904 最後のミッションへ
「さてと、これで持っていくべきものは全て掻き集めたな?」
「ええ、あとはゴミばかりですね……あっ、ご主人様、このハイ○ーヨーヨーも持って行きますか?」
「いや要らねぇだろそれはっ、てかなんで異世界の中のさらに異世界にそんなもんが……これはベアリングが入っているちょっと高級なやつじゃないかっ!? よし持って行こう」
『あの~っ、ちょっと……』
「良いか? この手首のスナップが重要でだな、こうっ、こんな感じでこうだっ」
『え~っと、聞いていますでしょうか……』
「あんっ? やかましいケツアゴだな、俺様は今仲間にハ○パーヨーヨーの技の極意を伝えている最中なんだよ、わかるか? とっとと失せるか死ぬか、どっちかしやがれこのタコがっ」
他人がせっかく遊んでいるところに、何の関係もない分際で話しかけてくる鬱陶しいケツアゴ。
アレか、仲間に入れて欲しくてコソコソと影から見ていて、勇気を振り絞って話し掛けてきた感じの雑魚キャラか。
だがもちろん仲間に入れてやるつもりなど毛頭ないし、勝手に入って来るんじゃねぇと怒鳴り散らして追い払い、逃げ去っていくところに追い討ちとして物を投げ付けてやらなくてはならない存在だな。
と、そうは思ったのだがどうやら違うらしい、何か言いたいことがあるようだ、ケツアゴの分際で俺様に意見をしようとは、生意気にもほどがあるだろうこの野郎は。
だが話を聞いてやることとしよう、どうせこの後殺してしまうのだし、遺言代わりに最後の言葉を耳に入れておいてやるのだ。
まぁ、耳から入ったところで反対の耳から抜けて行ってしまうのだが、とにかく何を言い出すか、文句があるのなら伝えよと命じてやる……
『あの……えっと、皆さんがお強いのと、それから残虐極まりないのはわかったんですが……その、物資を全部持って行かれるとですね、私達の生活が……』
「生活がどうしたんだ?」
『立ち行かなくなるんです、つまり生きていけません、ですので要らない分で構いませんので……少し返して頂ければと……』
「生きていけない? じゃあ死ねば良いじゃん、死ねよ、ほら早く死ねっ!」
『えぇっ……』
「自分で死ねないのであれば手伝ってやる、ほら死ねぇぇぇっ!」
『ギャァァァッ!』
「ケッ、ざまぁ見やがれってんだ、他に文句がある奴は?……居ないようだな」
1匹処分すればその他は全て大人しくなる、これはほとんどの雑魚キャラに共通した特徴だ。
物資を奪われ、抵抗することも出来ずにただ眺めているだけの雑魚は、顔がキモいこともあってもう生きている価値はない。
もっとも、今ここで殺さなかったとしても、俺達が全てをクリアし、このゲーム世界が不要となった際には、クローズと同時に全て消去される……つまり全部消滅させられる運命なのだ。
ゆえにどうであったとしても変わらないのだが、どうせ死ぬということをこいつらは知らない、知らないのに助かったとぬか喜びさせて、最後は結局死亡、という悲しいENDを迎えるのはさすがにかわいそうである。
ということでこの場で殺してやることとしよう、もう一度入念に、必要なものが残されていないのかを確認し、ケツアゴ共を全て会館内部へと戻らせ、少しだけ油を撒いてから火を放つ。
『やめてくれぇぇぇっ!』
『ひぃぃぃっ! 火がっ、火が回って……』
『あぢぢぢぢっ!』
「ギャハハハッ! オラッもっと無様に飛び跳ねろよ、ざまぁ見やがれ」
『ギョェェェッ! どうしてこんなことをっ』
「うるせぇよ、てか二度と転生すんじゃねぇぞ、汚いし、ゴミが増えるからな、あばよっ」
『ヒギィィィッ!』
無様に燃えていくケツアゴ共、本当に面白い光景だ、だがそんなくだらないものをずっと眺めているわけにもいかない。
俺達は正義のため、悪神を始末して俺達本来の世界に平和をもたらすため、必ず天空に浮かぶ城を攻め滅ぼさなくてはならないのである。
しかし……その城はどこにあるのだ? ここからは全く見えないし、かといって空を探し回るわけにもいかない。
本来であれば、この辺りで何かアイテムを、その城へ辿り着くことが可能になる特殊なモノをゲットするはずなのだが……それはどこにあるのか……
「……ちょっと次の行き先がわからないわね、どうしようかしら?」
「あ、それじゃあ一旦外のマップに出て、叔父様……じゃなくてエリナとアイリスちゃんと話をしてみますの」
