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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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889 館内

「……失礼しま~っす……げっ、そこそこ強そうな幽霊が……凄い数だ、今の俺じゃ速攻で敗北するぞ」


「では私とミラ殿で入る、ルビア殿は主殿を守っていてくれ」


「ルビアに守られるってのはそこそこ癪だが……まぁ良いや、じゃあ俺が一番後ろってことで」


「ご主人様、一番後ろだと逆にヤバいかもですよ、ほら、気が付いたら居なかった、みたいな」


「恐ろしいことを言うんじゃねぇっ!」



 館の入り口をスッと開け、中の様子を確認した俺は、当然その場所に沸いている幽霊の姿を確認し、そっとその扉を閉じたのであった。


 結局力を取り戻していない俺は真ん中、前にミラとジェシカ、後ろにルビアというかたちで守らせ、さりげない感じで一緒に入って行くこととする。


 弱いとバレたら厄介だからな、強い、このメンバーの中でも強キャラであるような感じを詐称しつつ、何だかんだで戦わないというのが理想の立ち振る舞いであろう。


 まず突入して行ったミラと素っ裸に俺の上着を羽織っただけの変態ジェシカ、新たな幽霊の姿に一瞬立ち止まったようだが、すぐに立て直し、そこからは勢いを取り戻して攻撃を開始する……



「ハァァァッ!」

「とぉぉぉっ!」


『ギョェェェェッ! 幽霊なのに死ぬぅぅぅっ!』


「良いぞっ、この調子ならルビアは俺の守護に専念出来るはずだっ」


『ギャァァァッ……っておい、あの真ん中の馬鹿そうな男、弱そうだぞ……』


『お前っ、それが消える前の最後の言葉で良いのかっ? 自分の集大成である台詞を棄ててまで、俺達に情報を残してくれるのかっ』

『おうっ、雑魚幽霊Bの死……じゃなかった消滅を無駄にするなっ! あの弱そうな奴を狙うんだっ!』

『ウォォォォッ! 恨めしやぁぁぁっ!』


「もうバレちゃいましたねご主人様、きっと弱さが顔から滲み出ているんですね」


「クソめ、だが俺も負けてはいられない」


「おぉっ、やる気満々じゃないですかっ」


「ルビア! 全力で戦うんだっ、奴等に目にもの見せてやれっ!」


「あ、結局他力本願なんですね……」


「そりゃそうだ、ゲームオーバーは避けなくてはならないからな、ほら、頑張れ頑張れ」



 ルビアをグイグイと前に押し出し、ついでに後ろにも幽霊の類が居ないことを確認しておく。

 良く見たら相当に強力な敵だな、今の俺であれば本当に一撃、いや、接近されただけでかなりヤバいのではなかろうか。


 そしてそんな幽霊も、ルビアの杖殴り攻撃の前には雑魚同然、まるで湯気を団扇で拡散させるかのように、あっという間に消滅していく幽霊共。


 もちろんルビアはおっかなびっくりで、まともに狙って攻撃しているとは思えない動きなのだが、振り回された杖が掠っただけでそれなのだから凄い。


 圧倒的な力の前に、成す術もなく消滅していく幽霊の集団……いや、先程までは比較的苦戦していたはずなのだが、どうしてここにきてこんなに圧倒的な展開なのだ。


 少なくとも館の内部、つまりボスキャラに最も近い場所に配置されているモブキャラなのだから、外のものよりは強いのが普通であろう。


 ミラとジェシカがそこそこやるのは当然だが、ルビアに関してはどうか、回復魔法使いがここまで強いのはおかしい、というかルビアではなく、敗北している幽霊の方がおかしいとしか思えない。



