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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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959 故障

「え~っと、ルールによるとこれはアウト、パンツが落下したのがゴールライン手前なので失格となります……のはずなんですが」


「何だよっ! ジェシカはゴールしてんだ、パンツは偶然後ろへ飛んだだけで、一度はゴールラインを割っていたんだ、それを認めないとお前のパンツも剥ぎ取るぞっ!」


「ひぃっ、そ、それは困るんですが……その、ちょっと挙動がおかしいというか……」


「何がおかしいんだ? 言っておくが向こうで菓子を食っているルビアとか、マーサとか、その辺りの挙動がおかしいのは元々だからな」


「いえそうではなくてですね、このエリア、もし失格となれば自動的に……ほら、さっきまでそうだったようにです」


「あ、そういえばスターと地点に戻されたりはしていないな、ということは……」



 ゴールしたのかしていないのか、それについてはこの場ではわからないのだが、ただひとつ言えることは俺とジェシカがそのラインを越え、さらにスタート地点へ巻き戻されたりしていないということ。


 これについてはジェーンが、このトラップエリアの担当部署を魔導通信で呼び出し、確認をしている。

 しかしそれでもわかってこない、不可解な点が存在しているようで、色々と難航しているらしい。


 このトラップエリアの『お尻コース』では、俺のパートナーが『お尻丸出し』となってしまった瞬間に失格。

 そのまま最初からやり直しとなる地獄のゲームなのだが、果たしてどういう結果となるのであろうか。


 と、ここで先程まで自信満々の様子であった、つまりゴールしたことを確信していたジェシカが、やって来たルビアの回復魔法によって肉体的なダメージを回復し、ヨロヨロと立ち上がった。


 そしてここでもまた自身ありげな様子、ジェシカはそのままこちらへやって来て、クルッと反転して尻をこちらに向ける……



「どうしたジェシカ、鞭打ちのご褒美ならクリア確定後にしてやるから、今は少し待つんだ」


「いや主殿、もうクリアは確定している」


「……どういうことだ?」


「良く見ろ、そして私の尻を開いてみるんだ、ガバッとな」


「は? あ、じゃあ失礼して……こっ、これはっ!」


「そう、最初に自分を縛ってあった縄、もちろん足の間にも通してあって、それがまだギリギリで切れてはいないのだ、引っ張られすぎたせいでかなり食い込んではいるがな」


「と、ということは……」


「そうだ、私はまだ『お尻丸出し』にはされていないのだ」


「これはっ! そういうことでしたか、これなら失格要件には該当していません、ゲームクリアですっ!」


『ウォォォッ!』



 かなり危なかった今回のトラップエリア、デタラメではあるし、変態の極みでもあるのだが、とにかくジェシカの機転でどうにか制することが出来たのだ。


 次は何とやらという姉妹との中ボス戦となる予定なのだが、その前に少し、ここで疲れを癒しておくこととしよう。

 上の観覧用通路からゴール地点へやって来た他の仲間達と共に、まずはピクニックシートを広げてそこへ座る……



「いやはや、でかしたぞジェシカ、ほれ、カレンをモフモフする権利をやろう、夏毛に生え変わる途中だからすんげぇことになると思うけどな」


「ありがとう、ほらカレン殿、こっちへ来てくれ」


「わっふぅぅぅっ」


 あの頑張りでこの程度の褒美など、やりがい搾取に他ならないような気がしなくもないのだが、実はそうでもないと、そう主張することにつきおかしな点はないのである。


 もし王都で『カレンを抱えてモフモフしたい』などという金持ち貴族が現れた場合、まず俺が『前金』として請求するのが全財産。


 そして事後に、本格的な請求として、確実にその命を奪い去るぐらいのことはやってのける、カレンに触れるようなことをする『きめぇ奴』は基本的に死刑なのだ。


 とまぁ、ジェシカは俺の思う『きめぇ奴』ではないため何とも言い難いのだが、カレンの尻尾、耳のひとモフには、それこそ馬鹿貴族1匹の命よりも遥かに価値があるということを言いたいのである。


 つまり今回の報酬は適正なものであり、誰にも文句は言わせないし、言わないのだが、俺達勇者パーティーや人族そのものの実情を知らないジェーンは怪訝な表情でこちらを見ていたのを確認した。


