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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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977 真の女王様

「この豚野郎! 平伏さないと鞭で打つわよっ! 豚野郎! 死ねっ! この変態豚野郎!」


『ブフォフォフォッ、な~に言ってんだかこの格好だけの偽女王様は、小生はね、その人間が本当に女王様かどうか、見ただけでわかる能力を持っているのでござるよ、だからお前は……雌豚だね、そんなところだろうね』


「……じょ、女王様に何という口の利き方を……覚悟なさいっ! ミストレスウィィィップ!」


『おっと、鞭はホンモノのようだね、だが真の女王様以外からの攻撃は、小生には一切無効なのでござる、わかるかね偽女王様、お前は小生にダメージを与えられないでござるよ、ブフォフォフォッ、ブヒッ』


「な、何という敵なんだ、これでは『真の女王様』を用意しない限りどうにもならないじゃないか……精霊様、いけるか?」


「無理よ、コイツが求めているのは真の、つまり女王様であることが自他ともに認められている者、そして私はそうじゃないわ、精霊様とは名乗っているけど女王様などという下賤な、人族や魔族何かのトップを示す肩書を得たことはないもの」


「クソッ、そういうことか……」



 元偽女王様の鞭を用いた攻撃に対し、それをまともに喰らっても傷ひとつ付かない、というか完全に無効化してしまっている『H₂O TypeMM』、こちらは防御力云々の話ではないようだな。


 そしてその『無効化』を突き抜けてダメージを与えるためには、この豚が求める『真の女王様』による攻撃でなくてはならないということ。


 そんな者はパーティー内に居ないし、精霊様やその他の仲間をそれに近い状態に化かしたとしても、この豚の観察力の前では全くの無意味、女王様の真正性を確保出来ないのだ。


 これはどうしようか、今からそういう店に連絡して、派遣型の女王様をこちらに寄越して貰うか。

 いや、この魔王城では『そういうデリバリー』を呼ぶことが出来ない可能性が高い、即ち派遣されても門前払いを喰らってしまうであろうということ。


 さらには、もしその『デリバリー』に成功したとしても、場合によっては真の女王様ではなく、生活のために致し方なくやっている『職業女王様』が来てしまうことも考えらえるし、そうなってしまうことの蓋然性は極めて高い。


 つまり外部から女王様を調達する作戦にはリスクしかなく、リターンの方はまるで期待出来ないということ。

 ならば今あるもので、今ある人材だけで、どうにかして『真の女王様』を創造しなくてはならないのだが……無理だ。


 まさかこんなところで後悔することになるとは、勇者パーティーのメンバーは、俺の趣向を反映して半分程度がMまたはドMであるということを。


 一部、子どもすぎてどちらなのかわからないリリィや、そういったことを口にしないが、おそらくMなのではないかという状況のカレンなど、不明な点が多い仲間も居るのだが、基本的にドSキャラは精霊様のみ。


 他に可能性があるのはそこそこの変態であるミラか……いや、ミラも女王様を騙ることは少ないのだ、ムチャクチャはするが、そういう肩書を用いて誰かにお仕置きしていたことは……まぁ、多々あるような気がしなくもないな……



「……ミラ、もしかしてお前、いけそうか?」


「イヤですよ、最近は女王様って気分じゃないですから」


『ブフォフォフォッ、その程度の考え方では真の女王様には程遠いでござる、チェンジでござるっ!』


「おい、チェンジされたぞミラ、悔しくないのか?」


「別に、こちらからチェンジしたいぐらいですからねあの気持ちの悪い豚は、生きていて恥ずかしくないんでしょうかね……」


『ブフッ、ブヒッ……っと、なかなか偉そうな態度でござるな』


「……今さ、ちょっと反応しなかったかコイツ?」



 ミラが変態豚野郎の方を見ながら投げ掛けた辛辣な言葉、その瞬間、これまで平静を保っていた豚野郎が、ほんの一瞬だけ、本当に僅かだが反応を示したような気がしなくもない。


 コイツが求めているのは真の女王様、そういうことではあるが、もしかするとその素質を有する、まだ未成熟でその存在が確定しないようなキャラであれば、可能性がないとは言えないのではなかろうか。