「いやぁぁぁっ! あっち行ってっ、もうっ、やぁっ、来るなぁぁぁっ!」


「なぁルビア、取り込み中に申し訳ないんだが……何かおかしくね?」


「なっ、何がですかっ? もしかして憑依されてたりします? 取って下さいっ、剥がして下さいっ!」


「いやいやそうじゃなくてだな、その、幽霊の方が……弱すぎくね? って話なんだが……どうよ?」


「……そっ、そういえばさっきから、やけに上手くいっているような気がしなくもないですね……もしかしておかしいですか?」


「たぶん……というか確実に罠だ、何か天井の方、キラキラ光っているしな」



 ルビアがまるで湯気の如く霧散させた幽霊共、どうやらそのカスらしきものが、上へ登って天井付近に溜まっているようだ。


 それがどういう理由でそうなっているのか、それについてはイマイチわからないのだが、とにかく何か理由があってそうなっているのは明らか。


 ちなみにルビアが討伐したものだけでなく、ミラやジェシカが同じようにして潰した幽霊も、立ち上って天井付近に蓄積されているではないか。


 そしてそのことにはミラも、そしてジェシカにしても気が付いているようで、しきりに天井付近を気にしている様子。


 むしろ今まで気付かずにいたのは俺とルビアぐらいのもので、この現象は比較的戦闘初期から起こっていたことのようだな。


 まぁ、だがこれを気にしていても仕方がない、この後何かが起こるのは確実だが、今出来ることは幽霊の討伐以外にはないのだから……



「ルビアちゃん、色々と気になるかもですが、もう余計なことやものは全部無視して、幽霊を倒していきましょうっ」


「わかりましたっ、えっと、余計なのは天井のキラキラと……あ、ご主人様、ごめんなさい、ちょっと居ないことにしますね」


「俺は『余計なもの』なのかよ……まぁ良いや、とにかく頑張ってくれたまえ」


「・・・・・・・・・・」



 ルビアにガン無視されてしまったのだが、申し訳なさそうな顔はしているようなので許してやろう。

 で、3人で協力して、本当は強い、かなり手こずってしまうはずの幽霊を討伐していく。


 1体、どころか2体3体を一撃で始末していくのだが、その際にはやはりキラキラと、そのカスが天井付近に蓄積する。

 半量程度の討伐が済んだ頃、かなりの量が溜まってきたな、もう部屋の上部3割程度がそのキラキラに占められている感じだ。


 そして室内の幽霊が全て居なくなる頃には、部屋の半分以上がそのキラキラに『汚染』されていた。

 天井は高いため、さすがにそれでも俺達の頭には届かないのだが、とにかく凄まじい分量の『幽霊カス』である。


 さて、ここからこれがどう動くのか、というか上階に続く階段が存在しないのだが、それはこのキラキラと何か関係があるのか。



「……で、どうなってんだ? どうするんだ? 何をしたら良いんだ? なぁジェシカ」


「私にもわからないな、とにかく階段がないのは確かだ、これについては……と、何であろうか?」


「天井の方だぞ、ガタガタして……パカッと開いたじゃねぇか、何だろう?」


「あっ、何か落ちて来ますよっ!」


「にんげ……ケツアゴの人ですっ!」


「てことはアレか、コイツがボス……薄いな、実に薄いな、まるで幽霊みたいなケツアゴだ……おいっ、何だお前、名乗ってみろこのケツアゴめ」


『……我は……我はケツアゴ、ケツアゴである』


「そんなことわかってんだよボケがっ、死ねこのゴミ野朗、お前なんぞ生きている価値はないんだよ、それとも最初から死んでんのか? 薄っすいしな、髪も薄いが存在も薄いんだな、もう死んだ方が良いよ、それをオススメするねお前のような馬鹿には」



 バタンッと四角く開いた天井、そこからストンと落下してきたのは、やけに色の薄いケツアゴであった。

 まるで幽霊のような、というかコイツ、マジで幽霊なのではなかろうか、どう見ても人間ではないのだが。


 いや、当初の触れ込みではコイツは現実世界から連れて来られたものではない、つまり幽霊ということではないのだ。


 このケツアゴは元々NPCとして、このゲーム世界のためだけに用意された、正真正銘のゲーム専用ケツアゴにして、その中でも『ボスキャラ』という位置付けにある、極めて稀なケツアゴなのである。


 まぁ、コイツのように特殊なケツアゴは本当に特別であって、マップの雰囲気に合わせたもの、つまりこの場においては幽霊のような姿になっていてもおかしくはない。


 おかしくはないのだが……一応は本人……いやこれを人と認めることは出来ないのだが、とにかく本体から話を聞いてみよう……何か話を始める様子だしな……



『我は、我はケツアゴ……魂のみ創られ、そしてボディーの方は製造機器の不具合で完成しなかった、大量生産大量消費時代の悲しき霊魂である……』


「大量生産はわかるが……消費もされてんだなケツアゴ、需要あんのか?」


『我は……ケツアゴジェネラルにつき需要はある、ケツアゴオリジナルに次ぐ力、その辺のケツアゴとは異なる……はずであったのだ、ボディーさえあれば、いと恨めしきことだ、この世界全てが恨めしい』


「もうほぼほぼ幽霊だなコイツ、魂だけで世界全部恨んでやがるぞ」


「ひぃぃぃっ! 幽霊だってだけで恐いのに、それでいてケツアゴだなんてっ!」



 とにかく、目の前に存在しているうっすらとしたケツアゴが、そこそこやべぇ感じのケツアゴであることが判明した。


 人に創られしケツアゴでありながら、幽霊としての性格も有している凶悪なモンスター、どう対処したら良いかわからないし、そもそもキモいので対処したくない。


 まぁ、とにかく戦って勝利すればミッションコンプリートということになるはずなのだから、ここは黙って討伐に移行することとしよう。


 で、先程まで気になっていた天井から部屋の上半分程度までを埋め尽くしている幽霊のキラキラだが……これについてはこの後、何かに使われるものだと思って、頭の片隅に置いておかなくてはならなさそうだな……