 するとその案内係のジェーンが、何やらふと思い出したような顔をして壁の辺りを探って……スイッチのようなものを押下した。

 その付近の壁がゴゴゴッと音を立てて動き、何やら隠し通路、いや隠し部屋のようなものが出現したではないか……



「皆さん、ここは回復の泉になっておりまして、ここを逃すともう道程にしてあと10km程度はこういうのがありませんから、ぜひご利用になって下さい」


「おっ、ダンジョンっぽくて良いじゃねぇか、ちょっと浸かって行こうぜ」


「これ、侵入者全員に利用させているとしたら相当にアホよね、ダンジョンとかだと良く見かけるけどさ」


「いいえとんでもない、この回復の泉は招待客、いわば『ゲスト敵』の方々だけへの特別なおもてなしなんですよ、凄いことなんですこれを利用出来るというのは」


「またその『ゲスト敵』なるわけのわからん造語を使うのはやめてくれ……」



 全員で壁の穴を潜り、その先にある回復の泉に……何だか明らかに回復の泉ではないのだが、どう考えても腐っていやがる。


 もしうっかりこれに浸かってしまったらどうなることか、きっと回復どころではなく、ダメージを受けたうえで毒や麻痺などの状態異常を大量に喰らってしまうことであろう。


 さすがに誰も中へは入らず、直前で停止して引き返すのだが、その『泉』がある部屋の空気を吸っただけで、少しばかり気分が悪くなるような、そんな感じのアレであった。


 で、もちろん案内係のジェーンに対し、これはどういうことなのかと詰め寄って大騒ぎする。

 ジェーンも困っているところを見るに、これはトラップではなく事故、設営に何か至らぬ部分があったのだ。



「え~っと、すみませんすみませんすみませんっ、ちょっとこれ、どういうことなのか確認致しますので、ちょっと、ホントにちょっとだけで良いんで待って下さいっ」


「おう、時間はちょっとだけ暮れてやるから、さすがにこの状況をキチンと説明しろよ危うく猛毒の餌食になるところだったんだからな」


「しかしこれはおかしいわねぇ、いえ、本当におかしいわ、何か人の手が入らないとこうはならないもの」


「どういうことだ精霊様? 人の手? 斬り落とされた誰かの手がドボンして、それが腐ってこんな感じになったってことか?」


「そうじゃないわよさすがに、でもね、この泉が元々『回復の泉』であったのは本当なの、そこに何か毒とか、そういうものを大元から仕込んだ、そんな感じなのよね」


「というと……どういうことだ?」


「う~ん、まぁそうね、もしかしたら魔王軍と敵対する勢力なのかも知れないし、もしかしたら魔王軍の関係者が、私達をここに嵌めるためにあえてそうしたのかも知れないし、もしかしたら何かの事故で、どこかの低能な人族とかがとんでもないモノを掘り当てて、それが地下を伝ってこの泉を汚染したとか、その辺りだわきっと」


「ふ~む、じゃあ今ジェーンがどこかに聞いていることは……」


「そんなのじゃ解決しない可能性が高いわ、で、おそらくは……」



 おそらくではあるが、このままだと今後回復の泉は一切使うことが出来ない、気軽に全回復することが叶わないということだ。


 きっと汚染はここだけではなく、この魔王城内のあらゆる回復の泉がこのようになっており、俺達のために新たなものを設置させるとしても、その沸き立つ原泉がこのようになってしまっているのではもうどうしようもないのである。


 ここはアレか、魔王軍に請求して、回復の泉の代替となるアイテムでも持って来させるか……いや、そもそも敵が回復の泉を設置していること自体アレなのは承知しているのだし、それが使えないからといってどうこうということにはならない気がしなくもないな……


 とにかく今はこの泉が使えないこと、そしてこういった類の全回復が出来ないということを想定して、この後に使用するアイテムの調整を行うべきだ。


 ミラが既に取り出していたバッグから出てくるのは様々な薬品の小瓶であるが、傷が治るタイプのものは良いとして、主にセラとルビア、ユリナに使わせる、魔力を回復するタイプのものが不足しそうである。


 このままだと色々とダメになるな、ゲームのように、魔王城内の仕掛けを解いておけば、次に来たときにはまっすぐに進める……というわけでもなさそうだし、せっかくクリアしたトラップエリアもまたやり直しになりそう。


 つまり一旦王都へ戻り、体勢を立て直してもう一度チャレンジするというようなことは、今回に限っては出来そうもないのである。


 そしてさらに困ったことには、このような回復の泉を風呂代わりにして、数日間に渡る魔王城攻略をしていくことも不可能なのだ。


 これは早急に解決策を見つけ出し、どうにか設備が使えるようにしてやらないとだな……と、ここでジェーンが『回復の泉担当部署』との通信を終えたようで、苦い顔をしてこちらへやって来る……



