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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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911 同時攻撃とは

「……ん? なんと勇者か、戻ってそうそうご苦労である、で、そっちの知らんおっさんは誰であろうか?」


「これ? 始祖勇者だってさ、ハゲだけど強いんだきっと」


「なぁぁぁっ⁉」


「あと女神も居るから」


「あ、どうも失礼します、人間の国の大臣よ、ちゃんと生きていたようで何よりです」


「のぉぉぉっ……おっ……」


「おいババァ、心臓止まってんぞ、大臣ならしっかりしやがれ」


「……おおっと、すまぬな、最近やたらと心臓が止まるんじゃが、その度に意味不明な力の作用で蘇生をして……どういう病なのか」


「たぶん不老不死なんじゃね? 知らんけど」


「勇者様、その話は……そ、それで大臣さん、一応ここで『人族世界最高会議』を開く予定なんだけど、用意して頂けるかしら」


「よかろう、ささっ、女神様はこちらへ、始祖勇者様も」



 突如やって来たVIPすぎる客人に対し、それなりの対応をしようと試みるババァ、そういえば駄王が居ないな、死んだのか、どこかの公園でカップ酒でも飲んでいるのか。


 で、すぐに王宮内でも最高級のテーブルと椅子が運び込まれ、それが会議室のようなスタイルで並べられていく。

 参加人数は少ないので、一応女神と始祖勇者がそれに相応しい場所へ配置されるようにすれば良いな。


 なお、始祖勇者の方は『この世界に滞在出来る時間の制限』などというものはないらしく、用が済み次第神界へ帰る、つまり用が長引けば、ずっとここに滞在する可能性さえあるのだという。


 どうせなら俺達と一緒に、いや他のパーティーメンバー(当時)も呼び寄せたりして、代わりに少し魔王軍の勢いを削いだりして欲しいところなのだが。


 およそ500年前ということであれば、まだ仲間の内には生きている、それこそリリィの親戚のドラゴンなど、勇者パーティー(当時)に所属していたという話であったし、そこそこの頭数が揃うはずだからな。


 で、そんなことを考えている間に会議の準備は整い、駄王の奴も慌てて、パンツ一丁のまま王の間へと出現した、さて、開始するとしよう……



「して勇者よ、本日これだけのメンバーを集めたのは、どういう意図があってのことなのじゃ?」


「あぁ、こっちはこっちで話があるからな、国と俺達の間で頼みたいのは……もうおわかりでしょうね?」


「また金でも寄越せと言うのかの……」


「はい大正解! ということでよろしく頼む、だがその前に……おい女神!」


「はっ、はいぃぃぃっ!」


「お前、そっちのハ……じゃなかった始祖勇者さんには事情を説明してあるんだよな?」


「ええ、もちろんです、始祖勇者よ、これまでに私から告げられたこと、復唱して頂けますか?」


「はい女神様、え~っと……」



 俺達が語るまでもなく、俺達の島国での冒険の内容が、始祖勇者によって口述され、それをババァや駄王が聞いている。


 もっとも、その前の『ダンゴ騒動』については、今回、というか俺達勇者パーティーの主たる目的となっている魔王軍討伐とは関係が薄いため、割愛されてしまった。


 ということで始祖勇者の口から語られるのは、主に『始祖勇者の玉』について、そして代々受け継がれる『4人の髭野郎』と、それから同じく『島国の英雄』についてのことだ。


 そんな話、パッと聞けば眉唾、どころかギャグでしかないのだが、この世界においては、どんな不思議なことでも簡単に受け入れられてしまうのであって、駄王もババァもとくに聞き返したり、疑ったりする様子はない。


 まぁ、そもそも500年前に活躍した異世界勇者が、この時代のこんな場所で普通に喋っているというのがそもそもおかしいのだが……いや、おかしいのは最初からか、俺がこの世界に来ている時点で、もはや随分と常識からかけ離れてしまっているではないか。


 と、それについて文句を言っていても仕方がない、とにかく始祖勇者による説明を受けたババァに、俺達がいかに活躍したか、どれだけ凄かったのかということを、補足事項として伝えてやらなくてはならない……