 ※※※



「どうしましょう勇者様、これ、戦うんですか?」


「そうする他なさそうだな、とりあえず……行けっ! ジェシカ1号!」


「主殿、2号とか居ないからやめてくれそういうのは、とにかく……少し恐いし、そもそも気持ち悪いのだが?」


「我慢しろ、ちゃんと頑張ったら後で鞭打ち、それから布団叩きで尻を叩いて、あと恥ずかしい格好で外に晒してやる」


「そっ、そんなご褒美がっ!」


「普通はお仕置きなんだけどなそれは……」


「ご主人様、私も頑張ればそんな風にして貰えますかっ?」


「もちろんだ、あとミラも、エッチな本の定期購読をパーティー資金でやってやるぞ、どうだ3人共?」


『ウォォォォッ!』



 簡単に釣れてしまった3人であるが、これには『相手が本当の幽霊ではない』ということが関係しているのであろう。


 パッと見は幽霊なのだが、その実単にボディーがないだけのケツアゴであり、人ですらないのだ。

 もちろん霊力など微塵もないし、単に強いというだけで、力を取り戻した今の3人にとっては敵でないはず。


 普通に戦って貰えればそれで完璧だ、あっという間にこのケツアゴの魂は消え去り、今回のミッションはクリアということになるであろう。


 そのために行動として、未だに激しくは動いていないケツアゴに対し、ミラ、ジェシカがジリジリと詰め寄って……今斬り掛かろうとしている……



「ハァァァッ!」

「とりゃぁぁぁっ!」


『グギュゥゥゥッ! わ……我ケツアゴ也、現実のケツアゴ也』


「何か喋り出しましたっ、声からして気持ち悪いですっ」


『ケツアゴは偉大也、我はそのケツアゴのジェネラル也、我……さらに偉大となるため霊力を得んとすっ!』


「なっ、何だっ?」



 突然何かの宣言をしたケツアゴ、上を向き、そして天井から積層していた幽霊のカスであるキラキラを……吸い込み出したではないか。


 もしかして先程の発言、『霊力を得んとす』というのはこのことか、リアル幽霊のカスを取り込んで、本来幽霊ではない単なるケツアゴに霊力を得させるという、大変危険な行為だ。


 この部屋の中にある全ての幽霊カスを吸い込めば、幽霊と同じような力、即ち霊力を得られるには得られるであろうが……おそらく最後には色々と耐え切れず、とんでもない爆発を伴って消滅してしまうであろう。


 その大爆発はそれこそ……この世界を滅ぼす次元の強力さだ、この世界といってもニート神が勝手に造ったゴミのようなゲーム世界なのだが、とにかくそれがなくなってしまう。


 こんな世界など正直どうでも良いとは思うのだが、事故等で消滅した場合には俺達がどうなるのかわからない。

 ここはひとまず戦って、霊化したこのケツアゴをどうにかしていく、いや俺ではなく仲間にそうさせていくべきだな……



『ウォォォッ! 霊化完了、我、最凶也!』


「来ますよっ! 勇者様は避けて下さいっ!」


「クソッ、情けないなこの状況、って衝撃波でギョェェェッ!」


「ご主人様! すぐに回復しますっ!」


「す……すまんルビア……ガクッ……」


「ご主人様死なないでっ! ゲームオーバーになったら色々と面倒なんですからっ!」



 霊化したケツアゴの攻撃は、地面を抉り、周囲に衝撃波を撒き散らすほどの強烈なものであった。

 もちろん力を取り戻した3人にはどうということないのだが、弱体化している俺に対しては違う。


 攻撃の余波によって吹っ飛び、その辺のゴツゴツした岩石に叩き付けられた俺は、瀕死どころかほぼ死亡した状態でルビアに救出され、どうにか一命を取り留めたのであった。


 これは本当に情けないことだ、勇者様であるこの俺様が、ルビアなんぞに助けて貰って、しかも礼まで……最悪の状況である。


 そもそも自分だけ弱いというのはこういうことなのか、今までは『最強』であったこの俺様であるから、弱い、雑魚キャラの気持ちなどまるでわからなかったのだが、これはなかなかにキツいな。


