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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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905 オリジン

『うぇ~いっ、てかさ、ウチのサークルさ、もう後半とか料理酒? あと味醂とか飲んでっから、うぇ~いっしょ?』


「そうかそうか、ちなみに俺のとこは初手でリステ○ンだったこともあるな、死ねるぞアレはマジで」


『はぁっ? そんなもん雑魚だし、じゃあウチとかすげぇから、メチル飲んだかんねメチルッ!』


「ほうメチルか、じゃあ俺と『固形燃料大食い対決』する? 死んだら負けな」


『上等だよオラァァァッ!』


 ※注意※絶対に真似しないでください、当たり前のことですがリアルで死にます



 挑発合戦が始まった、相手は単なるうぇ~いなのだが、俺の方はクズ野郎ガチ勢なので負けてはいない。

 呆れ果てた様子のミラが取り出してきた固形燃料を、パックに大量に入ったままの状態で敵のケツアゴに渡す。


 という稼働して固形燃料がこの世界に存在するのだ、と、このアイテムは先程ケツアゴタウンのギルド会館で押収したものなのか、それならば存在していてもおかしくはない、ハ〇パーヨーヨーもあったぐらいだし。


 で、向かい合った俺とうぇ~い系のケツアゴ、俺の手にも固形燃料が握り締められているのだが、さすがにコレを貪り喰うのは良くない。


 というか、メチルがどうのこうのと煽ってきたのは向こうなのだ、俺はそんなヤバそうなものを口にしようなどとは断じて……言いはしたが責任はないはずだ。


 だがケツアゴの方はやる気満々、これから固形燃料でうぇ~いしそうな勢いである。

 ここは適当に誤魔化して、奴だけが犠牲になるのを見届けることとしよう、それが最善だ。



『うぇ~いっ! それじゃあ~っ、はいそこのお姉さん、ちょっと審判やって審判、俺ら今からガチで漢極めるから、命棄てながらうぇ~いするから』


「ミラ、気持ち悪いだろうがここは手伝ってやってくれ、真剣勝負だからな」


「何だかわかりませんし、別にそれについて思うこともありませんが、とにかくよーいっ」


『うぇ~いっ』


「スタートッ!」


『うぇ~いっ、しゃぁぁぁっ、ふぐっ、もごっ……うぅっ……目が散るぅぅぅっ! ぶびょぽっ!』


「げぇぇぇっ! 目とケツアゴが爆発しやがったぞっ!」


『あぁぁぁっ!』



 メチルを飲むと目が散るとは言うが、まさか物理的に散るとは思わなかったし、同様にケツアゴが爆散してしまうなどとは誰も思わなかったであろう。


 汚らしい汁が飛び散り、最も近くに居た俺と審判のミラを始め、全員がそれをササッと回避する。

 ビチャビチャっと地面が汚れるものの、次第にそのケツアゴエキスは吸収され、この世界から消え去っていく。


 で、調子に乗って目とケツアゴを失ったうぇ~い系ケツアゴ……いや、もうケツアゴではない、単なる手負いのうぇ~いなのだが、今はもううぇ~いする余裕がないらしい。


 この状況に陥りつつも生きている、それだけでかなり凄いことなのだが、どうやらこのままでは死亡しない様子。

 そして当然ロープうぇ~いも動かない、なぜならば『固形燃料大食い対決』においては、現在のところこのうぇ~いが勝利しつつあるのだから……



「勇者様、このままだと敗北して、この乗り物でショートカットすることが出来なくなってしまいます、今のうちに何か勝負を仕掛けて勝って下さいよ」


「あわてるなミラ、この勝負、俺の勝ちなんだよ実際には」


「どういうことですか? 固形燃料はこのうぇ~いの生き物の方が沢山食べたんじゃ……」


「いや、俺は勝負を仕掛けた際に何て言った?」


「固形燃料大食い対決で……あっ、死んだら負けなんですねっ」


「その通り、つまりこの勝負は……といってもなかなか死なないなコイツ……ほら、早いとこ死ね、絶命しろ、おいっ……ダメだこりゃ」



 デュエルの内容を提示する際に、『死んだら負け』という俺様超有利ルールを仕込んでおいたことが功を奏し、間違いなく負けることはなくなった。


 ただし決着のためには、このうぇ~いが死亡して、その敗北が確定する必要があるのだが……なかなか死んでくれないのである。


 通常、この程度のダメージを受ければ当然に失血死する、或いはそのショックで死亡するはずなのだが、このケツアゴは鮮血を吹き出しつつ、それでもなお意識さえ保っている状態なのだ。


