963 対象外
「いくぞオラァァァッ! 死に晒せやこのクソババァがぁぁぁっ!」
「ほぉぉぉっ! アチョォォォッ!」
「フンッ、良い度胸だな……魔法老女流身体強化術、解放、魔法老女流魔力具現化システム、解放、プリティーハートステッキ(対象年齢3歳以上)、制限解除……魔法老女アンプリティエイジング、フルバーストモード!」
「げぇぇぇっ! すげぇパワーだぁぁぁっ!」
「ご主人様、そこ危ないですっ! こっちへっ!」
いきなりパワーを解放してきたババァ、魔力だけ、魔法だけのキャラかと思いきや、その魔力を用いて身体を強化、さらに女児向け玩具にしか見えない魔法のステッキでその力を増幅しているではないか。
よって現状は顔だけがババァで、肉体の方はバトル漫画の主人公並に筋肉ムキムキ、お前のようなババァが居るかとはこのことだと、そう主張したいのを我慢することは出来ない。
で、その魔力の具現化によって生じた凄まじい衝撃波を受けてしまうような位置に居た俺やその他戦闘不能の仲間について、リリィがササッと動いて救助を進める。
床は割れ、壁にはひびが入り、天井も崩れて素材がボロボロと落下、そしてその落下物が、今度は魔力によって浮かび上がり、結局空中にフワフワと浮遊しているような状態。
これは正直なところ勝てそうにないな、もちろん他の仲間、俺とリリィ以外も動くことが出来れば造作もないのだが、現状はそうもいかないところ。
少なくとも静電気にやられただけのカレンとマーサ、無駄に吊るし上げられているだけのミラとジェシカ、そして三角木馬に騎乗して喜んでいる馬鹿のセラとルビアについては、この辺りで戦線に復帰して頂かなくてはならない。
まぁ、クッキーを口にして麻痺毒で倒れた馬鹿3人と、それを知っていながら、いきなり敵が差し出した紅茶を飲み、同じ毒を喰らった大馬鹿王女様は……罰も兼ねてしばらく放っておくこととしよう。
ここからは少なくとも8人で、このババァ1匹を囲むようにして戦う、特に物理攻撃を加えていき、単に魔法を流し込んだだけのその肉体を、元のババァのものへと戻してやるのだ。
そうすればほんの一撃、軽く触れてやるだけで、こんなヨボヨボの肉体など粉々になり、再び魔力を回復し、この世界に召喚されるときまで、またしばらくはどこか別の次元に封印されることとなるに違いない。
そもそもこの肉体自体も、既に失ったものを魔法の力で具現化し、使用しているに過ぎないのだ。
勝利のためにすべきこととして、第一にも第二にも、このババァの肉体を消滅させること、もはやそれに尽きるといっても過言ではないであろう。
「ほら起きろカレン、マーサ、ミラとジェシカも降りて来いっ」
『あ~い』
「うわっ、びっくりするほどやる気ねぇなお前等」
『だってぇ~っ』
ろくに戦うことも出来ず、無様な感じにやられていた仲間達の士気は低い、対するババァの方は全身の血管が凄いことになり、涎を撒き散らしならが力を高めている。
というか腕が6本、また増えて8本……まだまだ増殖しているではないか、しかもその1本1本が、それぞれ自由に動いて魔法を放ったり、物理攻撃を繰り出したりすることが可能である様子。
こんなバケモノを相手に、こちらは馬鹿4人が欠けた状態で、しかもその他の仲間もイマイチやる気が出ない状態で戦わなくてはならないというのか。
それは無理だと、さすがにこれはやりすぎだからやめろと、ゲスロリとカスロリの2人に伝えて攻撃を中止させたいところであるが……2人の性格からして、そう簡単にやめてくれるようなことはないであろうな……
まぁ、ひとまず現状の最大戦力であるリリィを前に出し、その援護にミラとジェシカ、そしてカレンとマーサは背後に回らせる感じの動きでいこう。
後ろのセラとルビアだが、特にルビアは全体に気を配って可能な限り細かく回復魔法を飛ばす、セラもそれなりに魔法攻撃を加えつつ、ヤバそうなタイミングでは防御に回って貰うこととした。
で、後ろの2人、というか『箱舟』のないセラと、それから無駄に転がっているだけの馬鹿共を護るのは俺の役目だ。
ババァがどういう攻撃でくるのかわからないのだが、とにかく前で受け止め切れなかった分につき、俺の方で引き受けざるを得ないといった感じである。
あとはもう、戦いながら見極めをしていくしか方法がないな、そろそろ向こうから仕掛けて来るようだし、まずは受けて、全体的にどんなノリで戦闘が進むのかについて把握しておこう……
