898 対策として
「それで、4人はどういういきさつでここへ辿り着いたんだ?」
「ええ、最初は……」
「こらっ! 私を無視しないのっ、この世界の支配者なのよっ! 平伏しなさいっ、そこも、そこも……って、何で囚人服なんか着せられてんのよ、でも平伏しなさいっ!」
「ちょっと精霊様うるさい」
「・・・・・・・・・・」
「それでですの、私とサリナは最初からセットでこの世界に連れ込まれていましたの、で、精霊様を連れたマリエルちゃんに助けられて……え? 精霊様がマリエルちゃんを連れていましたの?」
「そうよっ! 敬いなさいこの私をっ!」
「だから精霊様うるさいってば、何だか話の内容が掴めてこないな、アホの精霊様のせいで……」
「誰がアホよっ、そこに直りなさっ……むぐぐぐっ」
ニート神に何かされたことによってバグっている精霊様は、気を利かせたマーサによって取り押さえられた。
きっと奴もこの精霊様が、俺達の中で最も強く、賢さが高く、そして傲慢であることを見抜いているのであろう。
というかまぁ、『精霊』という存在である以上警戒し、徹底的にいじめてくるのは当然のことか。
最初の、この世界に飛ばされる前の『テスト』として受けた攻撃でも、精霊様だけそこそこ酷い目に会っていたようだし。
で、そこからはユリナやサリナ、そして少しわかりにくいものの身振り手振りでアピールするマリエル、3人の説明をゆっくり聞いて、このチームのおおよその行動を把握することが出来た。
まず第一に救助されたのはマリエル、最初はまともであった精霊様が、ステータスを極端に制限された状態で、数十回もゲームオーバーになりながら、『囚われの姫』として謎のケツアゴから拷問され続けていたマリエルを、夜中にコッソリと監禁場所へ忍び込む方法で救ったらしい。
というか戦うことは諦めたのか、いや、精霊様に関しては、もう諦めざるを得ないぐらいのハードモードを課されたと言った方が良いであろう。
そこで諦めずに頭を使い、機転を利かせてストーリーを進めたことについては賞賛に値するのだが、しかしどうしてこうなってしまったのか、それはこの後のユリナとサリナによる説明の中で判明することだ……
「……で、そのマリエルちゃんと精霊様が一緒に、私達の所へ来ましたの」
「ユリナとサリナは何をしていた、というかさせられていたんだ?」
「人心を惑わす悪い魔族という設定で、惑わしたくもないケツアゴのNPCを堕落させたり、契約に基づいて命を奪ったりしていました」
「……まぁ、元々悪魔なわけだしな、その扱いも仕方ないだろうよ」
「悪魔にだって契約する相手を選ぶ権利はありますのよ……まさかあんなケツアゴのNPCなんて……」
「姉様、顔が恐くなっていますよ、ほら、もう合流出来たんだからリラックスして」
どうやらこの場で一番頼りになる新規ンバー、つまり合流を果たした4人なのだが、その中でサリナが最も使える、というかサリナ以外はイマイチ使い物にならないといった感じであろう。
最凶であるはずの精霊様はアレだし、ユリナは悪魔の尊厳を踏み躙られたことに対してご立腹だし、マリエルに至っては元々賢くないため、戦闘以外の場面ではほぼほぼ使えないというのが現状。
つまりここからはサリナと話をして、ここまでの総まとめと、これからどうしていくべきなのかについて話し合う必要があるということだ……
「それでだ、どうしてここで合流出来たんだろうな、なんの前情報もなしに」
「その件については私も疑問ですね、叔父様も何も言っていませんでしたし……あ、というかここなら叔父様と話しが出来ます、少し呼んでみましょう」
「おう、それなら助かるな、お~いっ! エリナパパ、聞こえますか~っ?」
『はぁ~い、エリナパパだよぉ~っ!』
「えっ? 何かキャラ変わってねこの人?」
「これは……叔父様がエリナと一緒に居るときの口調ですね、間違いありません」
「リアルにきめぇ……いや、てことはエリナが出現したのかっ?」
『出現って、酷いですね人をモンスターみたいにっ、あとアイリスちゃんも一緒です、女神様は引き続きどこへ行ったのかわかりませんが……』
『エリナちゃん、私の愛しいエリナちゃん、神界の女神なんぞに様を付けて呼ぶのはやめろばえぽっ!』
『お父様はたった今完全に無力化しました、ここからのプレイは私と』
『アイリスで~す、私達が引き継ぎます~』