「え~、現状なんですが、今からどうしてこのようなことになっているのかを確認して、担当の下っ端魔族の方をここへ派遣するとのことです」


「何それ? そいつ殺していいの?」


「出来ればですが、調査が完全に終わるまで生かしておいて下さいますようお願いします」


「そうか、じゃあ出来れば生かしておいてやるよ、相当に、いやちょっとでもムカつかない限りだがな」


「・・・・・・・・・・」



 そして10分程度の後にやって来る変な魔族、中級魔族らしく、人間の形はしているが真っ白、背も低く、どこかのホラー映画に出てくる体育座りの子どものようだ。


 で、早速回復の泉の畔へ行って調査を始めるその魔族だが、そのあまりの臭さにフラフラとしてしまっているではないか。


 コイツを後ろから蹴飛ばして、泉の中へドボンさせたらどうなるであろうか、そのような面白いことを思い付くものの、グッと堪えて調査の邪魔をしないよう心掛ける。


 そのまま5分以上待たされて、水質サンプルのようなものを魔法の力でどこかへ転送したのを確認し、どうやらより精密な調査をするのであろうなという感想を得たのだが、この場でも一応の報告が、ジェーンの方に上げられるらしい……



『……ジェーン様、この回復の泉ですが……腐っております』


「それは見たらわかるんですが、どうしてそのようになってしまったのかということをお願いします」


『そうですな、これは完全に水源、この城がこの地に落下した際、業者に頼んで掘った井戸の底から沸き上がった毒によるものです』


「お前等、業者に頼んで工事してたのか、こういうのって自然と沸き立つものなんじゃないのか?」


「いいえ、それでは魔王城内の水が不足してしまいますので、普通に井戸を掘って、その後回復の効果を付加する魔法の粉を添加しています、回復の泉というのは意外と近代的な人工物なんですよ実際」


「温泉の素でも入れるぐらいの感覚なのかよ……」



 こんなところで回復の泉の真実を知ってしまったではないか、てっきり天然の、何か不思議で神聖なパワーによって生成されたものを引いているのであろうと思っていたが、どうやらガチで夢のない仕様であったようだ。


 それでその人工的な回復の泉をこれからどうするつもりなのかと、俺の方から直接その変な魔族に尋ねてみるも、原因がわからない以上どうしようもないとの答えが返ってくる。


 コイツはそろそろ役立たずになりそうなので殺してしまおうか、そう思って聖棒を構えると、それをサリナが後ろから制止してくる、もちろん聖棒には触れないようにだ……



「どうしたサリナ、コイツを殺したらダメなのか? お前の友達なのか?」


「いえこんなのと知り合いなどということはないですし、殺すのは別に構いませんが、最後にひとつ、命を大切に、有用なことに消費してみませんか?」


「というと?」


「え~っとですね、えっと、そこの白いあなた、ちょっと良いですか?」


『はい悪魔様、何なりとお申し付け下さいませ』


「では少し、いえガッツリその泉に潜ってみて下さい、そして水源付近に何があるのかを探って来て下さい」


『それはちょっと……私は30分程度しか潜水出来ず、そこまで行くと普通に死んでしまいますので……』


「死んでも構いません、さぁ行くのです、さぁっ」


『……畏まりました悪魔様、では行って参ります……おえぇぇぇっ!』


「おいアイツ、近付いただけで吐いてんぞ、大丈夫なのか?」


「毒の方は問題ありません、腐った水には耐性がありそうなんで、それで死んだりはしないでしょう、幻術も掛けてありますから、途中で引き返すようなこともしないはずです、あとは現地から、ジェーンさんに報告させればそれでこの白いのの命は不要となります」


「やりよるなサリナは……」



 可愛い顔をして鬼畜なことをするサリナ、ユリナにしてもそうだが、下っ端の魔族を大切にするという発想が一切ないのは悪魔にとってごく自然なことなのであろう。


 で、腐臭を放つ『回復の泉』に潜って行った変な魔族からは、およそ20分が経過した後に、ジェーンの所へ連絡を寄越した。


 もはやかなり死にかけの状態で、声も切羽詰まっているのだが、どうやら目的の方は達することが出来たらしい。


 ちなみにサリナの幻術によって、『死してなお』活動してその場から脱出、汚らしい死体を俺達に見せることがないよう、どこか別の場所から陸へ上がり、そこで自分の墓穴まで掘って埋まるという、極めて恐ろしい行動を取るよう設定されているとのこと。


