896 行き来
「死ねっ! ケツアゴ共めっ!」
『う~わっ』『う~わっ』『う~わっ……You WIN!』
「いやその死に方はやめてくれよな……」
10体以上のケツアゴNPCを伴って出現した生ケツアゴ、それに手を付ける前に、まずは周囲のNPCから処分していく。
こちらは簡単だ、まずは会話イベントを通過しなくてはならないところ、その前に攻撃してしまえば一方的な蹂躙が可能なのである。
あっという間に(ほぼカレンが)NPCを討伐し終え、残すはメインの、そしてこれから実験に用いるべき生ケツアゴである敵キャラ、それ1匹のみとなった。
焦る生ケツアゴ、まさか俺達がこのような戦い方をしてくるとは思わなかったのであろう。
自分が逃げるチャンスを完全に逸したと悟り、何か別の方法はないかと、足りない頭で必至に模索している様子。
だが俺達がこの野郎を逃すはずなどない、そのことについても薄々感付いてきたようで、今度は交渉材料となりそうなものがないか、無駄にポケットを探り始めたのだが……そんなところから出て来るモノなど、たとえ金銭であったとしても受け取ろうはずがないのだ、汚らしすぎる。
『あっ、え~っと、その……我はケツアゴ世界では平民であったのだ、それがケツアゴ力を神に認められ、この世界で城を守る戦士として……』
「何だよケツアゴ世界って、まぁ大体わかることはわかるんだが、で、そのケツアゴ戦士のお前は何がしたいんだ? そろそろ殺させて欲しいんだが、まだ時間が掛かるのか? なぁ、俺達はそんなに暇じゃないんだよ、早く殺させてくれないなら、無理矢理にでも殺すからな、あのウ○コ城に叩き付ける感じでな」
『ひぃぃぃっ! そっ、それだけはやめてくれっ! 城に喰われてしまうっ、しかもこの高さからだと即死しないから、きっと生きたままジワジワと溶かされて……せめて先端の消化成分が濃い所に落ちれば……いや、何を言っているのだ我は、せっかくここまできたというのに、戦士のキャリアを積んだら、次は武闘家になって、その後は上級職に……果ては勇者! そう、我は勇者になるのだ、神々から別世界に派遣されるという、誉ある異世界勇者にっ! ハーッハッハッハッ! 貴様のような雑魚とは存在の価値が違うのだよっ!』
「いや……この人ってその異世界勇者なんだけど……」
『ハーッハッ……はぁっ?』
「あ、どうも、この世界を統べる女神によって召喚された異世界勇者っす、はいこれ身分証、裏は拠点にしている王都で貰った『勇者法第55条に基づく勇者営業許可証』だから」
『ななななっ、なんてこったぁぁぁっ! こんなのが勇者? ケツアゴですらないというのに……勇者とは、我が憧れていた異世界勇者とは一体……』
ショックを受ける勇者希望のケツアゴ、まだ戦士だというのに気が早いのではなかろうかとも思ったのだが、どうやらその次元の話ではないらしい。
もう勇者には絶望してしまったようだ、勇者はケツアゴ、立派なケツアゴであれば勇者になれる、そう思っていたのであろうこの馬鹿は、こちら側の世界の理がそうでないことを知り、勇者に対する考え方が急激に変化してしまったようだ。
その場にへたり込み、涙を流す元勇者志望のケツアゴ、カレンが拾って来た枝を用いてツンツンしているのだが、それに対して反応さえしないのである。
このまま自分の世界に入り込まれると厄介だな、無視して先へ進むことも出来ない仕様となっているようだし、最低でもコイツを殺害してからでないと、ストーリーを進行させることが叶わないのだ。
ということでまずは……あまり触れたくないな、先程のウ○コの奴ほどではないが、生ケツアゴである以上汚いのは確実。
カレンにも枝でツンツンするのを止めさせなくてはならないな、このままだと枝を伝っておかしな菌や汚れが移動してしまいかねない……
「コラ、ちょっとカレン、汚いからやめるんだ、後でちゃんと手を洗えよ、コイツの近くの空気を吸ったんだからうがいもするんだぞ」
「はーいっ、わかりましたーっ」
『ぐぬぬ……ぐぬぬぬぬっ、我がそんなに汚いと言うのかっ、勇者に憧れ、しかしこの世界ではケツアゴ勇者など認められないと悟った悲しき我が……そんなに汚いと言うのかっ?』
「当たり前だ、お前とか超汚ったねぇし、なぁマーサ」
「うん、不潔、というかもう顔からして汚物よね、何なのそのケツアゴ? アピールするためにわざわざ引っ張って伸ばしたとか? だとしたらもうヤバいわよ、リアルに死んで欲しい」
