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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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918 非常階段殺人事件

『やっぱりおかしいって、さっきあのダンボール動いてたもん、アレも、あっちのも、こっちのもだぞ』


『そりゃダンボールだって動くさ、生きているんだもの』


『あれ? ダンボールって生きてるんだっけか』


『我はそう記憶しているのだが……違うか?』


「そう言われてみればそんな気がしなくもないよな、きっとそうだ、ダンボールは生きているんだっ!」




 空から落ちて来た魔王城の裏側、王都北の森に面した側を守っている下級、中級魔族の面々が、ダンボールの生命性について語り合っている頃、俺達は静かに、息を潜めて、さも『生けるダンボールモンスター』であるかのような振る舞いを続けた。


 魔王軍のモブキャラ共が馬鹿で本当に助かった、インテリノは呆れているようだが、同じように賢いキャラであるジェシカは、もうそれが当然であるといった雰囲気で、この魔王軍の馬鹿さ加減に驚いた様子を見せる雰囲気はない。


 で、俺達生けるダンボールモンスターの5匹は、そのままカサカサと、敵の目線がこちらから切れたタイミングを見計らって、さも『だるまさんがころんだ』かの如く前進を続ける。


 最初に発見されたときと比較して、明らかに接近しているはずではあるが、それについては誰も、どの馬鹿魔族も不自然なこととは思っていないらしい。


 そして幸いにも城壁の際は奴等にとっての死角、本来であればそこに接近を許す前に、敵を殲滅したり、無理そうであれば上へ報告したりというのが奴等の任務であるはずなのだが、どうやらそれを完遂することが可能なほど、脳みその方はその頭に充填されていないようだ。



「……今です、敵兵さん達が少し向こうに行きました、頑張って近付きましょう」


「だな、よしっ、一気に前進だ、魔王城の裏側に取り付いてしまえばこっちのものだからな」


「わかりました、わかりたくはありませんが、魔王軍の知能の低さが相当なものだということはわかりました」


「その意気だ王子、とっとと突入して、馬鹿共にお灸を据えてやろうぜ」


「ええ、行きましょう」



 そこからはシャカシャカと、凄まじい勢いで移動し、遂に俺達は魔王城の、それはそれは高い裏側の城壁に取り付くことに成功したのであった。


 しかしここから登っても、今度は生身の姿であの馬鹿連中に姿を晒してしまうこととなる。

 さすがにそれはアウトであろう、たとえ奴等の目が節穴であったとしても、ダンボール以外では誤魔化せそうにない。


 ということでその位置に停止し、作戦を考えていると……俺達が大幅に移動していることに、当初からダンボールに対して多少疑いの念を抱いていた『賢い魔族』が気付く……



『見てくれっ、ダンボールモンスターが移動しているぞっ、どこかへ行ってしまったようだが……危険ではないのか?』


『いや、ダンボールモンスターはそれほど危険な生物ではないと、古の文献には記されている、だが……少し上に報告をしておいた方が良いな、いくら何でもモンスターはモンスターだ、我々魔王軍の脅威とならないとは限らない』


『だよな、俺もそれが言いたかった、じゃあ誰が報告に行く?』


『待て待て、あんなモンスターを発見したなど、場合によっては大手柄だぞ、ここはじゃんけんで……』


『……いや、全員で一緒に行こう、俺達はチームだ、上への報告があるのなら、それはチームとして、全員で赴くのが道理だ』


『さっすが裏側警備隊長、わかってらっしゃるじゃないかっ』


『おうっ、じゃあ行こうぜっ、この件については俺達の上役に当たる最下級官吏様に報告だっ!』


『うぇ~いっ!』



 ということで馬鹿共は行ってしまい、魔王城の裏側は誰も居ない、誰も見張っていない空白地帯へとなり果てた。

 どれだけ頭が悪いのであろうか、そして上役が『最下級官吏』などと、一体奴等はどれほどまでに下の存在なのであろうか。


 疑問は尽きないのだが、これが一世一代の大チャンスであることに変わりはないため、すぐにダンボールを脱ぎ去り、人間の姿に戻って城壁を登り始める。


 この程度の高さ、本来であればジャンプしてしまえばどうということはない、だがその際に発せられる力を、今度は本当に頭の良い、上位クラスの魔王軍構成員に察知されないとも限らないのだ。