 おそらくは精霊様ではアウトであるに違いない、その存在が長い年月を経て確定しているためだ。

 そしてまだ未成年であるミラのみが、この場において唯一可能性を残す人物なのであろう。


 ひとまずはミラを中心に序盤の戦いを進めていくべきだな、少しは対抗することが出来そうだし、それをしている間にもっと具体的な作戦を練り上げるのだ。


 それを告げずとも俺の意図を察し、前に出たミラは……目の前の豚野郎に対し、さらに言葉のナイフを投げ付けるつもりのようだな……



「あのですね、どうして私があなたのような気持ち悪い顔の方とお話をしなくてはならないんですか? 面談に際しては料金を取りますけど、その顔でお金とか持っているんですか?」


『ブモォォォッ……ふっ、金銭なら所持しているでござるよ、小生は魔王軍のそこそこの地位にはあるゆえ、収入は多いのでござる、だがお前のような小娘にやるつもりは一切ないでござるよ』


「そうです、ではこれで面談を終了します、ここまでの分の料金は金貨5万枚ですが……あなたのような気持ち悪い方が触った貨幣に触れたくはないですし、近付くのもイヤですので、こちらのギルド口座にお振込み下さい」


『ブッヒィィィッ! たっ、たまらんっ……いやたまらんくはないっ! だから払わぬと言っているでござろう、諦めるでござる人族の小娘よ』


「では早めのお振込みをお待ちしております、なお、今の会話の分が増額して金貨10万枚ですね、利息は年200%(365日日割計算)ですのでよろしくお願いします」


『ブヒッ、ブヒィィィィィィッ! 小生の話どころか利息制限法までガン無視とはぁぁぁっ!』


「おっ、何か知らんがダメージが入ったようだぞ、ミラ、もっとやってやれっ」



 かなり酷い、酷すぎるのではないかと心配になるぐらいに責め立てるミラであるが、ここまでしてもなお敵のHPはほんの少し削られたに過ぎない。


 このままミラを使った作戦は継続するとして、やはりこちらはこちらで『真の女王様』をどうにか調達することを考えなくてはならないようだ。


 ミラのお陰で変態豚野郎がうるさくない……まぁやかましくはあるが、こちらに向かって言葉を発してくるわけではないので、単なる騒音として、完全に無視して話し合いを進めることが出来る。


 ということで後ろに集合したのは俺とユリナ、サリナ、ジェシカ、さらに精霊様……と、その後ろで暇そうに見ているのはマーサとマリエル、そのメンバーだ。


 他の仲間達はミラによる『豚野郎イジメ』の方に興味津々の様子で、リリィなどは豚野郎のいちいちオーバーなリアクションを見て、その都度爆笑している始末である。


 まぁ、その辺りは馬鹿なので、特に話し合いには参加させなくても良いであろうし、むしろ邪魔なのでミラ達の方を観戦して頂いて一向に構わない。


 こちらはこちらで話し合いを進めて……と、そもそもどうやって女王様を調達するのかについてだが、それに関してまずわかっている事項を確認しておくところから始めないとだな……



