998 開催決定
『こんな時期に戦勝記念祭だとっ?』
『さすがにダメなんじゃ……』
『食料が枯渇する原因になるぞっ!』
「……チッ、何だか反対派が騒いでいるようだな、おいババァ、あいつ等全部ブチ殺して良い?」
「おぬしはいつもその感じじゃの、まぁ何かの仕込みであるのは間違いなさそうじゃが、もちろん今回も少し我慢せい……それに奴等、犯罪者ギルドのような連中ではないように見えるでな」
「あぁ、確かに真っ当そうな感じの人間だな」
「着ているものもそこそこ高級なものです、どこかの貴族のお屋敷の、トップクラスのモブキャラ使用人さんとかじゃないでしょうか?」
「モブキャラにトップクラスとかあるんだ……」
こういう場で騒がしくなるのはたいていが誰かの仕込み、もちろん今回は敵対勢力であり、政府や政府機関、また俺達勇者パーティーのような準政府機関に対して不満を持つ勢力が放った何かだ。
やかましいことを、もっともらしく大きな声で叫び散らす鬱陶しい連中なのだが、それによって考えが変わったり、元々たいした考えもない中からそれに賛同したりという一般人が出てくる。
もちろん『敵』はそれに期待してそうしているのであろうが、こちら側としてみればそういうイレギュラーな発言をする奴を排除するわけにもいかず、誠に手を焼いている状況であって……まぁ、だから毎度のようにこのようなことをしてくるのであろうが……
「とにかくじゃ、こういう反対というものはいつでも存在するし、何をしても、どんな行動を取っても単に反対するだけの連中じゃ、気にせず戦勝記念祭の準備に移ろうぞ」
「だな、これにいちいち反応しても意味がないぜ」
「どうしてですか? あの人達、やっつけたりしなくて良いんですか?」
「あぁ、一応は違法行為をしているわけじゃないからな、やっつけたら凄く厄介なことになるし、あと奴等の言いなりになってみろ、要求はエスカレートしていく一方だぞ」
「カレン殿、ああいう人達はな、たとえここで体制側が『世論の意見に従って祭りを中止にする』と発表しても、それはそれで大々的に批判してくるんだ、というか代案もなしに批判したいだけの人々だ、これまでにもそういうのを見たことがあるだろう?」
「あ、そういえば……敵の邪魔な人は大体そんな感じでしたね」
「その通り、だからもう気にしない、スルーして前へ進むのだよ、それが本来取るべき道なんだ」
「ほぇ~」
鬱陶しい連中と無駄に突っ張り合わない優しい世界、それをこともあろうにカレンに対して解くジェシカは、自分がまるで意味のない行動を、それこそ『何でも反対マン』達と同レベルの行為に走っていることがわからないのか。
というか、俺は今この場であの大声を上げ、今は群衆の後ろの方で何者か……いや、先程まで俺を暗殺しようと企んでいた連中のように見えるのだが、とにかその怪しい奴から『茶封筒』を受け取って帰って行く馬鹿共と、何も受け取らず、淡々と帰還していく馬鹿共をブチ殺したいところだ。
ちなみに前者は囃し立てるために雇われたその辺のおっさんであり、今から酒場にでも向かって、貰った『サクラ代』を全て酒に転換してしまうのであろう。
後者に関しては要注意だ、間違いなくどこかの屋敷のエリートモブキャラ使用人であって、今回は業務の一環としてここにやって来た、そしておかしなことを叫んで仕事を終えた、そんな感じである。
仲間達も、そして王国中枢の連中もその動向に注目していたのだが、どいつもこいつも馬車で、しかも家紋などがないものに乗り込んで、風のようにその場を去ってしまった……
「全く、おいババァ、追跡はしなくて良いのか? 親玉はとんでもねぇ逆賊かも知れないんだぞ」
「いや、追跡がバレることの方が厄介じゃからの、それに奴等が自分の意見を主張したのみであると、即ち『秘書が勝手にやったこと』系の言い逃れをされたらそれまでじゃ、もう傍観する以外に方法はないのじゃよ」
「ふむ……しかしああいう連中、一体どこから湧いてくるのかな? やらかし次第倒してはいるだろう? それでも毎度毎度現れるじゃねぇか」
「まぁ、そういうもんじゃろうて」
「そういうもんなのかな……」
長年の政治経験によって、こういう連中については慣れっこになってしまっていると思しきババァ総務大臣。
俺からすれば違和感しかないのだが、それについてどう思うかを聞いたところで、答えが変わることはないであろうな。
