955 城内
『へいらっしゃいらっしゃいっ! 魔物の丸焼きが安いよぉぉぉっ!』
『そこのお姉さんっ、話題の敵キャラだね? コロッケ買って行きなよっ!』
『チャーハンオイシイヨーッ!』
「……クッ、ご主人様、どうやら私はこれまでのようです」
「待てカレン、落ち着け、まだ大丈夫だ、カレン! しっかりしろっ!」
「うぐぐぐっ……うぅぅぅっ! 魔物肉のバーベキュー串くださぁぁぃっ!」
「カレェェェンッ! なんと……なんてことだ、こんな、どうしてこんなことに……」
「勇者様、コロッケ買って来たけど、結構美味しいわよ」
「……買い食い禁止じゃなかったっけか?」
「大丈夫、もう王都からは見えていないわ、ほらコロッケ、それともメンチカツの方が良い?」
「じゃあメンチカツで、キャベツ感あるやつな」
遂に魔王城へと突入した俺達、最初にあるのは城下町の商店街であり、様々な店、主に食材店や飲食店が立ち並んでいる。
通りが王都よりもかなり広い分、それなりに規模の大きな店も出店しているようだ、それにより、非常に賑わっているのはごく自然のこととなるはずなのだが……そこまででもないというのが現状だ。
人通りや魔物通りはポツポツであり、さらに弱そうな連中に関しては、突入して来た俺達の姿を見ただけで逃げ出してしまうという始末。
きっと先程あった城門前でのひと悶着を見て、聞いて、それだけで逃げ出してしまったり、そもそも荷物をまとめて魔王城から脱出してしまったような弱虫も居ることであろう。
まぁ、たとえどこへ逃げたとしても、魔王軍の構成員共は必ず見つけ出し、気持ち悪い奴であれば直ちに死刑、そして一定の責任を有する立場の者であれば、王都の、いずれは修復するであろう広場にて、極めて残虐な方法で死刑に処すことが決まっている。
もちろん気持ち悪くない連中、女の子連中はその限りではないのだが、とにかく逃げ出すことは無駄であると、それならこの場で戦って死ぬべきだと、そう言い聞かせてやるのが遅れてしまったようだな。
で、そんな話しとは無関係の、単に魔王軍から場所を借りて、そこで商売を営んでいるだけらしい魔族の店では、店主や従業員が笑顔で、こちらに敵意を向けることなく呼び込みを掛けてくる。
これではこちらが敵対的な行動を取ることが出来ないではないか、本来であれば向こうが襲って来て、それに応戦するかたちで討伐し、その店の商品を全て俺達のものにしてしまう作戦であったのだが……
「ご主人様、いちご大福を買って下さい」
「え~っ、もう金ないんだよ実際、どうしようか、どうにかして誰かのヘイトを集めて、向こうから攻撃させれば良いんだがな」
「攻撃されてどうするんですか?」
「わかっていないなルビアは、向こうが攻撃してきたら、それこそこちらがやり返す理由になる、やり返して勝利したら、その店の商品から何から、全て俺達のものだ、わかるか?」
「でも、そのお店がいちご大福を売っているお店とも限りませんよね? もしかしたら食べ物屋さんじゃないかもですし」
「大丈夫だ、その店が俺達のものになるってことはだな、レジに入っている売上金も俺達のものになるんだ」
「あっ、なるほど、その奪ったお金でいちご大福を買えば良いんですね」
「ルビアお前、いちご大福に拘りすぎだろ……」
どうやら相当に食べたい様子だが、そもそもこの悪の拠点、最悪最大の敵の居城に、城下町とはいえいちご大福が当たり前のように売っているというのが何とも言えない。
そしてそのいちご大福を売っている店の魔族も、そしてその周辺の店舗から顔を出している魔族も、上級、中級、下級を問わず、、皆非常にフレンドリーな感じを醸し出しているのだ。
だが中には気性の荒い奴が居ないとも限らない、そういう奴に絡ませるためには……ひとまずメンチを切りつつ歩くこととしよう、先程メンチカツを食べたので今はメンチ切り放題なのだから……
「あの……ちょっと目つきが悪いようですが……何かご不満でしょうか?」
「はぁっ? 何がご不満かって、俺は戦いを求めているんだよ、戦って勝利して、敵の全てを奪い尽くさなくちゃならないんだよ、わかる?」
「ひぃぃぃっ! やはり勇者というのは恐ろしい存在で……わ、わかりました、では最初に、少しこの頂いているルートからは外れてしまうのですが、この商店街の『ドン』を呼んで来ます」