「おぉっ、これは心強い、エリナパパなんてもう『非常に賢さの高い駄王』みたいなものだったからな」
どういうわけかニート神の下へとやって来ていたエリナ、そして非戦闘員のはずのアイリス。
この2人がエリナパパを廃し、俺達に指示を出すゲームのプレーヤーとして活躍してくれるようだ。
正直なところ、これほどまでにエリナの登場が待ち遠しかったことはない、いつも調子に乗るばかりでたいして役に立たない……凄く頑張っているという意見は却下するのだが、とにかく馬鹿な悪魔なのである。
しかし今回は、人族のうちでは中の上程度に賢さの高いアイリスと一緒になって、ゲームの攻略をしてくれるのだ。
なお、女神の末路については説明しておいた、後で慰めてやって欲しいとも言っておいたので、おそらく2人はそうしてくれる、馬鹿すぎてどうしようもない、今は亜空間とやらに居る女神に対して、類稀なる癒しを与えてくれることであろう。
で、女神のことなどはもうどうでも良いし、奴がどうなろうと特に構わないこととして、ひとまず考えるべきはこの状況だ。
どうして『ウ○コ城』を攻略し、その場にある敵を討伐してミッションコンプリートするはずであった俺達が、まだまだ先であろうと予想していた精霊様のチームとの再会を果たしているのかということである。
これが何かのバグによるものなのか、それともこういう風に元々なっていたのか、それを知りたいというのが現在の、合流した12人全員の気持ちなのだ……
「アイリス、エリナ、そこんとこどうなっているのか調べてくれないか?」
『もう調べているんですが……ちょっと良くわからないですね、勇者さんのチームはここから……やだっ、超汚いじゃないですかっ! それから精霊様のチームは……ここで幻想を脱して、本来の敵と戦う……って、勇者さん達と同じ敵キャラですね』
「同じ敵キャラ? どういうことだなんだよ一体……」
『えっと、勇者さん達は本来避けるべきである不潔なモノであって、しかしながら勇者としては避けて通ることの出来ない凶悪な敵に対抗するために、このミッションが用意されているとのことですね。それで、精霊様たちにとっては、えっと……富や権力が本来どれほど薄汚いものであるのか、それを把握させるため、富と権力そのものが具現化したブツであるウ○コ、それを敵としつつ、自分だけの力ではなく仲間との協力によって作戦を成功させるという協調性の類も成長させるイベントである。そしてここで全てのメンバーが合流することが出来るという、非常に重要な場所でもある……そう記載されていますね、今さっきアイリスちゃんがあの……神様に色目を使って無料でゲットした攻略本……じゃなくて仕様書ですね、これによればそんな感じです』
「意味がわからんのだが……まぁ良いや、とにかく精霊様をどうにか元通りにして、その共通の敵とやらと戦えば良いと、そういうことだな?」
『いえ……それが何だかおかしくて、一応その敵との戦闘開始とほぼ同時に合流……ということになっているんですが、敵は見当たりませんよね? あれ~っ?』
「やっぱちょっとおかしいのか、俺達も薄々そう思っていたんだが、何かバグッてねぇかこの世界?」
エリナの後ろで見ているはずのニート神からは特に応答などない、ないのだが……ここで調子に乗って何か言ってきたりしない時点で、何らかの不手際が生じていることを認めていると考えるのが妥当であろう。
本来は俺達8人と精霊様達4人、それぞれが同じ敵と遭遇し、それと戦い始めたところで、やはり協力しなくては討伐出来ない、精霊様も富と権力に溺れている暇ではないことに気付き、12人の合わさった力を発揮して戦い、勝利する、そういうイベントでなくてはならないのだ。
それが現状はどうか、敵など影も形もないこの場所で、既に精霊様達4人との合流を果たしているではないか。
しかもこんなわけのわからない、俺達にとってはボスキャラと戦闘になるのを確実視しても差し支えないような場所でだ。
で、おそらくは境界線の向こう側、つまり『汚らしい側』の世界において待ち構えているのが、その本来協力して討伐すべきボスなのであろう。
俺達は本来、境界線を越えることなく『ウ〇コ城』の最上階へ、そしてその最中、『汚らしい側』の世界がこちらの『美しい側』の世界を侵食し、精霊様達がそれに巻き込まれるというのが本来のストーリーであったはず。
