957 トラップエリア
「なぁ~っ、今からでもアッサリの方へ向かおうぜ、わけのわからないハードそうなルートよりもさ」
「でも勇者様、そうするとここがこうなって、それからこうで、凄く遠回りになるわよ」
「遠回りって、どのぐらい遠回りなんだ?」
「たぶん3日ぐらい余計に掛かりますね、この魔王城下層を抜けるまでに」
「どんだけ広いんだよこの城は……だがまぁ、そういうことなら仕方ない、ブタノエサコースだっけ? そこをどうにかクリアするしかないのか」
「は~い、そういうことでこちらで~っす、まっすぐにどうぞ~っ」
なかなか残念な感じで最初の中ボス、忍者系の何かであったという敵を討伐してしまった俺達。
次のトラップエリアへと向かうべく、そのまま広い廊下をまっすぐに進んで行く。
ここまでで唯一失ったのはリリィの、たったひとつしかない竹馬付属のミサイルであって、思っていたほどの威力ではなかったので特に気にしてはいないし、今後にとって痛手となるような出費でもない。
むしろもう片方の竹馬の柄に着いたキャノン、そちらもとっとと発射してしまって、イレギュラーでおかしなことをされる可能性を排除して欲しいものである。
と、そんなことを考えている間に、何やら廊下の色が変わって……もうトラップエリアに突入するというのか。
目の前には三叉路があり、どう考えてもまっすぐ進んではいけない雰囲気となっているのだが……
「なぁ、まっすぐ進んだ先、どう考えてもやべぇだろ、天井にパトランプとか付いてたりするし」
「これは……マップだけで『最短ルート』を選択したのは誤りであったと言わざるを得ないぞ、ほら、あそこなど『注意、壁から槍が出ます』などとの記載が……主殿、少し行って、どんな感じなのか確かめてきてくれないか?」
「ふざけんな何で俺なんだよっ! ってアレだぞ、どうやら『参加するメンバーを選んでチャレンジする』タイプのトラップエリアらしいぞここは……そこのモニターを見ろ」
「あれはっ、どうして5人限定なんでしょうか、私も入っていますし」
「本当だな、セラにルビア、マーサ、マリエルとジェシカ……で、どうしてその下に俺の顔画像が点灯したままになってんだ?」
「勇者様は参加確定みたいね、それに加えてお供を1人選ぶ仕様だわ」
「何だよその俺ばかりに負担を科す仕様は……」
壁に掲示されたのは5人の顔画像、至って普通の、そしてリアルなものが5枚並んでいる状態。
そしてその下に、『どうやら俺』という感じの、醜悪な指名手配画像のようなものが1枚、点灯した状態で貼り付けられている。
免許証の写真でももう少し凶悪さが控え目になるはずなのだが、これに関しては悪意を持ってそのようにしていると考えるのが妥当であろうな。
で、そこからは色々と試してみたのだが、やはり当初の予想通り、俺と誰かもう1人がこのトラップエリアに突入し、2人で協力して先へ、終着点を目指すというもののようだ。
もちろんその他のメンバーは、天井付近に設置された長い観覧席のようなものを移動するかたちで……いや、もう最初から全員でそこへ向かえば良いのではなかろうか……
「セラ、ちょっともうこの上から行こうぜ、ほらリリィも、竹馬から降りて横にしないと進めないぞ」
「そうよね、そうなるわよね普通に、でも勇者様、何だか沈んでいるわよ足が」
「足が? なっ、のわぁぁぁっ! 何なんだこりゃぁぁぁっ!?」
「ふむ、主殿だけはどうあっても下を行かなくてはならないということか」
「その通りです、それと、指定されている5名の方も、全員が上を行ってしまうとそれぞれ沈みますし、罰としてパンツを剥奪されるのでご注意を」
「あっパンツ? パンツ剥奪され……てないじゃねぇか、セーフッ!」
「いえ、さすがに魔王軍も男物のパンツなんぞ剥奪しませんので……」
「それもそうだな、うん、その方が良い」
ということでパンツを剥奪されはしなかった俺だが、結局下の道、つまりトラップがマシマシになって満載されている道を行かなくてはならないという現状は打破していない。
ちなみに隠しコマンドを使えば、先程の5人以外にミラとユリナ、サリナを選択することが出来るようだが、どうでも良いのでまずはセラを選んでおくこととしよう。
ひとまず表キャラとして表示されている5人以外のメンバーは、上の観覧席に移動させ、こちらはこちらで下へ、魔王軍が用意してくれた待機用の椅子に座らせ、菓子でも食べさせておくこととする。
