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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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891 第一の合流

「で、情報って何だ? くだらない話だったら承知しないぞ」


『情報は……この世界に巣食う悪のことだ、ラスボスとも呼ばれるその存在が、どんなものであって、どういうアレなのかということを教えてやろう』


「何でお前みたいなチンピラがラスボスの情報なんか有してんだよ」


「というか勇者様、この段階ではラスボスの有力情報なんか得られないのが普通では? ほら、私達だってまだ魔王に直接会ったことさえないのに」


「だよな、どうせ聞かなくてもわかるような一般論か、或いはだからどうしたってレベルの情報だろうな……まぁ良いや、食事の前に手を汚すのはあまり芳しいとは言えないし、お前、ちょっと俺達が調理して食べ終わるまで話してろそこで」


『その後はどうするというのだ? 情報をやったからには……』


「殺すに決まってんだろお前なんぞっ! あぁ気持ち悪い、おいっ、食事が不味くなるからこっち向くなっ、その木に向かって話すんだ」



 ミラが調理を開始しつつある中、俺とルビア、ジェシカの3人でケツアゴチンピラリーダーを囲んで威圧する。

 どうせ殺してしまうのだが、殺したからといって特にどうということはない、所詮はニート神が創り出したこの世界の中だけでの出来事なのだ。


 で、粉にしたスパイスを擦り込んだ鶏肉と豚肉が、熱せられて脂を滴らせ、下の焚火からジュッという音と煙が上がる頃、とりあえず『情報提供』を始めさせることとしたのであった。


 焚火の周りに4人で座り、なるべくその気持ち悪い姿が、主に顔が見えないように配慮したNPCのケツアゴに対し、話を始めるよう命令する……というかやけに命令通り動くのだが、コイツは本当にNPCなのであろうか。


 まぁ、それについては言及しないこととしよう、話がややこしくなっても困るからな、今は今必要な情報のみを得ていく感じでいこう……



「オラッ、早く喋りやがれこのクズがっ!」


「そうですよ、食事を終えたら、すぐにあなたを殺してここを発たないとならないんですから、非魔ではないんですよあなたと違って」


『……そ、そうですか……えっと、まずはこの世界に巣食う最凶最悪のラスボスについて……その者、城の中にありて動かず、時間を無為に過ごしたり、そう言い伝えられている』


「それもうまんまニート神の奴じゃねぇかっ!」


「どういうことだ? 神自らがラスボスとして登場するつもりなのか? もしそうだとしたらそれに勝てるのか?」


「いや、現状のままじゃ勝てないだろうな、メンバーが全員揃ってもだ」


「ですよね、でももしかして、このままこの世界で旅を続けていたら……」


「ニート神を上回る力を手に入れることが出来るかもな、それが現実世界に引き継がれるのかはわからないが、とにかくこの世界においては奴を討伐することが可能になるかも知れない」



 その後もケツアゴの無駄話が続いたのだが、やはりどう考えても、話のどの部分を取ってみても、ニート神の奴がラスボスであるとしか思えない状況であった。


 一体奴は何を考えてこのようなことをしているのか、いや、場合によっては最後の最後で俺達に絶望を与える、絶対に勝てない無理ゲーボスとして登場するつもりであるという可能性が排除し切れない。


 現状は『ゲーム』であって、しっかり攻略していけばどうにかなることばかりなのだが、最後の最後、本当にラスボスの前へ到達した際、即ちニート神と対峙したその瞬間に、『ゲーム』として認められる範囲を逸脱、そこでエンド、ないし延々とそれに挑み続けなくてはならない地獄のループに陥るのではなかろうか。


 それについては不安であるが、いくら何でもそれは困る、本来の世界においてやらなくてはならないことがまだ残っており、こんなサブイベントのようなもので引っ掛かってしまうわけにはいかないのだ。


 最悪の場合、ニート神を討伐せずにこの世界から脱出する方法も考えておかなくてはならないな。

 奴に勝てるかどうかと言われれば、現状では勝てないというのが真っ当な考えいよって弾き出される結論であり、それは誰もがそう思っていること。


 そしてこのゲーム内の世界において、元々、つまり現実世界を追い抜いて成長したとしても、いずれは『カンスト』を迎えてしまうこととなる。


 きっと俺達のカンストは各ステータス256や512、まぁ良くて999といったところだ、で、おそらくだがそれに対抗するラスボスのニート神は、自らのステータスのみ、上限を『9,999』として勝負を仕掛けてくるに違いない、つまりこれが無理ゲーとなるのだ……