「そうだよ、サッサと死ねよこのカス、あ、死ぬときはちゃんとほら、あのこれまた汚ったねぇウ○コ城の上にダイブする感じでお願いします、実験とか色々しときたいんで」
『のぉぉぉっ! 我に、このかわいそうな我に死ねと、汚いとかだけでなく死ねと、そう言うのだなっ?』
「ったりめぇだこのクソ野朗、お前には下に鎮座している巨大なウ○コがお似合いなんだよ、とっとと飛び降りて死ね、落ちて、溶かされて、苦しみ悶えながら死ね、そしてら指差し笑ってやるからよ」
『ぐぬぬぬっ……』
そこそこ挑発しているはずなのだが、一向に飛び降りようとはしない元勇者志望のケツアゴ。
そういえば『ケツアゴオリジン』とやらがどこかの世界で勇者をしていたらしいが、最初はそれに影響されたのであろうか。
だとしたらまだ策はある、コイツに触れたり、いちいち有限な魔力等のエネルギーを用いて処分したりということをせず、自ら終わってくれるための方法を探るのだ。
コイツは異世界勇者に憧れて、ケツアゴオリジンとかいうケツアゴの異世界勇者がその理想で……で、この世界、というかこのゲーム世界ではなく、俺が派遣された現実世界の方なのだが、そこではケツアゴのデカさなど特に強さや美しさの象徴とはならない、単なるケツアゴというだけ。
そしてこの異常なケツアゴのビジュアルであって、もはや気持ち悪いという次元に達しているのだから、コイツが俺に成り代わって異世界勇者となることなどまず出来はしない。
もしその地位を狙ったとしても、これからどこかの亜空間より(仕方なく)救出してやる女神の奴が、そんなことを認めるはずがない、そう断言出来るぐらいにこのケツアゴ野朗はキモいのだから。
で、そんな感じで現状のままでは異世界勇者になることが出来ない、そしてこの世界で異世界勇者となるには、自慢のケツアゴを切除する手術なども受けなくてはならない、もはやコイツにとっては絶望である……
『うぅぅぅっ、ケツアゴに非ずは人にあらず、それが世界の理だというのに、それがこの世界は……失敗だ、神の甘言に乗せられ、こんなダメな世界に派遣されてしまい、ここでは勇者がケツアゴではないなど……クソッ!』
「おい、そんなかわいそうなお前に良いことを教えてやる、どうだ?」
『何だっ? もしかしてこれからでも勇者に、ケツアゴ極まりない我でも異世界勇者となるための手段が残されているのかっ?』
「おちろんだ、そのためにはまず死ぬことが、そこのウ○コ城の屋根に落下して、苦しみ悶えながら死ぬことが必要なんだ、わかるか?」
『どうしてそんなっ!?』
「だってよ、勇者になれなかったうえに、悲惨な最期を遂げたんだぞ、神は神であって鬼ではない、たとえあのニート神であってもだ。で、そんなかわいそうな奴に対しては慈悲深い対応をするよな普通?」
『ほ……ほう、そうなのか』
「そうなんだ、あぁ、このケツアゴはかわいそうな奴だったな、このままだと申し訳ないから、来世は『生まれながらのチート勇者』にしてやろう……と思うに違いない、知らんけどな」
『おぉっ、おぉぉぉっ! それは誠かっ?』
「いや、だからそうだと思うよ、知らんけど、信じてみる価値はあると思うぜ」
『信じようっ! その言葉を信じようっ! 非常に勇気の要る行動だが……南無三!』
「……本当に飛び降りちゃったじゃないの」
「馬鹿なんじゃねぇのか? で、様子の方は……端っこに落ちたようだな……」
『アギャァァァッ! 溶けるっ、城に喰われるぅぅぅっ! 痛いっ、痛いよぉぉぉっ!』
「プププッ、マジで面白い奴だったな、これならしばらく死なないだろうし、ちょっと眺めておいてやるか」
あのような気持ちの悪い雑魚キャラが、苦しみ抜いて死んでいく様を見るのは非常に気分が良い。
そもそもお前に来世などはない可能性が高いし、あったとしてもミジンコ以下の存在にしかなることが出来ないであろう。
しかもその前に地獄に堕とされて、そこでの『リアル地獄』を体験するのだからまた面白い。
そんなこととは露知らず、悲鳴を上げながらも期待を表情に浮かべ、その顔も徐々に溶かされているようだ……
と、そろそろ絶命するのか、雑魚の分際で比較的長生きであったな、だがこういう敵はこれからも、と言うかこの先すぐにも遭遇するであろうから、次以降もこうやって虐殺して楽しむことが出来そうである。