「何だそいつは? アレか、みかじめ料で生活しているような類の連中の親玉か?」
「そうです、凄く怖くて、魔王軍からも何度かスカウトが行っているはずなんですが、やっぱり商店街の方が良いと……それで、こちらに事務所がありますから、どうぞ」
「いや、呼び出せよそいつを、魔王軍の権限をフルに使ってな」
「えぇ~っ、ちょっと話したくないんですよねあの方……」
「ゴチャゴチャ言ってると鞭が飛ぶわよっ! 早く行きなさいっ!」
「はっ、はいぃぃぃっ!」
まずはこの商店街を制圧するエリアと出来そうだ、魔王軍には直接関係がなく、働いているのも一般の自営業者ばかりなのであるが、ここが魔王城の一部であることには変わりない。
そこのボスを、もちろんボスといっても質の悪いヤ〇ザである可能性が高いのだが、そいつを倒すことによって、俺達がここを俺達の支配下に置いたということには……ならないであろうが、まぁなったということとしておこう。
で、しばらくして戻って来た案内係にしてフワフワお嬢様魔族のジェーン、後ろからは何やら知らないおっさんと、その配下と思しきこれまた知らないおっさんが、群れを成してこちらをガン見しながら歩いているではないか。
おそらくそのおっさんの群れの最も前、変なハゲ……スキンヘッドなのか、緑色をしたわけのわからない魔族なのだが、そいつが『ボス』とやらで間違いないであろう。
わざわざサングラスをズラし、肉眼で俺を見ている意味があるのかないのかはさておき、雰囲気だけは一丁前のヤ〇ザであるのだが、果たしてその強さは……弱いではないか、どいつもこいつも雑魚ばかりだ。
「え~っと、お連れしました、この方々がこの商店街を取り仕切っている……」
『おうっ、俺様がこの町のドンだ、お前等、もしかして攻め込んで来るって噂だった勇者パーティーってのか?』
「だとしたらどうする?」
『フンッ、この町を守るのも俺様の役目だからな、テメェらっ、畳んじまえっ……テメェら? おいどうした?』
『ぷ……ぷぷぷっ……ぷげぽっ!』
『へらぽぱっ!』
『ひょげろぷっ!』
『以下略』
『てっ……テメェラァァァッ! おい貴様、何を、俺の部下であるこの連中に何をしやがったぁぁぁっ!』
「俺じゃない、殺したのはそこのほら、精霊様だ、文句があるならそっちに言ってくれ、それから、お前が殺されたことに関する文句は後ろの、今まさにお前を殺さんとしている美少女剣士ミラちゃんにどうぞ」
『はっ? ギョェェェェッ!』
この商店街のボスキャラを殺害したのはミラ、その様子を見ていた周囲の店から顔を出す店主や従業員は、そのミラに対して凄まじい拍手を送っている。
どうやらこのハゲ……ではなくスキンヘッドのヤ〇ザは、そこら中の店に苛烈な要求を繰り返しそれはもう顰蹙を買えるだけ買っていたようだな。
それが倒れたことによって、もうこれ以上苦しめられる心配はない、この先がどうなろうが、現状よりも悪くなることはないと感じた魔族連中が、このようにして喜んでいるのであった。
で、恐る恐るといった感じで死体へと近付き、なるべく手を触れないように、その辺に落ちていた棒を使って検分を開始するジェーン。
どうやら『死亡確認』をしなくてはならない立場でもあるようだ、なお、死体のうちボディーの方は、竹馬に乗ったリリィがふざけて踏み潰してしまったため、今は少し肉感のある赤い水溜まりへと変わっている。
「え~っと、今の時間と死に顔を記録して……ひっ、ちょっと動いたっ」
「ジェーン殿、死に顔など記録する必要があるのか? 魔王軍ではそうなのか?」
「ええ、主に敵が死んだ歳に、その顔が恐怖に満ちているかどうかを判断して、上層部の方で晒し首にするか決めるんですよ、気持ち悪いですよね首なんて」
「ジェーン殿は本当にこういうのに向かないようだな、先程もこの雑魚にビビッていたようだし」
「だって、凄く威圧的な態度を取るんですものこの方、で、商店街で迷惑を掛けてばかりなんで、魔王軍の方で雑用係として雇うためにスカウトを繰り返していたんですが……ここで亡くなってしまいましたね」
「スカウトって、そういう感じのスカウトだったのかよ」
「それは拒否られて当然ですわね、この商店街で威張り腐っていたのを、まさか雑用係としての仕官が叶うなんて、普通に転落していますわ」
「というか姉様、こんな人前は居なかったような……普通にお買い物していたし、変な人は排除されていた気が……」