「そんで、そのラスボスってのはどこに居るんだ? いつになったら会えるんだ?」


『わからない、伝説によると、12人の戦士が集いしとき、そのうちの4人が代表して戦うと、そして4人が負けると、他の4人が馬車から飛び出して戦うと、そう記されている』


「そういう系のゲームなのかよ、12人まとめて戦えばどうにか……とも思っていたが、4人じゃ正直キツいぞ、どれだけ力を上げたとしても、ニート神の奴がそこまでチートな感じを出さなかったとしてもだ」


『俺の持っている情報はこれまでだ、では帰らせて頂こう、これからは足を洗って真面目に働くんだ、そのために町へむかおげろぱっ!』


「逃がしたりはしませんよ、NPCとはいえ犯罪者ですから」


「ミラ、その格好で言っても説得力が皆無だぞ、むしろ見ていて哀れだからもうやめてくれ」


「うぅっ、どうしてこんな格好のままなんでしょうか私は……」



 チンピラのケツアゴNPCを殺害したミラ、犯罪者を憎み、犯罪を許さないという心構えは良いのだが、そもそもの格好が犯罪者で、かつ逮捕済みのものであるのだから情けない。


 まぁ、次の町で何か情報を得るなりして、俺達もこの格好から、そしてNPCから冷たくあしらわれることから脱却しなくてはならないのだが、それは二の次となるであろう。


 肝心なのはセラ達との合流だ、そして馬車の確保を遂げて、8人のうち4人を出して、残りは馬車の肥やしになることが可能なようにしていかなくてはならないのである。


 もっとも、合流した先の4人は過去に例を見ないほどにまで堕落していて、ろくに冒険を進めていないとのことだし、もしかするとステータスが大幅に制限されたままなのかも知れない。


 だとしたらしばらくの間はこの4人、つまり力の解放を得た俺達が戦う、そして俺達が先導して、セラ達のレベル上げをしてやらなくてはならない感じとなることであろう。


 どのみちまったり、ゆっくりと馬車に揺られながら冒険を進めることが出来るようになるのはかなり先のことだ。


 まずは町へ到着して、それからセラとカレン、リリィ、マーサの4人を探して……もちろん嫌われ者の格好をしたままでそうしないとならないのだから、これは非常に厳しいことであろうな。


 などと考えつつ、既に終えた食事の片付けもそこそこに、立ち上がって再び歩を進め始めた俺達。

 そこから数時間の後、マップのかなり遠くの方に見えてきたのは町らしきオブジェクトであった。


 まぁ、どう考えてもあのオブジェクトが目的地だな、問題なく辿り着きそうだが……その前に敵と円カウントしてしまったようだ。


 ここまで安全に来られたのに、どういうわけかここで……これは強制的なイベントなのか、先程殺したケツアゴ共の、色違いであるケツアゴNPCが数十体、俺達の前に立ちはだかったのである……



「何だお前等? 死にてぇのかコラ」


『我等はケツアゴ盗賊団、貴様等、森で俺達の仲間を殺害しただろう? 許さぬぞっ!』


「いえ、やってませんが」

「知りませんねそんな人達、きっと勘違いでは?」

「あ~っ、私もご飯を食べていただけで……」

「モロに嘘を付くのは良くないと思うんだが……たとえ相手がNPCであったとしてもだ……」


『ほらっ、そこの真面目そうな女が犯行を自供したぞっ、お前等があの5人の仲間達を殺したんだなっ』


「こらジェシカ、どうにか切り抜けられそうだったのに、余計な事をする奴はこうだっ!」


「あいてっ、しかしな、さすがに良心が……いや、すまなかった」



 今回の件は確実にジェシカが悪い、というか明らかに3体1なのを察して、素直に謝罪したジェシカであったが、後でお仕置きされるのはもう確定したと言って良いであろう。


 で、何だか知らないが俺達の周りを囲んだケツアゴ盗賊団だが、その後ろに何やら気になるものが……どう考えてもこいつらのものではない荷馬車だ。


 普通に考えて、この小汚いビジュアルの盗賊団が所持しているようなものではない、比較的綺麗な見た目の馬車、汚れてもいないし、まるで新品のような質感である。


 ついでに言うとそのグラフィックもしっかりしていて、牽いている2頭の馬などもペラッペラではなく立体。

 さらには後ろの部分から、『馬車の中の空間』へと移動することが出来る感じになっているようだ。


 つまり、この馬車は単にNPCの盗賊団が所持しているというだけでなく、この先も何らかの目的で使用するために創り出されたアイテムということ。


 そしてこの後の合流によって8人、つまり4人余ってしまうということを考えると、ここで先に馬車を入手して、それをいつでも使える状態にしてから合流と、そういう流れになりそうだな。