「それが良いですね、エリナもあれから『攻略本』を読み込んだことでしょうし、話を聞いてみる価値があると思います」
「そうだな、じゃあ一旦外へ出ようか、燃えているケツアゴ共は……放っておけば死ぬだろうから別に構わないだろうな」
外のマップへと出て行った俺達、燃え盛っていたはずのその町は、外から見れば平静を保ったまま、炎上したり、瓦礫になったりというエフェクトは用意されていないらしい。
一旦馬車の中、袋の中、そしてそれぞれのバッグの中にあるアイテムや食料を確認するのだが……まぁ、本当に余計なものばかりである。
今になって思ったが、ハイパーヨーヨーも要らなければその他の玩具も邪魔でしかない。
強敵との戦闘中、うっかり無意味なものに『使う』コマンドを置いてしまい、1ターンを無駄にしてしまいそうな勢いだ。
とはいえ有用そうなアイテムもある、傷薬の類は回復力も高そうで、精霊様曰く、使ってもケツアゴが成長してしまったりはしないとのこと。
かなりの数があるし、ひとつ試しに使ってみよう、しかしダメージを負っているような仲間は1人も居らず……ダメージを与えれば良いのかしかしどうやって……と、ここでエリナとの通信が繋がったようだ。
アイテムの効果チェックは後程ということで、まずは情報の獲得から始めていくこととしよう……
『もしもーっし……あ、その場所なら色々と繋がりそうなので、しばらく動かないで下さいね』
「おう、もう最後の最後なんだが……そのニート神の城とやらが見当たらなくなってな、どこへどうやって行けば良いのかわかるか?」
『そうですね、えっと……あれ? アイリスちゃん、あの、神様の方はどちらへ……』
『さっき荷物をまとめて出て行きました~、何だか我の出番がどうのこうのと言っていましたが、どこへ行ったのかはちょっとわかりません~』
『そうなんですね、えっと、神様が消えています、あと最終目的地のお城の方は……その町の市長? とかが持っているみたいです、光の玉、それを掲げれば自ずと行き先がわかると、そんな感じのニュアンスですね』
「そうか、畜生め、もう一度町へ戻らないとなのか……リリィ、ちょっと乗せて行ってくれ、セラも一緒に行くぞ、ダッシュでだ」
『はーいっ』
ということでもう一度、今度は空から一直線にケツアゴ庁舎を目指す、ケツアゴ市長の部屋を漁ればすぐに見つかるはずだ。
ついでに奴の命の灯火もキッチリ消しておかないと、あんなモノを生かしておくのはリスクでしかないからな。
二度と転生などせぬよう、完全に消滅させて世界から、輪廻の輪からも消し去ってしまおう。
セラを前に乗らせ、風魔法の力でリリィをサポートしつつ、目的の庁舎、その最上階を目指す。
上にヘリポートのような平らな場所があるな、そこへ着陸させることとしようか……
「ほら急げっ、リリィは頑張っているようだが、セラはもっと気合を入れろ、ハイヨーッ!」
「あいたっ、私に鞭を入れても意味ないと思うのよね……」
「黙れっ、ジョッキーみたいに立ち乗りするんだ、尻をこっちに向けろっ」
「えっと、こうかしら?」
「ハイヨーッ!」
「いったぁぁぁっ!」
リリィを叩くのはかわいそうなので、セラに尻を向けさせてそれを鞭でシバき倒していく。
スピードは上がらないようだが、それでもこの感じは楽しいので最後まで続けよう。
ビシバシと喰らわせ、セラが半泣きになったところで、ようやくヘリポートのような場所へと着陸するリリィ。
リリィにはその場で待たせ、俺とセラであのケツアゴ市長の執務室へと向かった。
半ば気絶しつつ、床に転がっていたケツアゴ市長を叩き起こし……と、このままでは会話もままならないな、せっかくだし、ここで回復系アイテムの効果でも確かめておくこととしよう。
バッグから小瓶を取り出し、それをケツアゴ市長のケツアゴの間へ突っ込んで傾ける。
どうやらケツアゴから注入することが出来るようだ、便利な構造ではあるが実に気持ち悪い。
で、みるみるうちに復活を遂げたケツアゴ市長、助けて貰ったことへの礼さえ言わないというクズッぷりを発揮しつつ、俺達にビビッて部屋の隅へと逃げ込んだのであった……
「おいテメェコラ、空に浮かんでいる城へ向かうための玉? だか何だか知らんが、殺されたくなかったらサッサと出しやがれ」
『玉? 神より授かりし玉なら机の上に……ほら、そこにあるっ』
「……っと、これみたいね、これを掲げると……あら、光が一方を指し示し始めたわよ」
