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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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968 狙いは

「とぉぉぉっ!」


「危なっ⁉ だから俺ばっかり狙うんじゃねぇっ! イジメかってんだよマジでっ!」


「仕方ありません、そうせざるを得ない理由があるのですっ!」


「どんな理由だよ?」


「それはナイショになります」


「どうしようもないなコレ……おっと、ひょいっ……あっ、ギョェェェェッ!」



 サポートを入れてくる他の仲間達の技を華麗に回避し、その間を縫うようにして物理、魔法の両面で攻撃を仕掛けてくる副魔王。


 それが全て俺狙いなのだから笑えない、というか笑顔など作っている余裕は一切存在していない。

 理由を問い詰めようにも教えてくれないし、そもそもそれを秘密にすることが作戦のうちである様子。


 となると、ここからは俺が攻撃されること前提で、どうにか防御陣を構築しつつ、さらに攻撃までしていく余裕を捻り出さないとならないということ。


 かなり大変だが考えざるを得ない、今は断続的に飛んで来るルビアの回復魔法によって持ち堪えているが、それが途切れるときもいつかやって来るであろうし、タイムラグなどで連続してダメージを喰らってしまう瞬間が、今すぐに訪れないとも限らないのだ。


 おそらく数十秒程度、このラッシュをまともに喰らい続けたらヤバい、完全に敗北し、他の仲間達も諦めて帰り、俺は無様に教会だの何だので復活することになる。


 それはさすがに避けたいし、王都から盛大に(強制動員含む)送り出されておいて、敗北して教会リスタートなど情けなさすぎて生きていけない。


 そもそもRPGの主人公はどうしてあのような不屈な精神で、強敵に何度も挑み続けることが出来るのだ?


 何もしないゴミクズのような『王様』に、死んでしまうとはどうのこうのと言われ続け、それでも装備を整え、鍛錬を積んで再び敵の下へと向かう。


 俺であればもう、初回の時点で鬱陶しい『王様』を、最初に下賜されたものであるのと同じ、しょぼくれた棒切れやキッチン用品を用いてボコボコに……いや、それはいつもしているな、勝って帰って、だが顔を見たらムカつくため、気晴らしにあの『駄王』の馬鹿野郎に暴行を加えているではないか……


 と、それは今どうでも良いことである、ひとまず動いた仲間達は、俺を防御するかたちで副魔王との間に入り込もうと試みたり、セラや精霊様はその力を用いて俺をガードしたりと様々である。


 もっとも副魔王の攻撃は苛烈でしかも頻度が凄いため、どうしても防ぎ切ることが出来ず、何割かはその防御を突破して俺の所まで到達するのだが……この程度であればどうにか捌くことが出来そうだ……



「そこですっ、ハァァァッ!」


「グッ……このっ、ちょっとは手加減しやがれっ!」


「そうはいきませんっ、このまま押し切れば私の勝利、ここで、この場であなたさえ倒してしまえばっ!」


「……俺さえ倒してしまえばどうなるんだ?」


「勇者の力の影響下から離脱した残りの……いえっ! 何でもありませんからっ! とぉぉぉっ!」



 何やらそれらしき内容を口走ってしまった副魔王、他のこと、どうにかして俺を倒してしまおうということに気を取られているため、お口のチャックがユルユルのガバガバになっていたのであろう。


 しかし勇者の力か……そういえば俺特有の、魔力でも霊力でも、それから神の力でもない何か、そういったものがあったのだが、今のところその正体はわかっていないのであったな。


 で、もちろんその力は今現在も、余すことなく用いて戦っているのだが、副魔王の奴はそれのことを言っているような気がしなくもない感じだ。


 で、その俺の力、勇者の力の……影響下から離脱するというのはどういう意味なのであろうか?

 そこを解読しない限り、この件についての答えは見えてこないように思えるが、果たして……



「ねぇねぇ、どうしてこのアホなだけの勇者を倒すと良いことがあるのよ? 教えなさいよねぇっ」


「ですからそれはその……えっと……その」


「精霊様直球すぎ、副魔王さん、今は言わなくて良いから、そのうちにボロを出してちょうだい、それまでにやっつけられたらその方がベストだけど、でも追い詰めていけばそのうちに喋るわねこれは」


「うぅっ、何か本当に言ってしまいそうで困ります……」



 比較的押しに弱く、しかも他のことを考えていると『うっかり』が発動してしまう感じの性格である副魔王。

 こちらも陣形が構築出来たため、攻勢を強めつつその瞬間を、戦いの中のやり取りで何か情報が出る瞬間を待つことが出来そうだ。


 そしてその副魔王、仲間達からパクッた数々の技、装備を用いるにつき、通常より多くの魔力、さらには体力をも消費しているらしいことが、その動きからも何となく把握することが可能である。