 ゆえにここはゆっくり焦らず、存分に時間を使ってクライミングを続けるのだが……俺とルビアが置いて行かれてしまいそうだな。


 ジェシカも遅いのではないかと思ったのだが、今回はガチャガチャとうるさい鎧を装備していないため身軽、体の小さいカレンやインテリノは言うまでもなく、そして俺とルビアのそういった能力については言うまでもない。


 すぐに置いて行かれた俺とルビアは、目一杯頑張って、その分体力も多めに使って、どうにかこうにか城壁の上へと辿り着くことに成功したのであった……



「はぁっ、やれやれですね、普通に登って行くのは大変なことです」


「まぁ、しょうがないわそりゃ、ここからもあまり力を使わない、発揮しないように進んで行かなくてはならないし、もっと苦労する場所があるかも知れないぞ」


「ひぃぃぃっ、そんなのもう帰りますっ」


「帰るんじゃねぇよ、で、カレンの方はどうだ? 敵の配置とか、そういったものを確認することが出来たか?」


「う~ん、どっちに行っても誰か居るみたいです、向こうの方が音が遠い……かな」


「うむ、じゃあそっちへ行ってみよう……・と、何だジェシカ?」


「待つんだ主殿、音の近い遠いだけで判断してはいけない、この館内マップを確認してから進むんだ、ほら、ここが現在地」


「なるほど、どこにでもあるなこういうの……でもこのフロアだけか、もうちょっと張り切ったものを作れよな、せめて各階層には何があるとか、そういった情報を伝えて欲しいんだよ」


「しかし勇者殿、この状況で贅沢は言えません、ひとまずはこの案内図を参考としましょう」


「だな、じゃあえっと……」



 高い城壁を登り切った先、そこは魔王城の5階層であるとのことだが、正直何階層まであるのかは把握していない。

 もちろん案内マップにはそれについて記入されていないし、『中の住人』にとっては周知の事実なのであろう。


 で、俺達はひとまずこの階層を、敵に見つかることなく通過して、次の階層へと至る階段か何かへ到着する必要がある。


 ということで最初に、カレンが『音が遠い』と主張した方のルートを、現在位置からゴールに向けて辿っていく。

 と、いきなり『下級魔族用大浴場』にぶつかってしまうではないか、これはさすがにアウトであろう。


 今はまだ朝も早い時間なのだが、夜勤を終えて交代し、これから大浴場を目指すような魔族もそこそこに居るはずなのだ。


 そしてその先すぐには『下級魔族用食堂』も、ここは1日中、時間帯を問わず大人気となっていることであろう、頭が悪くて喰う以外に考えることの出来ない馬鹿も多いはずであるから……


 ということで別のルートを探していくのだが、ここが左右にしか分かれていない道である以上、もう反対のルート、つまり『音が近い』方のルートを採用する以外に選択肢はない。


 だが念のため、そちらのルートには何が存在しているのか、それについてだけはキッチリ把握しておかなくてはならないため、もう一度案内図上で経路を辿る……



「え~っと、ここからこう行って……ふんっ……届きません……」


「無理するなカレン、ルビア、ちょっと現在位置からのルートを辿るんだ」


「ええ、まず今はここで、ゴールである階段はここ、そうなるとこう辿って……フロア管理室に着いてしまいますね、どうしますか?」


「そこは回避……出来ないのか、詰んだんじゃねぇかこれ早速? 見つからずに行くのはもう無理かも知れないぞ」


「いえ、策はあります、ここを見て下さい、ここです、空洞になっていますよね? ここはきっと、一般の魔王軍構成員が入ることの出来ない、もちろんこのフロアの一般的な場所とは壁で隔てられた場所、そしておそらく階段があります」


「階段が? 王子、何のためにそんなものを設置するってんだこんな場所へ?」


「おそらくは裏口、確か城壁の隅にチラッとそこへ繋がる道が見えまして、おそらく見張りは厳重であろうということでスルーしていたんですが、そこへ繋がる、魔王軍幹部用の脱出経路とか、そういう類のものなんじゃないかと思いまして……」


「なるほど、それなら可能性はあるな、ここの壁をブチ抜いて……それってダメじゃね?」


「大丈夫だと思いますよ、予想通り、これが『緊急時用』のものであって、日常的に使われている場所でなければの話ですが」


「ほう、どういうことかな?」


「え~っと、ここが非常階段と非常口だとしてですね、まず出口、つまり城壁のどこかにある裏口ですね、そこと、それからもっと上の、幹部連中が使う入口、そこについては厳しい警備があるものかと思われます、敵に侵入されることを防止したり、万が一にも侵入を許した場合には、最後の最後でそれを食い止めるためです」