で、下に見えているウ○コ城が『人喰い』であったということが、元勇者志望、というか来世勇者志望ケツアゴのお陰で判明した。
これを上手く使えば、もしこの先大量の敵が出現したとしても、同じような方法で処分していくことが出来る。
それは非常に簡単なことだ、簡単なことなのだが……ここでカレンが何やら疑問ありげな顔をしている、珍しいな……
「どうしたカレン、何かおかしなところでも見つけたのかあのウ○コに?」
「え~っと、どうしてあのウ○チ、人を溶かして取り込んでしまうんでしょうか?」
「さぁな、それはわからんが、人間を消化して取り込んでしまうか……ウ○コに、消化した人間を……何かそういう関係のようだな」
「どういうことですか?」
「わからん、漠然としかわからんのだがな、まぁ、喰って消化して、吸収して、その吸収されたものがウ○コとしてあそこに蓄積されているということだ、わかるか?」
「……ご主人様、汚いですっ!」
「いや、俺に言われてもな……」
ウ○コのことを考えすぎたせいで、危うくカレンから汚物認定され、消毒されてしまうところであった。
そんな危機も回避し馬車の中の4人の安全を確かめたうえで、再度下へ向かって出発する。
目的としている最下層、崖の下の、おそらくウ○コ城の入り口があるレンジまではもうすぐだ……
※※※
「着きましたっ!」
「着いたな、で、扉があるんだが……どう考えてもあの扉さえウ○コって感じだよな……決して触りたくはないぜ」
「困ったわね、また魔法でどうにかする? それとも……リリィちゃんが何かしたがっているわよ」
「リリィか……仕方ないな、ちょっとカレンと交代させてくれ、マーサ、リリィがおかしなことをしようとしたら、すぐに捕まえて身動きを封じるんだぞ」
「わかったわ、じゃあカレンちゃんとリリィちゃんと交代ね……っと、早速捕まえたっ!」
「うぅっ、信用されていないみたいですね……でもほら、さっき馬車の中で見つけた大きな破城槌、これなら一撃ですよっ」
「……って、いつの間に、どこからそんなもんが出てきたんだよ?」
「これならさっきリリィちゃんと一緒に出てきたわよ……リリィちゃんの所持しているアイテムだからじゃないかしら?」
「所持って、馬車よりもデカいじゃねぇか……」
たまに思うことがある、こういうゲームの主人公が、袋や持ち物に中にいくつも剣だの棍棒だの、伝説の鎧だのを放り込んで、それでいて何食わぬ顔で歩いているのは不思議だと。
そして今回も同じ、リリィの持つバッグの中には食糧と拾った小石ぐらいしか入っていないのだが、この外に出された破城槌も、れっきとしたリリィの所持アイテムなのである。
と、まぁその不思議な現象についてはどうでも良いとして、これを使い捨て(ウ○コが付着してしまうため)にすれば、それなりのスピードで城門をブチ抜きすることが出来そうだ。
早速良い感じにセットをし、ここは前衛のパワーとスピードがもっと必要だということで、俺とカレンを交代、ついでにセラとミラもリーダー権限ごと入れ替わって準備を進めた。
そろそろ俺にパーティーリーダーの権限を返して欲しいのだが……などとは言えず推移を見守る。
破城槌と共に勢い良く突進した4人は、凄まじく良い感じにウ○コ城の城門を抜いたのであった……
「お~い、どうだ中の方は? 汚くないか?」
「大丈夫みたいです、中は……茶色に統一されてはいますが、汚いモノではないらしいですね、それから……そういう色なのはここだけみたいで、とにかく馬車を中へ入れますね」
「おう、てか馬車で入れるんだな城の中って」
「みたいです、で、ここまではこの感じで……そこのラインを越えると、一気に様子が変わるんですよ、ここから見えている風景とも」
「どういう……こういうことか、まるで鏡を抜けて別の世界にでも出たかのようだな、エリナパパには……繋がりにくいか、そりゃそうだよな、外のフィールドじゃないわけだし」
「とにかく敵が居そうな方を目指します、まぁ、まだ敵なのかどうかさえわからないんですが……」
ウ○コ城の中、入り口を抜けてすぐの様子はそれこそ『ザ・ウ○コ城の中』という感じの不潔そうなものであったのだが、ある一定のライン、特に何かがあるような一線を越えると、あっという間に景色が変貌する仕組みであった。
こちらは完全に城の中、高級感溢れるカーペットの上を、馬車で通過してしまって良いのであろうかと不安になるほどの清潔さ。
