いないよ」と楽観的にロントは保証した。

言葉通りにロントは迷わずどんどんと西へと進んでいた。

ジョーは無口な男だった。

何時もむっつりとして何を考えているのか周りに判らせない。

自分の周りに一枚の壁を作り自分の中に閉じこもる様なそんな性格をしていた。


 ロントはなぜこの男が自分に付いてきたのか判らなかった。

一人で勝手に何処かに行くなりルークと行動を共にするのが似合っていると思っていたのに真っ先にロントと行動する事を選んだのがこの男だった。

自分とは正反対の男だと思っていたし多分それが正しいのだろう。

だからジョーの事がロントには判らなかった。


ボソボソと喋るジョーの話では彼の精霊はシャドーと言うらしい。

能力はプリズン、影の様な精霊の内部に取り込まれた相手はシャドーの許可無くその影から出る事は出来ないらしい。

嵌れば強力だとは思うがこの能力には欠点がある。

それは相手が自ら影の中に入らないと行けない事だ。


すなわちシャドーが能力を発動する時は停止していなくてはならず、相手から飛び込んで貰わないと捕まえられないらしい。

森の中では実質的な役には立たないだろうとロントは思っていた。


足手まといに成らない様に着いてきてもらいたい程度にジョーを評価していた。


もっとロントに想像力が有ればジョーに対する評価も変わったかもしれないがロントの意識はパメラに向いておりジョーに対して興味を持てなかった。


夕暮れが迫って来たので寝床と食事の準備に掛かろうとロントは二人に言った。

丁度平坦な地面が有ったので其処に寝床を作る事になり、ジョーに木材などの材料を集める様に指示し自分は食べ物を調達してくると言ってチームから離れて行った。


パメラは木の根に腰を下ろしてジョーが働くのを眺めていた。

ジョーはロントが言ったように倒木や葉が茂った枝などの寝床の材料を集めたが寝床は作らなかった。

パメラが寝床を作らないのかと聞いたらジョーは「材料を集めろと言われただけだし寝床の作り方なんて知らない。作れるならパメラが作くれよ」とパメラに言った。

もちろんパメラも作り方なんて知らないと答えた。


 ロントはチームを離れてオウルを飛ばして居た。

オウルの目は赤外線が見えるのか温度差を見る事が出来た。


森の中には幾つもの小さな熱源が有ったが調理する事が出来ないので狙いは果物や木の実を集めようと思っていた。

オウルの目を通して周りを探索していると直ぐにベリーを見つけた、

他にもキイチゴや食べられそうな木の実も見つける事が出来た。

多くの野生動物を育む事が出来る森は本来、豊かな食材の宝庫でもある。


ただ人がそれを見つける事が出来ないだけだ。

オウルの目を使えばこれらの食材も比較的簡単に見つける事が出来た。

三人分と考えると少ないがそれでも持てるだけの食材を持って二人の元に戻った時にはもう夜だった。

周りは暗く火も起こしていないし

材料は有るのに二人は寝床を作って居なかった。

「どうして、火も起こしてないし寝床も作ってないんだ。」とロントはジョーを睨みながら聞いたら

ジョーは「材料を集めろって言ったのはロントだろう? だから集めた。寝床もロントが作るんじゃないのか? 」さすがに顔が熱くなるのを感じながらロントはその言い草に閉口した。こいつは本当のバカだとジョーを見た。