「なるほど、しかしその途中の、こういった意味不明な場所については……」


「そういうことです」



 インテリノが言いたいのは、その非常階段がかなり上まで続いているとして、その途中、こんな意味不明なフロアから、突如として敵が沸いて出るようなことはないあめ、途中の警備は手薄、どころか全くナシであろうということだ。


 それについては一理ある、もちろん本人が言うように、ここが日常的に使用されているような、単なる裏口へ続く階段ではなく、もしものための非常口であった場合にはであるが。


 しかしまぁ、条件付とはいえ他に選択肢はない、フロア管理室へと至る直前のその場所へ、壁をブチ抜いて侵入してみるしかないのだ。


 で、そこへ至るまでのルートには……カレンが言っていた『近い音』の存在があるようだな、これをどうにか排除、または去るまで待たなくてはならない。


 もちろん排除するといっても他の敵に見つからないようにだ、ガチで戦闘となるのは避けなくてはならないし、暗殺するにしても、床等が汚れない方法で処理する必要がある。


 さらに言うと、その『近い音』の正体が、多少長い時間居なくなったとしても、どうせどこかでサボっているのであろうとか、そういった感じでスルーして貰える存在でなくてはならないし、その見極めを予めしておくべきだ。


 なかなか大変だが……と、カレンがジェシカに抱っこして貰って、何やら俺達の進むべき経路上を指し示し始めたではないか……



「えっと、いまここを、こっちの向きで歩いています……2本の足で歩いていて……1人だけだと思います」


「……それってもしかしてアレか、俺達が目指している非常階段(暫定)の方へ向かっているということなのか?」


「そうです、あっ、その場所の前で停まっちゃいました、隅っこに座って、何かに火を着けていますね」


「隠れて一服してんじゃねぇぞこの馬鹿が、そう言ってやりたいところではあるが……どうしようかこの状況?」


「ご主人様、一服し終わったらその場を離れるんじゃないですか?」


「だな、長くて10分程度であろうし、ちょっと待つ……どうしたカレン?」


「何か寝ちゃったっぽいです、火の着いたままの何かは、えっとこっちの方の臭い……スンスン……大丈夫、ちゃんと消したみたいです」


「危っぶねぇ奴だな寝タバコとは、しかも隠れて一服してんのに寝るとか馬鹿かよ」



 非常階段(暫定)の裏に隠れての一服、それだけでも相当にアホな行動だというのに、しかもそのばで疲れて寝落ちなど、通常考えられない出来事だ。


 しかしそうなってしまったものはもう仕方がないのだし、この世界においては、その程度の事柄など日常茶飯事である。


 どうにか対処してこの状況を切り抜け、その馬鹿の隣にある非常階段的な場所へ入り込まなくてはならないのだが……そのためにはもちろん、馬鹿の隣の壁を破壊する必要があるのだ。


 頭が悪ければそのような音でも起きたりしないか? いや、そんなはずはあるまい、寝ているとはいえ座ったまま寝落ちしているだけのこと、僅かな刺激でも、すぐに目を覚ましてしまうことであろう。


 ならばどうしていくべきか、そのまま壁を壊すのは完全にNG、足などを引っ張って移動させるという案も、そもそも汚くて臭そうなのでNG、となると作戦は……



「よし、始末して先へ進もう」


「えっ? しかし主殿、敵の死体などはどこへ……」


「大丈夫だ、俺に作戦がある、とりあえず慎重に、寝落ちした馬鹿を起こさないように接近するぞ」



 作戦はこうだ、敵の目の前まで行き、普通にブチ殺す、あとはそれを『侵入者による殺害』以外の方法に見せかける、それだけの簡単なお仕事である。


 もちろんその前に敵が目を覚まし、大声を上げてしまったなどの場合には失敗となってしまい、その場ですぐに脱出作戦を敢行することとなってしまうのだが、その可能性は極めて低いといえよう。


 どうせ音を立てずに接近し、音を立てずに殺すのだ、敵の馬鹿は夢の世界から、現実を経ることなく直接死後の世界へと旅立つのだ。


 で、ゆっくり、他の敵が存在しないことを入念に確認しつつ歩いて行った先には、頭の悪そうな人型の下級魔族が、床で葉巻のようなものをもみ消した状態で居眠りしていたのであった……