それが何らかの理由によって、おかしな位置での接続と、それから俺達が逆にこちら側に来てしまうなどのエラーが生じたため、このようなことになってしまっているのだ。
ここからストーリーを先へ進め、必要となるボスキャラ討伐を果たして次のミッションへ移行するにはどうしたら良いのか。
それはこれから考えなくてはならないことなのだが……とにかく精霊様を元に戻してやる、引っ叩いてでもこの幻想から解き放ってやることが先決事項だな……
「よし、じゃあエリナパパ……は滅されたのか、エリナ、アイリスもだが、引き続きそちらでも情報を集めてくれ……ただしあのゴミみたいな神に色目を使ったりとかはしなくて良いからな、自分の尊厳を大事にしろよ」
『大丈夫です、世界がひっくり返ってもそのようなことはしませんから、じゃあ、こちらに出来ることはしておきますね』
「うむ、頼んだぞ……それで、次はこっちで出来ることだ、精霊様が使い物にならないからな、ミラ、ユリナとサリナ、あとジェシカは頑張って知恵を使ってくれ」
『うぇ~いっ』
こうして『精霊様元通り作戦』が始まった、具体的に何をすべきなのかは、これから必死になって考えていかなくてはならないのだが、とにかく意見を出し合ってみることとしよう……
※※※
「え~っと、じゃあ次はこの『詳解 独裁者達の悲惨な末路』を読み聞かせしてみますの、これで少しは目を覚ましてくれれば良いんですけど」
「無駄だろうよ、さっきの『図説 慈愛の心とは』だって全然聞いてくれなかったじゃないか、てかそんな本どこで手に入れたんだよ?」
「わかりませんの、最初から荷物の中にあったようには思えませんが、いつの間にか入っていたんですわ」
「良くそんな意味不明なものを手に取ることが出来るな……汚くない?」
色々と意見を出し合うものの、いつもの如くたいした案は出てこなかったため、とりあえずそれらしき本の読み聞かせをしてみるも……全く耳を傾けようとしない。
手持ち、というかなぜかユリナのバッグの中にあったという本もほとんど使い切り、全く効果が得られないことが判明したのである。
この方法はきっと間違い、フェイクの、ハズレのるーとであったということだな、時間の無駄だ。
なにかもっと良い方法を……そういえば『敵と戦う際に』仲間との連携だの何だのの重要さを思い出す、そういう話であったはず。
だとすれば敵と遭遇し、戦闘になるのが最も早いのではなかろうか、最初は精霊様単独で戦わせて、苦戦しているところを俺達が助ける。
それで感謝と反省の心に満ち溢れた精霊様を、俺達は優しく受け入れて……と、そんなに上手くいこうはずもない。
精霊様であれば、比較的どのような敵であっても一撃、秒で討伐してしまうのが確実であるためだ。
これでは精霊様が反省する余地などない、もっとこう、追い詰めることが出来なくてはならない。
そういうことが出来る何かを用意しなくては……と、ここでエリナからの通信があった。
というか、この場所がフィールドマップではないというのに、外の世界と通信することが可能な時点でそこそこ異常だと思うのだが、それについては今は考えないでおくこととしよう。
それで、エリナからの話の内容は……どうやら敵のケツアゴモンスターについてのようだ……
『すみませんお忙しいところ、何かですね、このマップ周辺の敵モンスターについての情報が手に入りました、有料でして、お父様の財布から色々出したんですが』
「かわいそうだなもうエリナパパ、まぁ自業自得な面もあると思うが、で、どんなだった? てかあのウ○コの奴だけじゃないのか?」
『え~っと、まずは……そうですね、ちょっと口に出すのも憚られるような、頭に……これについては既に遭遇しているというのであれば、あえての説明は不要だと思いますが……良いですよね? これ以上お詳細とか見たくないし』
「構わん、まずはケツアゴウ○コな、それで、他にも種類がるのか?」
『他にも3種のケツアゴモンスターが居ますね、全てレアモンスターですが、えっと、次はケツアゴ……ケツアゴースト、普通の幽霊です』
「それも見たことはある、他は?」
『もうひとつのレアモンはケツアゴールド、経験値は普通ですが、倒した際に砂金を落とすことがあるとかないとかです』
「ほうほう、砂金か、まぁそういう奴はレアであっても仕方ないんだよな、で、最後は?」