「少しは指示の意味を考えて欲しいね」と言い、食べ物をそれでも三等分してパメラとジョーに分け与えた。


ジョーとロントの中が険悪に成っている事をパメラは気づいて居たが気を使ってその間を取り持とうとは思わなかった。

『気遣うのは男達が私に対してだけで私が男達を気遣う必要など無い、だって私はクィーンなのだから。』


ジョーがロントと行動する事に決めた理由は道案内が出来るからだ。

別段ロントの人となりに引かれた訳では勿論ない、脱出の為の道案内がロントの価値だった。


多少の事は目をつぶるが目に余ればそれなりの制裁を加えても良いかもしれないとこの時、思い始めていた。


ジョーの精霊は強力だ。

一対一ならロントに負ける要素など無いとジョーは思っている。

パメラがどちらに付くのかが問題だがパメラの居ない所ならロントに自分の立場を思い知らせる事はそう難しくないだろうと考えていた。

剣呑な視線をロントに向けながらジョーは食事を終え自分が拾ってきた枝を地面に敷き詰めてその上に寝た。

パメラは少し躊躇ったがジョーと同じように枝を敷きその上に横に成った。

ロントはオウルを見張りに残して倒木に凭れるようにして眠った。

昨夜は意外と快適に眠れた。

風が無いのが効いたのかもしれない。

寒さもたいした事は無かったので体力は回復していた。

日が昇ってからロントは二人を促して、昨日ベリーとキイチゴを採取した場所に案内した。

朝食を済ませて行動食として更にベリー等の食材を各々が集めて持った。

「今日には川に辿り着くだろう」とロントは皆を励まして西へと進んだ。


昼近くに今までとは見た目が違う森に着いた。今までは雑木林の様に様々な木々で森が構成されていたがその一角は一種類の木で構成された場所だった。

サル達の耳障りな声で回りを見回してパメラが気づいたのだ。

高い木の上に大きな果実が成っていた。

まるで果樹園の様に同種の木が乱立し枝に重そうに実を付けている。

サルの姿が見え隠れしているが吠える様な声ばかりで攻撃してくる様子は無かった。

地面には熟れて落ちた実だろうか? 

割れた果実の実がそこらへんに転がっていた、中身は多分サルに食べられたのだろう空だったが甘い匂いがほんのりとしていた。

ポケットの中のベリーより遥かにカロリーが有りそうな実を何とか手に入らないだろうかと三人で話し合った。

「オウルで実を取れないか?」ジョーがロントに聞いたがロントはつれなく「無理だろうね、枝には止まれるけど実は枝の真下に生っているからオウルの嘴が届かないよ。股の下に頭が入る程、体が柔らかくはないんだ。」

逆にロントがジョーに聞いた「シャドーで取ってくる事は出来ないか?」

「シャドーが俺から離れられるのは五メートルが限界だ、あそこじゃ射程外だ」ジョーは横に首を振って答えた

自然とパメラに目線が行ったがパメラも「あそこまでは蔓が届くか疑問だし届いても細かい操作は出来ないわ」と答えた。

精霊に頼れないなら下から木の棒で叩く事を思いついたが、そこまで長い倒木は近くには見当たらなかった。

如何したものかと悩んでいると突然、サル達の声が大きくなり木の実がロントの右肩に嫌な音をさせて落ちて来た。

思わずロントは声も無くしゃがみ込み肩を抑えた。

パメラが上を見上げるとサル達が次々に木の実を三人に投げつけようとしているのが見えた、雨の様に降ってくる木の実とパメラの間に黒い影が現れ木の実が影に次々と飲み込まれて行った。

ジョーの精霊の力だ。

パメラとジョーはロントを抱えて元来た道を戻った。

雑木林の森に退避し何とか危機を脱したがロントの負傷は重かった。

肩の骨が砕けていた。

手足なら添え木の仕方も分かるが肩ではどうすれば良いのか三人とも知らなかった。

ロントを寝かせて安静にさせたが痛みは引かなかったし腫れも酷くなり右肩全体が紫色に変色していた。

シャドーが吸収した木の実を取り出して見てみるとその実は恐ろしく固い殻に覆われていた。木の瘤の様な木目が見えて中に果汁が詰まっているのか重い、二キロは有りそうだ。

それが高空からサルが力いっぱい投げつけたのだから当たり所が悪ければ即死も在ったかもしれない。

ジョーがとっさにシャドーを出さなかったら三人とも危なかった。

ロントの回復を待ってその場に留まっていたが回復はしなかった。

肩のどこかの血管が破裂して内出血が起こっているのだろう腫れは胸にまで広がり高熱にロントはうなされていた。

何時の間にか日は暮れていた。

パメラは「残念だけど、ここまでの様ね。ジョーさん、これからどうする?」

ジョーは難しい顔をして直ぐには答えられなかった。

パメラはその顔を見つめながら「一つ目の問題は戻る事が難しいって事でしょうね、元の道なんかもう判らないしルーク達と合流するのは難しいのじゃなくて?」

ジョーは同意の意味で頷いた。

「それならサルのテリトリーはあの木の周りでしょうから、それを避けて北へ回り込んで西へ進み川を目指すしかないでしょう」

パメラの意見に「それしかないかな」とジョーはボソボソと呟くように答えた。

パメラは一つ頷いて「二つ目の問題はこいつをどうするかって事よ」

パメラは顎先でロントを指し示しジョーを見た。

ジョーは驚いたように目を見張り「連れて行かないのかよ」とパメラに聞いた。

「動かすのは難しいでしょうし、本人も動きたく無いと思わない?」

ジョーはパメラが本気で言っているのかを確かめる様にその目を覗き込んだ。

真顔のパメラにジョーの目は泳ぐ。


ロントの事が好きか嫌いかで言えば嫌いだが、傷ついたロントを此処に放置して北へ向かえば間違いなくロントは死ぬだろう。

それは迂遠な殺人ではないだろうかとジョーは思う。

確かに一時はジョーもロントに制裁を加えようと思いもしたが殺そうなどとは夢にも思っていなかった。

答えられずに居るジョーを溜息交じりに見つめて「しょせん覚悟の無い男って頼りに成らないのよね」とパメラはジョーから視線を外す。

パメラからの視線から解放されてジョーの気が緩んだその時、ゾワッとした音がしたのとシャドーが警告を発したのとは同時だったか? 