「サリナは知らなかっただけで、どこにでもこういうのが居ますのよ、気を付けないと、まぁたいていは雑魚なので問題は生じ得ないけど」
一見平和に見える町にもこういうのが存在している、それはどこの世界においても同じことであり、元々はそれなりの必要性に応じて発生し、伝統的に維持されてきたものなのであろう。
だが俺が転移前に居た世界でも、そしてこの世界の魔族領域においてもそうらしいのだが、やはりこういう連中は『不要である』と判断されつつあるとのこと。
このハゲ……ではなくスキンヘッドも、きっとこのまま放っておけば、いつかは今現在のように首だけになっていたに違いない、それが誰の手によってなされるのかを問わずだ。
そして今回、その馬鹿で不要なハゲの始末を、本来手を付けるべき魔王軍に代わって俺達が……わざわざやった、いや、やらされただけのような気がするな。
もしかしてこの『町のヤ〇ザ討伐』だが、俺達は魔王軍に良いように使われ、『清掃ボランティア』をさせられていたのではなかろうか。
もしかするとこの様子を、どこかの部屋で魔王と副魔王が、魔導モニターで見ながら菓子など食って、ゲラゲラと指を差して笑っているのかも知れない。
そう考えると妙に腹が立つな、ジェーンが検分中であったハゲの首を軽く蹴飛ばし、それが商店街の遥か先まで飛んで行くのを眺めた後、俺達は先へ……進まず、少し戻っていちご大福を手に入れた……
※※※
「いやはや食った食った、と、これで商店街もお終いか、でっかい門がお出迎えだぞ」
「しかもまた門番が沢山ね、武器を構えているってことは、戦闘になるってことで良いのかしらね?」
「まぁ、そう考えるのが妥当だな、だが弱いし、ジェーンの部下なんじゃないのかあいつらは?」
「あ、いえ、ここの担当は私ではありませんから、色々と何が起こっても比較的大丈夫だと思います」
「お前、自分関係なければそれで良い感じなんだな……」
ジェーンには責任がないこの場所、つまりどうしてしまったとしても、これ以降に何かトラブルが生じるような場所ではないのだが……門番の必死そうな感じを見るにそうも思えないというのが現状だ。
数十体の魔族なのだが、全身全霊で武器をこちらに向け、あらん限りの魔力を俺達にぶつける準備が出来ているというような感じ。
もちろんそのような攻撃をすれば、反動で最低でも1ターンは動くことが出来ない、単に固まったまま、俺達に殺されるのを待つしかないという、非常に残念極まりない状況へと追い込まれるのだから面白い。
こちらが当たり前のように、ごく自然な感じで門へ近付いて行くと……その門兵の中の1匹、凄く気合の入っていそぷな奴が、前に出て俺達の前に立ちはだかったではないか……
『やぁやぁ我こそはっ! 魔王軍係長にして350歳の魔族! ここを通りたくば我を倒してからにせいっ!』
「え? ちょっと何ですかこの人、気持ち悪いんですが……」
「ミラ、ちょっと退け、そいつはさすがにアレだ、ミラには荷が重い、気持ち悪すぎるんだ顔が」
「」ええ、ハゲだしキモいし、私にはどうしてこのような生物がのうのうと生きていられるのか、どうして鏡を見た瞬間に自決しないのか、それが一切わかりませんっ!」
『この小娘ぇぇぇっ! 好き放題言いやがって、貴様、いくら勇者パーティーとはいえこの俺様の力をっ』
「ひぃぃぃっ! 気持ち悪いですっ!」
『ギョェェェッ!』
「あ、ブチュブチュになって飛んでったな、やったぞミラ、大丈夫か? 間違えて触れてしまったりしていないか?」
何やらリーダーらしきおっさんを吹き飛ばして死股のだが、どうやら他の連中はそれに、その『自分達の中で最も、圧倒的な力を持っていたキャラ』が、あっという間に惨殺されてしまったことに驚いているのであろう。
そしてその残った連中は、当然のことながらその雑魚よりも遥かに雑魚の、もはや雑魚の中の雑魚と呼べる存在であり、敵として生きている価値があるのかないのかと言えば、ないと答えざるを得ない程度n雑魚キャラなのだ。
で、ビビるその雑魚共を掻き分け、俺達は魔王城の、本当に魔王の居城である建物へ入るための扉の前に立つ。
凄く禍々しいオーラは、きっとこの扉を潜った数多の『悪い奴』が残した、いわば魔の残滓のようなモノなのであろう。