「え~っと、そもそもだぞ、女王様の外部調達は一切不可であると、その可能性が極めて高いという認識で良いんだよな?」


「そうだな、ここは魔王城の、しかもごく上層階なわけだし、人族や魔族の『一般女王様』がこんな所までやって来るのは難しい」


「そうなると、誰かがこの場で『真の女王様』になるしかないということですのね、誰かが……」


「ええ、その『誰を真の女王様に仕立て上げるのか』というところが難しいのよ、ほら、ドSキャラは私と、こっちの異世界豚野郎ぐらいのものなわけだし」


「こらこら、他人に向かって豚野郎とは何事だ、精霊様だって雌豚にされるかも知れないんだぞ、わかってんのか?」


「大丈夫よ、もし雌豚なんかにされそうになったら、舌を噛んでしようとした相手を殺すわ」


「舌を噛むところからどうやって相手を殺すことに繋がるのかを教えて欲しい……」



 結局くだらない話の方へと流れていってしまうのがいつものパターンなのだが、そんな中でも今回は、頭の中のみではあるが比較的真剣に考えているという点を評価して欲しい。


 この中に『真の女王様』の資質を有する者はまず居ない、精霊様がダメであれば完全にダメなのだ。

 もちろんジェシカ辺りをそれらしい格好にさせたとしても、その醸し出す『Mの雰囲気』を敵に察知されるのは確実。


 これは八方塞がりか、一旦床をブチ抜き続けて地上へと戻り、王都で『女王様オーディション』を執り行うとか、そういうことをせざるを得ないのか。


 皆でそのように考え、ここにきて今回の魔王城完全攻略を諦めかけたとき、後ろで見ていたアホのマーサが、シュッと手を挙げて発言の許可を求める。


 どうせろくでもない意見が飛び出してくるのであろう、誰もがそう考えたのだが、この期に及んで何も思い付かない俺達がそれを言う権利などない。


 ゆえに、ひとまずマーサを輪の中に引き入れ、何か(まともな)意見がある場合には発言を許可するとしたところ、なぜか自信満々で答え出した……



「えっとね、女王様になれば良いの、ホンモノの」


「……いや、だからマーサ、話を聞いていたか?」


「ご主人様、マーサの場合にはしっかり聞いていても理解はしていないという可能性が極めて高いですの」


「そうか、じゃあもう一度、ウサギにもわかるよう簡潔に言うがな、この中に女王様性を帯びたキャラは居ない、よって誰もホンモノの、真の女王様にはなり得ない、以上」


「え? だってマリエルちゃんは? 王様のアレなんでしょ? 悪戯しすぎてもうダメってことにされちゃってるけど、それが復活したら女王様よね? ホンモノの」


「マーサ殿、真の女王様というのはそういうことではなくてだな、もっともう、あの、すっごい感じのだな……夜の女王様なんだ」


「でも女王様は女王様よね?」


『・・・・・・・・・・』



 呆れて声も出ないとはこのことなのだが、とにかくマーサは、マリエルを『普通に王位に就けて』、それこそ『ホンモノの、真の女王様』にしようと考えているのだ。


 だが俺達の言う『真の女王様』はそんな世俗的なものではなく、もっと神聖であってファンタスティックであって、それからエッチな格好もして夜にのみ活躍するものなのである。


 それをマーサに理解させることは……おそらく出来ないな、何を言っても、俺達が想定しているような女王様の条件を満たす女王様について、マーサが深い知識を持っていないという点がネックになるということ。


 もちろんこれから、最初からその『真の女王様』についてマーサに講義してやるつもりは一切ない。

 単に時間の無駄というわけではなく、きっと理解を得させるまでに、俺の短い一生は幕を閉じてしまうためだ……



「おい、ちょっとマーサ以外集合、マリエル、すまないがそこでマーサの頭でもわしゃわしゃしておけ」


「わかりました、さぁマーサちゃん、覚悟なさいっ」


「はぁぁぁ、うぅぅぅ……何だか馬鹿にされているような……まぁ気持ち良いから別に……あうぅぅぅ……」


「よし、邪魔者は消えた、ちょっと追加の作戦タイムだ」


「ですがご主人様、今のマーサ様の意見も少し参照してあげた方が……というか唯一の意見ですし」


「……確かにそうだな……いや、もうどうせだからこの意見、採用してしまうか? 面倒だし」


「そうね、面倒だしそれでいきましょ、マリエルちゃんを国王に即位させて、それこそ『真の女王様』だと主張するのよ」


「……いい加減にも限度というものがあるのでは……まぁ、やりたいというのであれば私は構わないが」



 ということで作戦は決定、いや決定ではないし、これは作戦とも呼べないような愚かな行為なのだが、とにかく間を持たせるための行動は確定した。


 あとはどうやってマリエルを即位させるのかという点だが……かつて王位簒奪を狙い、危うく父親である駄王を殺してしまうところであったマリエルは、罰として勇者パーティーに加入させられ、ついでに王位継承権も剥奪されてしまっているのだ。


 つまりこの場で勝手に即位を表明したとしても、誰に頼まれたわけでもない、全くもって正統性のない僭主にしかならないということ。


 そんなものでは話にならないし、それが真の女王様であるなどとは口が裂けても、ケツがガバガバになっても言えない。

 つまりここからは、その僭主マリエルにどうやって正統性を持たせるのかということだが……無理だ。


 例えば、この場所から適当に伝書鳩でも飛ばして、『王位は私のものだ、ざまぁ見やがれ――-マリエルより』などという手紙を送ったとしても、それは単にふざけて怪文書を送り付けてきたな、ぐらいにしか取られないはず。


 当然のことながら、頭の回るババァ総務大臣にもこの意図は理解出来ないであろうし、そもそも俺達が魔王城のほぼ最上層にて、真の女王様などというわけのわからないものを求めているという状況自体、通常では考えられないものなのだ。