何となくではあるのだが、このババァ、もちろん他の大臣やその他のお偉いさん方も、最初はライトなものから徐々にエスカレートしていく無意味な批判に対し、茹でガエルのような反応を示しているのではないかと、そうも思ってしまうところだ。
このまま奴等の批判がエスカレートしていき、放っておいている間にとんでもないことを言い出したり、何か行動に出たりということがないのか、その辺りが非常に不安である。
で、そんな俺の不安を他所に、集合していた王都民は一旦広場からの解散を始める様子。
商人は戦勝記念祭の準備を大至急始めなくてはならないし、一般家庭においても、少ない食料の中からより豪華なものをキープしなくてはならないのだ。
戦勝記念祭の開催はいきなり明日から1週間、おそらく本日の夕方、商店街のタイムセールは戦争になる。
長い長い戦いが終わったところで、ごく短い期間ではあるが、商品の争奪戦という激しい戦いが、なんとこの王都の中で繰り広げられることとなった。
とまぁ、それはさておきとして、そういうことであれば俺達も準備をして、初日から全力で祭りに参加出来るようにしておかなければならない。
幸いにも実行委員会などは既に構成されていた、というか俺達が魔王城から帰還した際に、当然魔王も引き摺って来ることであろうと予想して、予めセッティングしていたのだそうな。
それについては大変申し訳ないことを……いや、別に俺のせいというわけではないからな、これについては皆のせいだ、むしろ社会全体が悪く、俺には一切責任がない。
などと考えつつ、そろそろ帰ろうと言う仲間達に付いて歩き出すと……晒し者状態であった魔王を忘れて帰りそうになったではないか。
一応だが、コイツの身柄については『勇者パーティー預かり』ということになっているのだ。
副魔王やその他の魔族もそうであるし、そもそもこういう連中を抑え込んでおけるのは俺達ぐらいのもの。
ただ魔王と副魔王を一緒にするとうるさそうだし、またそれ以外の面子と会わせても、きっと既存の収監者の方が気まずいはず。
魔王の扱いに関しては少しばかり考えた方が良さそうだな、まぁ、何はともあれひとまずは屋敷へ連れ帰ろう、そしてどこに『しまっておく』べきなのかはその場で考えることとしよう……
「おう、すまんかったな、ちゃんと連れて帰ってやるから安心しろ」
「あら、もうこのまま放免されるんじゃないかと期待していたのに、迎えになんて来なくても良かったのよホントに」
「……このまま戦勝記念祭の間中放置してやろうか? もちろん隣に鞭を置いてな、『ご自由にシバいて下さい』みたいな感覚で」
「それは残酷すぎよ、謝るから連れて帰って、ちゃんとお風呂にも入らせなさい、あと真っ当な夕食も」
「贅沢な奴だな、お前にくれてやるのは粗食と尻への平手打ちだけだ、このっ!」
「きゃんっ! フンッ、その程度ならもう平気よ、いくらでも打つと良いわ」
「お前、結局ドMなのか……」
「ちっ、違うわよっ! 勝手に決め付けないでくれるっ?」
「ふむふむ、魔王は実はドMと……明日王都中に発表しておこう」
「やめなさいってばぁぁぁっ!」
圧倒的に不利な立場の奴を馬鹿にして遊ぶのは非常に心地良い、それが魔王のような女の子であればいじめるだけだが、野郎であればここから惨殺していく流れとなったであろう。
そういえば戦勝記念祭においては、降参したり何だりの魔族、魔王軍関係者であるが、それらに時間を掛けて、苦しみながらゆっくりと死に至る方法での死刑が執行される予定だ。
もちろん処刑されるのは野郎ばかりであり、『物体事変』によって投降してきた女の子達については……まぁ、屈辱的な祭りの手伝いを追加的な労働とする感じの罰を科せばそれで良いのか。
あとは魔王に副魔王、重罪人であるこの2人の処罰についてだが、もちろんこのステージ上で何か辛い目に遭わせるということは確定として、その具体的な内容について、これから本人達も交えて検討していく必要がある。
副魔王はそこそこの防御力を有しているゆえ、多少メチャクチャなことをしても大丈夫であろうが、魔王についてはどちらかというと普通の人間に近いため、少し慎重にならざるを得ないというところもあるしな……
「よしっ、じゃあ屋敷へ帰って明日の準備と、それから……夕食は?」
「きっとアイリスちゃんが準備していてくれるはずです、エリナちゃんは微妙ですが」
「うむ、では特に心配は要らないな、エリナの奴はサボっていやがったら夕食抜きだ、はい撤収!」
