サバイバルゲーム
私はドミニク。
十四才の女子のはず。
疑問形なのは自分でも良く分かっていないから
記憶が曖昧で此処に来る前は何処で何をやっていたのか全然思い出せない。
制服ぽい服を着ていたから学生かもしれないけど。
ドミニクって名前も本当に自分の名前か知り合いの名前かもあやふやで自信がないけど思い浮かぶ名前がドミニクしかないから多分合っている。
理由は判らないけど気が付けばまだ夜も明けきらない夜中に大きな石の壁の前に立っていた。
私だけじゃなく他にも十人ばかり。
私たちはお互いの境遇を話し合ったが何れも同じ様なものだった
夜が明けて今後の方針を話し合ったが皆バラバラで意見が纏まらない。
ロントの精霊オウルの力によって周りの大体の地形は判明していた。
北に山脈があり山裾から幾筋もの川の支流が南に流れていて、それが西に向かい一つに纏まって途中から南へと大きく曲がりながら流れているらしい。
ロントは体力のある内に直ぐに川に向かって脱出するべきだと主張したし
ルークは留まり十分に準備してから移動すべきだと主張した。
多くの人は不安でどうすれば一番良いのか迷っている風だった。
お昼も過ぎようとした頃ようやくバラバラなりに結論が出た。
個人行動組は一人が西へ、一人は北へ、もう一人は南へ向かった。
西と北は判る。
西に進めば川が有るし北へ進んでも川にたどり着くだろう山という目印が有る分、確実だ。
しかし、南には何も無いのにどうして南を選んだのか気に成ったが自分の事で精いっぱいだったので聞く事はしなかった。
私はルークの意見に賛同してルークのグループに入った。
ロントは話し合いの時に
私が安全に移動出来るのかと聞いたが
ちゃんと答えず、自分の話に終始して
弱い立場の人の話を無視する傾向の人だと思ったし
パメラがロントと一緒に行くと言ったからだ
パメラの精霊は強力で近くにいると私の精霊が怖がって落ち着かないからね
必然的にルークのグループに成った。
ルークはある程度サバイバルに慣れてから脱出を考えようと言う慎重派だった。
昼も回ったので食糧と水の確保。
そして今夜の寝床の確保を優先しようと成った。
周りの森は深く十メートルも離れれば元の位置に戻る事も難しい状態だったが
私の精霊クーちゃんならその心配は無い
そう私には頼もしい精霊クーちゃんが憑いていたのだ。
カラスの頭に蛇の体で表面が少しヌメっとしている、見た目は悪いが今は頼もしいパートナーだ。
その能力は『呪う追跡者』、私が指定した人物をどんなに離れていても追跡し呪いを掛ける事が出来るらしい。
しょぼい能力かも知れないけど石壁に誰かが残っていれば必ず元に戻れるのはこの状況では有難い。
ルークとチャドが家づくりを担当し私とポニーちゃんが水と食料の調達を担当した。
ポニーちゃんは水玉のワンピースを着ていて髪をポニーテールにした女の子だった。
名前を憶えて無かったので私はポニーって呼んでいる。
南に向かった少年が少し気に成っていたので南へ探索する事をポニーちゃんに話したらすなおに賛成してくれた。
直ぐにクーちゃんの能力を発動し少年の後を追った。
南へ少し進んだらミズゴケが生えていてそれが剥がされた後が見つかった。
剥がしたミズゴケの搾りかすが無造作に捨てられているのも見つかった。
直ぐに何をしたのかが判ったので二人でミズゴケを剥がして絞って水を飲もうとしたが絞っても数滴しか水が出なかった。
諦め切れなかったのでミズゴケの上を這いまわり一番湿り気の在りそうな場所のミズゴケを剥がすとうっすらと水が染み出している場所を発見した。
その場所を拾った枝を利用して掘ろうとしたが細かい木の根や石が邪魔で掘る事が出来なかった。
その時、私にやらせてとポニーちゃんが言った。
私が場所を交代するとポニーちゃんは両方の手の平を広げると親指を合わせてそのまま地面に手を付いた。
その手の甲に蝶の羽が生えた。
ポニーちゃんの精霊は蝶の精霊だった。
能力は『屈折』、光や音、更には空間すら、あらゆる物を折り曲げる能力らしい。
ただし、その範囲はせいぜい手のひらサイズらしいが今回はそれで充分だった様だ
手のひらをどけるとポッカリと直径十五センチ深さも十五センチ程の丸い窪みが出来ていた、地面を屈折したらしいが目的は達成出来た様だ
少しずつ水が湧き出している。
水が溜まると苔を突っ込み水に浸してそれを絞って飲んだ。
二人して交代しながら水分補給したが時間が掛かる。
苔で窪みに蓋をして食糧を探しにまた移動した、しばらく進むと一見分かりにくい所にベリーの群生地を発見した。