 これにつき帰ってから事情を説明するにしても、現時点でマリエルが女王様としての正統性を帯びていなくてはならないという条件を満たすことが出来ない。


 またしても無理難題によって計画が頓挫してしまいかけているな……これはどうにかしなくてはならないのだが……普通に無理だ。



「……ダメだ、どういう方法を取ってもアレだ、マリエルが『女王様を騙る単なる馬鹿』になる結果しか出ないぞ」


「仮定の上ではそうなるわね……どこかが都合よく運べばそうでもないのかも知れないけど」


「あ、勇者様、それに精霊様も、ちょっと良いですか?」


「どうしたマリエル、もっとマーサをわしゃわしゃして黙らせておけ」


「いえしかし、その王座に就くための作戦ですが……最新の伝書鳩を使えばどうにかなるかも知れませんよ」


『最新の伝書鳩?』


「ええ、ついこの間研究所で開発された魔導生物の伝書鳩、『下り最速レボリューション』の『レインボーエディション』というものです」


「またわけのわからんのが出現したな……っと、すげぇな、レインボーに輝く伝書鳩かよ」


「もう鳩じゃないわよねそれ……」



 これまでも十分にわけのわからなかったこの世界の伝書鳩、それがここに極まれりといった感じで、マリエルのバッグの中からとんでもない輝きを放ちつつ取り出される。


 もうこれは鳥の形状だけしたやべぇ何かだ、どうせ超高速で王宮に文書を届けて……いや、下り最速だと? その意味は一体何なのであろうか。


 表示されるまでの時間が短いという意味での『速い』なのか、単にこの高い場所から凄まじい勢いで滑空して、王宮へ到達するのが『速い』なのか、それともそれ以外の意味を有しているのか、そこが重要である。


 だがその『速い』がここに挙げたふたつの意味であったとしたら、それはもう別に意味を成さない、マリエルの自信は単なる馬鹿の戯言に過ぎないということだ。


 一応は聞いてみようと思うのだが、果たしてどういう意味での『速い』を言っているのか……



「……マリエル、その『下り最速』ってのだが、何の意味があるんだ?」


「え~っと、勇者様の頭でもわかるように説明しなくてはなりませんね」


「おうっ、何かすげぇムカつくけどよろしく頼むぞ」


「実はですね、この伝書鳩は『往復タイプ』なんですよ」


『往復タイプ?』


「はい、返信用封筒を入れてやり取りするような感じなんですが、とにかく王宮へ向かうのが『上り』、そして王宮に文書を届けて、その回答をここへ届けるまでが『下り』になります、その『下り』がとんでもなく速いですし、あと文書の受取人が既読スルーとかしようとすると半殺しにされます」


「……なかなかやべぇじゃん」


「いや、しかしこれは使えるかも知れないぞ、マリエル殿を真の女王様に仕立て上げることが出来そうだ」


「いや、マジでいけそうだな、これで決まりだっ!」


『うぇ~いっ!』



 そもそも、この作戦は何もわかっていないマーサが何も知らないままに立案し、それを無視することも出来なかった俺達が、もう面倒なので採用した極めて適当な作戦である。


 だがそのことを完全に忘れ、その作戦自体が上手くいきそうであることに盛り上がってしまった。

 まぁ、それはそれで面白いので良いとして、このまま普通に作戦を続けてしまうこととしよう。


 まずはマリエルに文書を書かせる、内容としてはいたってシンプル、『魔王討伐のため、これより3時間だけ王位を譲るように』といったものだ。


 もちろんそれだけでは『激しい戦いの最中に頭でも打って、これまで以上の馬鹿になってしまったのか』、という受け止められ方しかしないであろう。


 それゆえ精霊様による偉そうな『命令書』も添付して、この文書の内容については確実に履行すること、もししなかった場合には、この世に生きる人族を全て惨殺するという脅迫をしておいた。


 まぁ、これでどうにかなるであろう、そしてもしマリエルに、一時的にでも王位が譲られたのだとしたら、それはそれでわかることになっているらしい、何だか知らないが……



「よしっ、じゃあ行って来なさい伝書鳩よ、この文書を王宮へ届け、返事を受け取って来るのです」


「だからそれもう鳩じゃねぇけどな……」



 マリエルの手から飛び立ち、窓のないフロアの壁をブチ抜いて魔王城の外へ出て行くやべぇ伝書鳩のような何か。

 あとは奮戦しているミラでも見守っておこう、そろそろ罵倒の言葉も尽きてくる頃であろうが、もう少しだけ粘って欲しいところである。


 伝書鳩がリターンしたと同時に、マリエルの『女王様タイム(3時間)』が開始される予定なのだ。

 それを待ってミラを下げ、このどう考えても上手く良くとは思えない、実にくだらない作戦を実行に移すこととしよう……

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