「……とまぁそんな感じなんだよ、すげぇ頑張ってさ、最後は神とまで戦うことになったんだぜ、やべぇだろ?」


「ふむ、して、その始祖勇者の玉というのは、もう完全に力を解放した状態なのですな?」


「左様、現在の状態であれば、今の時代にもあるはずの『魔族領域を守る東西南北4つの玉』それに十分対抗出来るだけの力を放っていると思われる」


「でさぁ、そこで俺がズバババッと……いや聞いてる?」


「勇者様、誰も聞いていないわよ、ちょっと静かにしてちょうだい」


「すみませんでした……」


「ふむふむ、その東西南北4つの玉があって、それはどのようにして破壊なり何なりするというのでしょうか?」


「同時攻撃、寸分狂わぬ同時攻撃を、その4つの、東西南北に離れて設置された玉に加えることが条件である」


「あら? あの玉を破壊すると、というか移動するだけで世界がアレなことになるとかならないとか……そのようなお話だったように思えますが」


「それだな、その件についてはやはり500年前に設置した、そして諸君らがアクティブ状態にした『玉』の力が、魔族領域のそれぞれの『玉』の暴走を抑える働きをし、まぁ、そこそこやべぇじゃん、ぐらいのダメージで済むであろう」


「あ、そこそこやべぇじゃん、ぐらいにはなるんですね」



 東西南北、4つの魔族領域にある玉を同時に攻撃すると、何か凄く良いことと、それから『そこそこやべぇじゃん』ぐらいの、おそらくマイナスの事象が発生するということはわかった。


 だがそれをどうやってやるべきなのかがわからない、既に同じことを一度やっているはずの始祖勇者が、そのことを教えてくれれば良いのだが……きっとデタラメで、再現性のないやり口なのであろう。


 ゆえに、俺達は俺達で、その件をどう処理していくべきなのかについて考えていかなくてはならないわけであるが、果たしてどうしようかといったところで、引っ掛かって先へ進めなくなるのは必至。


 一応始祖勇者のやり方についても聞いておこう、参考程度に、何か役立つ情報があればという程度にだ……



「えっと、ちなみに始祖勇者さんは、その魔族領域の玉についてですね、どんな感じで『同時攻撃』したんすか?」


「気合と根性」


「あ、はいありがとうございました、役立たずですねマジで」


「勇者よ、しかしこの者は、というかこの者と仲間達は相当に頑張っていたのですよ、そのタイミングを図るために1年間練習し、それぞれの場所における時間と季節ごとの太陽の角度などを把握し、翌年の指定日には普通に雨が降ってしまって1年延期して、その翌年までさらに練習を重ねて……」


「馬鹿じゃねぇのか? やってられっかよそんなもん、俺達はな、こう一撃でズバッと、わかるかこのアホ女神?」


「えぇ~っと、ちなみに始祖勇者の頃ですが、確か玉を破壊したタイミングのズレが0.1秒程度であったと記憶しています、ちなみに今は……どうでしょうか、そのぐらいのズレが生じた場合には……」


「おそらく世界が滅びるでしょうな、いくら島国の方の『玉』で威力を抑えているとはいえ、現魔王軍もそちらの、魔族領域の方の『玉』をチューンしてグレードアップしてきているはずです。ゆえに今回の破壊は、本当に時間の方をジャストに、文字通り寸分狂わぬ感じでデストロイしなくてはなりません」


「始祖勇者、500年前の足軽だったのに横文字多いな、どこで覚えたんだろうな?」


「勇者様、私にはその足軽ってのがわからないんだけど」


「あぁ、雑兵のことだよ結構活躍したらしいぜ昔は」


「へぇ~っ……っと、話を聞いていないのは私達だけだったみたい、先へ進んでいるわ」


「おっとやべぇなこりゃ、すみませ~ん、もう一度言って下さ~い」



 セラと無駄話を始めた所から先の話をもう一度聞かせて貰う、もちろん始祖勇者の玉の影響によって魔族領域の玉が云々という点についてはもうわかっているので、その先の話である。


 で、どうやら魔族領域の玉、そちらをデストロイする際に、4つ『同時に』破壊すべしというのは、始祖勇者の頃にあった0.1秒程度の誤差など到底許されず、0.0001秒程度、それ以上ズレると世界が終わる可能性が極めて高いと、そういうことであった。


 なるほどこれは無理ゲーだ、いかに俺達が凄かろうとも、様々な要因によって変化する状況の中、凄まじく離れた場所にある4つの玉を、そんなカツカツのタイミングでどうこうしないとならないなど、狂気である。


 これはもしかしたら他の方法、即ち『4つの玉の同時破壊』以外の方法を考えなくてはならないな。


 かといってその方法が存在しているとは限らないのだが、今要求されていることをやってのけるよりは、そのないかもしれない方法を探し出す、或いは勝手に創作する方が、遥かに楽なのではないかと、そんな気がしてならない。


 ということでその意見を席上にて述べてみるものの……あまり良い反応は得られないな、女神も始祖勇者も、それからババァ総務大臣も、俺達がその要請に応えられると、そう考えているらしい、冗談ではないのだが。


