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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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881 4人揃って

「よし、アレは間違いなく『悪徳領主の館』だ、2人共そこの茂みに隠れるんだ」


「茂みって、モロに2Dじゃないですか、もっと作り込んだり出来なかったんですかねこの世界」


「文句を言うなミラ、俺達の体がハッキリしているだけでもまだ良しとするんだ」


「確かに、自分までペラペラ二次元だったりしたら動き辛いですもんね」


「あぁ、で、とにかく館の周りに居るケツアゴ共をどうにかしよう、門番は2匹、フリースタイルで動き回っているのが……結構多いな、しかし動きには法則のようなものがありそうな感じだ」



 次のミッションは俺と救出したミラ、そしてなぜか森の魔物役にされていたルビアとの3人でチャレンジ。

 悪い領主が村の住民を苦しめているという設定らしいが、それを討伐するのが内容であることはもう明らかである。


 と、ここでようやくエリナパパとの通信が叶ったようだ、こちらに向かって何かを言っている際には、声の大きさでそれと判断出来るためなかなか便利なのである。


 で、エリナパパが言うには、俺達が今ここに居るところまでは正解であり、ここからどう立ち回るかについては、『攻略本』の情報を確認しないとわからないのだという。


 そのまましばらく、茂み……ではなく茂みの絵の後ろに隠れて待機する、というかまるで学芸会の演劇で使う背景だな、画力的に小学生レベルのものではないが、雰囲気の方はもう完全にそれである。


 もちろん目の前の館も、本来はぺラペラのハリボテであって、扉の向こうには別の亜空間が続いているのであろう。


 おそらくその中では3Dに移動することが出来るはずなのだが、何かの不具合で元の場所に戻れず、ずっと『岩の中に居る』状態にされそうなのは非常に恐ろしい。


 そうならないためにも、事前の準備はキッチリ……しても無駄だな、それに関してはもうゲームの制作者、ニート神の責任ですべて対応して頂かなくてはならないであろう。


 で、それでも内部の情報は追加していかないとならないので、このケツアゴゾーンをクリアするための動きを、攻略本で調べ上げ終わった様子のエリナパパに聞いてみるべきだな……



『良いか、そのケツアゴゾーンを越えるためには、まず戦闘によって門番の2体を討伐する、そこそこ強いようなので注意したまえ』


「そこそこ強いって、まだ全員レベル1なんすけど、武器も俺しか持っていないし」


『大丈夫だ、顎を殴ればどうにかなる、それで、門番を倒すと残りのケツアゴが追って来るのだが、それに追い付かれぬよう、全力で走って建物の中へ入るのだ』


「ほうほう、そうすると次はどんなイベントが?」


『以降は……中でひと悶着あって、その後パーティーが4人揃うらしい、内部での戦闘はケツアゴエリート、ケツアゴ執事、ケツアゴ用心棒の三連戦の後、泉に浸って全回復したら悪徳領主とやらとのボス戦らしい』


「わかったっす、じゃあとにかく門番のケツアゴを倒して……行くぞ2人共!」


『うぇ~いっ!』



 俺が先頭になり、ミラとルビアもその後に続く、もちろん足の速いミラには抜かれてしまったのだが、どうにか俺とミラ、2人で門番のケツアゴとぶつかることに成功した。


 まずは物干し竿での一撃、ケツアゴ門番Aに3のダメージ……ちなみにミラは蹴りだけで5のダメージを、隣のケツアゴ門番Bに与えたようだ。


 で、次はケツアゴのターン、ひらりと身を躱し、敵の『ケツアゴ落とし』なる攻撃を避ける……地面にアゴを叩き付けたケツアゴに7のダメージ、ケツアゴ門番Aを倒した。


 ミラの方にはルビアが加勢し、ケツアゴを関節技で締め上げている、そこへミラの、こちらはアゴではなく踵落とし……ケツアゴ門番Bに15のダメージ、ケツアゴ門番Bを倒した……そこで門の向こうから、無数のケツアゴがこちらへ向かって走り出す……