 きっとかなり無理をして、どうしても短期決戦で俺を戦闘不能にしたかったのであろうな。

 それが上手くいかないかも知れないということで、徐々に焦りが、そして体力の消耗で息切れが見えてきた。


 このままいけば数分後には、おそらく攻撃用として保持している精霊様の能力、俺達からパクッたうちで最も消耗の激しいものなのだが、それをパージしなくてはならない事態に陥るはず。


 最後まで残すのは身を守るための能力、おそらくミラかジェシカの装備のコピーか、カレン、マーサの回避力といったところか。


 そしてそのふたつについても、こちらがガンガンに攻めていく中で徐々に力を失い消滅していくことであろう。

 そうなればもうこちらのもの、俺達の勝利だ、あとは魔力と体力を失った副魔王を、あまりかわいそうにならない程度に痛め付けて捕縛するだけである。


 このことについて、この流れについては副魔王の方でも、現状維持ではそうなる可能性が極めて高いということを認識している様子だが、今は当初の作戦通り俺を狙い続けるしかないらしい……



「えいっ、えいやっ……あれ? 水が出なくなりました、これは……」


「あら、私の技はもう打ち止めみたいね、消費の激しさに付いて来られなかったんだわきっと」


「そんなぁ~っ、こうなったら風魔法と火魔法だけで……あ……ぎゃいんっ!」


「隙ありです、あとこの次もありますから」


『ファイヤーッ!』


「ひょぇぇぇっ! あぢっ、あぢっ」


「ガハハハッ! リアル尻に火が点いているぞ、大丈夫か~っ?」



 遂にそのときがやって来た、副魔王が射線上に入った俺に向かって繰り出そうとした、渾身の一撃と思しき水の弾丸。

 それは全くのスカであり、水どころか水蒸気さえも出ないといった有様で、もはや確実なネタ切れを現すものであった。


 それで焦ったところを、ミラが容赦なく後ろから斬り付け、さらにはリリィが高温の炎を浴びせ掛ける。

 尻から回った火で火達磨となってしまった副魔王は、ちょうど良いところで水の力を失ったことを後悔しつつ、自分の有している魔法を用いて消火していた。


 装備は真っ黒に焦げ、髪も『実験に失敗した博士』のような感じになってしまっているのだが、こういうのは次のシーンに切り替われば元に戻っているものなので、一瞬目を逸らし、もう一度視線を戻してやることで対処しよう……


 ……と、姿だけは元に戻ったようだが、最初にミラから斬り付けられた背中の部分と、それからリリィのブレスをまともに喰らった尻の部分はどうにもならなかったようだ。


 バフッと煙を吐きながら、手探りで背中と尻の様子を確かめる副魔王だが、その様子が感覚でわかったところで、顔を赤くして焦りの表情を見せる……



「ちょちょちょっ、ちょっとタンマですっ! 今の私、おそらく素っ裸よりも恥ずかしい恰好になっていると思いますのでっ!」


「素っ裸よりも恥ずかしい? ちょっと後ろ身向いて見せてくれよ、なぁ、どんな感じになってんだ?」


「見せられませんっ!」


「サササッ……あ、お尻丸出しですね、背中の方はもうちょっと斬った方が良さそうです、それっ!」


「ひぎぃぃぃっ! 何をするんですかこの狼獣人はっ? あなたなど勇者パーティーへの所属による強化が解ければ、単にちょっと強キャラなだけの普通の獣人に……」


「普通の……何ですか?」


「何でもありませんっ!」


「変な魔族の人ですね、そういう人にはお仕置きです、それそれそれそれっ!」


「ひぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃっ、のわぁぁぁっ!」


「こっち飛んで来たわよっ、ユリナちゃん、精霊様、地面に落としたら負けね」


『うぇ~いっ!』


「ひぇぇぇっ! 他人でパス回しなんてしないで下さいっ!」



 カレンのお陰でおよそ半分、いや7割程度までは真実が出てきたようである、そして余計なことを口走って動揺し、そのまま吹っ飛ばされた副魔王。


 今はセラ、ユリナ、精霊様の3人によって、遠距離攻撃を用いた『魔導排球』の練習に用いられている。

 時折見える背中側は、ミラに続いてカレンが切り裂いたことにより、もはや何も身に着けていないのと同じ状態。


 そんな姿でポンポンと宙を舞う副魔王に対し、調子に乗った異世界勇者様たるこの俺様が襲い掛かる……



「喰らえっ! 勇者強烈アタァァァック!」


「いったぁぁぁっ!」


「アウト!」

「アウトですわね」

「完全にアウトだわ」


「クソッ、強く打ちすぎたか、いや、もっともうドライブ回転を掛けるかたちで引っ叩かないとダメだったようだな」



 体が丸まり、生の尻がこちらに向くタイミングを狙って仕掛けた俺のスペシャルアタックであったが、まっすぐに飛んだ副魔王はそのまま床に着くことなく、魔導障壁の壁にブチ当たってぺちゃんこになってしまった。


