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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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940 合格者達

『はいっ、お集まりの皆様方、本日はですね、弱体化エリア適性テストにお越し頂き、誠にありがとうございますっ!』


『ウォォォォッ!』


『え~っ、皆様はですねっ、王都を守る兵員の中でも主力クラスでして、魔族相手でも、それはもう当たり前のように戦い抜くことが可能な猛者ばかりですねっ!』


『ウォォォォッ!』


『今回はですねっ、そんな皆様の中に隠れている才能、それをお持ちの方についてっ、この場でテストというかたちで抽出していきたいとっ、そう考えている次第ですっ!』


『ウォォォォッ!』


「やかましいなぁ、敵の作戦範囲の目の前だってのに……」



 ここは王都の西、魔王軍が展開し、攻撃のときを今か今かと待ちわびている小さな森の目の前。

 例の『弱体化エリア』が存在している場所のすぐ近く、境界線のロープが見えているほどまで接近した場所だ。


 参加しているのは俺達勇者パーティーと筋肉団、それから王都獣人部隊に王都レンジャー部隊、これらはお馴染みのメンバーばかりだ、もちろんモブも多いが、それらも全て『強モブ』であるゆえ忘れてはならない存在である。


 で、今回初参加となったのが、前々から構想され、この混乱に乗じて一気にブチ挙げ、遂に成立した『王都治癒小隊』だ。


 王都中から回復魔法使いを徴発し、それでやっと小隊規模というのが現状なのだが、回復魔法使いというのがいかに希少な存在であるのかが見て取れる。


 だがこの小隊の成立によって、戦の際の救護所はかなり安定して回すことが出来るようになるのだ。

 これまでのようにてんやわんやで、ルビアがそちらに係り切りとなってしまうことも少なくなるはず。


 そしてそのルビアなのだが……開会式めいた何かを完全にサボり、同じくサボっているその治癒小隊の連中に囲まれているではないか……



「いや~っ、ルビアさんってマジ凄いっすね」

「確か王都を丸ごと回復の渦に包み込むことも出来るとか?」


「あ、どうもありがとうございます」


「ちなみに今は何を? その齧っているのは魔力を上げる糧食とか?」


「いえ、ふつうの割れ煎餅です、お金がないので規格外商品しか買って貰えなくて」


「半端ねぇっすね勇者の虐待、で、その読まれている魔法書は?」


「普通のエッチな本です」


「ご趣味は?」


「鞭でお尻を叩かれることです」


「クッキー食べます?」


「いえ、ご主人様から『知らなくて気持ち悪い人からは食べ物を貰っちゃダメ』って言われているんで」


「やべぇ、アイドルみたいだっ!」



 勝手に持ち込んだピクニックシートに寝そべり、菓子を齧りながらエッチな本を読みふけっているルビア。

 ランタンの燃料がもったいないのでそろそろやめて欲しいところだが、迷惑な連中に絡まれていることについては同情してしまう。


 で、その邪魔者は俺が追い払ってやり、まずは可能性が高そうなメンバーから『適性テスト』を受けさせることに決めて順番を待たせる。


 ユリナはそこそことして、次点でいけそうなのはセラだ、同じ魔法を使うキャラとしては、ここでその実力を見せて欲しいところ。


 そしてダラダラを妨害されて若干不機嫌なルビアがその次、セラとルビアは同時にやって貰おう。

 万が一に備えて2人にロープを結び付け、境界線ギリギリまで接近させる……



「えっと、ここに手を入れれば良いんですよね? ここ、このラインかな?」


「おいルビア、そこはロープを張っていないから危険で……てかお前、境界線がわかるのか?」


「ええ、ハッキリ見えていますよ、ねぇセラさん」


「う~ん、そんなことないと思うんだけど……この辺りかな……ひぃぃぃっ! 何なのよこれはっ? あ、でもそこまでじゃないかも……」


『候補者セラ、小悪魔シール3つ!』


「公式に基準として採用されたのかよ小悪魔シール……」



 やはり可能性があるキャラは強い、セラは力を奪われはするものの、エリア内に突入して完全な状態の上級魔族に遭遇しても大丈夫だし、万が一の場合には逃げ出すことも出来ると判断され、シール3つを獲得した。