見るとパメラの前に黒々としたバラの蔓が蛇山の様にうごめき次々にロントの体に巻き付き始めた。

思わずジョーは「何をしている! 」と叫びパメラを止めようとしたがパメラの蔓が自分にも迫ってきている事を見るや恐怖で顔が引きつりながらも、とっさに横に飛びのき間一髪で蔓の攻撃を避けた。

ジョーは一目散に逃げたがパメラは直ぐに次の蔦をジョーに伸ばした。

ジョーの背後にシャドーが張り付く、

構わずパメラは蔦を影に突っ込ませた。

捉えたと思ったが逆に物凄い力でシャドーに蔦を飲み込まれるとパメラは思い切って蔦を自切してシャドーから離れる。

その時には暗い森の中でシャドーを背中に張り付かせたジョーをパメラは見失う。

すでにロントを捉えていたパメラはジョーを追う事は出来なかった。


パメラから逃げたジョーは無我夢中だった。

後ろは振り向かなかった、全力で夜の森を東へと走り続けた。

逃げなくてはダメだ。

パメラがロントを片付けたら今度は俺をやるつもりだろうと思えた。

パメラはロントを置き去りにするよりこの場でロントを殺す事が慈悲だと思ったのだろうか?


違うそれなら俺まで襲う事はしなかったはずだ。役に立たなく成ったから処分するだけだ。

そして邪魔な俺も処分しようとして襲ったのではないだろうか

覚悟のない俺を邪魔だと思ったのでは無いだろうか?

そう思うとそれが正解の様に思えて成らなかった。

しばらく走ると自然と足が止まった、自分を励まし何とか前へと足を動かしたがもう走る事は出来なかった。


色々な思いがジョーの中に渦巻いた。

混乱する思考の中でパメラは本当にロントを殺したのだろうかとも思った。

あの時ロントは生きていたし単にパメラの蔓が体に巻き付いたのを見ただけだ、

パメラにとって俺たちの命がそんなにも軽い物だとは思えない。

もどって確かめなくてはとも思いそんな事は出来ないとも思った。

パメラの脚では俺に追いつけないだろうとジョーは思うが苦しくても足を止める事は出来なかった。

あの精霊は危険だとジョーは感じた。

具体的な事は判らないがシャドーは最大限の警告を俺に発したのは理解できる。

蔦に襲われた時に躱せたのはひとえにシャドーのお陰だ。

シャドーの警告が無ければ襲われている事に気が付く前に蔦に絡めとられていただろう。

何とかして元の場所に戻りルーク達と合流して今回の事を報告しなくてはならない。


もう道は判らないがロントは最短距離を取っていると言っていた。

つまり真西に向かって進んでいたはずだ。

それなら真東に進めば元の場所に戻れるはずだが、この森の中で真っ直ぐに進む事など不可能だろう。

夜の森ではなおさらだ、果たして合流する事は可能だろうか。

不安に駆られながらもジョーは足を動かし続けた。

走り、疲れると歩きを繰り返して居ると前方に小さな明かりが見えた。

まだ元の場所までは戻っていないが確かに森の中に光が見える。

何かに導かれる様にフラフラとした足取りで光の元へと進んで行く

他に進むべき、道しるべなど無い森の中ではそれは必然だったかも知れない。

光はユラユラと揺れている様に見えた。

焚火の火だと思った。

ルーク達も西へと移動しているのかと思いまたそんな筈は無いとも思いそれでも足は火のもとへと進んで行った。

小さく少女の声が聞こえた。

笑い声も聞こえた。

その声を聴いて声を掛けるより早く涙が出た。

とめどなく流れる涙を拭う事も忘れて、大声で呼びかけようとした。

その時、後ろから何かが圧し掛かって来た。

あっさりと倒され肺の中に有った空気はいっぺんに押し出された。

背中が火が付いた様に熱かった。

無理やり振り向くと大きな牙が見えた。

ジョーは叫びたかったがもう叫ぶ事も出来なかった。



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