『うぇ~いっ!』
結局屋敷のテラスで優雅に寝ていた馬鹿な悪魔のエリナは、連れ込まれた魔王の姿を見ていきなり起立、最敬礼しつつこれを出迎えた、自分が夕食抜きの刑に処されるとも知らずに……
※※※
「は~い、お夕飯の時間ですよ~」
『うい~っ』
「え~っと、そちらの縛られている方と……縛られているエリナさんには何を……」
「魔王には砂糖水でもくれてやれ、昆虫の仲間なんだ、エリナには反省を促すだけで良い」
「ちょっと、誰が昆虫の仲間よっ!」
「あの反省ではお腹が満たされないというか……せめて魔王様だけでもまともなものを」
「うるさいなぁ、じゃあ魔王にはエリナの肉を削いでくれてやろうか?」
『ひぃぃぃっ! 残酷すぎるっ!』
「イヤならしばし黙っておけ、あ、ところでジェシカ、副魔王の奴の様子はどうだ?」
「どうもこうも、凄い勢いで食べてずっと寝ているぞ、もうカレン殿よりは大きい程度まで回復した」
「どうしていつも私を出すんですか……小さいのと比べるのに」
「すまんなカレン殿、実にちょうど良いのだ、小ささを表す単位としてな」
「うぅっ……」
ショックを受けながら肉をガッつくカレンであるが、これ以上身長が、そしてその他の特筆すべき部位についても成長することはないであろう。
同じく小さいサリナは比較的少食だというのに、どうしてこんなにも喰らっていてこのサイズだというのか、遺伝なのか、だとしたら実に恐ろしいことではないか。
と、その話はさておき、食事をしつつ明日以降のイベントの目玉、魔王と副魔王へのお仕置きについて皆で考えていく。
魔王はすぐ傍でその話を聞いているのだが、食後には話に参加させてやるということで、今はひとまず黙らせておいた。
それで、まずは2人共服を着せたままステージに上げ、そこで剥ぎ取って素っ裸にしてから罰を与えるという、精霊様による意地悪極まりない案が有力となっていく。
罰を与えた後は、その鞭の痕だらけのところへ奴隷用のショボくれた衣装を貸し与え、自分が今どういう立場なのかをわからせるというのもまたナイスである。
また、1週間に渡って執り行われる戦勝記念祭の間中、2人を晒し者にするというのも決定事項となった。
かなり長い気もするが、『祭りの間中』ということを考えた場合にはそうせざるを得ないのだ。
過去に魔将クラスをそのような刑に処し、今目の前でニンジンを齧っているマーサもそういう目に遭ったのだから、魔王や副魔王がそうならないのはおかしいということからこの決定はきている。
ついでに2人をシバき倒すための鞭などだが……これについては食後、『試し打ち』をすることによって決定しよう。
副魔王にはかなり強烈な、魔法効果などが付与されたものを、魔王に対しては人間用……というのが存在するのかどうかわからないが、シルビアさんに相談しつつ安全なものをチョイスするべきだ。
祭りの初日にして、いきなり魔王の背中や尻がスプラッター状態となり、回復魔法使いが緊急出動などということになれば興ざめであるから、ここは慎重にならざるを得ないのである……
「あとは……勇者パーティー独自の出し物はどうする? 俺様のフィギアでも並べて販売するか?」
「勇者パーティーフィギアは今でも売れ行き好調ですが、勇者様のは単体での売上がゼロなので作っても無駄ですね」
「あ、そうなの……」
「ちなみに、一番人気のカレンちゃんフィギアと抱き合わせで販売したら、なぜか勇者フィギアだけその場で叩き付けて帰ったり、燃えないのに燃えるゴミの日に出したりする方が多くて、ショップの人が困ってしまったそうです」
「あ、そうなの……おいコラ魔王、エリナもだ、そこで笑ってっと痛い目を見るぞっ!」
「ププププッ、だって……」
余計なことに話題を持っていってしまったせいで、魔王に面白がられたではないか……まぁ、この分のお仕置きは今から、実験も兼ねて済ませることとしよう。
そして夕食の時間は終わり、魔王をいじめるとやかましいマーサが居眠りを始めたところで、縛り上げてあったそれをひょいと持ち上げて別室へ移動する。
ついでに精霊様を派遣し、かなりサイズが回復してきたという副魔王を連れて来させたのだが、どう考えても魔族の幼児が入って来たではないか。
寝間着のシャツは俺の普段着を流用しているらしく、長さ的にワンピースのような感じになってちょうど良い。