 最初に俺がやられた攻撃の意趣返しだ、『魔導排球』のルール上、天井何とやらをするわけにはいかないのだが、まぁ、これはこれでなかなかの攻撃であったということで良しとしよう。


 で、ぺちゃんこのままヒラヒラとこちらへ舞って来た副魔王は、もはや体力の半分程度、魔力の8割程度を失った状態で、こちらからパクった術も、ミラの盾を除いて全てが消滅していた。


 さらに、このままの状態では『ミラの盾単体』でも凄まじい勢いで魔力を消費してしまうらしい。

 一瞬目を離した隙に元の空気が入った状態に戻っていた副魔王は、自らその盾を消滅させ、力の浪費をそこで終わらせたのであった……



「……いてて、本当に酷い目に遭わせてくれますね」


「副魔王よ、痛いのであればそろそろ降参したらどうだ? これ以上主殿が調子に乗ると、永遠に消えない心の傷を与えられることになるぞ」


「うぅっ、それはちょっと……でも『こうさん』の4文字はありません、そんなことをすれば魔王様に申し訳が立ちませんから」


「じゃあどうするってんだ? このままイジメ倒しても構わないのか?」


「え~っと、考えますからちょっと待って、あと着替えますからもうちょっと待って」



 コイツの頭の中では『降参』の2文字ではなく『こうさん』の4文字なのかと、普段からそういう漢字、いや感じで物事を考えているのかと、少し心配になってしまうところだが、とにかく着替えの時間だけは与えてやろう。


 とまぁ、時間といっても一瞬だけ、指をパチッと鳴らせば、副魔王は元の綺麗な服装に戻っているのだから……いや、それでも『装備』としてのダメージまでは回復していないようだな、背中側については本当に単なる布だ。


 そして俺が装備している、というか着ているものについても単なる布の、ゴミのような製品なのだが、幸いにしてこの世界は『戦闘中であっても野郎の服が無駄に(ネタを除く)破れることはない』という仕様である。


 つまり衣服が弾け飛び、素っ裸になってしまうのは女性キャラだけであって、この後激しくぶつかり合えば、副魔王は再び先程の恥ずかしい、背中と尻が丸出しの格好へと戻ってしまうということ。


 もっとも、ここまできたらもはや、副魔王自体を打ちのめし、戦闘不能にしてしまう方が早そうだ。

 本人は何やら考えているようだが、ここからは一方的な蹂躙、最悪でもこちらの優勢が確定したままの戦闘継続となる可能性が極めて高い……



「……じゃあ、そろそろリスタートといきましょ、副魔王、あんた覚悟は出来ているんでしょうね?」


「覚悟も何も、まだ勝つつもりでいます」


「往生際が悪い……それなら一撃で決めてあげるわっ! それぇぇぇ……あれ?」


「ふぅっ、どうにか防御が間に合いましたね、これでしばらくは戦えるはずです」


「どういうことよ? この障壁、ほとんど魔力が……あっ、このホール全体に張られているものと同じじゃないのっ!」



 フィニッシュを決めてしまおうとした精霊様、それは俺の役目なのだからよしてくれとお願いしようとしたところ、その必要もなく攻撃は止められてしまった。


 副魔王の目の前に張られた結界というか障壁というか、それは確かに精霊様の指摘通り、このホール全体に張り巡らされた、まるで壊れる気配のないそれと同じものである。


 それが副魔王の前面だけでなく、安心しているところに後ろから不意打ちを仕掛けたカレンによって、背後にまで張られていることが確認された。


 つまり鉄壁、どころか無敵、副魔王に攻撃を届かせるには、このやたらと頑丈な障壁を打ち破らなくてはならないということ。


 だがそんなことをするのであれば、このホール全体に張り巡らされた方を破壊して、直接魔王に攻撃、縛り上げて人質とし、それをもって脅してやる方が早そうだ……もちろん、破壊することが出来ればの話ではあるが……