「ハァァァッ! 究極労害拳法……労害大魔法……敬老守護術式……それぞれ発動……参るっ!」
「ほぉっ! 受けますっ!」
「ダメだリリィ殿! 避けるんだっ!」
「はえ? キャァァァッ!」
「リリィちゃんっ! よいしょっ、ナイスキャッチよ!」
「ありがとうマーサちゃん、助かっちゃったかも……でも今のって……何でしょうか?」
「……これは、この戦士は『労害術』の使い手のようだ、私とて書物でしか見たことがない、伝説の『若手殺し拳』とのことだが」
「フフフッ、少しばかり勉強している者も居るようだな、まぁ、そなたは貴族令嬢か、知っているのも頷けるな……で、いかにも我が拳は労害術の一種、具体的には『対若手キャラダメージ500倍』という、若手に対してのみ凄まじい効果を発揮するものだがな……後ろでアホな水の精霊がひっくり返っているという幸運、上手く活かさせて貰おう」
「クソッ! なんて非生産的な術式なんだっ! これじゃあ俺達に勝ち目なんかないだろうがっ!」
ただでさえセラやユリナと同等の魔力を有し、それを物理的なパワーの方にも還元し、ミラやジェシカとそう変わらない程度の力も得ている魔法老女のババァ。
それが『対若手キャラ』の攻撃においては『ダメージ500倍』ときた、つまり魔法を受ければセラやユリナに攻撃された場合の500倍のダメージを、そして物理攻撃を受ければ、ミラやジェシカに斬り付けられたときの500倍のダメージを、それぞれ喰らってしまうということだ。
特に先頭、俺達勇者パーティーの中で最も若手であるリリィに対しては、更なる追加効果も発生しているのではないかといったところ。
そうでなければあの若さとパワーとに満ち溢れたリリィが、ほんの僅かも踏ん張ることが出来ずに吹っ飛ばされることなどないのだ。
これはリリィが本来あるべき姿、つまりドラゴンの姿を取っても歳若い限りは同じことであろうし、逆に的が巨大化してしまうという点においてオススメ出来ない手法である。
もちろんリリィ本人も、足りない頭をフル回転させてそのことを認識したようで、いきなり変身してもう攻撃、などという普段やりがちな悪手には出ようとしないのであった。
だが、そういうことであったからといってこれからの戦いが有利になるわけでもなく、『若手』であるこちら側が不利なのは絶対に、時空が歪んだりしない限り逆転することはない。
そもそもこのようなババァとなり果ててなお、若々しい魔法少女の格好をして、プリティな魔法のステッキを振り回して戦うことなど、他の誰にも出来るはずがないのだ。
そんな強敵を前にして、さすがに敵わないと後退りする俺達、精霊様が復活するのを待つか、それとも一旦この部屋を出てから体勢を立て直し、不意打ちなどを最大限に生かしてババァを殺すか、今のところ存在している選択肢はその辺りだな。
あとは……と、吹っ飛ばされたリリィを救助し、それを床に置いてやったマーサが立ち上がり、元々リリィが居た場所、つまり最前列に出たではないか……
「さぁおばあちゃん、次はこの私が相手よっ! 全部避けてあげるから掛かって来なさいっ!」
「よせマーサ、避け切れなかったら大変なことになるぞっ、痛いじゃ済まないと思うからな普通にっ」
「大丈夫よ、だってよぉ~っく考えたら私……来るっ!」
「キェェェッ! 大老害範囲攻撃、沈黙の空間! この空間に入った者は、たとえ老害の言っていることが理不尽極まりないものだと知っていても、その場で何かを主張することが出来なくなるっ!」
「ひぃぃぃっ! いきなり変な範囲攻撃がっ! 避けられな……」
「マーサァァァッ!」
「っと……あれ? 全然効いていないわ……やっぱり、そういうことなのね」
「……⁉ なぜだ、なぜ老害術の影響を受けぬ? しかもこの技、ただでさえ『若手がイヤになる率』が非常に高いものだというのに……まさか貴様はっ⁉」
「そう、私ね、こんなだけどもう500歳超えてたわ、全然若手じゃなかったのよね」
「まさかぁぁぁっ⁉ その、その知能の低さで500歳オーバーだとぉぉぉっ⁉ 一体何を考えて過ごしたらそのようなことになってしまうのだぁぁぁっ⁉」
「……この戦い、此方の勝利のようだな」
「だな、マーサ、後はもう任せたぞ」
「はーいっ、じゃあいくわよぉぉぉっ!」
非常に簡単で、これを使えば何も困ることはない、そういった事実をひとつ忘れてしまっていた。