で、早速セラと俺とで2人並んで、トラップが設置されているというエリアに突入しようと試みるのだが……進むことが出来ないではないか。
足を踏み出しても踏み出しても、ツルッと戻るようなかたちで元の場所へ、一向にそのエリアに突入する、というか歩を進めることが出来ないのだ……
「おいジェーン、これは一体どうなっているんだ? 全然進めないじゃないか、欠陥があるんじゃないのかこのシステムに? もしこのまま進めなかったらどうするんだ? 魔王城攻略に余計な時間が掛かってしまうぞ、そしたらアレだし、もう5分以内にどうにかならないならこのエリアはスルーさせて貰うぞ、当然だよな? それが道理だよな? ん?」
「いえいえ、そんなにイキッて詰め寄られても困ってしまいます、それで、これは何かがおかしいのではなくて、まず勇者以外のパートナーを選定して下さい、進むだけじゃなくてちゃんと肖像画パネルにタッチして」
「え~っと、私の絵が描いてあるところを……こうかしら?」
「はい、それでパートナー設定は完了しました、次にコースを選んで下さい」
「コースって何かしら?」
「下に表示されています、このエリアには『おっぱいコース』と『お尻コース』が存在しています」
「どういう選択肢なのよそれは……」
「あ、ちなみにこれは不具合かも知れませんが……あなたは『おっぱいコース』を選択することが出来ないようです、おっぱいを認識することが出来ないためのようですが……」
「破壊するわよこのエリア……」
何かの魔導機械からおっぱいを認識されず、それに対してキレるセラを宥め、ひとまず『お尻コース』とやらを選択させておく。
これでいよいよスタートすることが可能になったということだ、確かにコースのスタート地点に赤い帯が出現し、ここからイベントが開始されるのであろうということが容易にわかるように変化している。
それと、ジェーンに対して『おっぱいコース』、『お尻コース』の別にはどういう意味があるのかという点について質問を投げ掛けてみた。
どうやら『トラップからの攻撃が上段か下段か』という違いが、このコースの違いから生じるようだ。
つまりセラをパートナーとしたこの初回のチャレンジでは、なるべく下段の攻撃気を付けるべきということであろう。
「ほら勇者様、ちょっと気に食わないけど早く行って、チャチャッとクリアしてしまうわよ」
「へいへい、すぐに行くから……ってセラ後ろっ!」
「はい? あっ、はうぅぅぅっ!」
「いきなりカンチョーされてどうするんだよ、しかもそれクナイじゃねぇか、さっきの忍者系中ボスの怨霊がどうのこうのって設定なのかな?」
「くくくっ、油断していた分ちょっとだけ効いてしまったわ……」
いきなりセラの斜め下から飛び出したクナイ、それによってカンチョーされてしまったセラ。
どうやらランダムで何かが飛び出したとかそういうわけではなく、セラにカンチョーするべく、狙い済ました一撃が放たれたらしい。
ということは、この先『怪しい場所』を見張るなどして、そこから攻撃が飛び出すか否かを、予めチェックして進むだけでは不十分であるということか。
正確に狙ってくるトラップに対して、その攻撃後に、こちらの意思で攻撃を止める、回避するなどの行動を取らなくては、とてもではないがクリアなど出来ない。
もし最終地点まで到達することが出来たとしても、それは『クリアした』わけではなく、『ボロボロになりながらもゴリ押しで終着点まで辿り着いた』というだけ。
果たしてそれが『クリア』と認められるのかどうかも怪しいし、もし認められたとしても、回復魔法で癒すことの出来ない心労が、俺とセラに対してどっと覆い被さってくることであろう……
「それで、尻は大丈夫なのかセラ?」
「平気よ、ちょっと高速で飛行する鋭利な刃物にカンチョーされただけ、魔力による物理防御効果でパンツすらも破けていないわ」
「それ、平気なのがむしろ異常なんじゃ……まぁ良い、とにかく進もう、気を付けてな」
「ええ、じゃあ気を取り直して……」
気を取り直してということで、今度は2人並んで第一歩を踏み出してみる……早速クナイが飛んで来たではないか、一度使用したトラップも、それで終了というわけではないらしい。
しかも今度もセラを狙ってである、先程とは場所が違う、セラが居て攻撃を受けた場所に俺が居て、そしてセラはまた別の位置に立っているというのにだ。