 で、同時に境界線を越えた、しかも指先だけでなく全身で入り込んでしまっている様子のルビアだが……全くの無反応である。


 コレが何か? そういった表情で首を傾げているのだが、本当に、リアルに何の影響も受けていないらしい。

 試しに腰のロープを力強く引っ張ってみたのだが、それが食い込んで嬉しそうな顔をするに留まった。



『候補者ルビア、小悪魔シール2万枚!』


『ウォォォッ! さすがだぁぁぁっ!』


「はて、何かシールを貰ってしまいました、どういうことでしょうか?」


「どういうこともこういうことも、お前やっぱり異常だな、ちなみに突入部隊には参加確定だぞ、ドンマイ」


「えぇ~っ? ウソでも良いからダメなフリをしておけば良かったです……」



 耐性は人一倍あるのだが、モチベーションの方がイマイチな様子のルビアであった。

 まぁ、無理矢理行かせれば渋々従うし、良く考えれば女神から借りパクした一切のダメージを受け付けなくなる箱舟もあるのだ。


 ルビアに関しては特に問題がないということで、引き続きテストの方を進めていくこととしよう。

 次の候補者は……うむ、魔族であるから少し可能性があるような気がするマーサだな。


 一緒にいつも仲良くしているマリエルを出そう、同じようにロープで繋いで、例のラインに接近させる……



「この辺り? ここかな? えいっ……ひぎぃぃぃっ! ちょっ、ちょっとこれは……ひゃぁぁぁっ!」


「大丈夫マーサちゃん? すぐに助けて……ひょえぇぇぇっ!」


『候補者マーサ、マリエル王女殿下、小悪魔シール獲得ナシ! すぐに救助せよっ!』


「……ダメか、どうやら魔族とかどうとかは本気で関係がないらしいな、フィジカルが強いとか弱いとかも」


「マーサちゃんはいけそうだと思ったのにね、勇者様と同じぐらいダメだとは……で、2人共大丈夫?」


「はらひれほろほれ……」

「私はまぁ、徐々に回復しているというか……あ、でも無理、きゅぅぅぅっ」


「お~い、ちょっと救護班を呼んでくれ~」


『へい喜んでっ!』


「待っていろよ、今気合の入った居酒屋の店員みたいなのが助けを呼びに行ったから、てかルビア、お前この感じ、どうにか出来ないのか?」


「無理ですよ、ダメージを負ったわけじゃないですから、自然に回復するまで放っておくしかないです」


「そうか、残念だったな2人共……とまぁ、さすがに聞いていないか」



 完全に意識を失ってしまったマリエルと、頭の周りで無数のひよこがピヨピヨいっている状態のマーサ。

 俺と同等どころか俺よりも酷い、この2人が突入すれば、普通に『スライム負け』してしまうことであろう。


 で、お次はあまり期待していないミラとジェシカである、この2人は何というか、力で戦うタイプであるから、こういうのには弱いのではないかというのが今のところの思いである。


 まぁ、最後に控えているカレンと、それから状態異常系にはすこぶる弱いリリィほどではないが、ミラとジェシカについてもすぐに救出することが可能なように、完全な耐性があると判断されたルビアを傍に置いておくこととしよう。


 で、本人達も色々とわかっている様子の2人を横一列に並べ、救助体制が万全であることをアピールしつつ、慎重にエリアの境界線を跨がせる……



「……あっ、ここから、ここから先が……思っていたよりも大丈夫です」


『候補者ミラ、小悪魔シール5枚!』


「え~っと、じゃあミラ殿と同じラインに……はうっ!」


『候補者ジェシカ、小悪魔シール獲得ナシ! 救助完了!』



 予想外であったのだが、ミラはかなりの耐性を有しているようだ、一方のジェシカは……マーサやマリエルどころではない、ルビアが治療しているということはダメージを負ったということだが、どうやら足を踏み入れた際の衝撃で骨折してしまったらしい。


 こんなもの、まるでヨエー村の住人なのだが、普通の人族であるジェシカがこのようなことにな手tしまうとは、もしかしてこれが最大効果なのか?


 いや、そうでなかった場合が恐ろしい、そしてその恐ろしい目に遭うのは、間違いなく『状態異常系最弱』であるリリィなのだが……逃げ出したりはしていないようだな。


 というか、どちらかと言えばカレンの方がビビッているように思える、尻尾の毛は逆立っているし、何よりも顔が怯え切っているではないか……



「どうするカレン、やめておくか?」


「うぅっ、でもここで度胸を見せないと、王都獣人部隊の人達に笑われてしまうような……」


「そんなこと気にするようになったのかお前は……で、リリィは?」


「ちょ~っと、ホントにちょっとだけやってみます……えいっ……あれ? なんともない……それっ……やっぱり大丈夫みたいです」


「……あ、それなら私もちょっとだけ……よいしょっ……かはっ……」


「わぁぁぁっ⁉ カレンちゃんが倒れましたぁぁぁっ!」



 なんと、カレンはジェシカ以上にダメージを受けてしまったではないか、というか焦ったリリィが持ち上げた際に、何やらボキボキと嫌な音が……全身7カ所を骨折してしまったらしい、まるでヨボヨボのババァが転倒したかのような反応である。


