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精霊使いの異世界放浪記  作者: タバスコ
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オールバック

「やってらんねーよ! 」

俺はやれやれと言う思いで昼の事を思い出していた。

さっさと森を抜け出そうと言う意見と

留まって準備してから抜け出そうと言う意見に分かれてダラダラと時間ばかりが過ぎて行く状態にイライラして飛び出したのが昼も回った頃だ。

喉も乾くし腹も減った。

さっさと抜け出して上手い飯に在りつきたかった。

皆、何を怖がっているのか判らない。

今の自分に敵う敵など居ようはずもないじゃないか。

それなのにダラダラ話し合うなど時間の無駄にしか思えない。

昨日までは、もっとも良くは憶えては居ないが多分詰まらない人生を歩んでいただろう事は感じていた。

しかし今は違う。

精霊が俺には憑いている。

憑いている精霊を見る事は出来ないがその能力は大体分かっていた、すなわち単純明快なパワーだ。

この精霊は宿主に尋常じゃ無いパワーを与えてくれる。

『獣が怖いか?森が怖いか?笑わせるな、すべて俺がぶちのめしてやる』と皆の前で高笑いしながら宣言してやろうかと何度思ったか。

しかし、俺は言わなかった幾ら俺でも十人全員を守るのは無理だろうと思ったからだ。

そこでさっさと俺一人で抜け出してやろうと今は西へと向かっている。

パメラとか言う女を誘おうかとも思ったが森じゃ面倒そうだったので諦めた。

精霊は今も俺に力を与えてくれている様だ。

木の根が隆起して歩き難い森をさして疲れた感じもせずにドンドンを進んで行けた。

この分なら直ぐに川に突き当たるだろう。


 たしかオウルと言う精霊は森の木の直ぐ上を飛んでいた。

その高さから見える範囲なんてたかが知れている。

数キロから十数キロだろう俺なら1日とかからずに走破できると踏んでいた。

 しかし、日が暮れても川には到着しなかった。

休もうかとも思ったが喉の渇きが酷かった。

もう少しで川に辿り着けると思うと休む気がしなかった。


歩いて居れば寒さもさほど気に成る事も無かったので夜どうし歩く事にした。

夜中に歩きながら昨日の事を考えていた。

お互いの精霊を出し合って居た時の事だ。


碌な奴は居なかった皆はチャドとか言う奴の精霊が当たり見たいに言っていたが俺に言わせれば大外れだ。


能力は飛行だったか、本人は操り方が判らないから飛べないとかほざいていたが

俺に言わせれば操り方が判っていても飛べなかったと思うぜ


何故なら馬の脚にゴリラの体で身長が2メートル近くあった。

あんな大きな体を浮かせるのに必要な距離がどれだけ必要かって事だ


大きな鳥が飛ぶ為には高い発射台か長い滑走路が必要だがこの森の中でそんな距離や高さのある場所など無い

つまり宝の持ち腐れって奴だ。


それに比べて俺の精霊は単純明快な分、万能だ。圧倒的なパワーは全てに置いて応用が利く

俺の精霊こそが大当たりの精霊だ。


そんな事を考えているとサルの声がやかましく森中に木霊した

耳障りな鳴き声にイライラしたが、ある程度進むと収まった。


 飲まず食わずで一昼夜を森で彷徨い、喉の渇きは限界に来ていた。

目も朦朧としてさしもの精霊も休んでいるのか脚に力が入らない

フラフラとしながらも、もう少しもう少しのはずだと自分に言い聞かせて前へと進んで行った。昼近くに成りやっと川に到着した。


たぶん森で方向を誤り大きく南にそれたのかも知れない予定より随分と時間が掛かったが何とか川に辿り着付けた喜びに体の力が戻って来た


川は川幅が十五メートルは有りそうな川だったが水が干上がり川の中央に一・五メートルばかりの浅い流れが有るだけの川だった。

それでも水は流れており水深も踝位の深さは有った。

貪る様に水を飲み一息入れた。

少し休んでいると今度は空腹が襲ってきた。

川面を見ていると小魚が数匹泳いでいるのが見えた。

何とか捕まえたいと思ったが素早い小魚の動きを見ていると手掴みで捕まえるのは難しそうだと思えた。

そこで流木で四角い枠を作りそれに上着を被せて簡易の網を作った

これを川底に沈めて魚が通りかかるのを待ち、通りかかったら思い切り引き上げれば魚が手に入る寸法だ。

靴が濡れるのが嫌だったので靴を脱いだ

ついでに誰にも見られる訳でもないのでズボンも脱いでパンツとシャツの恰好で川に入った。川の中ほどに進んだ時にヌルっとした物を踏んづけてしまった。

それは大きく跳ねて瞬く間に姿を消した。

チラっと見えたのは上下に押しつぶしたトカゲの様な生き物だった川底と同じ色をしていて完全な保護色をしている。

踏みつけた時チクっとした感触が有ったので足の裏を見ると血が滲んでいた。

多分背中に棘でも有ったのだろうそれに刺されたのだ。

惜しい事をしたと思った。

今のトカゲを捕まえられたら小魚よりは腹の足しに成ったのに、

近くに居そうだが目を凝らしても、もうトカゲが何処に居るのが全く分からなかった。


気を取り直して網を仕掛けた。

しばらくして小魚が通りかかり何とか一匹の魚を手に入れた。

十センチ程の小さな名前も判らない魚だったが今は早く食いたい気持ちで一杯だった。


流木を集めて擦り合わせて何とか火を起こした。串にさして魚を焼き始めた時に体調の異変に気が付いた。


トカゲに刺された足の裏が痛痒いので見てみると酷く腫れていた。

毒でも在ったのかと心配したがどうすれば良いのか良く判らない取り敢えずは焼けた魚を食べて休憩する事にしたが体調は悪くなる一方だった。


刺された足の膝下が極端に腫れ上がり、吐くものなど当に無い筈なのに吐き気が収まらなかった

腹痛も酷く蹲って唸る事しか出来なかった。

下痢の症状だろうか水の様な便を垂れ流して

それを処理する気力も無かった。

血圧の低下による意識障害だろうか幻覚が見える、一人皆を見捨てて森へ向かった俺を残った者達が責めるのだ。

パメラが「どうして連れて行ってくれなかったの」と俺を責める、

ロントが「どうせ脱出するなら俺と一緒でも良かったんじゃないか? 」と俺に言う

ルークが「その力を俺たちに貸してくれれば、もっと安全に生き残れたんじゃないか? 」と俺に話しかけてくる

「どうして力が有るのに皆を見捨てたんだ! 」と俺に言う。

居たたまれなかったが腹が痛くて動けなかった。

ふと昔の事が思い出された。


前も根拠の無い自信が胸いっぱい詰まって居たたまれず。

家族の元を飛び出し、失敗して戻る事も出来ずに後悔したなと思い出した。

あの時に手にしていた力は確か『若さ』だったか。

日は傾き日没へと差し掛かった時オールバックは後悔と絶望の中で死んだ。


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