「なるほど、そっちに敵の城があるってのか、じゃあこれを使えば良いのと、それから……ケツアゴは滅っせい!」
『ギャァァァッ!』
「フンッ、薄汚く飛び散りやがって、セラ、ちょっとそこのランタンでも使って放火しておいてくれ、このままじゃ臭くて敵わねぇ」
「はいはい、じゃあそれっと……火が回る前に行きましょ」
「おう、そうしようか……ハイヨーッ!」
「きゃいんっ!」
こうして速攻で必要なアイテムをゲットし、速攻で残務を処理した俺達は、再びリリィの背中に乗って町を出た。
光の差し示す方向は……移動していやがるな、まぁ空飛ぶ城などそんなものか、とにかくそれを目指そう……
※※※
「え~っと、じゃあ魔鳥さんに乗るのは勇者様とお姉ちゃん、それからカレンちゃんとルビアちゃんですね、それを基本のパーティーにしましょう」
「俺とルビアがセットかよ、物理はカレンだけで大丈夫なのか?」
「ええ、敵の攻撃がどんなものかわかりませんから、私やジェシカちゃんが受けるのはちょっとリスクを孕んでいます、その点カレンちゃんなら回避出来ますし、後ろの2人へ飛んだら勇者様が命懸けで受け止めて下さい」
「俺はどちらかというと肉の壁なんだな、まぁ構わんが、どうせ主人公だから死なないんだし」
「主殿、慢心は良くないぞ、そんなんだからいつもやられ役気味になっているんだぞ」
「……痛いところを突いてくるなジェシカは、まぁ良いや、サッサと行こうぜ」
「あまり良くはないと思うのだが……」
何やら言いたげなジェシカを追い立てて馬車へと押し込み、ひとまず魔鳥の背中に乗る。
空飛ぶチームがスタンバイし、セラとカレンがこちらへ入った分、ユリナとサリナがリリィの背中に乗っている状態だ。
で、魔鳥の背中ではセラが、先程回収した『玉』を掲げて行き先を指し示す……今は真南のようだな。
魔鳥が大きく羽ばたいて飛び立ち、その後ろをリリィが、精霊様が続くと、いよいよ決戦の地へと向かい始めた。
大空を南へ向かって進んで行くと、徐々に東側にズレ始める行き先……かなりランダムに移動しているようだな、これはこのアイテムなしでは発見することさえ叶わなかったことであろう。
しかし光の玉が指し示す方向のレスポンスは非常によろしく、右へ左へ、キュキュキュッと向きを変え、俺達を乗せた魔鳥にその方向を伝えている。
1時間、いやもっと時間が経ったであろうか、そろそろリリィがへばってしまうのではないかと危惧した頃になって、雲の向こうにようやく何かが、明らかに俺達の目指している巨大な塊が見えた。
しかしその巨大な塊の中央に聳え立っているのは、俺達が予想していたような、王都のある大陸風の、俺が転移前の世界でも『コンチネンタルだ』と感じていたようなものではない。
というか微妙に反っているような気がするのだが、そして近付けば近付くほど、モザイクが必要であるビジュアルの……と、サリナが何も言わず、浮いている塊全体にモザイク処理を施した……
「……ご主人様、アレはダメです、ちょっと見てはいけないというか……法に触れますよ」
「いや、まだ遠いからな、錯覚であることを信じたい」
「そう言いましても……とにかくダメです、 モザイクは外せません」
これは怪しい、どころか完全にアウトであろう、そんな雰囲気がひしひしと伝わってくる敵の城らしき何か。
だがここで引き返すわけにもいかず、俺達はまっすぐに、その天空に浮かぶブツを目指して飛んだ……
※※※
「げぇぇぇっ! コンチネンタルじゃなくてチ〇コネンタルじゃねぇかぁぁぁっ!」
「卑猥ですっ! 卑猥! 討ち滅ぼしましょうっ!」
「ウ〇チの次はこれですか、酷いですね、子どもでも喜びませんよ今時……」
到着した天空に浮かぶ何か、そこへ上陸した俺達は、その中央部に聳え立つ巨大なブツを見て、口々に批判の言葉を述べている。
もちろんキッチリモザイクが掛かっているため、その姿がハッキリと見えているというわけではないのだが、それが何なのか、どうして聳え立っているのか、その理由は誰の目で見ても明らかだ。
全く呆れた話なのだが、どうやらニート神のセンスはかなり小学生のそれに近いらしいな。
こういうのが面白いと思っているのか、もしかしたら俺達がこれを見て爆笑し、そのセンスを褒め称えるとでも思ったのか。
で、もはや異常者の成せる業としてしか認識出来ないこのチ〇コネンタル城は、ゲーム終了と同時に完膚なきまでに破壊する、それ以外の処理方法が見当たらない。