それを通過し、手に掛けた扉は……鍵などは掛かっていない、もちろん動かすために、人族であれば5万人程度のパワーがあって、それらが本当に死ぬまで頑張ってやっと1㎜動かすことが出来る程度のものである。
それを俺様、この異世界勇者様は指1本、たったそれだけの労力で、軽々と開ける、どころか吹き飛ばしてしまうことさえ可能なのだ、いや、強いなこの俺様……
「はいいくぞ~っ、オラァァァッ!」
「開いたわね、というか壊れたわね、バッキバキに」
「あの……きっと後で色々と請求されると思うんですが……」
「知るかそんなもん、ジェーンが良いって言ったんだからそれで良いだろうよ、俺達には一切責任がないと見た」
「えぇぇぇっ!? ちょっと、私はその……困りますっ」
なんとしてでも平穏に過ごし、この戦いをやり過ごしたい様子のジェーンであるが、お嬢様だからといって、俺達と魔王軍全体との戦いに無関係でいるようなことは到底出来ないのである。
少なくともこの先、魔王軍が敗北、つまりこの俺達が勝利することとなれば、ジェーン本人も敗軍の将……とまではいかないのだが、敗軍の中間管理職程度の責任はおわなくてはならないのだ。
まぁ、当然このように可愛らしいのだから、苛烈な罰を受けたり、処刑されてしまうようなことはないということで安心して頂きたい。
だがせめてkの俺達による城の破壊について、少しばかりの責任を、謝罪会見をし、公開で尻を叩かれるぐらいの罰を受けて頂きたいところでもある……もちろんそれは魔王軍に加担した罪の分も含めてであるが……
「よしっ、じゃあ魔王城内へ入るぞ、おいジェーン、これから先もお前が案内係だ、俺達の指定したルート通り、間違いのないよう連れて行ってくれ」
「あ、はい、わかりましたその代わりですが……戦後、あまり酷いことをしないようにして頂ければ……もちろん私だけでなくて、私の周りに居る方々にもですが……」
「そうだな、その『周りに居る方々』ってのは? 全部女の子なのか?」
「ええ、私男性の方とお話をするのはちょっと……なので私が知っている、親しい方は全て女性魔族でして、その方々が後々受ける罰とか、そういうのを軽くして頂けると幸いで」
「わかった、じゃあその子等…/・というかだ、女性には優しいんだよ俺は、安心しろ、100叩きぐらいで良いにしてやるからな」
「その100叩きの時点で既に恐いんですが……」
ビビるジェーンを引き連れ、いよいよ魔王城の本丸、本館の中へと突入する俺達。
中は微妙に薄暗く、潜入していた際の明かりと同程度のものしか設置されていない。
おそらく『闇を好む』という感じの魔族も多いのであろう、そういった連中に合わせるために、この魔王城は少しばかり暗くなっているのだ。
とはいえ、何らかの許可を取る際に必要な『5ルクス以上』という明るさは最低でも保っているらしい。
足元は見えるし、仲間の姿も暗いとはいえ確実に、誰が誰なのかということを認識することが可能な程度には見えている。
このまま魔王城内を進んで、敵を倒しつつ魔王、そして副魔王の討伐、いや降参させて従わせることを目指すのだが、もちろんこの先こそがこっとも長い道程であることは確実。
途中にはトラップもあるし、敵の中ボス的なキャラも出現することがあるに違いない。
それらを倒しつつ、予め決定してあったルートを用いて進軍hして行くのだ。
そしてその先にあるのは、おそらく副魔王が待ち受けている部屋、本来は最後の闘いとなるはずである最強の敵とのバトルをやってのける部屋なのであろうというところ。
そこに至るまでの間、このナヨナヨっとした案内係の……と、正規ルート上に敵が出現する気配だ。
案内係の力を、敵を呼んで来るという能力を借りることなく出現した中ボス的な存在、それがすぐ近くに居るようだ。
それほどには強くないようだし、まずは小手調べとして、魔王城(本館)突入における最初の殺戮対象として、その何者かを始末しておくことと決めた俺達。
武器を構え、何やらゴロゴロと廊下の向こうからやって来る敵に対して……ジェーンが俺達の後ろに隠れているのはどういうことであろうか。
少なくともそれほど強力な敵ではないと思うのだが、何か問題となる事項があってそうしている可能性が……何やら地味に臭い、きっとやべぇ奴、相当な長時間入浴していない、トンデモな野郎が登場することにつき、もう間違いはないと考えて良さそうである……




