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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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952 突入前

「……てことなんだ、魔王の姿を確認して、ついでにほら、お土産まで獲得して来たぞ」


「して勇者よ、突入ルートなどはどのようにして構築したのじゃ?」


「それはこの案内マップを使って、今からこの王の間で始めようと思う、専門家の意見なども拝聴しつつな」


「うむ、では正面突破の専門家を招致しよう、あとカチコミ研究家、男気分析官などもな」


「何だか凄い面子になりそうなんだが……その前にさ、一旦屋敷へ戻って報告して来るよ、直でここへ来てしまったからな」


「そうじゃな、こちらも専門家を集めるのに時間が掛かりそうじゃし、ほら、ちょっとワイルドでネイティブな奴も居るでの」


「何を呼ぼうとしてんだよ一体……」



 精霊様がレーコを抱えたまま、そしてそのレーコの部屋から回収した最新の魔王城全体が記載されたマップを、それぞれ仮設された王宮の、その中にある簡易王の間にてババァ総務大臣に提示していく。


 特に報酬とか何とか、そういった話に移行しないのが気掛かりな点ではあるが、それはまぁ、この後で様々な話し合いをしつつ、その中で触れられていく……などということは考えられないな。


 おそらくこちらから、紙媒体の請求書まで作って請求してやらないとダメだ、そんなことを考えつつ、用意されていた馬車で屋敷へと戻る。


 魔王城内で隠れたり騙したり、様々なことで時間を浪費してしまったのだが、それでも夕飯にはギリギリで間に合ったようだ。


 門の前で手を振ると、既に食器の搬入を終えて席に着いていたカレンとリリィがこちらに気付き、手を振り返してきた。


 それとほぼ同時にこちらに気付いた、カレンの隣に寝転がっていたユリナが、精霊様に抱えられたレーコを発見し、指を差して笑っている……



「キャハハハッ、レーコ、あなたこの間魔王城に帰ったばかりなのに、もう連れ戻されたんですわね、面白いですこと」


「うぅっ、人族のお客さん達からお土産とか色々と貰っておいて、もう戻って来たなんてどう説明すれば良いか……」


「大丈夫だレーコ、お前が居酒屋の仕事に復帰するのはもう少し先だからな、今は王都に連れ戻されていることさえ公表しない、知られたら常連が早く出せとうるさいからな」


「え~、というと?」


「いや、このマップだけじゃさすがに情報不足だからな、お前をルート選定の会議に参加させて、ついでに鞭でビシバシ引っ叩いて情報を吐かせるんだ、あ、会議では茶と茶菓子も出るから期待しておけ」


「鞭でビシバシ打たれながらお茶するのはちょっと想像が付かないんですが……」



 その後、隣に居たジェシカがレーコに対し、会議に参加した際には茶と茶菓子と、それから優しい感じで投げ掛けられる質問に答えるよう促されるということ、そしてこの屋敷では、鞭でビシバシされながらひたすら情報を吐かされるということ、そのふたつのタイプでの情報提供をさせられるのだということをレーコに伝える。


 そこまで賢さが高いわけではないが、少なくとも俺達勇者パーティーと比較すればそこそこであり、この世界の住人の中ではかなり上位に位置する知能を持つレーコ。


 これはつまり王宮に、王の間に呼ばれた会議の際に、こちらが必要としていて、かつ提供しても問題のない情報をゲロッてしまうのが最も良いということにつき理解したはずだ。


 つまり、この後王の間に連れて行けば、その場で、正面突破だの男気だのの専門家の前で、レーコはそこそこの情報をこちらに提供してくれることになる、なるのだが……それだと地味につまらないな。