「よっしゃっ、とにかく走るぞっ、追い付かれたら何をされるかわからんからなっ!」


「はいっ、ルビアちゃんも早くっ!」


「あっ、待って下さい~っ」



 全力で走り、ケツアゴを引き離していく俺達、もう振り向くことなく館の入り口を目指し、どうにかこうにかその扉を開ける。


 そのままスッと、本来は平面であったはずの場所に空間出来たではないか、3人で一斉に雪崩れ込むと、扉がパタンッと閉まって外の空間と遮断された。


 入り口の先には階段が続いている、その目の前にはケツアゴ……の少し大きいもの、きっとケツアゴエリートなのであろうがそれが道を塞ぐようにして立っている。


 向こうから襲って来る様子はない、そして先程まで俺達を追っていたケツアゴの集団も、扉が閉じた瞬間にもう気配を感じなくなっていた……



「え~っと、目の前のケツアゴの人と戦えば良いんでしょうか?」


「だと思うが、エリナパパ、この先はどうやって……エリナパパ?」


『……その……とは……まとも……でき……ようだ……すまない』


「ダメだ、この中だとまともに指示が受けられないぞ、もう自分達でどうにかしろってことだな」


「ご主人様、ケツアゴの人は良いんですが、あそこにセーブポイントみたいなのがありますよ、ほら、『書』が置いてあるので間違いありません」


「本当だ、とりあえず中ボス戦の前にセーブしておくか、え~っと、セーブデータは……この『ゴミクズ異世界人』って俺のことか?」


「そうですね、『ゴミクズ異世界人』と呼ばれそうなキャラはこの世界に勇者様以外……いてててっ、ダメージ、ダメージを受けてしまうので耳を引っ張らないで下さいっ」



 パーティーメンバーの氏名はその『ゴミクズ異世界人』の俺と、『変態守銭奴娘』、それから『ドMおっぱい』の3人である、かなりムカつくがわかり易くて結構なことだ。


 で、そこに置いてある『書』に、これまでの冒険を記録していくのだが……なんと手書きで、自分で書いていかなくてはならないらしい。


 あまりにも字が下手だと認識されず、『書』が消えてしまう可能性があるからな、ここは比較的達筆なミラが……と、他のセーブデータもあるではないか。



「何でしょうこれ? えっと、『貧乳魔法娘』と『堕落精霊』……までは誰のことだかすぐにわかるんdですが、この『美しき栄光の神』とは?」


「さぁな、どうせニート神の奴がテストプレイしたときのデータだろうよ、どうする? ウ〇コみたいなデータを捏造して、それで上書きしておくか?」


「それはやめた方が良いかと……もしかしたら仲間の誰かのセーブデータかもですし」


「ん、まぁ確かにそうだな、仕方ない、俺達の分だけセーブしておいてくれ」



 ということでその謎データはスルー、あとでエリナパパに詳細を聞いてみることとしよう。

 外の世界でプレーヤーとして何かしているというのであれば、それについても知っているのかもだからな。


 そしてセーブを終え、これでゲームオーバーについての不安が一時消えた俺達は、いよいよ階段を守るケツアゴエリートとの戦いに挑む。


 近付いても特に反応がないケツアゴエリート、話し掛けないと何も始まらないタイプのNPCなのか。

 とりあえず……先制攻撃してみよう、その方が確実に有利だし、真面目に話をして、それから真面目に戦ってやる義理もないのだ。



「いくぞっ、オラァァァッ!」


『ごふっ……ここま……』


「死ねやボケェェェッ!」


『ギョェェェェッ! ここまで来たということは、貴様等相当な手だべちゅぽっ!』


「良いぞっ! 台詞を言い終わるまで攻撃してこないようだ、一気にボッコボコにしてしまえっ!」


「はぁぁぁっ! パンチラ踵落としっ!」


「おっぱい往復ビンタッ!」


『ギャァァァッ! き、貴様等、なかなかやるではないか……我が屍を……越えて……』


「おう、そうさせて貰うわ、じゃあな」



 ケツアゴエリートを倒した、そしてそこそこの経験値と、最初に入手したのと同じ謎のコインを複数枚、ミラが財布の中から抜き取っていた。


 この感じで一方的に攻撃していけば、比較的楽にこのダンジョンをクリアすることが出来そうだな。

 まぁ、全部が全部こういう感じのNPCとは限らないのだが、少なくともパッシブな奴への対応は確立出来たと言って良いであろう。


 ということで次のケツアゴ何とかとやらも、同じような感じで討伐していくこととする。

 階段を上がり、通路を通ってそれらしき部屋の前に……執事らしい格好のケツアゴが、扉の前に立っていたのだが、それがターゲットだ。


 すぐにそれを認識し、サササッと接近して攻撃を仕掛ける、黙ったまま突っ立っているケツアゴに、蹴りだの何だのを連続で加えると……簡単に討伐することが出来た。


 もしかしてこの方法でレベルを上げれば、俺達はムッキムキの最強キャラになることが出来るのではなかろうか。


 もちろんパッシブな敵NPCの数は限られているであろうが、別に敵でなくとも良いのであれば、その辺の村人NPCなどを殺害、経験値としてあり難く頂いておくことも可能なのかも知れない。