しかしそれはあくまでも『ゲーム終了時』、即ち全てをクリアし、ニート神の息の根を止めた際にそうするということでしかないのだ。
俺達は今から、この卑猥で愚劣なトンデモビジュアルの城へと駒を進め、内部を探索して最上階まで……考えるだけで鬱になりそうだな、もう視界に入れたくもないゴミである。
で、そこに至るまでの庭園は非常に美しく、そして木々もハリボテなどではない様子。
これが神の居城の前庭だと言われれば、まぁそうであろうというレベルの美しさ、だがどうして城がああなったのだ。
などと考えつつ、ついでにブツブツと文句も言いつつ、俺達はそのまま隊列を組んで、主要メンバーは魔鳥と一緒に、その後ろは馬車、リリィと精霊様のチームはさらに後ろという具合で進んで行く。
しばらく進むと……ロープウェイの乗り口があった、意味がわからない、というかそれに乗れば、どうやら城の中ほどの高さまで一気に進むことが出来てしまうようだ……
「これ、使えるのかしらね? 変な箱が……ロープで繋がっているわ」
「こういう乗り物だし、ちょうど箱が3つあるな……てかさ、これに乗って行くよりも飛んだ方が早くないか?」
「それはそうだけど、何だかちょっとダメみたいよ、ほら、さっきから精霊様が飛ぼうとして……落ちて来たじゃない」
「本当だ、このマップでは空を飛ぶことが禁止されているのか……また飛んだ……落ちたぞ、諦めの悪い精霊様だな……」
どうにか空を飛んでショートカットしようとしている精霊様に、もう無理だから諦めろと告げる俺とその仲間達。
お子様のリリィにさえ諭され、意気消沈の様子を見せる精霊様は、遂に諦めて……勝手にロープウェイに乗り込んでしまったではないか。
まだ安全さえ確認していないというのに、まぁ良いか、どうせこれを使うのが本来の進み方なのであろうし、周囲にケツアゴモンスター等、敵キャラの気配もないことだし。
ということで俺達もそれに続き、4人ずつ、もちろんそれぞれが用いていた魔鳥だの馬車だのを、乗り込むための篭の上に無理矢理配置するなどして乗り込んでいく。
……というかどうやってこれを動かすべきなのだ? 特に係員が居るわけでもないし、金を入れると動き出すのかと思いきや、そういう設備なども見当たらないではないか。
一旦外に出て、レバーのようなものがないかと探しても、何ら発動装置のようなものは見受けられない。
もしかしたらこれはハリボテで、本来は徒歩で目的の、あの薄汚い城を目指さなくてはならないのか?
だとすると凄く馬鹿だ、既に座席に着いて、今か今かと動き出しを待っている俺の仲間達は、とんでもなく滑稽で、ニート神の笑いの種にしかならないゴミのようなピエロである。
ここで諦めて、どこかでこの様子を見ているはずのニート神が笑うに任せるのはかなり癪だな。
どうにかしてこのロープウェイを起動させ、城の中ほどまでショートカットしてやりたいところだ。
と、ここで俺達が乗るべき先頭の箱に、そしてその次も、その次も、連鎖するようにして反応が見受けられた。
パチンコ台かの如くガビガビと輝き出し、やかましい音を立てるロープウェイの箱、何のつもりなのだ一体……
『うぇ~いっ! じゃじゃじゃ~んっ! こちらはロープうぇ~いだよっ! お客さん、良いときに乗ったね、今はキャンペーン中で全線無料なんだ、ただし……』
「ただし……何なんでしょうか?」
『ただし管理人に勝利したらの話だ、出でよ、ロープうぇ~いの管理人よっ!』
『うぇ~いっ! どーもーっ! 管理人でぇ~っす、うぇ~いっ、ヒャッハーッ!』
「……おい、コイツどっから出て来たんだよ? てか何だよこのうぇ~い系の鬱陶しそうなケツアゴは?」
「頭ツンツンです……」
突如として出現したうぇ~い系のケツアゴ、どういう勝負かは知らないが、勝てばロープうぇ~いを無料で動かしてくれるらしい。
しかしコイツをここに配置した意味は何なのだ? 別に強くはないし、特筆すべき能力として挙げられるのは、『テンション+500%』と『アルコール耐性+300%』と、その程度である。
そんなもの、単なるうぇ~い系の馬鹿に過ぎないのだし、戦って勝利することなど、転移前の世界ではFランの中のFランと呼べる大学に所属していた俺にとって造作もないこと。
何だか知らないが、とにかく勝負とやらをサッサと片付け、ニート神の所へと向かうこととしよう……