 ひょっとしてコイツ、恐ろしくタフなのでは? まぁうぇ~い系ゆえ馬鹿すぎて『自分が容易に死亡する程度のダメージを受けている』ということに気付かないのかも知れないが、それはわからない。


 しかしコレはもう殺してしまって良いのか? もし『ゲーム外の方法』で殺害した場合には、そのゲーム自体が無効とか、そういうことになってしまったりしないのか。


 もしそうだとすれば、このロープうぇ~いの起動権者であり、そしてゲームに勝利することによってそれに無償で動かし、乗ることが可能になる権利を引き渡すコイツが消滅することにより、二度とショートカットなど出来なくなってしまうのではないか。


 そうなるとかなりヤバい、いやヤバくはないのだが、地道に行かなくてははならない分時間的コストが高まると同時に、普通に面倒臭いというデメリットが生じてしまう。


 どうしようか、これはなかなか選択に困るな、そう思ってしばらく考えていると、突如としてドガーンッと、雷のような音と雷鳴が……倒れたうぇ~いの元ケツアゴの付近で生じた。



「なっ? 雷? セラ、何かしたのか?」


「いいえ、何もしていないわよ、というか今のは魔法じゃなくて……」


「神罰の類ですっ、神を怒らせた際に生じる恐るべき罰が、そのケツアゴだった人に下って、ということは」


「ということは……」


『我がやった、その者は我が処分したのだ、かねてよりそうするつもりだったんだがな』


「ニート神! テメェ、どこから喋ってやがんだっ?」


『どこって、我が聳え立つ城……もっともこの世界限定の仮のものなのだが、とにかくそこから喋っている、暗い部屋の中で、布団に潜りながらな……ちなみにそちらの様子はモニターで丸見えだ、馬鹿面晒しよってこのゴミ勇者めが』


「……で、どうして味方キャラを殺した? そうするつもりだったとは?」


『いやだってソイツ見るからに陽キャでウザかったし、苦痛に塗れて死なねぇかなとか思ってそこに配置したんだが、思いの外死なないようでな、もう面倒だから始末した』


「妬み嫉みかよこの陰キャ神め、恥ずかしい奴だなマジで」


『うっせぇっ! とにかくそのロープうぇ~いは今すぐに動かしてやる、今度は貴様等がそうなる番なのだからな、とっとと来るが良いこのクズ共め……あと途中、251階層にコンビニあるから、肉まんとチキン買って来て』


「ざっけんじゃねぇぇぇっ!」


「勇者様、もう神との通信は途絶していますよ」


「全く、冗談じゃねぇぜあの野郎、えっと、肉まんとチキンだっけか? 逆にあんまんとハッシュドポテト買って行ってやろうぜもう」



 不当要求を突き付けつつ、しかもサッサと来いとムチャクチャを言うニート神、当然俺達が神に勝てるなどとは思っていない様子だ。


 だがこちらも負けてはいられない、多少ダメージを受けようとも、そして多少不正行為をしてでも、どうにかして奴を始末しなくてはならない。


 そして亜空間へ放り込まれた女神の奴を取り出して、色々と事情を聞いたり、救出に係る謝金を要求したりしなくてはならないのである。


 とりあえずロープうぇ~いに乗り込んだ俺達は、そのまま勝手に動くのに任せて、城の中ほど付近を目指す、急げとは言うがかなりノロいなこの乗り物は。


 で、途中テンションが上がり過ぎたカレンが落下しそうになったり、後ろではリリィが乗っている箱を揺らして遊んだりしているのを目撃してしまったが、どうにかこうにか建物の中ほどの高さに空いた穴へと辿り着いた。


 そのまま城の中へと入って行くロープうぇ~い、どうやら『斜塔』状になった城の中心付近に終着駅があるようだな。

 そこまで行くことが出来るのは助かるが、そこからどうやって進めば良いのか、それについての情報は一切ない。


 最後にガコンッと停車したロープうぇ~いから降り立った俺達は、とりあえず周囲の様子を見渡して……イマイチ物がない城内だな、ほぼ空洞ではないか。


 そして階段も、中央付近にひとつあるだけの物寂しい状態、急拵えなのはわかるが、ラスボスダンジョンにしては手を抜き過ぎのような気がしなくもない……気がしなくもないが、これはこれで楽なので良いであろう。