 まぁ、それについては後程考える、というかまずは既定のパーティーメンバーである4人全員をここで揃えてからやるべきことだ。


 こういう感じのゲームにおいては、仲間が揃い切る前にレベルを上げすぎ、いざ残りのメンバーが加入した際に、1人だけレベル的に残念な感じになってしまうというのは、進行上最も避けたいことであるから……



「さてと、この中にあとケツアゴ……用心棒だっけか? それとボスキャラの悪徳領主が居るってことだな」


「あと仲間が1人と、誰なんでしょうか? 悪徳領主に捕まっているとかそういう感じなんでしょうかね?」


「わからんが、もし悪徳領主に捕まるとかそういう役回りなら……」


「そうですよね……」


「あら? どうして2人共私の方を見ているんでしょうか?」


「いや何でもない、とにかく入ろう」



 悪徳領主に捕まり、とんでもない目に遭わされているとかそういう役回り、それは間違いなくルビアのものなのだが……残念ながらそのルビアは既に救出済みでここに居る。


 となると一体誰がここで仲間に加わる、悪徳領主関連でそういう感じになっているメンバーなのであろうか。

 それを疑問に思いつつ、とりあえず鍵のかかっていない扉を開けてみる俺達であった……



 ※※※



「ちわ~っ、主人公で~っす、死と恐怖をお届けに……って何やってんだジェシカは?」


「おう主殿、私か? 私はどうやら悪徳領主にされてしまったらしい、誠に遺憾だ、そういうことはしたことがないのに」


「う~ん、まぁ、子爵令嬢様だし、キャラ的には問題ないかと……でもどうするんでしょう、討伐……しなくてはならないのですかね?」


「まぁ、ルビアも最初は『森の魔物』だったわけだし、ジェシカもどうにかやっつけて、良い感じの流れで仲間にするんだろうよ、それよりもまずは……」


『ヒャッハーッ! 俺様を無視してんじゃねぇぇぇっ!』


「このケツアゴ用心棒とやらはアクティブな敵NPCらしい、まともに戦わないとだ」



 ケツアゴ用心棒が現れた、ケツアゴ用心棒は『いきなり襲い掛かってきた』系のNPCらしい。

 ひとまず最初の攻撃を回避し、聖棒、ではなく普通の物干し竿で応戦してみる……防御が硬いな……


 次いで素早さの高いミラのハイキック、ケツアゴ用心棒に3のダメージ……ケツアゴ用心棒はチラリと見えたパンツに見とれている。


 ルビアのヘッドロック……ミス、ケツアゴ用心棒の肌は脂でヌルヌル、滑ってしまって仕方がない。

 ちなみに俺のカウンター攻撃はダメージを与えられていないため、実質このターンでの攻撃はミラのものだけとなってしまった。



「アゴですっ、アゴを狙わないとダメですっ、打撃で、地道に削っていきましょうっ」


「その前に攻撃が来るぞっ、ルビアだっ!」


「えっ? あっ、いやぁぁぁっ!」


「大丈夫か? 何されたっ?」


「脂ぎった顎で触れられましたっ! さっきので腕もヌルヌルですし……」


「それはリアルに最悪だな」



 ケツアゴ用心棒の攻撃により、ルビアは1ターンどころかしばらく身動きが取れない状況になってしまった。

 だがケツアゴのターンもこれで終わり、次は俺とミラによる、ケツアゴをダイレクトに狙ったダブルアタックだ。



「ウォォォォッ!」

「ハァァァッ!」


『ギョェェェェッ!』


「決まった! ケツアゴ用心棒を倒したぞっ!」



 ダブルアタックはバッチリ決まり、ケツアゴ用心棒に20のクリティカルダメージを与えることに成功した。

 倒れるケツアゴ用心棒、そのまま全身がグチュグチュに潰れ、溶けて床に吸収されていく。


 さて、これでいよいよ中ボス、そしてこのまま仲間に加えるべき悪徳領主ことジェシカとの対決に移行出来る。

 俺達とは違って真っ当な、金を持っていそうな服装をしているジェシカだが、果たしてどう戦うのか。


 ……と、見る限りでは明らかに弱いではないか、確かに武器を持っているし、装備の点では俺達に敵うものではないのだが、その分力の方が大幅に押さえられている様子である。



「なぁジェシカ?」


「どうした主殿?」


「引っ叩いて良い?」


「望むところだ、さぁ、出来れば尻を丸出しにして……あげっ!」



 悪徳領主を(拳骨一撃で)倒した、その瞬間、ジェシカのステータスはほんの僅かだけ解放され、俺達と同程度の抑え込まれぶりになる。


 もちろん敵として討伐したため、現時点では情けない感じで地面に倒れ伏しているのだが、イベントなのでゲームオーバーにはなっていない様子。