 こんな気分になるのであれば、力の制約など……と、ここで異常なまでにムカついてきたではないか。


 俺が回復したのを確認し、戦闘に戻るミラとジェシカ、そしてルビアも、俺のことなど気にせず前を向いてしまったことが、主人公であるはずの俺にとって実に許せなかったのである。


 こみ上げる怒り、この感覚は……凄い勢いで力が戻って行く、俺本来の力だ、ミラ、ジェシカと比較して0.7程度、ルビアと比較すると1.0001程度の凄まじい力だ。


 そして俺は霊化したケツアゴなど恐くはないし、ケツアゴがキモすぎて直接攻撃を加えることが出来ないなどということはない。


 自然な感じで手に戻った物干し竿……いや、これは聖棒だ、聖棒の力をもって、こんなケツアゴ如きサッサと始末してやろうではないか。



「あっ、勇者様、本来の力が戻って……」


「主殿……なんてたいしたことがないパワーなんだっ!」


「おい、ちょっとジェシカうるさい……で、ウォォォッ! 勇者聖棒ダイナミックスラァァァッシュ!」


『け……け……けけっ……ケツアゴォォォッ!』


「……フンッ、雑魚めが、キッチリ成仏するんだな」


「勇者様、力が戻ったんですね、これで幽霊対策はバッチリですねっ」


「あ、いや、たぶん幽霊系のイベントはこれで完全ENDだと思うけどな……」



 力を取り戻した俺の一撃、先程まで完全に強キャラ的な扱いを受けていた、幽霊のようで幽霊でない、それでいて幽霊の力を取り込んだケツアゴのジェネラルは一瞬で消し飛んでしまった。


 もはやこの場、この世界における全てが雑魚である、俺達は『裏技』によって、序盤で『レベル99』になったような最強の何かであり、相当にやべぇ奴等なのである。


 この感じならこのイベントどころか、次以降の、というか他の仲間と合流してやるイベントの方も楽勝であろうな。


 ……などとは思うのだが、これはゲームバランス的に少し考えにくいことだ、俺達だけが地亜kらを取り戻している場合、そして他の仲間も力を取り戻し、敵を蹂躙している場合、そのどちらを取っても、ゲームとしてはまるで成立しないのである。


 つまり、俺達が力を取り戻したことが何かのキーになり、それを中心に話を進めていくのか、或いは全員が力を取り戻しており、以降の難易度がそれに順ずるものなのか、その辺りである可能性が高いといえよう。


 今はこの先がどうなるのか、全くわかっていないのだが、このマップから出た後には、エリナパパからこういったことに関する情報も聞き出しておくべきだな。


 で、そんなことを考えながら捜索していると、館の奥に呪いの影響を受けていた村に繋がっていると思しき、『そんな感じの穴』が存在していることに気付く。


 お決まりのパターンである、『イベント終了後は一発で村へ戻ることが可能』とかそういうタイプのアレだ。

 フェイクである可能性は比較的低いので、このまま穴へ飛び込んで例の村へ戻ることとしよう。



「よしっ、忘れ物はないな? ひとまず村へ戻るぞ」


「ちょっと待ってくれ主殿、一応……服を探しておくべきだと思う、いや、私の都合もあるのだがな」


「っと、そうだったな、服もそうだが、他に何かないか探してみよう、宝箱とかもまだひとつだって開けていないからな」



「え~っと、じゃあ俺はこっちから、サポートのジェシカと一緒に行く、そっち、反対側はミラとルビアで頼む、とにかく捜索して、『冒険に資するもの』と『金目のモノ』を掻き集めるんだ」


『うぇ~いっ」



 ということで館内の捜索、既に幽霊は出ない、というか全てを成仏、または霧散させてしまったのだが、隠れている奴が居るかもなので俺以外の3人は気を付けて欲しいところである。


 まぁ、もしかしたら『隠れ幽霊』的な、その部屋にしか居ることの出来ない自縛霊的な幽霊が居り、それがこの霊化したケツアゴをスポンサードしている可能性が……と、自分でも何を言っているのかわからなくなってきた……



「とにかく、何かあったら俺が戦えば良いんだな?」


『お願いしますっ! 幽霊はもうこりごりですっ! 超恐いんでもうどうにかして下さいっ!』


「わかった、では捜索開始とするっ!」


『うぇ~いっ!』



 こうして始まった館の捜索、既にミッションはコンプリートしたのだが、ここからまた何か動きが得られるのかも知れない。


 願わくば非常に良いアイテムが、この世界をクリアするために必要なアイテムがGET出来ることを祈るのだが……とにかく掘ってみる、漁ってみることとしよう。


 適当に、その辺で光っているような地面を掘り起こしつつ、何か良いアイテムが手に入らないかと考える時間が始まった……

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