「……それで、あの神、分体とかじゃなくて、そのままの状態で待ち構えているってことになるのよね?」


「そうでしょうね、しかし神様に対して直接攻撃するなど……後で受けるべき罰の方はいかほどなんでしょうか?」


「私もそれが気になるな、いかに敵とはいえ、神に攻撃をするなど許されることでは……」


「じゃあマリエルとジェシカだけ、後で女神からお仕置きされると良い、俺がそういう風に頼んでおいてやる」


「そうして下さい、というかそれは楽しみで仕方がありません」


「尻を叩いて貰えると良いのだが、主殿、その点も添えて女神さまに申し立てをしておいてくれ」


「へいへい、とにかく階段から上へ、え~っと、ここの階層はいくつだ?」


「200階層ピッタリみたいです、頂上が350階層だそうで、あ、コンビニに寄るのを忘れてはいけませんよ」


「おう、その前にほら、階段の前に居る影の薄い敵をどうにかしないとだ……」



 無駄な話をしながら向かった優位いつの階段、その前にはどことなく残念な雰囲気の、コートを着たショボいリーマンのようなケツアゴが突っ立って……もしかしてケツアゴ刑事、いやそれと同型のケツアゴキャラではないのか?


 よくわからないがとにかく接近してみよう、話し掛ければイベントが発生するタイプのNPC……ではないようだな、普通にこちらを見ている。


 今のところ動きはしないのだが、明らかに生命感のある反応、コイツはあの摩天楼に居たケツアゴ―レムやその他この世界のNPCではなく、ケツアゴ世界から連れ込まれた何かであるようだ。


 で、極力距離を取る感じで、かつお互いに話し掛けることが出来そうな位置に停止し、様子を窺う。

 向こうからコンタクトを取ってくるようだ、慌てるでもなく、落ち着いた感じの雰囲気で一歩踏み出し、こちらへやって来る……



『……お前達、この城へやって来たということは、神を相手に戦うつもりなのだな?』


「黙れボケこのケツアゴ野郎、何なんだよお前は? 邪魔だからそこを退け、てか死ねっ!」


『ふむ、やはりこの世界……というわけではないが、とにかく非ケツアゴ世界における当代の勇者は、聞いていた通りのトンデモ野郎のようだな』


「はぁっ? お前如きに異世界勇者様たるこの俺様の何がわかるってんだ?」


『わかるさ、私も勇者なのだからな、神からは、そして私のクローンからはこう呼ばれている、ケツアゴオリジンと』


「まさかっ、お前がオリジンなのかっ⁉」



 慌ててそのケツアゴの『中身』を確認する……極端に飛び抜けたステータスは『ケツアゴ肥大化+2万%』、だが攻撃力、防御力など、全てのステータスにおいて、これまで見てきたケツアゴとは全く異なる。


 コイツは普通に強キャラだ、いや強キャラどころか俺と同等の力の持ち主であるうえに、ケツアゴが巨大な分俺よりもケツアゴ力が高い、良くわからないステータスだがその点においては圧倒的なビハインドを負っている状態。


 もしまともにタイマンでもしたら、最終的にどちらが倒れるのか、それともどちらも立ってはいられないのか、その予想が極めてし辛い戦力の拮抗。


 もちろんそれはこのケツアゴ、ケツアゴオリジンが敵であったと仮定しての話なのだが……まぁ、どう考えても敵なのであろう、ケツアゴだしな……



『それでだ、私はケツアゴ勇者としてとある世界で活躍、そこのアレだ、何というかボスキャラ的なのを討伐し、世界に平和をもたらした存在……今ではその世界において、ケツアゴ肥大化手術が流行し、世界ケツアゴ選手権なるものも開催されていると聞く……遠い昔のことだがな』


「ちょっと待て、遠い昔ってどのぐらいだよ? てかお前歳いくつだ? この世界の人族に換算すると……50代後半ぐらいにしか見えないんだが……」


『私は享年63であった、ケツアゴが肥大化しすぎたことによる脳梗塞という、ごく普通の死に様ではあったがな』


「それ普通じゃねぇし、てか死んでんなら成仏しろや、ナンマイダーッ! ほらルビア、ちょっと線香でも焚いてやれ、ナンマイダーッ!」


『……なんと、お前は勇者の死後について何も聞かされていないようだな、この世界の神の怠慢か……いや、神がそのようなミスをするとは思えぬのだが』


「あ、それならわからんぞ、あの女神アホに常識は通用しないからな、クソのように頭が悪い、で、勇者の死後って何? 成仏しないの?」


『では教えてやろう、勇者の死後とは……』



 つらつらと、俺が知らなかった重要な情報について語り始めるケツアゴオリジン、どうやら勇者は死んでも死なない、そしてその関係者も、一部そのような状況になるとのことだ。


 で、もちろん『存在している世界においては』死亡するのだが、その後は神界へと招かれ、生前の活躍によってランク付けされ、そして最低であっても『神界正規職員』、大活躍をし、かつポストが空いていれば『神界公証人』などの公務員的な地位に就くことが可能なのだという。