 せっかく捕まえて来たのだし、夕食の準備が整う前に、少しだけレーコを鞭でビシバシしておこう。

 それが本人にとっても良いことであるし、きっと喜んでくれるに違いないのだから……



「ルビア、ちょっとそこそこのクラスの鞭を用意してくれ」


「あ、は~い……でもご主人様、ご飯の前に埃を立てると、またミラちゃんに叱られませんか?」


「大丈夫だ、向こうの部屋でやるからな、おいレーコ、ちょっと来いやっ、てか精霊様が運べば良いのか」


「ひぃぃぃっ! なななっ、何をするつもりですかっ?」


「王宮へ行くより先に、今から鞭でビシバシしてやるんだよ、どうだ嬉しいだろう?」


「嬉しくないですっ、ひょぇぇぇっ!」



 未だに精霊様が抱えた状態のレーコ、そのまま別室へ移動し、そのまま正座させておく。

 すぐにルビアが用意した鞭は、そのレーコの目には凶悪な処刑器具のように見えていたことであろう。


 それを持って後ろへ回るとビクッとなり、床に打ち付けるとまたビクッとなり、そして空を切らせると、小さな悲鳴を上げていたのが実に面白かった。


 で、散々じらした後、遂に一撃を喰らわせると、背中を思い切り反って反応し、そのまま土下座のような格好で蹲り、ピクピクと震えている。


 今度は尻に一撃、飛び上がったところにさらに一撃を加えると、またしても小さな声で悲鳴を上げ、今度は防御するような姿勢で丸くなったのであった……



「どうだレーコ? 何か情報を吐く気になったか?」


「情報って、何の情報ですか? それを教えてくれないと……いったぁぁぁっ! ちょっと、背中やめてっ、せめてお尻に……ひぎぃぃぃっ!」


「動くんじゃねぇよ、ルビア、ちょっとお手本を見せてやるんだ、四つん這いになれ」


「はい、お願いしますっ……ひぃぃぃっ……ぐぐっ、もっとお願いしますっ」


「ほら見ろレーコ、鞭はこうやって受けるものなんだ、というかこの程度ならサリナでも我慢出来るからな、ちょっと吹っ飛んだりするかもだけど」


「ひぃぃぃっ! もうやめて下さいよぉ~っ……痛いぃぃぃっ!」


『みなさ~んっ、お夕飯の支度が出来ましたよ~っ』


「あ、アイリスが呼んでいるぞ、レーコ、お前も夕飯食べてけ、ほら行くぞ」


「この状況から夕飯のお誘いとは……バグってますねこの組織……」



 ひとまず夕飯を終え、軽く風呂に入っておき、俺達が夕飯の片付けを始めた頃からずっと門の前で待っている王宮の馬車に対し、そろそろ行くからもう少し待てと、最初の案内をしてやる。


 御者は痺れを切らしているようだが、ここでおかしな態度を取ればどうなるか、その程度のことはわかっているらしく、キレたりすることなく門の前に立っているのだが……面白いのでもっと煽ってやろう。


 まずは風呂上りのスウィーツを、ついでに歯も磨いて、布団を敷いてその中へ……と、馬車が帰ってしまいそうだ、ふざけていないでそろそろ行かなくては。


 王宮へ向かうメンバーは俺とセラとマリエルの3人、ここまでは基本として、それから今回承知されているという専門家が面白そうなので見に来る精霊様、そして特別参加者であるレーコの合計5人だ。


 いや、念のためジェシカも連れて行くこととしよう、何かあったとき、主に俺達に不利な議決がなされようとしたときに、真っ先に気付いてストップをかけてくれるはず。


 ということで総勢6人、王宮の方で用意してくれた馬車は4人乗りなので、まずは精霊様を天井に配置して、それで残り5人か……ババァめ、6人乗りの馬車を用意すれば良いものを……



「仕方ないな、主殿、もうウチの馬車を出してそれで行こう」


「いやいや、あんなデカいの出してどうするんだ? それに帰りが夜中になるかもだからな、アレをガラガラと持ち帰って、裏の駐車スペースに入れるなんて、きっと近所迷惑になるぞ」


「そうか、それは避けなくてはならないな、となると……」


「となるとだ、おいおっさん、お前だよ御者のおっさん」


「わ、私でしょうか? 何か御用で……というかそろそろ出発せねば、私が責任を取らされてしまいますぞ、せっかく公務員として採用されたのに、まさか働かなくてはならない部署に配置されるとは思っていなかったのですが、それでもまぁ公務員ですので、適当にやって定年まで過ごして、老後は元役人として優雅に、そして偉そうに過ごそうかと思って……」


「話が長いし鬱陶しいんだよ、で、お前は降りろ、この馬車は勇者パーティーのジェシカが御者を務めることとなった」


「え? そうなると私はどうすれば良いのでしょうか? 王宮よりの命令は、私が御者として馬車を操り、勇者パーティーの中から会議に参加するとして選ばれた者を、王宮前までお連れするということでして、それが叶わないとなるとそれこそ責任問題でして、ましてや勇者パーティーのメンバーに、御者を代わらせたなどということは、これはもう大変な……」