マーサが実は『若手』ではなく、500歳を超えたそこそこの『ババァ』であるということをだ。
もちろんそれについてはユリナもサリナも、それなりに年齢は重ねていて、その2人についてはそうであることがわかるような、そうであってもおかしくない普段の様子である。
だがマーサに関しては悪い意味で『年齢を感じさせない』、どうして500年も生きていてそこまで馬鹿なのであろうかという疑問しか湧いてこないほどの大馬鹿。
そしてそのことに気付いていた、とにかくこのウサ耳の魔族が馬鹿であるということを見抜いていた魔法老女のババァも、あえてその年齢を確認し、マーサが若手であるか否かを確実にしておくようなことはしなかったのであろう。
で、そんなうっかりミス、というよりも生じるべくして生じた不備によって、ババァは自分アドバンテージがほとんど通用しない、一方的に蹂躙出来るわけではない敵と相対することとなってしまったのだ……
「はぁぁぁっ! ウサウサダイナマイトパーンチッ!」
「ぐっふぅぅぅっ……な、何だというのだその子どもじみた技名は……」
「いや、その歳でその格好の奴に言われたくはないと思うぞ、この点については何度でも指摘するがな」
「しかし……なっ⁉」
「ウサちゃん大回転キィーック!」
「ギョェェェェッ!」
「ウサウサローリング(以下略)」
「ギャァァァッ!」
次から次へと、その場で適当に考えた、至極適当なネーミングの技を繰り出していくマーサ。
1対1の戦いであれば、そして特にビハインドがない状況にあれば、マーサが素早さで圧倒し、一方的に攻め立てることが出来てしまう。
そしてその攻撃によって、徐々に魔法老女ババァの腕が細くなり、1本、また1本と消滅していくではないか。
ダメージを受けすぎて状態を維持出来ないのだ、傷口から魔力が漏れ出し、まるでパンクしたタイヤのように萎み始めている。
もはやババァに勝機はない、このままマーサの攻撃を受け続けて肉体の維持が不可能となり、再びどこか別の次元で、その本来の力を取り戻すまで待つか、或いは早めに諦め、自ら姿を消して近い時期での再起を可能にするのか、そのふたつの選択肢しか残されていないのだ……
「はいっ! ほいっ! ウサウサウサッ!」
「ギョェェェェッ! し、しまった入れ歯がっ!」
「これでトークを封じたわよ、あともう現世ではお煎餅も食べられないわね」
「ふごっ、ふががががっ……」
「……リリィ、このババァは何を言っているんだ?」
「えっと、お煎餅を食べれらないのは生きていないのと同じだ、このロリキャラ2人には悪いが、これで『おばあ様』の立場を降りさせて頂く……って言ってますよ、何の話なのか知りませんけど」
「そうか……マーサ、もうひと押し喰らわせてやれ、それで完全にトドメだっ!」
「わかったわ、はぁぁぁっ! とりゃぁぁぁっ!」
「へぶちぃぃぃっ! ふがっ、ふがごがっ……ふがっ」
「今度は何だって?」
「強敵よ、いつの日かまた会おうぞ、だそうです」
「イヤなこった、誰が好き好んでこんな気持ちの悪いババァと邂逅するってんだよ、二度とこの世界に顕現するんじゃねぇ、地獄の釜で汗でも流しておけ」
「・・・・・・・・・・」
マーサによって最後の一撃を加えられ、徐々に消滅していく魔法老女ババァ、それに対して適当に辛辣な言葉を浴びせておき、本当に二度とこの世界にはやって来ない、やって来たいと思えないようにしてやった。
まぁ、もしまたこのババァが出現したとしても、そのときにはもう俺達が『若手キャラ』ではなくなっているはず。
だとすれば十分に対処が可能だし、そもそも精霊様やユリナ、サリナが起きていれば、このような長引く戦いを演じなくて済んだのであるから。
で、ババァの姿が完全に消失したことを確認し、その後ろで荷物をまとめ、脱出の準備をしていたゲスロリとカスロリの2人に声を掛けておく。
ビクッと反応して固まったゲスロリと、そのまま何事もなかったかのように身支度を進めているカスロリ。
それぞれ反応は違うのだが、どちらも『もはや勝ち目はない』ということを認識したうえで、そのような行動に出ていたのであろうというところは明白。
すぐに反対側の出口を塞ぎ、もちろん俺達が入って来た側の出口もキッチリ通行不能として、2人がどこへも行けないよう、この部屋から逃げ出すことなど叶わないよう取り計らった……