だがこの見た目は完全に犯罪だ、サリナよりも、そしてその他の幼児よりもロリの、犯罪者ウケする出で立ちである。
こんな奴を、いくら副魔王だからとはいえステージ上で鞭打つわけにはいかないな。
批判が殺到するどころか、幼女趣味の変質者共による奪還騒動になりかねない。
とにかく、今はその副魔王を床に座らせ、現在の状態について本人に問うてみる……問うてみるのだが、副魔王は目の前に出現した魔王の哀れな姿、それをいきなり見てしまったことによって大きなショックを受けている様子だ……
「魔王様、魔王様がどうしてこのような目に、こういう風にするならせめて私を」
「いやお前にやったらより違法性が高まるからな、魔王ならほら、ニセモノの少女だとわかるぐらいの年齢感だからな」
「余計なお世話よ、というか早く降ろしなさい、酔っ払いのお土産じゃないんだから、紐で吊るさないでちょうだい」
「そうかそうか、じゃあちょっと揺らして……縄が食い込むだろう?」
「ひぎぃぃぃっ!」
「あっ、何をするんですか勇者さん、魔王様を降ろしてあげて下さい」
「わかった、じゃあ包丁を持って来てくれ、三枚に下ろすからさ」
「そうじゃないっ、そうじゃないですからやめて下さいぃぃぃっ!」
副魔王がパニックになってうるさいため、ひとまず魔王を床に転がし、食い込みまくった縄を解いてやる。
やれやれと言った感じで手首や足首を擦る魔王だが、その程度の痛みなどこれから先幾度となく味わうことであろう。
で、そんな魔王と副魔王に対し、ルビアと精霊様が別室から運んで来た、シルビアさんが用意したと思しき鞭を大量に提示してやった。
なぜかルビアの方は衣服がボロボロの状態であるため、おそらく『安全性の確認』は済んでいるアイテムばかりなのであろうが、魔王に対しては荷が重すぎるし、副魔王に対しては……ビジュアル的に完全アウトだな……
「う~む、おい副魔王、お前明日までに元のサイズに戻ったりしないのか?」
「無理ですよ、というか、勇者さんが散々叩き起こしたり、それ以外にもとんでもないことをしてきたせいで、ゆっくり休むことが出来なかったんですから」
「そいつはすまんかったな、しかし……どうする精霊様?」
「まぁ、この感じだと普通に正座でもさせておくしかないわね、直筆で『私は悪いことをしました』みたいなのをプレートに書かせて、それを首から提げさせて」
「魔王の方は?」
「そうねぇ、ちょっとそこへ四つん這いになりなさい」
「どうして私がそんなことを……あ、はい従います、文句はございません、はい」
「精霊様はさすがに怖いんだな魔王も……」
ビビッて何も言えなくなった魔王に対し、精霊様は容赦なく連続の鞭を浴びせていく。
悲鳴を上げる魔王、なお、予め普段斬るべき服は脱がせ、捕縛した際と同じネグリジェ状態にしてあるのでどれだけ裂けても大丈夫である。
で、結局魔王に対しても鞭打ちはNGであり、明日以降のステージ上では普通に精霊様がお尻ペンペンの刑を執行するということに決定した。
ホッとする魔王、そして魔王がそうされるのであれば、自分も同じようにと要望してくる副魔王に対し、精霊様はその程度であればと許可を出していた。
「よし、じゃあお前等、明日からは覚悟しておけよ、事情により鞭打ちの刑には処せないが、その分タップリと恥ずかしい目に遭わせてやるからな」
「威勢が良いわね、もうあんなの慣れちゃったし、お尻ペンペンなんてちっとも効かないわよ」
「じゃあ今からしてやろうか? というか調子に乗った罰として100叩きだっ!」
「ヒィィィィィィッ! やっぱり痛いのでやめて下さいぃぃぃっ!」
「ダメだな、いつも反省したフリだけしやがって、どうせまたすぐに調子に乗るんだお前はっ!」
「あうぅぅぅっ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」
全く反省しようとしない魔王に対して、ビシバシとお仕置きを加えていると、この会には参加していなかったユリナとサリナがやって来て、かわいそうだからと制止する。
結局この2人と、あとは大部屋で寝ているマーサが横やりを入れてくるため、屋敷では魔王にも副魔王にも、それなりの罰しか与えられないであろう、これからもそれは同じだ。
ならば明日以降、公式の場で2人に対し、以降大人しく従順な性格となるようにとの願いを込めて、そこそこに酷い感じで罰を与えるしかないであろう……