「ゴチャゴチャうっせぇよ、サッサと降りろこの木っ端役人がっ!」


「全く、どうしてこのような者を採用してしまうのでしょうか、あなた、どこの省庁……はもうどうでも良いですね、早く行きましょう」


「あ、ちょっとっ、私はどうやって帰れば?」


「匍匐前進で王宮へ戻れよ、北門から出て、世界を1周して南門から王都に戻って、それで王宮を目指すんだ、わかったな?」


「・・・・・・・・・・」



 ということで使えない御者のおっさんを降ろし、俺達は会議に列席するため、夜の王都を馬車で移動したのであった……



 ※※※



「むっ、ようやく来たか勇者よ、遅い……というか御者の男はどうしたのじゃ? ほれ、迎えに行った木っ端役人じゃよ」


「あぁ、奴なら職務放棄したぞ、匍匐前進で世界1周の旅をするって夢を、どうしても今すぐに叶えたいらしくてな」


「迷惑だから後にしてくれって何度も頼んだのに、それも聞かないし……今頃王都の北門辺りをウロウロしているんじゃないかしら?」


「なんとっ、遅れた理由はそんなことで……すぐにその馬鹿者の討伐をっ、兵を出して惨殺するのじゃっ!」


「プププッ、死んだなあの野朗、マジで面白いぜ」


「……いつもこんなことしているんですか勇者さん達は」



 呆れるレーコは布に包まれ、顔が見えていないため、周囲からは誰なのかわからないような状態。

 まぁ、勇者ハウスの近所の、それも居酒屋の常連連中以外からは、レーコがレーコだと認識されることはないであろうが、ここは念のためだ。


 で、王宮の前で待っていたババァに催促され、かわいそうな御者の木っ端役人を討伐しに行く下っ端兵士らとすれ違いつつ王の間へと向かう。


 扉が開き、中の様子が確認出来る状態になったところで、見えてきたのは……とんでもない光景だな、まるで『漢博物館』である。


 番長らしい帽子を被り、変な草を口に咥えている者、もみあげが妙に……まぁそんな感じの者、眉毛が太く眼光が鋭い者、ずり下がったサングラスの上からこちらにガンを飛ばす者。


 それらがいずれも椅子に浅く腰掛け、無駄に足を組んで偉そうに座っているのだ。

 よくもまぁこんな連中を王宮に呼んだなと、そう思えるほどに極端な『漢』共である……



「え~っ、それでは勇者パーティー代表団が到着したとのことで、これより会議を始める、この会議は『魔王城正面突破男気フルMAX協議会』とし、以降、実際に勇者ハウスへ魔王軍からの招待状が到達し、突入の日を迎えるまで定期的に開催することとした、以上、開会の儀を終える」


「こんなのしょっちゅうやるつもりなのか……税金の無駄がやべぇな」


「え~っ、ではこれより議長の選任に移ります、議長の選任について……」


「っと、司会者いちに……」


『俺だっ!』

『俺こそが議長だっ!』

『いや我がっ!』


「・・・・・・・・・・」



 やたらとアピールしてくる『漢』の皆様方、これでは議長さえ決めることが出来ない、それぞれ自己主張が強すぎるのだ。


 俺だ俺だしか言わない馬鹿共に、呆れ果てているのは他の一般的な会議参加者であるが……ここでジェシカが議長に立候補した、当然『漢』の連中は反発する。


 女如きに議長が務まるのか、俺がやった方がより気合の入った議長に、などとわけのわからない主張を展開する者が大半だが、間違いなくジェシカにやらせた方が良い。


 というかこの連中はもはや要らないのではなかろうか、頭も悪そうだし、性格もひねくれていそうなので、この会議、いやこの世界から排除するのが得策のような気がしなくもないのだが……



「おいババァ、この馬鹿共、ちょっと殺して良い?」


「うむ……専門家だとか権威だとか、そういった連中であるということで集めたのじゃが……どうも全員『自称』であったらしいの、主張だけが強い、それが男気溢れていると思っている馬鹿じゃ」


「じゃあえ~っと、あっちの番長っぽいの、ちょっと殺すわね、それっ」


「俺だ俺だっ、俺だ俺……ひょげろぽっ!」

「ひぃぃぃっ! ば、番長風の奴が殺されたぁぁぁっ!」

「イヤだ、殺されたくないっ」

「俺は帰る、帰るぞぉぉぉっ!」


「すげぇ、クモの子を散らすようにとはまさにこのことだな」


「本当に情けない馬鹿共ね、全然男気に溢れていないじゃないの……誰か、あの馬鹿共をどこかに閉じ込めておいて、後で焼き殺すわ、アツくね」



 こうして自称男気溢れる正面突破だの何だのの専門家は排除され、今は別室にて適当な罪での死刑宣告を受けている最中である。


 で、邪魔者が居なくなったため、こちらはこちらで会議の方を始めていこうと思う、もちろん議長は公平かつ公正なジェシカさんだ。


 で、まず俺達が『魔王城の真正面、正面玄関』から突入するということは既に決定事項であるとして、それについては確認をするのみで済ませる。


 問題となるのはその先だ、まずは俺達が魔王城内のレーコの部屋で発見した最新のマップを拡大したものを、王の間の前に掲示する……仮設の王宮のため、これだと駄王が掲示物の後ろへ隠れてしまう。