「居やがった、完全に寝ているな、王子、ちょっとアレだ、大量に出血しないように、かつあの壁を、非常階段(暫定)とこのフロアを隔てる壁を破壊する感じで殺れないか?」


「お任せ下さい、では……王子サイレントキック!」


「……サイレントじゃねぇがまぁ良いだろう、壁も破壊しつつ死んだしな」



 技名はいわなくてはならないルールにつき、インテリノはそれを口にしつつ、しかし効果音などは一切伴わない、サイレントでの敵兵殺害をやってのけた。


 首の骨が、というか首が3周程度回転して死亡した敵の馬鹿、蹴られて吹っ飛んだ際、壁にもシッカリ穴を空けて……確かに階段だ、真っ暗の、本当に誰も入る気配のない階段がそこに存在していたのである。


 念のためカレンに確認させると、やはりかなり下と、それからかなり上に人らしき気配をかんじるとのこと。

 こういう場所を守っている敵は相当に賢さと、それから強さのある奴に違いない、つまり、それにだけは絶対に見つかってはいけないということだ。


 ゆえにこの非常階段から脱出する際にも、最上階やその付近ではなくどこか別の場所、上の入口、おそらく大幹部の数だけ専用のものがあるに違いないが、、その数だけ居るはずの見張りに察知されぬよう、いい感じのフロアでもう一度壁をブチ抜き、外の一般フロアへ出ることとしよう。


 だがまぁ、それはかなり上の登ってからの話だ、今ここでやっておくべきことと言えば……



「主殿、この死体はどうするんだ? 作戦とは?」


「まぁ俺に任せろ、ちょっとこの、汚いだろうが葉巻みたいなコレの炭になった部分を使ってだな……え~っと、こんな感じで『ダイイングメッセージ』を遺したこととしよう、他殺に、魔王城内部での諍いに見せかけるんだ」


「なるほど、ではそれとなく犯人を名指し……しないのか?」


「いや、ここのフロアの連中はどうせすげぇ馬鹿だからな、もっと具体的に書いてやらないとわからないぞ、え~っ『私は本日殺害されました、蹴りを喰らった際に生じた外傷が主な死因です。なお、その事件の発生と同時に、壁を破壊してしまい、大変申し訳ございません。これは私の背中が、攻撃を受けた衝撃で壁にぶつかったことによってこのような事態となりました。そして、真犯人はこの非常階段ではなく、別のルートでの逃走を試みたことまで確認致しましたので、この穴の先を捜索しても全くの無駄となりますゆえ、その点ご注意願います。今後この壁の穴については、私と、それからこの床に描いた文書によって名指しする真犯人、その個人資産から、折半というかたちで拠出して修繕することを提案致します。さて、前置きが長くなりましたが、もう私の命も長くはないということ、あと数秒でこの世を去るということを認識致しましたので、ここで犯人の名指しをしておこうかと思います。犯人は同じフロアで働く……』と、ここまでにしておこう、犯人がすぐに見つからないようにな」


「いや……どう考えても長すぎるのだが? これは不自然極まりないと思うぞ」


「大丈夫だよ馬鹿なんだから、どうせこのフロアのボス的な奴も馬鹿だ、そもそもこの文章が何なのか、ダイイングメッセージとはどのような理由で遺されるものなのか、それを理解するのに時間が掛かると思うね」


「本当に大丈夫なのかコレで……」



 心配するジェシカではあるが、この作戦には一切の隙がない、馬鹿でもわかるように、可能な限り具体的に、しかも今後の壁の修繕にまで言及したダイイングメッセージ。


 しかしそれでありながら、犯人の名指しはタイムアップ(本人死亡)にて未成、『ここのフロアで働いている誰か』ということまでは記載してあるため、これからここの連中は、必死になって犯人探しをはじめることであろう。


 そして馬鹿共がそんなことをしている間に、俺達は悠々と、余裕を持って非常階段を上って行くのだ。

 馬鹿の死体に別れを告げ、真っ暗な非常階段を、明かりを使わずに手探りで進み始める。


 先頭のカレンが音を聞き、臭いも頻繁に確認しつつ、逆にこちら側は音を立てずに上へ、魔王城の上階を目指す。


 かなり階層を重ねたところで、何やら上の方に明かりのようなものが見え始めたのだが、それは敵が発光しているとか、そういった類のものではなく、天然の明かりであるようだ。


 つまり窓があるということ、そこから覗いてみて、今自分達がどの程度の高さに居るのか、そして敵幹部や魔王が居るであろう、魔王城の上層階へは、あとどのぐらいで到着するのであろうか、そのようなことの確認をしておくべきであろう……

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