 で、これは最大の大番狂わせ、カレンを救出した後も、当たり前のように弱体化エリア内で活動しているリリィ、普通に歩き、しゃがみ込み、その辺に居た虫を捕まえて……ダメージを負ったカレンに食べさせようとするのはやめて欲しい。


 で、リリィはルビアと同じく、小悪魔シールを5万枚獲得して大満足の様子……というかどうしてそこだけ以上にインフレしているのだ? 普通に10枚とかで良いのではなかろうか。



 で、ここまでで可能性を得たのはセラとミラ、ユリナ、そして完璧なのはルビアにリリィに……精霊様はどこへ行ったというのだ?


 もちろん余裕で楽勝で、こんなエリアぐらい屁でもないはずなのだが、どうして逃げ出してしまったのかがわからない。


 もしかして他の仲間が可能性を見出した、特にルビアとリリィは完全耐性を見せたため、もし自分がそれ以下であれば沽券に係るとして逃走を図ったのか。


 すぐに討伐部隊、ではなく捜索隊が組まれ……るまでもなく、木の裏に潜んでいたところを発見された精霊様が、すっかり回復したカレンとジェシカによって連れ戻される……



「ちょっとっ、やめなさいっ、私がこんな変なエリアに入るのはお門違いよ、誰だと思っているのよっ」


「精霊様だと思います」


「わかっているなら離しなさいカレンちゃん、ほら、もうお肉恵んであげないわよっ」


「……精霊様からはたまにしか貰ってません」


「・・・・・・・・・・」



 カレンに見捨てられ、皆の前に引き出されてしまった精霊様、必死で抵抗を続けている辺り、相当に嫌なのであろうが、これに関してはもうどうしようもない。


 というか精霊様は昨夜も、俺を騙す感じで自分だけ逃れたという前科があるからな、要注意だ。

 このまま自分で入るよう促すのではなく、せっかくなので放り込んでしまうこととしよう。


 そのようにカレンとジェシカに伝え、精霊様は両脇を抱えられたまま境界線の目の前まで来て、必死に足をジタバタとさせて抵抗を続けている……



「じゃあいきまーすっ」


『せぇ~のぉっ!』


「ひゃぁぁぁっ!」


『……候補者水の大精霊様……爆発四散! 小悪魔シール獲得ナシ!』


「あ~あ、弾け飛んじゃったよ」


「よっぽど耐性がなかったのね、情けないわ」


『あ、あんた達、そんなとこで喋ってないで回収してちょうだい……』


「地面が喋りました……」



 弱体化エリア内に入ると同時に、弱体化どころか弾け飛び、撒き散らされた水滴となってしまった精霊様。

 そのまま地面に染み込み、今は母なる大地にクラスチェンジしている、本当に情けない姿だ。


 で、精霊様はそのまま、完全耐性を持つルビアとリリィによってスコップで土ごと回収され、ひとまず土木工事用の猫車に集積された。


 なかなか力が回復せず、『湿った土』の状態のまま何やら文句を言っているのだが、普段どれだけ強かろうとも、そして偉かろうとも、役立たずであるとわかってしまった現状においては誰も相手をしてくれない。



「うむ、これで勇者パーティーは全員終わったな、で……たったの5人かよいけそうなのは……」


「しかもそのうち完全耐性なのは2人だけと、そして2人共、その、言い方は悪いのだが……」


「ジェシカ、素直に言ってやれ、頭が悪いとな」


「うむ、そればかりは仕方のないことだが、本当にどうしようもない」



 おそらく本当に選抜され実際に突入することになるのはルビアとリリィの2人だけであろう。

 残りの『耐性アリ』な3人については、それなりの影響を受けているということからも、万が一に備えての予備役のような扱いとなるはずだ。


 で、そこからは他の主力部隊が次から次へとテストを受けているのだが、突如上がったざわめきに注意を向けてみると、その中心にはゴンザレス……であった何かが存在していた。