「ちょっと何なのよっ! 私達はもう帰らないとならない時間なの、あんた達みたいな輩と違って暇じゃないわけ、そこを退きなさいっ!」
「……ん、荷物重たい」
「いやいやいやいや、ここまでしておいて、あんなバケモノまで召喚しておいて、何もされずに解放されるとでも思ったのか? 思っていないよな? そんなことはあり得ないもんなこの世界では、なぁ?」
「うっさいわねっ! 早く退きなさいこの豚野郎!」
「ダメだ、ほれ捕まえたっ、カスロリの方も両手を上げて大人しくしろっ!」
「ひぃぃぃっ! どこ触ってんのよこの変態豚野郎! 死ねっ! 死ねっ! 今すぐ死ねっ!」
「悪態を付くのはこの口かっ、オラッ」
「ひぎっ、いへへへへっ!」
捕まりながら、そしてもう逃げ出すことが叶わないとわかりながらもジタバタとし、ついでに汚い言葉で罵ってくるゲスロリ。
その頬っぺたを思い切り抓って、これ以上暴れるようであればどうなるのか、どういう辛さが待っているのかということを暗に予告し、それをもって静かにさせる。
一方、カスロリの方は冷静に判断し、この場では大人しく支持に従った方が得であると考え、言われた通りに動いたようだ。
セラとルビアが2人でそれを拘束し、まるで酔っ払いのお土産かの如く縄で吊るして運んで来た。
そしてゲスロリも、俺とジェシカの2人で完全に取り押さえ、こちらも縄でグルグルに縛り上げてカスロリの横に座らせる……もう逃げる気はないようだ、ゲスロリは相変わらず悪態を付き、カスロリの方はもう終始一貫して無表情、無感情である……
「さてと、お前等覚悟は出来ているんだろうな……っと、ゲスロリはうっせぇから黙っておけ、おいカスロリ、どうなんだ?」
「……ん、もう仕方ないので全て諦める」
「そうかそうか、じゃあまずは……まずはあの麻痺毒だよ、解除するための魔法薬がどこにあるか教えやがれっ」
「タンスの中、白い方の2段目」
「はいはい2段目な、カスロリが使っている方のタンスだな」
「そう、あと3段目は私のパンツ」
「いやその情報は要らねぇよ、もしそれが必要ならロリコン罪で死刑だからな」
「……ロリコンは死刑、勉強になった、覚えておく」
「それは良かった……じゃねぇよ、どっちでも良いわそんなもんっ」
あまり喋らないカスロリだが、話し始めると意外と話が進んでしまうタイプであるようだ。
ちなみにゲスロリについてはジェシカが口を塞いでいるため喋れないし、もう喋らせたくない。
で、カスロリのタンスから取り出した魔法薬を、転がっている馬鹿4人に服用させ、どうにかその痺れから解放してやることが出来た。
これで全員が復活したのだが、さてこれからこの2人を、ゲスロリとカスロリの姉妹をどう始末していくか、それを考え名久田はならない……
「あ~っ、まだピリピリするわ、全く客に出すクッキーに毒を入れるなんて、引っ掛かったのはとんだ不幸だったわ」
「いや、それはリアル自業自得だぞ精霊様、んで、その仕掛け人達がお仕置き内容の宣告を待っているんだが……」
「あらそうなのね、2人共、そこでお尻を出しなさい、まずはそっちのやかましいあんたからよ」
「ひっ!? ちょっ、やめろこの変質者めっ、ヤダッ……」
「覚悟しなさい、はぁ~っ……それっ!」
「ひぎぃぃぃっ! もうしませんっ! もうしませんから許してぇぇぇっ!」
「一撃で陥落じゃねぇか、威勢ばっかり良くて情けない奴だな、するとこっち、カスロリの方は……あ、白旗揚げた、こっちも甘やかされて育った雑魚なのか、どうしようもねぇな2人して……」
精霊様によるお尻ペンペンのたった一撃で泣き喚き、許しを請うゲスロリと、そして相変わらず無表情のまま、足を器用に使って白旗、というか白いタオルを掲げて降参するカスロリ。
もちろん許してやったりはしないのだが、今はこのアホ共にじっくりお仕置きをしている暇ではないし、そんなものは後でたっぷりみっちり、時間を掛けてしていけば良い。
今は拘束するだけして、どこかに『保管』しておくこととしよう、そう思って2人の部屋にいくつかある小さな扉を開け、クローゼットのような場所を探すと……何やら用途のわからない小部屋がいくつかあるようだ。
中には何もなく、ゲスロリとカスロリの姉妹を閉じ込めておくにはちょうど良いのだが、どうしてこのような無駄なスペースがあるのか、それが気になってしまって仕方がない。
物置……でもないようだし、これは一体何なのであろうか、それは本人達……も知らない様子だな……