 ちなみに、セラとマリエル、駄王はアホなので良くわかっていない、その0.0001秒程度をキッチリ合わせることが、どれだけ困難なのかという点にまで頭が回っていかないのだ。



「うむ、やはりこの方法しかないようじゃな、勇者よ、なんとしてでも『魔族領域の4つの玉を、誤差0.0001秒以内で同時に破壊する方法』を編み出すのじゃ」


「マジかよ、FUCK、リアルに死ね、無理に決まってんだろうがこのボケ」


「まぁそう言うでない、作戦が上手くいった暁には、おぬしの領土を……そうじゃな、3haぐらい増やしてやろうではないか、もちろん北の森へ向かう、というか森を開墾するかたちでな」


「どこをどう切り取って聞いても農地なんだがそれ……まぁ良いや、この件はちょっと持ち帰らせて頂く、そろそろお土産でも包みやがれ、久しぶりに戻ったんだから、俺達は屋敷の庭で宴会をしなくちゃならないんだ」


「そうか、ではそちらは二次会として……女神様、始祖勇者様、これで会議は終了となりますゆえ、どうかこのまま、最高級のミラクルハイグレード宮中晩餐会へご参加下さいませ」


「あっ、俺もそっちの方が……ダメなのか?」


「屋敷で、仲間と飲みながら話し合うのであろう、わしと王は夜分に伺うゆえ、食材と酒を少しばかり遺しておくが良い」


「チッ、それならそっちから持って来いってんだ、良いな?」


「よかろう、では後程じゃの」



 ということで会議は終了、帰り際にさりげなく、ルビアのこと、乳神オパイオスのことを伝えたところ、ババァはまた心臓が止まってしまったようだ、すぐに蘇生したため問題はないが。


 で、そんな感じで屋敷へと戻った俺達は、報酬としての金銭を受領し忘れた、というか醜悪なババァによってそうなるように仕向けられ、まんまとその罠に嵌まったことを咎められつつ、「帰還の宴』へ移行するための準備を始めたのであった……



 ※※※



「うぇ~いっ! とりあえず乾杯!」


『うぇ~いっ!』


「それで主殿、王宮から持ち帰った話とはどういう内容なのだ?」


「ん? 何かあったなそんなの、詳しくは忘れたけど無理難題だったぞ、えっと……とにかくすげぇやべぇことになるらしい、失敗するとな」


「何が言いたいのか全くわからないのだが……」



 バーベキュー兼用の宴を開始した直後に、いつもの如く真面目腐ったことを言い出すのはジェシカ。

 適当に誤魔化したような答えを返してみたものの、それではさすがに納得してくれないようだ。


 しまったな、王宮へ行く際にジェシカも連れて行けば良かった、そうすればそこそこの妙案を出してくれたかも知れないし、そもそも今回の要請が無謀で無理で頭の悪いものであることも、キッチリ理論立てて主張してくれた可能性さえある。


 で、仕方ないのでその真面目な話に付き合い、ユリナやサリナ、精霊様などからも意見を拝聴しておく……と、もちろん『馬鹿じゃないのか?』という答えが返ってきたのみであった、これは至極当然のことだ。


 だが期待されてしまっているものはもうどうしようもないし、この方法が無理だとしても、どうにかして代替案を出し、それを実行していかなくてはならないのである。


 ということでここからは話し合いなのだが……いや、精霊様が『無理だ』と断言し、頑なにその意見を変えない姿勢である以上、もはや話の進めようがないな……



「もうっ、無理なものは無理なのっ! そんなに正確な動きなんて、人族だとか魔族だとか、そういうのに関係なく、もう生き物には無理よっ!」


「そうですわねぇ、何だかこう、凄い感じの精密ゴーレムとか、いえ、でも場所が離れている以上、そんなに上手くはいきませんわ、ねぇサリナ」


「う~ん、4つの玉のちょうど中央から、ホントにピッタリ命令が届くようにしても……ダメですね、気候条件の違いなんかで魔力を用いた命令の微妙に伝達が遅くなったり、そもそもそのゴーレム自体が温度で……みたいな感じになりそうです」