こんな場所に悪い奴、というか悪いケツアゴが生息しているとは思えないな、こういう場所に居るのは、もっと立派でまともな王様や何やら……いや、こういう場所に住んでいるクズも1匹知ってはいるのだが、アレも一応王様であったな。
で、そんなことを考えながら、綺麗に磨き上げられた大理石の廊下を進み、そして階段を……なぜか馬車までもが余裕で登って来るではないか、この辺りの造りは非常に雑なようだ。
階段を上がって2階、そこからまた通路を通って3階と進んで行くのだが、そこまでの間にケツアゴの敵が出現することはなかった。
というか何も居ない、人の気配も、それからNPCらしき影もなく、ひたすらに綺麗な廊下と階段のみが続いているという感じである。
これは何かおかしい、先程の鏡のような場所を通過するまでは、それこそ敵だらけの魔の城といった雰囲気で、しかもその敵もどうせウ○コ系のとんでもないものであったはずなのに、この変貌ぶりは異常だ。
少し引き返してみるか、それとも『こういうバグ』だと断定してこのまま進んでみるべきか……と、5階へ到着したところで、1階と同じようなホール様の広い場所へ出たではないか……
「ここは……1階のこちら側とほとんど同じ景色ですね、装飾とかの色が違うだけです、それで……」
「それで、真ん中にまた鏡のようなものがあるんじゃないかと、そういうことだな?」
「そうなんです、ちょっと……この辺りですかね?」
この5階の仕組みが1階と同じだと主張するのはミラ、となれば、中央付近の鏡のような場所を通過すれば、またあのウ○コ城の方へと戻ることが出来るのではないか、そういうことだ。
まぁ、戻りたいか戻りたくないかといえば、戻りたくないというのが確実な想いであるが、何らかのリスクがないとも言えない以上、確認しないわけにもいかないのである。
ということでおそらくその場所であろうというラインから、慎重に身を乗り出してみると……やはり鏡を潜ったかのような、全く違う光景の……とんでもない場所に出た……
『ブリブリブリブリッ! 何だ貴様はっ? この大ウ○コ世界に何の用だっ?』
「い、いえ別に……失礼しま~っす」
『ブリブリーッ! 待てやボケェェェッ!』
『逃げやがったぞっ! アイツ、マジでウ○コ野朗だなっ!』
とんでもない光景とはケツアゴウ○コが大量にひしめき合っている、地獄のような光景であった。
壁紙も茶色、というか全面がウ○コでコーティングされたかのような、まさにウ○コ塗れの世界。
そしてそこのケツアゴウ○コ共に見つかってしまった俺は、無関係の、偶然紛れ込んでしまっただけの一般人を装い、スッとそのラインから身を退いて退室したのであった。
「どうでしたか勇者様? 体が半分消えていたようですが、やはり違う空間に入り込んでしまったんですか?」
「……おう、何かこう……とんでもねぇぞ、絶対にここを潜るべきじゃないのだけは確かだ、良いな?」
「良くわかりませんが、冷や汗の凄さを見る限りでわかります、この先へ行くのはやめましょう……行かないままミッションとかがどうにかなるのであればですが」
「ご主人様、ホントに何があったんですか?」
「それは言えないし言いたくない、そして思い出したくもないからもう聞かないでくれ」
「よっぽど恐い何かだったのね……」
ミラだけはその中の様子を察していたようだが、馬車に居るメンバーも含め、他はあの恐怖について全く理解しない、してくれなかったのである。
まぁ、だからといって詳細を伝え、皆の食欲を減退させるわけにもいかないため、ひとまずこの件は俺の胸の中にしまっておくこととしよう、本当の恐怖へはそうやって対抗すべきなのだ。
とにかく鏡の向こう側、ウ○コの世界へは行かないように心掛けつつ、5階を通過して6階へ、そして7階へ……と、どこまであるのだこの城は?
どうせ特別に創られたマップであるため、何十階でも、それこそ何百階でも階層を重ねることは可能だと思うが、さすがにやりすぎである。
敵が出現するわけでもないのに、こんなにも通路と階段ばかり通らされているのは、何やら不気味な感じがしなくもないのだが……というかもしかしてこれ、永遠に続く、無限の回廊を歩かされているのではないか?
そういえば階層を重ねるごとに壁などの色が変わるのみであり、それ以外に何か変化がるようには思えない。
何か秘密を解かなくては、この状況から脱することが出来ないのかも知れないな……