 ブクブクのどざえもんを見なくて済むのはあり難いことだし、今後復帰した泉を使う際、その死体について気にしなくて良いというのもまた嬉しいことなのだが……サリナの幻術がどんどん恐ろしいものとなっている辺り、少し恐怖を覚えてしまったのは言うまでもない。


 で、せっかくなので俺達も近付いて、その変な魔族からの最後の魔導通信を、直接この耳で聞いてやることとしよう……



『ジェーン様……今私は水源に居ります、ここには……腐った、非常に汚らしい魚と、それから半魚人魔族の死体が大量に……』


「半魚人魔族ですか……あっ! もしかしてそれって……いえ、ご苦労様でした、もうあなたは不要ですので死んで下さい」


『へへーっ、畏まりましてございます……そしてもう息が……がはっ……』


「……だそうです、原因がわかってしまいました」


「どんだけ迷惑なんだよあの半魚人共……それで、これからどう対処したら良いんだ? というかそっちでやってくれるのか?」


「どうしましょう、いえ、業者に頼まないとどうしようもないのですが、ちょっと時間が掛かるかもです」


「半日でやれ、それを過ぎたら業者の命はないと思え」


「業者のですか……」



 この件についてはジェーンに罰を与えるわけにはいかないし、もちろん俺達が責任を負う必要など一切ない。

 ということで業者に不当な要求をし、それを飲めない場合にはブチ殺すという方法を取るしかないのだ。


 すぐに業者に連絡を取ってくれるというジェーン、魔王軍御用達の、優秀な連中が来ることを期待しているが、まぁ人族ではなく魔族なので、きっとそこそこ仕事が早いことであろう。


 ということで、俺達は先へ進み、次の『回復の泉ポイント』である何とやらの姉妹の部屋の直前まで移動することとした。


 その中ボスと戦ってしまっても構わないし、おそらくは現状でも何かが枯渇してしまうということはないのだが、単に休憩したいというだけの理由で、次の回復の泉を利用することに決めたのだ。


 姉妹の部屋まではおよそ1時間、もちろん徒歩での移動なのだが、客人をもてなす立場としてそれは如何なものか。

 せめてトロッコなどの乗り物ぐらいは用意すべきだし、重たい荷物を運ばなくて良いような配慮も欲しいところ。


 とはいえ、正規のルートから外れ、こちらのやり易い、進みや易い、そして近道となるルートを押し付けている以上、この件についてはあまり強く言うことが出来ない。


 ここは『回復の泉』を直ちに修理し、利用可能な状態にして貰えるというだけで我慢しておくこととしよう。

 あまり欲張ったところで、それを利用した罠に嵌められたり、余計な『もてなし』をされて力を削がれる結果になりかねないのだから……


 で、そのまま歩いて歩いて、かなり歩いた先に発見したピンクの扉、確か中ボスはゴスロリ……ではなくゲスロリとカスロリであったか、とにかくロリキャラなのは間違いなさそうだな。


 きっと極めて性格の悪い姉妹とか、そういう感じの魔族なのであろう、そしてどうせそこまで強くはないのだから、引っ叩いて従わせ、お仕置きしてこちらの勝利ということにしておこう。


 で、その扉を開く前に、ジェーンが壁を操作して『回復の泉2』を出現させる……と、まだ修理が完了していないようだな、もうしばらくお待ち下さいといった感じだ。


 そして何やら奥の方が騒がしいような気がしなくもないのだが……いや、やはり騒がしい、何をしているのであろうか一体……



「……ご主人様、何だかわかりませんが、中の方で喋っていますよ」


「やかましいのは喋り声なのか、そこまで良くは聞こえないんだが、何の話をしているんだ?」


「え~っと……全然わかりません、皆『うぇ~い』しか言ってないです」


「うぇ~い? それで会話が成立してしまう種族なのか? いや、その種族って……」



 何やら非常に悪い予感がするのだが、そう思っているのは俺だけではないはず、水源に落ちた半魚人共もアレだが、『うぇ~い』で会話が成立する連中はもっとヤバい。


 そんな不安を感じる中、俺達はひとまず休憩とし、回復の泉が利用可能な状態に復帰するのを待った……

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