 てっきり合流してから馬車をゲットしに行くものだと思っていたのだが……確かに、そもそも馬車があって、外の4人と馬車の中の4人に分かれることが出来るようにしてからでないと、人数を増やすことが出来ないではないか。


 で、この馬車がそのためのものであるということは、状況的にもう確定と言って良いことが判明し、アホのルビアを除く3人が、既にそのことを認識している状態である。



「おしお前等ぁぁぁっ! 馬車を奪えぇぇぇっ!」


「ヒャッハーッ!」

「頂きだぁぁぁっ!」


『ギョェェェッ! どっちが盗賊なのかわかんねぇぇぇっ!』


「うるせぇっ、死ねヤボケェェェッ!」


「グェェェッ!」



 俺とミラ、ジェシカの3人で盗賊団を自称するケツアゴNPCを討伐していく、もちろん全部雑魚ばかりだ。

 なお、ミラが『ヒャッハー』などと言っていることについてはセラに報告しておこう、後で再教育されるが良い。


 で、全てのNPCを討伐し終えた俺達3人と、ずっと状況が理解出来ず、ボーっとしていたものの、戦闘終了と同時にふと気付き、馬車の確保に走ったルビア。


 4人の力を合わせて、きっとストーリー上で重要になるアイテムなのであろう馬車を確保し、その占有を成し遂げたのであった。


 馬車はすぐに所持アイテムのひとつとなり、操作も出来るようになった……そして幸いなのか仕組まれたのか、馬車を操ることの出来るルビアとジェシカは俺のチームに配属されている。


 もしかしたらニート神はそこまで見越してチーム配分をしたのか? だとしたら相当に賢さが高いし、かつ鬱陶しい性格の持ち主だと思うのだが、それは神のみぞ、いあやニート神のみぞ知るといったところか。


 とにかくこれで馬車の確保も完了した、御者台にはひとまずルビアを据え、あとはこのまま、セラ達のチームと合流することが出来るという町へと向かうだけだ……



 ※※※



「っと、ご到着のようだな、ルビア、ちょっと休んで良いぞ、ジェシカ、御者を代わってやれ、NPCばかりだが、なるべく人身事故なんかは起こさないように注意してくれよな」


「わかった、ではルビア殿、交代しようか」


「は~い、お願いしま~す」



 平和な感じで御者を交代して、今度はジェシカが表面に出る……もちろん『女獄卒長』の格好でだ。

 町に配置されたケツアゴNPCは、ジェシカの姿を見て恐れ戦く、話し掛ける者など居るはずもない。


 だがザワザワと、俺達を発見し次第噂話を始めているようだ……この分であれば、比較的早くセラ達にもその話が届くことであろう。


 このまま町を練り歩くのが得策だな、そうすれば必ず、どこかに居るセラの耳に、いや、耳が良いのはカレンとマーサか、とにかくどこかでその声を拾ってくれるはずだ。


 しばらくそうやって町の中を歩いていると……かなり遠くの方に土煙が見えた、あのスピードは間違いなく普通のNPCなどではない。


 そして敵である感じもしない、ということは仲間の誰かであるということ、さらに、凄まじい勢いで接近するその土煙の中身は……異様に小さいな、カレンであることはもう明らかである……



「ご主人様! やっぱりそうだっ! お~いっ!」


「お~いっ! よぉカレン、他の3人は?」


「まだご飯屋さんに居ます、さっきから何かそれっぽい音と、それから臭いがしていたんで飛び出して来ましたっ」


「……俺、そんなに遠くからわかるほど臭いのか?」



 駆け寄って来たカレンは最終的にこちらへ向かってジャンプし、俺はその小さな体をキャッチした。

 直前まで何か食べていたらしいカレンは、手がベタベタの状態で……俺の処刑人衣装でそれを拭っているではないか。


 装備を外すことが出来ないのだからそれは勘弁して欲しいのだが……まぁ、これは単にそういうエフェクトであって現実の汚れが付着しているわけではないと考えれば大丈夫だ。


 で、カレンはそのまま小脇に抱え、ひとまずセラ達のいる飲食店とやらへ案内するよう告げる。

 そういえばこのカレン、ステータスの制限などされていないようなのだが……もしかするとあの状態からスタートしたのは俺達だけなのか?