 そして討伐が完了したというのにミッションコンプリートとなる気配はなく、その代わり俺の手の中には、いつの間にか物干し竿の他に長いロープが握られていた。


 なるほど、これでジェシカ……ではなく現時点では悪徳領主(討伐済み)なのか、それを縛り上げて例の村へ連行しろということなのだな。


 そこでイベントを経て、また報酬として『悪徳領主を好きにして良い』というような流れで仲間に加えるのであろう……



「よし、ジェシカ、ちょっと縛り上げるから我慢しろよ」


「わかった、キツめに縛ってくれると非常に助かる、それが悪徳領主の末路だからな」


「喜んでんじゃねぇよ、ほら、ちょっと起き上がって、こうグルグルッと……完成だっ」


「じゃあ、ひとまずここから出て、エリナちゃんのパパと通信しましょう、この先どうするのかを聞いておかないと、下手なことをしたらジェシカちゃんが処刑されてゲームオーバーになりそうですから」


「だな、そうしておくのが最善なのは間違いなかろう、とりあえず出るぞ」


『うぇ~いっ』



 こうしてジェシカを救出? した俺達は、4人揃って悪徳領主の館から、本来のいい加減なフィールドへと移動したのであった……



 ※※※



「お~いっ、悪徳領主を捕まえましたよ~っ」


『……おっと、こちらで動きがあったか、悪徳領主は……やはり仲間キャラであったようだな、他のチームもだいたいそんな感じだ』


「で、これからどうすんのかってことと、あと俺達以外に誰かに指示を出していたりとかしないっすか? セーブデータの中に知らない名前があったんすけど」


『うむ、まずひとつめの質問だが……これから村へ戻って悪徳領主を倒した旨の報告と、それから縛り上げた悪徳領主を見せる、それでミッションコンプリートだ』


「見せるだけで良いんだ、まぁ、ミラを助けたときもそうだったが、余計なイベントは省かれているってことかな」


『それで、第二の質問だが、こちらについては勇者パーティーについて3つ、それと何だか知らない女への指示もやらされていて、コイツが実に無能でな、私が指示を飛ばし始めるよりも随分前からやっているようだが、まるでストーリーが進む気配がない、今は……ミッションに失敗して、飛ばされた最初の村の地下牢に入れられているな』


「何なんでしょうねソイツ、まぁ良いや、じゃあ俺達は例の村へ戻って、報告を済ませたら次の行動に移るっす」


『うむ、またしばらく別の者に構っていると思うので、とにかく情報収集だけして、わかるところまで進めておいてくれ』


「うぃっす」



 ということで例の村へ戻った俺達、やはりというか何というか、村人NPCは俺達が『悪徳領主』を討伐した体で対応してくれた、ここはいかにもゲームらしい。


 で、ひと通りのイベントを終えると、ジェシカは完全に解放され、村人NPCもそれに構ったりしなくなっていた。

 悪徳領主を捕まえて来た証拠として提示した際には、様々なものを投げ付けられたりしていたのだが、今ではもう全くの無関心である。


 というか、最初に囚われていたミラも、村人NPCに話しかけるとそのことを忘れていたるのように対応してくれるではないか。


 なかなか杜撰なシステムだなと思いつつ、まぁニート神が単独でストーリー他を考え出し、全てイチから創り上げたのだとしたらこの程度であっても仕方あるまい。


 とりあえずその辺りのことは無視して、早くこの世界から脱出すべくゲームを進めよう、ここからはもう一度、村人NPC全員の話を聞いて情報収集だ……



『やぁ、君は二度もこの村を救ってくれた英雄だよ』


「いやはや、それほどでもあるよ」


『やぁ、君は二度もこの村を……』


「勇者様、そのNPCに何度話し掛けているんですか、時間の無駄ですよ」


「いや、だって普段は頑張ってもこんなに称賛されないし、こういうときぐらい良いだろうよ」


「主殿、そうやって仮想と現実の区別が付かなくなっていくんだぞ、注意した方が良い」


「へいへい、で、情報の方は?」


「どうやらこの村を出て、北へ向かった先に別の村があるらしい、現状ではそこへ行く以外の選択肢はない」


「わかった、じゃあ一旦セーブして回復して、それから……アイテムとかを揃えないとだな、武器もだ」



 ここまでふたつもイベントをクリアしたというのに、回復アイテムもなければ武器も防具もほとんど手に入っていない。


 まずはそこをどうにかしないと、そして宿屋に泊まるなどして全回復、さらには安全な場所でもう一度、というか以降はこまめにセーブをしておかなくてはならないであろう……

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