「……凄いですわねこの障壁、ほとんど魔力を使っていないのに、どうしてこんなに強力なものが出来ているんdねすの?」


「アレです、何か魔力を流す際の形とか、確か凄い形状の何かをアレして……全然わかりませんが、とにかく特殊な形の構造をさせておけば、このぐらい激カタになるということです、知りませんけど」


「全然知らずにやっているんですのね……」



 ダイヤモンド構造だとか2×4工法だとか、きっとそういった類のアレがアレしてアレな感じとなり、とんでもなく凄いことになっているのであろう。


 いや、だからといってここまで強力なのはさすがにアレなのだが、もしかすると俺が居た世界にはなかった、もっとアレな超技術が用いられているのかも知れないな。


 だとすれば構造を分析し、この障壁自体の弱点を解明することなど出来ようはずもない。

 ここは力技で、無理矢理にでもこれを破壊していくしか方法がないということだ……



「アチョチョチョッ! アチョォォォッ!」


「勇者様、声だけ頑張っても何にもならないわよ」


「……普通に手が痛てぇ」


「フフフッ、無駄ですよそんなことをしても、これまでの激戦で破壊されなったこのホールの障壁と同じアレなんですから、その程度の攻撃では破壊することが出来ません」


「いや、言うほど激戦でもなかったようなきがするんだがな」


「それは言いっこなしです、今までのは激戦でしたし、魔王様もほら、凄く楽しそうに笑っておられるじゃないですか」


「馬鹿にしてんだと思うけどなあの感じは……」



 ここで始まった膠着状態、副魔王は自ら張った障壁の中に閉じ篭り、全く攻撃をしてくる様子がないうえ、もちろんダメージも受け付けない。


 で、こちらから勇者パンチだの勇者キックだの、大勇者様ラリアットだのを喰らわせても、その障壁はビクともしないといった状況。


 このまま地道に副魔王の魔力が、この障壁の維持を出来なくなるほどにまで消耗するのを待つか……このペースであれば、きっとそれは3年程度後になるのであろうが。


 いや、石の上ではあるまいし、このまま3年待つわけにもいかない、あとやるべきことといえば……そうだ、ひとつ試してみたいことがあるな、この作戦はどうか……



「ルビア、ちょっとこっち来い」


「あ、はい何でしょう? サボっていたのがバレたのでお仕置きですか?」


「サボっていたのかよお前、いやでも今は良い、ちょっとさ、作戦があってさ、例えばさ、ごにょごにょ……」


「あ、はーい、わかりました」


「……何を企んでいるというのですかこの性悪勇者は?」


「いやお前ほどじゃないけどな、とにかく行けルビア! 副魔王に体当たりだっ!」


「はいっ! ほぉぉぉっ!」


「いやっ、何のつもりですか? そんなことしたら障壁にぶつかって痛い目を……まさかこの子、そこまでドMだというのですか?」


「はいドMですぅぅぅっ! とぉっ!」


「ひぎゃんっ! え? は? えぇっ!?」


「フンッ、俺の筋書き通りだったな、おい皆! 畳んじまえっ!」


『うぇ~いっ!』



 ルビアの体当たりは完全に成功、障壁の向こうに居たはずの副魔王に対し、体でぶつかって押し倒す。

 ついでに頭が顎にヒットし、そこそこのダメージも与えることが出来たようだ、そしてルビアの追加攻撃によって、副魔王は障壁の外へ吹っ飛ぶ。


 この期に及んで何が何なのかわかっていない様子の副魔王、どうしてこうなったのか、それを考える余裕すらない状況で、ひたすらに目を丸くして驚愕している。


 そう、ルビアは、ルビアだけは色々と特殊な状態にあるということを、副魔王の奴はまるで考慮せずに『障壁引き篭もり作戦』を敢行していたのだ。


 ルビアがなぜ攻撃を受け付けないのか、もちろん回復魔法を放つ際にはそこから出ているのだが、かつて女神から借りパクした箱舟が、ルビアの周囲を覆っているためである。


 そしてその箱舟、極めて神聖なものであって、本来はこんな薄汚い地上になど存在して良いはずのモノではない。

 ではその神聖な、この世界の理を超越した何かが、副魔王様ご自慢の最強障壁とぶつかった場合、どちらが勝利するのか。


 ここに『矛盾』など生じない、副魔王の最強はこの世界において、しかも魔王軍による『当社比』で最強であるというだけのこと。


 対するルビアの、いや別にルビアのモノではないのだが、その有する箱舟は、この世界はおろか神界、そしてその他の異世界等を巻き込んだうえでの最強。


 その大きな差に破れた副魔王は、今は寄って集ってフルボッコにされている……さて、これでかなりの体力を削ることが出来たであろうが、残りもう少し、気を抜かずに追い詰めていこう……

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