 或いはこのチームにつき、かなり序盤の方でステータス解放イベントがあった、そういうことなのかも知れない。


 とにかく合流して話を聞こう、それからゲットした馬車で……と、御者台のジェシカがパーティーから外れているではないか。


 きっと『5人目』であるカレンが入ったことにより、御者台に居たせいか、それともメンバーとして名簿上で後ろにあったせいなのかはわからないが、とにかく1人が抜け、即時に4人パーティーへと固定されたらしい。


 残りのメンバーが加入したらどうなるのかわからないが、とにかく合流しないと結果は出ない、少し急ぐこととしよう……



 ※※※



「お~いっ、ご主人様達を連れて来ましたよ~っ」


「あっ、ホントに勇者様達だったのね、ほら、こっちへ来て、ここは無料で何でも食べ放題、飲み放題なのよ、焼き肉店と焼き野菜店と、それから居酒屋の機能を兼ね備えているわ」


「で、いつからそんな感じで飲み食いしてんだ?」


「う~ん、4人合流して、エリナちゃんのパパからこのチームはこれで全員だって言われた直後ね」


「そうか、その決断をしたチームリーダーはセラってことで良いんだな?」


「そうだけど、どうしたの鞭なんか出して……てかミラの服装……プププッ」


「笑ってないで、お仕置きするからそこのテーブルの上で四つん這いになれ、それとも膝に乗せてお尻ペンペンの方が良いか?」



 悩んだ末にお尻ペンペンを選択したセラをお仕置きしつつ、ここまでの冒険や現在の状況などについて、詳細な説明を受ける。


 まず、やはりステータスの方はかなり制限された状態で、4人バラバラでのスタートであったらしい。

 カレンは『森にオオカミが出たイベント』にて、リリィは『山にドラゴンが飛来したイベント』にて仲間にしたとのこと。


 最後のマーサはかなり探した挙句、カレンを救出したのと同じ森のマップにて、ニンジンを用いたくだらない罠に掛かっているところを発見、それでどうにか4人が揃ったらしい。


 次いで町に押し寄せる野盗ケツアゴの群れを討伐するミッションを受け、その際に神官らしきNPCの力でステータスが回復……で、そこで得た討伐報酬がこの食べ放題、飲み放題であったと……なるほど、ほぼ何もしていないのかと思ったのだが、進めるところまでは進んでいる感じのようだな。


 いや、そうなると今しているお仕置きは間違いなのか? だとすればヤバいな、既にセラの尻は真っ赤になってしまっているし、ここはどうにか取り繕う必要がありそうだ……



「……さてと、これでお仕置きは終わりにしてやる……反省したか?」


「反省も何も、結構しっかりやったような気がするんだけど……まぁ良いわ、まだ反省していないからもっとぶってちょうだい」


「よろしい、ではここからは『頑張った分のご褒美』として尻を叩いてやろうではないか、喰らえっ」


「ヒギィィィッ!」



 セラが馬鹿でMで良かったと思いつつ、そのままの状態でこれからの行動について話し合いを始める。

 まずはカレンを除く3人をメンバーに加えて……と、その瞬間、ミラとルビア、それからマーサが姿を消してしまった。


 どうやら馬車の中に吸い込まれてしまったらしい、慌てて外に出ると、荷台の中に3人の姿が見える……試しにミラとセラを交換してみよう……今度はセラが姿を消し、馬車の外にミラの姿が現れたではないか。


 なるほど、合流したことによって8人になったのは確かなのだが、実際には4人しか外に存在出来ない、それ以外の仲間は交代しない限りパーティーメンバーには加えられないということだな。


 かなり面倒ではあるし、これから強敵と戦闘していくには不利な状態なのだが……まぁ、そういう仕様ということで諦める他なさそうである。


 ひとまずこの感じで冒険を進めて、残りの4人とも合流するのだ、その際にはきっと馬車よりも強力な移動手段が手に入り、冒険の幅が広がっていくに違いない。



「それで、これからどうするわけ?」


「そうだな、まずはパーティーメンバーを色々と入れ替えつつ、残りの4人との合流を目指してストーリーを進めていこう」


「まぁ、ここは勇者様の指示に従うわ、こういうゲーム世界? とか何とかって、私達にはちょっとわかりにくいもの」


「おう、俺に任せておけばどうにかなる、楽勝でクリアしてやるぜ……最後の最後はどうなるかわからんがな……」


「無駄に自信満々からの、最後は歯切れが悪いわね……」



 ひとまずこれで8人、残りの4人を回収するまで、もうひと悶着もふた悶着もありそうなのだが、とにかく先へ進んで行くこととしよう……

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