「そうか、じゃあどこかの誰かさんみたいな凄いゴーレム職人でも……」


「無理だと思いますよ、少なくとも既存のゴーレムでは、何かこう、とんでもないブレイクスルーがない限りは」


「ブレイクスルーね、この世界でそんな言葉を聞くことになるとはな、これまでは全部『魔導○○』で都合良くどうにかなってきたのに」


「まぁ、ここまで来たらもうそうはいかないってことよね、いよいよ魔王軍との戦いも大詰めなんだし」


「なるほどな……で、どうする?」


『う~ん……』



 どれだけ話し合っても答えなど出ない、もし精霊様が4人居たとしても無理、そしてとんでもない才能を持ったゴーレム使い、と、それが1人居るのだが、それでも無理と。


 もちろん精霊様や意思を持たない、正確な動きをするのみのゴーレムでも不可能な精密作戦を、俺達のような『一般的な生物』が成し遂げられるはずがない。


 もうこれは考えても無駄なことかと、世界がアレなことになるのを覚悟で、もう適当に、それらしいタイミングを図ってやる他ないのかと、そんな感じの話にもなりつつある。


 しかしそうなると、始祖勇者がかつてやったように、1年も2年も、そのためだけの修行をして臨まなくてはならないのではなかろうか。


 次回以降、勇者パーティーの活動は常に『修行』、しかも変わり映えのない、全く同じ動きを、脳死状態でやり続けることになる……さすがにそれは無理だな、俺だけではなく、もっと他にも飽きて放り出すメンバーが居るに違いない。



「う~ん、やっぱ修行はナシだな……おいマーサ、露骨にホッとするんじゃない」


「だって、そんなことさせられたらガチで逃げ出さなくちゃじゃないの、で、結局捕まってやらされると、そんな感じの苦しい時期になってたわけでしょ? もし修行するってんなら」


「まぁ、そういうことだな、そして今わかった通り、こうやって最初から逃げ出す気満々の奴が居ると、全く修行にならないんだよなそれじゃ」


「勇者様、正直私も耐えられるかわかりません、修行という名の無償労働ですよねそれ? 筋トレみたいに、将来に対する投資とかそういう感じのものじゃないんですよね?」


「そうだな、最悪の場合全く得しないどころか、世界をアレな感じにした戦犯みたいな扱いになるんじゃないかとさえ思う、だからやる気が出ないのも……っと、何だか向こうの方が神々しいな、女神の奴が来たのか?」


「向こうの方が神々しいって、どんなセンスがあればそれがわかるのよ一体……」



 おそらく異世界勇者である俺固有の謎センスによって、まだオーラさえ届いていない距離に居る女神が、こちらへ向かって移動していることが発覚した。


 カレンやリリィには、暴虐の支配者層が食事を奪いに来る前に、自分で食べようと思っている分を取り分けるように言っておく、ついでに奴等が持ち込む食材の方もキッチリ奪っておけと教唆もしておく。


 まぁ、どうせそこそこ話でもして帰るつもりなのであろうが、特に駄王は酔っていそうだし、その場合には確実に鬱陶しいので、機を見てその辺のドブにでも流して処理してしまおう。


 と、そこでやはり馬車が現れ、中から女神と駄王とババァ、あとは始祖勇者、それから大量の食材を持った高級な将軍が降りて来た。

 奴等め、完全に飲み直すつもりだな、こちらは疲れているからそこそこで切上げたいというのに、全く空気の読めない連中だ。



「うぃ~っ……ん? おぉ勇者よ、イマイチ飲んでいない様子ではないか、うぃ~っ……ひっ……ひっく……うぃ~」


「何だよこのだらしのない国王は? マリエル、責任を持って処理しておけ」


「わかりました、さぁお父様、そっちに穴を掘っておきましたので、大丈夫です、蓋はしますが埋め戻したりはしませんから、重石は置こうかかしら」


「うぃ~」



 馬鹿でアホな駄王は放っておいて、こちらはそこそこにしか酔っていない様子の女神と、それから酔ってはいるが人間の心を守り抜いている総務大臣と話をし始める、ちなみに始祖勇者は泥酔していた。


 どうやら向こうの宮中晩餐会において、先程俺達に要請された作戦が不可能なものなのではないかという意見が、有力貴族や一部の大臣から出たらしい。


 なるほど、俺達と深い関わりを持っているこの連中であれば、また不思議な力や都合の良い展開でどうにかするのであろうと勝手に思い込むものの、それ以外、あまり関係のない連中にとっては、そんなことなど到底不可能だとしか思えないのである。


 ということでその知らない奴等、もっとも顔は見たことがあるに違いないが、名前も知らなければ話をしたこともない、とにかく貴族だということしかわからない連中に助けられたかたちだ。


 で、そういうことであれば、これから女神他も交えて意見を出し合うこととしよう。

 どのようにすれば上手くいくのか、それを探り当てるまで、この会議は回数を重ねそうだ……

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