『最後は出現率激低のケツアゴですね、ハイエーテルケツアゴ、精霊攻撃耐性100%、対精霊与ダメージ500倍……ですが非常に体が弱く、精霊系統以外の攻撃はもう触れるだけで死亡すると、そんな感じだそうです』
「それだぁぁぁっ!」
どう考えてもこのイベントのため、そのためだけに用意されたケツアゴモンスター、もはや精霊様と以外戦わせてはならない、精霊様の勢いを挫くために生まれてきたような存在だ。
で、そちらかなりのレアケツアゴモンスターであり、そうそうお目に掛かることが出来ないとのことではあるが、探し出して戦闘し、そして全てを精霊様に押し付けさえすれば、俺達の目的は達せられたも同然。
あとはその場で精霊様がゲームオーバーとなってしまわぬよう、こちらで最低限の、ほんの僅かのサポートをしてやるのみなのだ。
もっとも、ケツアゴによる『500倍の攻撃』を喰らったところで、精霊様が感じる痛みは限定的、かつダメージ量も自然回復でどうにかなってしまう程度のものであろう。
だがしかし、そのたった1体のケツアゴを始末することが出来ない自分の不甲斐なさ、そんな雑魚キャラからダメージを受けている自分の弱さが身に染みて、最後は泣きながら助けを求めてくるはず。
そこを一蹴して指差し、ゲラゲラと笑ってやる……というのもやってみたいのだが今回はNGだ。
俺達は精霊様を助けてやり、精霊様は反省して、これからは清く正しく、清水のように生きることを誓うのである。
とまぁ、そこまで上手くいくのかどうかについては不明なのだが、とにかくこの作戦が正解ルートであるということに変わりはない。
早速皆でその部屋を出て、まずは『美しい側』の探索を……いや、こちら側には一切敵が居ないような気がしなくもないな。
捜索するのであれば『汚らしい側』の世界か、入りたくはないが、目的のためには入らざるを得ないのであろう。
俺達でもそうなのに、果たしていつになく偉そうな態度の精霊様がそれに従ってくれるのか、そこは疑問なのだが……
「……ということだ精霊様、敬って欲しくば、この境界線の向こうでの戦闘で、俺達にその力を見せてくれないと、頼んだぞ」
「期待していますよ精霊様、私達のような雑魚には精霊様が付いていないと、ほら、こんな囚人服を着せられて、それをどうすることも出来ないような矮小な人族も居ますから、それを助けて貰わないと」
「ふふんっ、ようやくや頭を下げる気になったのね、10年遅かったわよ」
「俺達、まだ出会ってから10年経ってないんだがな、まぁ良いや、とにかくこの向こうへ行くぞ、ほら、ここを通過すると……すげぇ居やがるな、だがイベントの敵じゃないみたいだ」
「どれどれ……汚ったないわねぇ、でもシンボルエンカウント方式かしら? なるべく近付かないようにしつつ、後ろから奇襲してその一撃で殺してしまえば或いは……」
「さすがは精霊様だっ、そのやり方を最初から熟知しているとはっ、天才かっ!」
適当に精霊様を煽てつつ、エンカウント方式を悪用して一撃で敵を始末してしまおう、無効には攻撃させないようにしようという発想がすぐに出ることには、素直に素晴らしいと賞賛しておく。
で、こちら側の世界においても、やはり見渡す限り『ケツアゴウ○コ』しか存在していないのだが……本当にレアキャラの、精霊様専用の敵など出現するのか?
そして出現するとしても、それがどういう見た目で、どのような感じで、かつどのような場所で姿を現すのか、それについての前情報がまるでない。
場合によっては、『このエリアにはレアモンスターが出現しません』というような場所をひたすら周回し、無駄な時間を過ごしていた、などということも考えられなくはないのだ。
その辺りのことについて、引き続き外のエリナとアイリスに調べさせつつ、俺達は比較的可能性が高いと思われる場所、例えば他のレアモンスターが出現した場所だとか、隠し部屋のような場所だとかを捜索していくこととしよう。
一旦『美しい側』のマップへ戻った俺達は、通信が可能なその場所にて、出現場所等について調査して欲しい旨をエリナに伝え、もう一度マップを切り替える。
さて、まずはこの大量のケツアゴウ○コ、ひとたび戦闘となれば危険極まりない攻撃を放ち、俺達を汚染しようと試みてくるこの雑魚キャラ共を始末しておかなくては。
やり方は精霊様に任せるし、先程言っていた方法で大丈夫だと思うのだが、今の調子に乗ったこの女は何をするのかわからない、そちらの方が不安なのはもう言うまでもない……