それなのにクナイは、今度も正確に、確実にセラを狙って地面から発射され、今度も明らかにカンチョーすることを狙っているのだから恐ろしい。
このトラップエリア自体が意思を持って、あえてセラを狙っているようにしか見えないのである。
予想では、このまましばらくセラを狙い続けた後に、最後の最後で致命的な攻撃を、不意に俺の方目掛けて飛ばしてくる、そんな感じだ。
で、再びセラの尻を狙ったクナイであるが、ここは俺が聖棒を前に出し、容易に弾き飛ばして事なきを得た。
というか、何の予備動作もなく突然狙われるというだけで、攻撃自体は至ってシンプルで、どうにかし易いものである。
これならこれで、飛んで来てからどう対処すべきかを考えて、少し無駄話をして、さらに少し休憩をして、その後で対応に動けば楽勝だな。
今の感じでも、攻撃の発射から到達までは0.03秒程度の余裕があったようだし、それだけの時間があれば仮眠さえ取ることが可能なのではないか、そう思えるほどに現在の俺達の素早さは高まっているのだから……
「全く、二度目は通用しないのよねこんなの、もうちょっと捻りを加えてみたらどうかしらと言っておくわ」
「でもセラ、地面から捻り、というかトルネード状態の槍が飛び出してきたぞ」
「ひゃっ!? 危ないわね、またお尻を狙って……」
「今度は壁だ、マジックハンドみたいなのがスカートを捲ろうとしているぞ、しかも両サイドから」
「え、あ、ホントだ、でも勇者様以外は女の子ばっかりだし、これは構わない……って」
「取られちゃったな、スカート」
「ええ、しかもスタート地点に運ばれて……綺麗に畳まれて置かれたわね……」
トラップとして出現したマジックハンドのようなもの、スカートを捲ろうとしているような動きであったため、別に構わないということでスルーしたセラだが、実際はさらに踏み込んだ行為に出る動きであったのだ。
両サイドから伸びたハンドによってスカートを外されたセラは、パンツ丸出しのまま、その奪われたスカートがスタート地点に戻されるのをただ眺めているしかなかった。
そしてそのスタート地点において、何やら現在点灯しているセラの肖像画が入った、つまり参加者を表示しているパネルに変化が生じたのである。
色が、光っている色がどことなく黄色に、つまり『ピンチ』を現すのではないかというような色に変化したのだ。
スカートを奪われたから? それとも攻撃を受けたから? その理由は……ジェーンが説明してくれるようだな……
「え~っと、セラ選手はスカートを奪われ、ピンチに陥りました、とのことですね、ちなみにパンツも脱がされてお尻丸出しになると、この『お尻コースは失格』、私も今知ったんですがそういう仕様のようです」
「なるほど、お尻コースってのにはそういう意味もあったのね……って、今思ったんだけど、この様子って……」
「えぇ、ずっと『pootuber』が記録していますよ、平気な顔してパンツ丸出しにされた瞬間も、きっと後世まで語り継がれることでしょう」
「ひぃぃぃっ! それは恥ずかしすぎるわよっ、もう撮らないでっ!」
「あ、セラちょっと待て、セラ……あぁ……」
「イヤァァァッ! パンツも脱がされちゃうっ、あぁぁぁっ!」
恥ずかしさから逃れるために走り出し、ずっとそのまま出ていたマジックハンドによってガッチリと捕まえられてしまったセラ。
当たり前のようにパンツを奪われ、今はその丸出しになった情けない尻をこちらに向けて晒している。
と、ここで道全体が、動く歩道のように動き出したではないか……どうやらスタート地点へと戻されるらしい。
これはつまり、セラは失格になってしまったということだな、パネルの表示は赤へと変わり、セラは尻丸出しのまま、スタート地点へと流れ着き、地面の動かない部分へと打ち上げられた。
「うぅっ、この場でこの格好をさせられるだけなら良いけど、後世までこれが残るなんて……」
「大丈夫だセラ、後で『pootuber』を殺して、あと魔王とかも脅して該当の部分を削除させれば……いや、俺が後で見返して楽しむ専用にさせれば良いんだ」
「あ、それもそうね、あの変な魔族を始末すれば良いんだわっ!」
「……っと、それは今じゃないぞ、早くパンツとスカートを装備し直して、向こうで他の候補者と一緒に茶でも啜っているんだ」
「そうね、一旦落ち着くことにするわ」
「でだ、次は……ルビア、こっちへ来い」