 どうやら俺やジェシカなどを遥かに下回り、どちらかと言えば精霊様に近い耐性のなさであった様子のゴンザレス。

 エリアに入ると同時に、全身が溶解してベチョベチョの何かに、スライムのような状態にな手tしまったようだ。


 しかも何が気持ち悪いかと言えば、その状態であるにも拘らず、気合と根性のみでエリアから這い出そうとしているのだ。


 ヌルヌルと移動しているそのゴンザレスであった何かからは人が遠ざかり、武器を構えている者も若干名見受けられる……



『おうっ、どうやら俺はダメだったようだな、このザマだ、ハッハッハッ!』


「いや笑い事じぇねぇだろ実際、しかも全然元に戻らねぇし、誰か、猫車をもう一台用意してくれ」


「1台しか用意しておりませんが、水の大精霊様と同じ場所に集積しては如何でしょう?」


「馬鹿か、混ざってしまったらどうするつもりだ? とんでもねぇモンスターが爆誕すんぞ」


「はい、ではこちらの器にでも盛っておきましょう」



 まるでゼリーのように盛られたゴンザレスであった何かだが、徐々に筋肉組織等が再生し始めているのがまた気持ち悪い。


 で、良く見れば精霊様の方も、誠に可愛らしい小さな精霊様が、猫車に盛られた土の中からピョコッと顔を出し、悔しそうな目線をこちらに向けているのであった。


 しかし精霊様はともかく、当たり前のように完全な耐性を持っているのであろうと予想したゴンザレスがこのザマとは。


 これは益々わからなくなってきたな、どういう条件で弱体化エリアの影響を受けたり、受けなかったりするのであろうかということが。


 で、俺がそんなことを考えている間にも、テストの方は進んでおり、次から次へと小悪魔シールを獲得する者が現れている。


 どうやら筋肉団や獣人部隊の成績は振るわないようだ、逆にレンジャー部隊はそこそこの合格者が、そして回復魔法使いを掻き集めた治癒小隊に関しては、ほとんどの参加者が複数のシールを獲得している状況であった。


 どうやら回復魔法使いはこの弱体化エリアとの相性が良いようだな、次いで攻撃魔法使いなのであるが……そうなるとミラが一定の耐性を示したのはどういうことなのであろうか。


 普段から魔法など全く使わない、剣と盾を駆使した肉弾戦しかしないミラが、かなりの割合で魔法使いである『複数シール獲得者』の中に食い込んでいるのはそこそこおかしいように思えるのだ。


 そしてそれは完全な耐性を示したリリィについてもそうであろう、これが、この弱体化が状態異常を示すものであるとしたら、そういった攻撃を受けるとすぐにダメなリリィは、俺のような使えない組に含まれていないとならないのである。


 まぁ、俺がここで色々と考えたところで、その理由などわかるはずもないのは事実であるし、むしろ使えない分、面倒な突入部隊に編入されなかったことをラッキーだと思っておくこととしよう。


 で、そのアンラッキーな耐性持ちの連中は、これから集められて何やら話を聞かされるらしい……というかこの耐性テストイベント、誰が仕切っているのであろうか。


 王都北門付近で、昼の戦闘のついでに実施されているのとは明らかに違う、ホンモノの弱体化エリアを用いたテスト。

 もちろん突入部隊の主力の中の主力を抽出するためのものなのだが、それについて詳しい話はまるで聞いていないな。


 とはいえまぁ、俺には関係のない話だ、後のことはもうルビアとリリィに任せてしまうこととしよう。

 ついでに補欠合格のセラとミラ、ユリナも居るのだ、特にミラとユリナには、知能の面で期待しておくべきである……



『はーいっ! では合格者、補欠合格者の皆さんはこちらへ集まって下さーいっ』


「ほらルビア、リリィ、合格者様はあっちでお呼びだぞ、補欠の3人も、勇者パーティーを代表して、恥ずかしくないよう振舞わなくてはならない、わかるな?」


「主殿、もう誰も聞いていないぞ、ちなみにルビア殿はそこで寝ているし、リリィ殿は反対側へ走って行ったようだ」


「全く、しょうがない奴等だなホントに……」



 結局リリィはミラが捕獲し、ルビアもセラとユリナに担がれて、合格者のみの説明会に参加したらしい。

 その説明会は、傍から見ると人数にして30名程度のきわめて小規模なものなのだが、それでもやはり回復魔法使いの多さが際立っている。


 やはりここに何かヒントがあるのではないかと、そう考えてもみたのだが、研究所で調べても、そして魔法に関しての知識が豊富なユリナやサリナにもわからず、精霊様でさえも感じ取ることが出来ない要員である以上、これ以上追いかける気にもなれないところだ。


 あとはまぁ、実際の戦闘において、この弱体化エリアがどういう意図で作成され、使われるのかといったことを見極めるのみ。


 その戦いの始まりはもう本当にすぐそこ、数日後に迫っているのだが、どうやらこちらの準備も間に合いそうな感じではあるな……

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