 しかも神界においてハウスを与えられ、そこで死亡した仲間や関係者を集めて、未来永劫幸せに暮らすことが可能だと、そんな素晴らしい話であった。


 なるほど、この内容を伝え忘れた女神の奴の罪は大きいな、こんなインセンティブ、知っていさえすればやる気は10倍、高いモチベーションを保ったまま、どうにかして死ぬまでに何かを成し遂げようとするのは確実。


 かくいう俺も、この話を知って少しテンションが上がった、魔王の奴を屈服させ、全世界の人族やその他迷惑を被った方々に全裸で土下座させ、その活躍を根拠に死後極楽浄土……ではなく明るい神界ライフを送るのだ。


 いや、しかしこの俺様、現時点においてもかなり活躍しているし、これからニートの悪神を滅するという大役を仰せつかっている身ではないか。


 ということは既にかなりのランクを有しており、死後においては神界の、プール付きの豪邸でウッハウハな……と、それはこのケツアゴに聞いてみよう……



「えっと、ちなみに活躍した勇者は凄いんだよな? 俺は? 俺の現状はどんなもんなんだ?」


『お前か、お前とその仲間達は……えっと、確か今の時点で与えられ得るものは……プレハブ小屋が3つだな、それとショボい畑だ』


「今とさほど変わらねぇじゃねぇかぁぁぁっ! 何だよその農ゲーの初期みたいな持ち分は? 俺、結構活躍してるよね? どうなのそこのところ?」


『いや、まだまだ活躍が足りぬ、私など晩年はボランティアに明け暮れ、週に3回は特別養護老人ホームで無償の労働提供、もちろん年越しの公園では炊き出しをして、受け取った恩給は全て寄付して、自分は橋の下でムシロに包まって寝ていたほどだ』


「活躍ってそういう活躍なのかよっ? 想像してたのと違うわ、死ねやクソ神界野郎共、マジでお恨み申し上げるって言っといてくれ」



 結局『活躍』の基準が意味不明であり、今の俺達では到底成し遂げられないことだということがわかった。


 女神の奴め、これはあえて隠していたのかも知れないな、俺にそんな内容の説明をしたら、確実に殴られたうえで、制度の刷新を強要されることが目に見えている、というか確実にそうするからな。


 で、ケツアゴオリジンの話は続き、自分が今は神界の、5LDKのマンションで、現地で仲間にしたパーティーメンバーや、その他諸々の関係者と暮らしているということを語り出す。


 そしてその話の中には、ここで敗北し、消滅させられたとしても、自分は単に神界へ戻るだけなので安心だという内容も挟まっていた。


 つまり俺達と戦うつもりなのは確定ということだ、かなりの強敵だが、全員で、いや選抜した4人で戦えばどうということはない。


 ついでに『神界へ戻す』のではなく、無様に消滅し、泣きながら全ての世界より消え失せていく、そうさせるための方法も模索しよう。


 俺のように頑張っている異世界勇者がイマイチ評価されず、こんなケツアゴのゴミ野郎が幸せに暮らしているというのは、さすがにムカつくしブチ壊しにしてやりたいからな。


 そのようなことが出来そうなのは……現状では精霊様か、もちろん一番強いのだし、精霊様はパーティーメンバーで確定だな、入れ替えをして前に出すこととしよう。


 それから強い順にリリィ、マーサ、あとはセラかカレンかユリナを入れるべきだが、魔法キャラが欲しいということでセラかユリナにすべきだな。


 とにかく4人を選んで戦闘を……と、そんな選抜をしていると、ケツアゴオリジンが何か言いたげな顔をしているのだが……



『え~っ……えっと、ここは私とこの世界における現異世界勇者のお前、タイマンでの戦いとなる、そういう仕様なのだ』


「ざけんじゃねぇよ、タイマンなら精霊様とやりやがれ、そして負けて死ね、イヤなのか? ビビッてんのか? あんっ?」


「ご主人様、その感じの煽りは恥ずかしいです、自分で戦いましょう」


「いやだってさ、勝てるかどうかわからないし……」


『四の五の言わず立ち向かって来るが良い、安心しろ、殺しはしないつもりだ、たぶんな』


「チッ、最悪な野郎と最悪な行為をすることになってしまったな、マジで気持ち悪いぜ」



 どうしても俺とタイマンで決着しないとならない、ニート神によってそう設定されてしまっている様子のケツアゴオリジン、鬱陶しいゴミである。


 だがゴミとはいえ、それは表面と中に入っている魂のみのことだ、それ以外の部分、こと戦闘力においては、相当に気合を入れて戦わなくてはならない相手である……

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