「あ、はーいっ」
セラが失格となってしまったため、次にパートナーとして選定されるのはルビアである。
ここはまぁ順番通り、いつもの感じで、ルビアの次はマーサ、マリエル、ジェシカとつなげていく感じだ。
ルビアとは無駄に手を繋ぎ、そして当然のように『お尻コース』を選択したのを見届け、まずは一歩、クナイが飛び出す仕掛けをクリアすべく足を踏み出した。
案の定ルビアを狙って飛ぶクナイ、それについては俺が聖棒を出すまでもなく、ルビア自身がそこを通過しつつ、足で蹴飛ばして叩き落とした。
そしてそのまま進み、先程セラが敗北したマジックハンドのエリア、そこについてもサササッと回避、ガチャンッと空振りしたハンドになど目もくれず、そのまま2人で歩いて行く。
さて、次のトラップは何なのであろうか、炎が出るか水が出るか、それともわけのわからない敵性生物でも繰り出してくるのであろうか……
「……ん? 地面に穴が開いて……側溝みたいになっているな」
「そうですね、ここから槍でも飛び出すんでしょうか? でも上を通らないと進めませんし、そのまま行きましょう」
「だな、じゃあせ~ので通過するぞ、せぇ~のぉっ!」
「それっ、あっ、風がっ!」
「大丈夫だ、風でスカートが捲れただけで……ノーパンなのかよお前ぇぇぇっ!」
「すみません、穿いてなくてすみません……あ、失格みたいです、戻されちゃう」
「……お仕置きだな、そのまま尻を出しておけ」
単に風でスカートが捲れただけ、本来はこの状態から、パンツを狙ったトラップが発動し、二段階で『お尻丸出し』を狙ってくるのであろう。
だがここは敵にとっても予想外であったろうこと、ルビアは最初からパンツを穿いていなかった、ノーパンであったのだ。
それゆえ、スカートが捲れた時点で失格の事由となる『お尻丸出し』が達成され、肖像画は黄色を通り越して赤く光り、そのまま2人でスタート地点へと戻されてしまった。
で、そんなやらかしをしたルビアの、丸出しのままの尻を平手でビシバシとシバきつつ、俺は気になった点をジェーンに質問しておく……
「なぁジェーン、この5任と、それから裏コマンドで仲間に出来る3人、それが全員失格になってしまったらどうなるんだ?」
「その場合には全員復活して、新たにスタートととなります」
「難易度が変わったりとかは?」
「一切しません、元の通り、トラップの配置とかもそのままになるはずですよ、魔王軍もこんなことにコストを裂いている余裕が……あ、今の発言はなかったことに」
「おう、じゃあどれだけ失敗しても大丈夫ってことだな、安心したぜ」
「あ、ですがその……選択可能なキャラ全員が失格した時点で、リセットの代わりにその……人族の町へ向けて魔導キャノンが1発放たれますね、半径5kmぐらいが灰燼に帰す威力のものです」
「……やべぇじゃんそれ、1人も無駄になんか出来ないじゃん……というかルビア! 貴重な1回のチャレンジを無駄にしやがってっ、このっ、お仕置きだっ!」
「ひぎぃぃぃっ! お仕置きありがとうございますっ! もっと叩いて下さいっ!」
「全く、どうしようもないな、次からはごく真面目に……選手がマーサなんだけどな……」
「何よっ! 私じゃ不安なのかしら? 大丈夫よ任せなさい、素早さはイチバンなんだから私、全部シュシュシュッて回避して、見事ゴールまで辿り着いて見せるわよ」
「本当に大丈夫なのか……否、大丈夫ではないであろう……」
「ブツブツ言ってないでスタートするわよ、えっと、じゃあ私は『おっぱいコース』を選ぶわね」
「ちょっ! ちょっと待ったぁぁぁっ……あ、、もう選んでしまったのか……」
「ん? 何かダメなところでもあったかしら?」
「お前なマーサ、これまでの2人が、せっかく『お尻コース』で蓄積した情報をだな……まぁ良いや、説明してもわからないだろうからな、ほら行くぞ」
せっかく『お尻コース』のトラップについて、セラとルビアの犠牲でわかってきたことがあるというのに、マーサはここでいきなり別のコース、『おっぱいコース』を選択してしまったではないか。
そうなるとまた最初から、どこで何が出るのかを判定しつつ、そして何が脅威となり得るのかも調べつつ先へ進まなくてはならないのだ。
そんな無駄なことをさせ、おそらくはこの『1機』も無駄にしてしまうことであろう馬鹿なウサギに呆れつつ、そのノリノリでエリアへと進んで行くのに続いた……