 まぁ、どうせ参加しているだけで特に役立っているわけではないのでそれで良いか、しかも酔って寝ているようだし、後で半殺しにしてしまうべきだなこの馬鹿は……



「え~っ、それでですね、ここ、この場所が魔王城の入口でして、ここから入ると……まずは魔王城の城下町、商店街通りということになります、そうですねレーコさん」


「ん? あ、はいっ、そこからずーっと商店街が続いて、最終的に魔王城の本丸の正面入口へ辿り着きます、ちなみにオススメのお店は……」


「あ、はいはい、それはまた屋敷に帰ってから聞きましょう、それで、まぁこんな感じで、この王都で言えばですね、北門から延びる中央の馬車道ですね、それが丸ごと商店街になっているような、非常に大規模な城下町ということになります」


『勇者パーティーはそこを通過するのですかっ?』


「ええ、そこを通過する以外に、正面突破と呼べる移動方法はありませんから、なお、買い食いはなるべく控えるものとします」


『美味しそうなから揚げテイクアウトの店があったとしてもですか?』


「え~っ、そういったやむを得ない場合にはですね、まぁ、昼食や小休止など、理由を付して食品の購入を……」


『でもそこって敵地なわけですよね?』


「……はい、仰る通りですね、そこは敵地でもあります、商店街でもありますが」



 それは今するべき話なのであろうか、そう思ってはみたものの、止まない批判の中でこちらから何かを言い出せるような空気感ではない。


 結局俺達は『買い食い禁止』、気合で正面突破し、どこへも立ち寄ることなく、まっすぐに魔王城を目指して突き進むべきであるという結論に達してしまった。


 そこからは内部突入後の話、マップを元に、どういうルートで進軍して行くのかを決定していくのだが……やはり城内にもコンビにだの売店だの、それから居酒屋まで存在しているというのが現状。


 というか魔王城は何なのだ? あれだけ巨大な悪の城に、ごく一般的な娯楽施設や日常生活のための商店がわんさかあるというのはどういうことなのだ?


 もしかするとこれは魔王城、いや、魔王軍に対する認識を改めるべきなのかも知れないな。

 あれは単なる悪の組織ではなく、人族の国々と単独で敵対するひとつのコミュニティー、そういうものではないのか。


 まぁ、どうあれ魔王軍はこのまま制圧し、解体し、内部の連中については処刑したり、人族と敵対しない一般的な生活に戻らせたりしなくてはならないのもまた事実。


 勝手に決定されていく進軍ルートに、俺の仲間達ももう興味を示さず、普通にそれ以外のことを考えながら茶菓子を抓んでいるような状態なのだが、俺はそう考えてしまって止まなかった……



「え~っ、では私達、勇者パーティーの実際の進軍ルートはこれで決定です、なおおやつは持参で、弁当も持参で、魔王城内では出来る限り買い物などしないということも同時に決定しました」


「てか買い物なんて出来ないよな戦闘中に……」


「まぁね、やったとしても店主とかを殺戮して、店の商品を根こそぎ奪うぐらいだわ」


「精霊様、それ、こっちが悪なんじゃ……まぁ、場合によってはやらなくてはなりませんが」



 こうして作戦会議は終了、俺達は茶菓子の余りを全て布袋に詰め込んだりして、ついでに高級そうな調度品もいくつか、堂々と袋に入れて持ち帰ることとした、本日の交通費代わりだ。


 で、今度はしっかり6人乗りの馬車を出させ、御者もムカつく感じの奴でない、真っ当そうなおっさん役人を出させて屋敷へ帰る。


 戻って皆に説明をしようとしたのだが、屋敷の前に……何やら中級ないし下級の魔族の姿があった、対応しているのはルビア、とりあえず始末しよう……



「んんっ? 何だアイツ、死ねっ!」


『ギャァァァッ!』


「あら、帰って来たんですね、おかえりなさい、それでですね、ちょうど今、この魔族の方がお手紙を持って来たところでした、死んでしまいましたが……」


「あ、そうだったんだ、何か悪いことをしてしまったな、まぁ、死体はドブにでも流して供養しておこうか」



 遂にやって来た魔王城への招待状、綺麗な便箋の中に入ったカードは、明らかに魔王の奴が直筆で記入した、いかにも女子らしい文字の手紙であった。


 これを持って魔王城へ行けば、まず最初の難関、正面からの突入という点については問題なく成せることであろう。

 あとはその先、どのようにして戦いを進めていくのかということだ……この件については王宮にも報告しなくてはならないな……

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