先に来ていた少年、たしかディックと言ったかにだいぶ荒らされてはいたがまだまだ沢山のベリーが成っていた。
この辺りで私は確信した、どうやらディックは森でのサバイバルテクニックを知っている。
だから彼に執って川は最重要ポイントでは無かったのだ。
だから南への道を選んだのだろう。
ポニーちゃんと二人でベリーを摘んだポニーちゃんは腰のリボンを解いてそれにベリーを包んだ。
私も上着を脱いでそれにベリーを包んで基地へ戻る事にした。
途中でミズゴケの場所に来たがミズゴケを突っ込んでいた窪みは無くなっていた。
ポニーちゃんが離れると効力が切れて元に戻るようだった。
石壁に戻ると大量の枯れ葉や木材がうず高く積まれて居たが家らしい家は無かった。
話を聞くと壁の上に寝床を作ろうと思ったらしいが壁を登る事が出来なかったらしい。
十五メートル程の木を二本用意し先の方を四、五メートル程重ねて固定して二十メートル近い梯子を作ったがそれを固定する事が出来ないでいた。
直接壁に梯子を立てかけても安定が悪く直ぐに倒れてしまうらしい。
ベリーを二人に分けている間にポニーちゃんが梯子の先1メートル程の所を精霊の力で九十度に曲げてくれた。
曲がった方の梯子の端を壁の上に引っ掛けて吊り下げる様にすると梯子は安定した。
チャドが上に登り、下からルークが木材を投げ渡して何とか家の材料を屋上に移動する事は出来たが家を作る時間はもう無かった。
枯れ葉も運んだが大方が風に飛ばされて殆ど残らなかった。
地上は森の木が有り余り風の影響を受けなかったが屋上は風を遮る物が無く風が強い。
床に置いた枯れ葉は直ぐに風に飛ばされて僅かにしか残らなかった。
ルークの怪力で木と木を擦り合わせて無理やり火を起こした。
ルークの精霊は岩の精霊らしく自身の体の外には出せないが体の中に岩が居るらしい。
能力は『加重』、自身の重量を数倍にする事が出来、その重さに比例して力も増大するそうだ。
焚火は出来たが屋根も壁も無い状態で石の床は体温を容赦なく奪い非常に寒かった。
木の枝を体の下に敷き焚火のそばで横に成ったが夜は風が強く眠る事も出来ずに不安な夜を過ごした。
皆同じ気持ちらしく明日からの事を話し合った。
「屋上に家を作るのは名案だと思ったのだが、申し訳ない」と謝罪したのはルークだった。
確かに此処なら獣に襲われる心配は殆ど無いだろうし安全なのは確かだが水や食料の移動や何より床が石床の為に柱が立たない。
これでは風雨に耐えられる頑丈な家は作れない。
「みんな初めてなんだから失敗は付き物だよ」と慰めたのはチャドだった。
「ここでは暮らせないわ」とポニーが小さくこぼす。
私は「兎も角、明日はどうするかよね」とルークに水を向けた。
ルークは重々しく「我々だけで此処で暮らすのは難しいかも知れない、俺はロントの後を追って協力して森からの脱出に賭けて見るのも手じゃないかと今は思っている」
私とポニーは黙り込んだ。
ロントの近くにはパメラが居る
パメラの精霊に怯えているのは私の精霊だけじゃない。
ポニーもチャドの精霊もだ。
それにロントとルークが協力と言っても多分、後から合流するルークの方がロントに従う形に成るだろうと予想出来る。
ロントはリーダーとして信用出来ない感じがしていた。
「ねえ、ディックの後を追わない?」私は勇気を出して提案してみた。
「ディック? 」誰だと問たげにルークが聞いてきた。
「ほら、南に向かった子が居たでしょ、あれよ」と私が説明すると
「ああ、彼奴か」とルークも思い出した様だ。
私は今日、彼の後を追跡してミズゴケの事やベリーを発見した事を話し
多分だがディックが森でのサバイバル知識を持っている事を話した。
だがルークは焚火の前に座りなおして薪をくべながら「ディックが一人で南に向かったのは俺たちとつるむ気が無かったからだろう?
それがいきなり四人も押しかけて協力しろって言っても逃げるだけじゃないかな。
それよりロントの方が受け入れてくれる可能性は高いと思う。
それにパメラが居る、彼女の精霊は強いし一緒に付いていったジョーってやつの精霊もやばそうだったじゃないか」
そこで一旦言葉を切り周りの皆の反応を見て言葉をつづけた
「ロントにリーダーの資質が有るかどうかは判らないけど、ロントは道が分かるしパメラとジョーの精霊は強いのは間違いないと思う多少の危険は跳ねのけられるんじゃないだろうか、少しでも安全に此処から脱出できるなら俺はロントがリーダーでも文句は無いぜ」
ルークに此処まで言われればもう誰も異議を唱える事は出来なかった。
私たちはロントの後を追って
朝日が昇ると西へと向かった。